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どのチームが「人」を育て強くなるのか

20年順位予想☆広島~リーグ随一の安定感で、悲願の日本一を目指すシーズン

 今年FAで最も成功したのは、楽天でもロッテでもなく広島だろう。獲得した選手は一人もいないが、恒例となりつつある主力選手の流失をすべて防ぐことができた。

 通算8年で71勝の野村祐輔(明大~11年①)、侍ジャパンでも正捕手を務める、打てる捕手の曾澤翼(水戸短大付高~06年高③)、巨人から移籍の長野久義(ホンダ~09年巨①)が早々と残留を決めた。ポスティングでメジャー挑戦を目指した、チームの顔とも言える菊池涼介中京学院大~11年②)も最後の最後でメジャーを断念し、残留を決め広島ファン歓喜した。

 セ・リーグは今年混戦で、ヤクルトを除く5球団に優勝のチャンスがそれぞれあると思うが、戦力が安定している広島を「優勝」予想させてもらった。ただ、パ・リーグソフトバンクが頭一つ抜けての優勝予想だが、セ・リーグは消去法での優勝予想なので戦力が抜きんでているわけではない。

 昨年はチームの顔でもあった「タナキクマル」が機能せず、チームの打撃成績が軒並み落ちて得点力が不足。終盤に阪神がまさかの6連勝をし、これもまさかのCS進出を逃してしまった。ただ、リーグを3連覇した地力は衰えておらず、大きく崩れることはないだろう。

 投手陣は、エースからチームの大黒柱に成長した大瀬良大地(九共大~13年①)とジョンソンの2本柱が支え、さらに即戦力ルーキーの森下暢仁(明大~19年①)も加わり厚みを増した。リリーフ陣は、中崎翔太日南学園高~10年⑥)にまだ不安が残るが、新外国人のスコットとDJジョンソンがオープン戦でも好投を見せ、昨年の先発ローテーション投手の岡田も中継ぎに回り層が厚くなった。 

 野手では菊池と曾澤が残留したのが大きく、侍ジャパンの4番・鈴木誠也二松学舎大付高~12年②)と合わせ、日本代表のレギュラーが3人いるのは心強い。ここに昨年もう一歩で3割だった西川や、高卒ルーキーながら58試合に出場した小園海斗(報徳学園高~18年①)も控え、一昨年のような強力打線を復活させたい。

 当然不安要素もある。主力が故障がちなリリーフ陣や、育成の広島を言われながら、この間思ったより若手が伸びておらず、レギュラーと控えの差が埋まらず選手層は決して厚いとは言えない。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 19年 4位 70勝70敗3分 .254  140本   81個  591点  3.46    601点

 18年 1位 82勝59敗2分 .262  175本   95個  721点  4.12  651点

 17年 1位    88勝51敗4分 .273  152本 112個  736点  3.39  540点  

 16年 1位 89勝52敗2分 .272  153本 118個  684点  3.20  437点

 15年 4位 69勝71敗3分 .246  105本   80個  506点  2.92  474点 

【過去5年のドラフトの主戦力】

 平均年齢は26.4歳で、セ・リーグでは最も若いチームだ。09年~15年まで、各年で主力選手が誕生し、16年からの3連覇の原動力になったのだが、極端な育成路線にシフトした16年以降は結果がでておらず、やや将来に不安が残る。

 18年~なし

 17年~なし

 16年~なし

 15年~岡田明丈(投手~大商大①)西川龍馬(内野手~王子⑤)

 14年~野間峻祥(外野手~中部学院大①)

 この他には昨年の小園が、高卒1年目の野手としては及第点の成績を上げ、投手ではアドゥワ誠(松山聖陵高~16年⑤)が先発・中継ぎでフル回転し、薮田和樹(亜大~14年②)はここ2年不振が続いているが17年に15勝を上げ復活が期待される。

 

●投手陣~ルーキー森下の加入で先発陣は充実!故障続きのリリーフ陣復活に期待

 昨年は大瀬良がリーグ2位の173回1/3を投げ、完投自体が珍しくなったなかで6完投は両リーグで断トツで、名実とも広島のエースの座を確固たるものにした。ジョンソンも開幕当初は不振だったが、直ぐに復調し大瀬良とともに11勝を上げた。さらに九里亜蓮(亜大~13年②)が8勝、肘の手術から復帰した床田寛樹(中部学院大~16年③)が7勝を上げ、一年間ローテーションを守った。

 リリーフ陣はクローザーの中崎が不振で中継ぎに降格。一岡竜司沖データコンピューター教育学院~11年巨③)も勤続疲労がたたって夏場から離脱した。その穴をフランスアとレグナルトの両外国人選手が埋め、楽天から移籍した菊池保則(常磐大高~07年楽高④)はチーム一番の安定感を見せた。ベテランの中村恭平(富士大~10年②)も自己最多の43試合に登板し、リリーフ陣崩壊の危機を救った。

【昨年の先発ローテーション】

 ・開幕時…大瀬良大地 床田寛樹 九里亜蓮 ジョンソン 野村祐輔 岡田明丈

 ・後半戦…九里亜蓮 アドゥワ誠 ジョンソン 大瀬良大地 床田寛樹

【19年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…大瀬良大地(173回1/3)ジョンソン(159回2/3)床田寛樹(139回2/3)

       九里亜蓮(118回)野村祐輔(95回1/3)アドゥワ誠(91回2/3)

 ・救援…フランスア(67試合)菊池保則(58試合)レグナルト(52試合)

       中村恭平(43試合)中崎翔太(36試合)遠藤淳志(34試合)

 開幕投手は大瀬良のほかいない。一年間投手陣の柱を任せられるまさにエースで、今年はさらなる成長が期待できる。さらに左のエース格ジョンソン、実績十分の野村に九里と床田、ルーキー森下も加わり枚数は揃っている。特に森下は即戦力の触れ込み通りで、2桁勝利も夢ではなく新人王候補の最右翼だ。

 ただ、このあとに続く投手が不足している。薮田に未だ復活の気配がなく、アドゥワも先発だとなぜか結果が出ない。首脳陣の期待値が高い山口翔(熊本工高~17年②)や遠藤淳志(霞ケ浦高~17年⑤)もまだ時間がかかる感じで、主力が離脱すると一気に台所事情が厳しくなる。

 リリーフ陣の注目はやはりクローザーが誰になるかだろう。一番は中崎が復帰するのが一番だが、昨年に引き続きフランスアも候補になる。ただ、フランスアと中村恭がともに出遅れており、中崎が不振だといきなりクローザーが不在になる危険性がある。

 中継ぎ陣は先発ローテから外れたアドゥワや遠藤が控え、菊池保や先発から転向した岡田もいる。キャンプでは6年目の左腕・塹江敦哉(高松北高~14年③)の評価が高く、佐々岡新監督の抜擢が期待できる。昨季52試合登板のレグナルトが退団し、スコットとDJジョンソンが加わり不安はなさそうだが、やはり一岡や今村猛清峰高~09年①)といった、かつての勝利の方程式を務めた選手の復帰がないと安心はできない。

 若手では島内颯太郎(九共大~18年②)は、四球の多さを克服しリリーフで信頼を掴みたい。昨年ファームで結果を出している藤井皓哉(おかやま山陽高~14年④)や、背水の陣で臨む矢崎拓也(慶大~16年①)は今年のブレイクに期待したい。高橋昂也(花咲徳栄高~16年②)も肘の故障を克服し、一軍で投げる姿を早く見せてほしい。

【今年度の予想】

 ・先発…大瀬良大地 ジョンソン 九里亜蓮 床田寛樹 野村祐輔 森下暢仁

       アドゥワ誠 遠藤淳志 山口 翔 薮田和樹 

 ・中継…菊池保則 中村恭平 一岡竜司 今村 猛 スコット 岡田明丈 

      DJジョンソン 島内颯太郎 

 ・抑え…フランスア 中崎翔太

 

●野手陣~今年も1~3番の上位打線がカギ!小園を中心にした若手の成長が楽しみ

 広島の3連覇を支えた「タナキクマル」が、昨年は機能しなかった。1番の田中広輔JR東日本~13年③)は極度の不振で打率1割台、3番の丸佳浩千葉経大付・07年高③)は巨人へ移籍し、最後の最後まで3番打者に苦労した。後半はバティスタが定着するもドーピング違反で出場停止~退団し、1~3番の不振がそのまま打撃不振に直結してしまった。

 そのなかで一人気を吐いたのが4番の鈴木誠で、首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得した。西川は打率.297で巧打者ぶりを発揮し、曾澤も打てる捕手として下位打線を支えた。ルーキー小園も大器の片りんを見せるには十分な成績だった。

 反面、期待を裏切ったのは野間で、丸の後釜を担うはずが、打率.252に2本塁打で終わり、丸の人的補償で入団した長野も打棒が復活することがなかった。実績のある中堅の安部友裕福岡工大城東高~07年高①)や堂林翔太中京大中京高~09年②)、坂倉将吾(日大三高~16年④)等に期待の若手もチャンスを掴むことができずに、結果チームの打撃成績がすべて下回った。特に広島のお家芸とも言える機動力が落ちたのは気掛かりだ。

【19年シーズン結果(試合数/打席数)】※☆は規定打席クリア

 捕 手…☆曾澤 翼(126/447)磯村嘉孝(65/117)

 内野手…☆菊池涼介(138/619)☆西川龍馬(138/585)バティスタ(103/423)

       田中広輔(97/355)松山竜平(110/327)安部友裕(114/295)

       小園海斗(58/197) メヒア(56/137)小窪哲也(51/125)

 外野手…☆鈴木誠也(140/612)野間峻祥(123/353)長野久義(72/197) 

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の後半戦スタメン】  

  1)田中広輔⑥      1)西川龍馬⑧      

  2)菊池涼介④      2)菊池涼介④       

  3)西川龍馬⑦         3)バティスタ③    

  4)鈴木誠也⑨      4)鈴木誠也⑨      

  5)松山竜平③      5)松山竜平⑦      

  6)野間峻祥⑧      6)曾澤 翼②     

  7)曾澤 翼②           7)安部友裕⑤   

  8)安部友裕⑤      8)田中広輔

  9)大瀬良大地①     9)九里亜蓮①  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)西川龍馬⑧      捕 手)曾澤 翼(坂倉将吾) 

  2)菊池涼介④      一塁手松山竜平(メヒア)

  3)鈴木誠也⑨      二塁手菊池涼介

  4)ピレラ⑦            三塁手)小園海斗(安部友裕

  5)松山竜平③         遊撃手)田中広輔(小園海斗)

  6)曾澤 翼②      左翼手)ピレラ(長野久義

  7)田中広輔⑥            中堅手)西川龍馬(野間峻祥

  8)小園海斗⑤       右翼手鈴木誠也

  9)大瀬良大地①      

  

 今年も課題は同じで、1~3番の確立がチームの浮沈を握る。1番候補は実績のある田中や俊足の野間がいるが、西川が現段階では一番フィットすると思う。守備に不安があり外野にコンバートすると否や、一気に打撃センスが開花した。天性とも言えるバットコントロールはまさしく安打製造機になる可能性十分だ。

 2番は菊池涼になるが、こうなると3番が不在だ…。バティスタが退団しており、昨年終盤のように鈴木誠を3番で使い、新外国人のピレラや松山竜平九州国際大~07年大社④)が4番を務めるか、3番にピレラやベテランの長野を入れ、鈴木を4番にするなど、どのような上位打線で臨むのか注目したい。新外国人のピレラは、三塁も守れるが、送球に不安があるため、松山と一塁と左翼を守る形になる。

 下位打線は曾澤がいるのが心強く、田中広や安部の実績のある選手に、オープン戦で三塁も務めている小園をシーズン通して使うのも将来への投資で良いと思う。このほかに打撃の良い坂倉を外野で使うプラン、堂林は三塁と左翼のほかに一塁にもチャレンジしている。野間もレギュラー候補で終わる選手ではなく、し烈なレギュラーが争い展開されそうだ。

 野手は投手と違い、若手が育ってきている。坂倉と小園を筆頭に、内野手では楽天から昨年移籍した三好匠(九州国際大高~11年③)は守備に定評があり、林晃汰(智弁和歌山高~18年③)は長打力、羽月隆太郎(神村学園高~18年⑦)はチームきっての韋駄天だ。外野手では高橋大樹龍谷大平安高~12年①)は右の代打、宇草孔基(法大~19年②)は走塁から一軍での出番を増やしチャンスを掴みたい。 

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…曾澤 翼 坂倉将吾 磯村嘉孝石原慶幸

 内野手松山竜平 菊池涼介 小園海斗 田中広輔 安部友裕

       小窪哲也 堂林翔太 三好 匠(曽根海成 メヒア)

 外野手…ピレラ 西川龍馬 鈴木誠也

       野間峻祥 長野久義(宇草孔基 高橋大樹) 

 

 注目の若手では、投手では遠藤淳志が一押しだ。一昨年、たまたま観たTVで遠藤の画像を見たとき、一目で素晴らしい投手だと思った。期待通りに昨年一軍デビューを果たし、34試合に登板しプロ初勝利を上げた。今年は本格的に先発転向するが、残念ながら今一つ結果が出ていない。中継ぎから信頼を勝ち取り、先発ローテに定着したい。

 野手では、やはり坂倉将吾だろう。卓越した打撃センスで、昨年は外野も経験し、左の代打での出番も増えた。てっきりそのまま外野にコンバートされるかなと思ったが、佐々岡監督は曾澤に続く2番手捕手として起用する予定で、打てる捕手としての育成が本格的にスタートする。今年は守備力を上げたい。