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どのチームが「人」を育て強くなるのか

21年戦力分析☆広島~このままズルズルBクラス定位置は避けたい…黄金期再興に臨むシーズン

 16~18年の3連覇が遠く感じてしまうほど、昨年は優勝争いに絡むことなくい、冴えないシーズンになってしまった。今シーズンは再び低迷期に陥るのか、それとも黄金期に返り咲く分岐点になる。

 昨年の低迷の最大の要因は投手陣の崩壊で、特に救援陣が酷かった…救援陣の防御率はリーグ最低の4.64、勝てるゲームをなかなかものに出来なかった。3連覇のときは接戦に強く、逆転勝ちも多かったが、昨年の逆転勝ちはリーグ最少の13試合、延長戦は2勝2敗12引分け、サヨナラ勝ちは2試合と、ここぞという時にかつての勝負強さを感じることができなかった。

 平均年齢26.3歳のDeNAに次ぐ若いチームを、2年目を迎える佐々岡監督がどういう選手起用や采配をするか注目したい。 

 【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 20年 5位 52勝56敗12分 .262  110本   64個  523点  4.06  529点

 19年 4位 70勝70敗  3分 .254  140本   81個  591点  3.46     601点

 18年 1位 82勝59敗  2分 .262  175本   95個  721点  4.12  651点

 17年 1位    88勝51敗  4分 .273  152本 112個  736点  3.39  540点  

 16年 1位 89勝52敗  2分 .272  153本 118個  684点   3.20  437点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 19年~森下暢仁(投手~明大①)

 18年~島内颯太郎(投手~九共大②)

 17年~なし

 16年~なし

 15年~西川龍馬(内野手~王子⑤)

 個人的にここ数年の広島のドラフトは、チームの過信だと感じていた。高校生や未完の大学生主体の極端ともいえる育成主体で、15年から19年までの内訳は、高校生18名、大学生10名、社会人4名。ただ、主力になっているのは3名だけで、高校生で及第点の成績ははアドゥワ誠(松山聖陵高~16年⑤)と遠藤敦志(霞ヶ浦高~17年⑤)、野手では坂倉将吾(日大三高~16年④)のみで、お世辞にも成功ドラフトとは言えない。

 今年は一転して、1~3位まで即戦力投手で、高校生は1名のみと5年ぶりに大学・社会人指名が高校生を上回った。黄金期復活のために、まだ1年だけだがドラフト戦略にも変化が見られた。 

●投手陣~先発の枚数は揃い、課題は救援陣。ルーキーと新外国人の新戦力に期待

  昨シーズンのチーム防御率4.06はリーグ5位。先発陣はエースの大瀬良大地(九共大~13年①)が夏場に故障離脱し5勝、ジョンソンは10試合先発で未勝利は誤算だった。一方で、九里亜蓮(亜大~13年②)がチーム最多20試合に先発し8勝、ルーキー森下は防御率1.91、11勝を上げ新人王を獲得した。遠藤も1年間ローテーションを守り5勝、中村祐太(関東一高~13年⑤)も後半戦8試合で3勝をあげるなど光明が見えた。

 課題は救援陣で、これまでリリーフ陣を支えた中崎翔太日南学園高~10年⑥)と今村猛清峰高~09年①)はともに6試合登板、一岡竜司沖データコンピューター教育学院~11年巨③)も防御率6点台と揃って不振。

 新守護神に抜擢されたスコットも7試合で3敗、防御率は15.75とシーズン開始直後に再編を余儀なくされた。結果クローザーはフランスアが務めたが、最後まで勝ちパターンを確立することができなかった。そのなかでも若手の塹江敦哉(高松北高~14年③)がチーム最多の19ホールド、ケムナ誠(日本文理大~17年③)や島内が結果を残したは収穫だった。

 ファームでは、田中法彦(菰野高~18年⑤)がウエスタンリーグのセーブ王になり、防御率1点台でクローザー候補が出てきた。また、育成の藤井黎来(大曲工高~17年育②)も結果を残し支配下を勝ち取った。

【20年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆九里亜蓮(130回2/3)☆森下暢仁(122回2/3)遠藤淳志(107回)

       床田寛樹(76回2/3)野村祐輔(70回2/3)大瀬良大地(63回1/3)

 ・救援…フランスア(53試合)塹江敦哉(52試合)菊池保則(44試合)

       ケムナ誠(41試合)島内颯太郎(38試合)中田 簾(32試合)

【今年度の予想】

 ・先発…大瀬良大地 九里亜蓮 森下暢仁 床田寛樹 遠藤淳志 野村祐輔

       中村祐太 薮田和樹 高橋昂也 栗林良史※ ネバラスカス※ 

 ・中継…塹江敦哉 菊池保則 ケムナ誠 島内颯太郎 中田 簾 田中法彦 

      今村 猛 一岡竜司 高橋樹也 大道温貴※ 森浦大輔※

 ・抑え…フランスア 中崎翔太  バード※

 先発の枚数は揃っている。エース格に成長した九里、森下は今年も2桁勝利を十分に狙える。さらに左の床田寛樹(中部学院大~16年③)、成長著しい遠藤は確定で、昨年9月に手術をした大瀬良が、開幕に間に合うかがカギになる。

 残る6番目の座を実績のある野村祐輔(明大~11年①)や中村祐、復活を期す薮田和樹(亜大~14年②)が争う。即戦力ルーキーの栗林良史(トヨタ自動車~20年①)も、1年目から2桁勝利を狙える力があり、新外国人のネバラスカスはメジャーでは中継ぎだが、制球難を克服できれば先発ローテ入りも期待できる。

 問題のリリーフ陣再編は、クローザーを誰にするかがポイントになる。フランスアが有力だが、復活を期す中崎に田中法にも期待がかかる。新外国人のバードは奪三振率の高い変則左腕で、ワンポイントが有力だが、マイナーで23セーブの実績からクローザー抜擢も可能性がある。

 セットアッパーは塹江とケムナが勝ちパターンを担い、3年目の島内と合わせてリリーフ陣の柱としての成長が期待できる。ここにベテランの菊池保則(常盤大高~07年楽高④)や中田簾(広陵高~08年②)が加われば、十分に計算できる布陣になる。また、巧派左腕の森浦大輔(天理大~20年②)は、貴重な左の中継ぎとして出番が早そうだ。

 そのほかのルーキーでは、大道温貴(八戸学院大~20年③)は先発・リリーフともに適性があるが、まだ発展途上なのでファームで経験を積んで、早期の一軍登板を目指したい。小林樹斗(智弁和歌山高~20年④)と行木俊(四国IL徳島~20年⑤)はまずは体力作りでファームで経験を積む。

●野手陣~新外国人のクロンは4番を任せられるか?機動力と長打力アップがカギ

 昨年打線は元気で、チーム打率と得点はともにリーグ2位、出塁率.331はリーグ1位で強力打線は健在だ。鈴木誠也二松学舎大高~12年②)は、チーム初の5年連続3割を記録し、西川も規定打席に不足したが打率3割を維持した。松山竜平九州国際大~07年大社④)と長野久義(ホンダ~09年巨①)のベテランも存在感を示し、堂林翔太中京大中京高~09年②)が30歳を目前に復活を果たした。

 若手では坂倉が打てる捕手として打率.281を残し、不動の正捕手・曾澤翼(水戸短大高~06年高③)の尻に火をつけた。シーズン途中に育成から支配下登録された大盛穂(静岡産大~18年育①)も、一番打者で22試合に先発出場し、セールスポイントの足と守備で中堅の定位置を狙える存在に成長した。 

 ただ、数字以上の怖さを感じない。本塁打はともかくとして、お家芸の機動力は一昨年から影を潜め、盗塁数はリーグ4位の64…主に一番を務めた西川が6盗塁、ピレラは2盗塁、チーム最多盗塁が堂林では怖さはない。また、守備の名手・菊池涼介中京学院大~11年②)の存在があるため意外だが、チームの失策数はリーグ2位で実は守備にも難があり、なんだかんだ課題は多い。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…曾澤 翼(79/263)坂倉将吾(81/228)磯村恭孝(31/55)

 内野手…☆ 田中広輔(112/454)☆堂林翔太(111/451)☆菊池涼介(106/429)

       メヒア(37/85)三好 匠(62/29)

 外野手…☆鈴木誠也(118/514)☆松山竜平(108/425)ピレラ(99/337)

     西川龍馬(726/328)長野久義(95/299)大盛 穂(73/148)     

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)ピレラ⑦       1)西川龍馬⑧      

  2)菊池涼介④           2菊池涼介④       

  3)西川龍馬⑧           3)長野久義⑦    

  4)鈴木誠也⑨      4)鈴木誠也⑨      

  5)メヒア⑤       5)松山竜平③      

  6)曾澤 翼      6)曾澤 翼②      

  7)堂林翔太③      7)堂林翔太⑤      

  8)田中広輔⑥      8)田中広輔

  9)大瀬良大地①     9)九里亜蓮  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…曾澤 翼 坂倉将吾 磯村嘉孝(石原貴規)

 内野手…クロン※ 菊池涼介 堂林翔太 田中広輔 

     上本崇司 三好 匠 羽月隆太郎 メヒア 

    (曽根海成 安部友裕 林 晃汰 小園海斗 矢野雅哉※)

 外野手…長野久義 西川龍馬 鈴木誠也

      松山竜平 大盛 穂(野間峻祥 宇草孔基 高橋大樹)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)田中広輔⑥      捕 手)坂倉将吾(曾澤 翼) 

  2)菊池涼介④      一塁手)クロン

  3)西川龍馬⑧      二塁手菊池涼介

  4)鈴木誠也⑨         三塁手堂林翔太(メヒア)

  5)クロン③          遊撃手)田中広輔

  6)長野久義⑦      左翼手長野久義松山竜平

  7)堂林翔太⑤      中堅手)西川龍馬(大盛 穂)

  8)坂倉将吾②      右翼手鈴木誠也

  9)大瀬良大地①     

 捕手は33歳の曾澤と23歳の坂倉の争いになる。打力なら坂倉に分があるが、曾澤の経験は課題の投手陣には不可欠で、シーズン通してし烈なレギュラー争いになる。3番手ではベテランの磯村嘉孝中京大中京高~10年⑤)が控えるが、坂倉と同い年の石原貴規(天理大~19年⑤)の打力にも注目が集まっており、楽しみな若手が控える。

 一塁は新外国人のクロンが有力で、3Aで38本塁打スラッガーだ。ベテランの松山や若手の林晃汰(智弁和歌山高~18年③)も控えているが、ともに守備に不安が残る。二塁は菊池涼、三塁は堂林が不動で、二塁は上本崇司(明大~12年③)に若手の羽月隆太郎(神村学園高~18年⑦)、三塁にはメヒアが控える。

 最大は遊撃手争いで、2年続けて打撃不振の田中広輔JR東日本~13年③)も盤石とは言えないが候補が見当たらない…。期待の小園海斗(報徳学園高~18年①)は、昨年ファームで打率2位の好成績を残すも一軍に呼ばれることはなく、今キャンプは2軍スタート、上本と三好匠(九州国際大高~11年③)も打撃が課題でレギュラーとしては物足りない。ルーキーの矢野雅哉(亜大~20年⑥)が評価を上げているが、やはり田中広の復調が一番望ましい。

 外野は右翼の鈴木誠と中堅の西川は決まりで、左翼争いに注目だ。ベテランの長野と松山の争いになるが、松山は守備に難があり、守備も考えると長野になる。ここに俊足で守備に定評のある大盛、後半戦に出場機会を掴んだ宇草孔基(法大~19年②)も加わり、ベテランと若手の争いはチーム力アップに繋がる。

 打線は一番打者がポイントになる。昨シーズンは西川が最多の30試合、ピレラが29試合、大盛が22試合と固定できなかった。鈴木誠に次ぐ高い出塁率の西川が有力だが、機動力を活かすなら大盛や野間が台頭すると打線に厚みを増す。ただ、個人的にはやはり田中広~菊池涼の1・2番が理想で、田中広の8番は寂しい。

 タナキクで1・2番を固定できれば、クリーンアップは3割打者の西川と鈴木誠が並び、5番クロンの中軸が形成できる。下位打線も打てる捕手の曾澤と坂倉、ベテランの長野と松山、堂林が控える打線は脅威になる。

 課題は機動力不足とレギュラーと控えの差をどう埋めるかで、若手の突き上げがないと厳しい。平均年齢は若いものの、レギュラーの最年少は鈴木誠と西川の27歳では先が思いやられる。

 先述したが、今年は復権か、このままズルズルと再び低迷期に陥るかの分水嶺になるシーズンになる。いずれも決めてを欠く混戦セ・リーグのなかで、十分に優勝を狙える力はあり、3年振りのリーグ制覇も夢ではない。そのためにはレギュラーを脅かす若手の台頭が待ち遠しい。

 注目の選手で、投手では田中法を挙げたい。昨年は球速重視のピッチングから、変化球を活かしたキレのある投球にシフトしてファームのクローザーに定着した。不動のクローザーが不在のチームのなかで、今年は勝ちパターンに食い込みたい。

 野手では、期待をこめての中村奨成(広陵高~17年①)で、今年は捕手でいくのか、打撃を活かして野手で行くのか判断する年になると思う。ファームでも不動のレギュラーとは言えず、昨年の一軍のマスクを被る機会はなかった。高卒4年目で焦る時期ではないかもしれないが、そろそろ攻守で結果を出したいところだ。