ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆広島~期待の若手とベテランをどう融合させるか、混戦のセ・リーグで優勝も夢ではない

 昨夏の東京オリンピックでは、森下が先発を務め、ルーキー栗林はクローザーに抜擢された。野手でも菊地涼介(中京学院大~11年②)は不動の正二塁手鈴木誠也二松学舎大高~12年②)は日本代表の4番、ケガで代表は辞退したが、捕手の曾澤翼(水戸短大高~06年③)を含めた最多5名が選出されタレントは揃っている。

 ただ、これだけのタレントがいながら、昨年も優勝争いに絡むことなくチームの成績は4位。開幕から1ケ月は5割をキープしてまずまずだったが、主力選手にコロナ感染が判明し、一・二軍選手の入れ替えもあり失速した。主力の調子が上がらないまま迎えた苦手の交流戦では、3勝12敗3分の最下位に沈むと夏場の借金が影響し、後半戦追い上げるもAクラスには届かなかった。

 一方で若手の成長があった実りのあるシーズンだった。投手では2年目の玉村昇悟(丹生高~19年⑥)が先発ローテーションに喰い込み、栗林の陰に隠れがちだが、同じルーキーの森浦はチーム最多の54試合に登板した。野手でも小園が初の規定打席に到達し、坂倉は鈴木誠と終盤まで首位打者を争い、ペナントレースでは今一つだったが、ファンを最後まで楽しませた。 

 【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 4位 63勝68敗12分 .264  123本   68個  557点  3.81  589点

 20年 5位 52勝56敗12分 .262  110本   64個  523点  4.06  529点

 19年 4位 70勝70敗  3分 .254  140本   81個  591点  3.46     601点

 18年 1位 82勝59敗  2分 .262  175本   95個  721点  4.12  651点

 17年 1位    88勝51敗  4分 .273  152本 112個  736点  3.39  540点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~栗林良史(投手~トヨタ自動車①)森浦大輔(投手~天理大②)

 19年~森下暢仁(投手~明大①)

 18年~小園海斗(内野手報徳学園高①)島内颯太郎(投手~九共大②)

 17年~なし

 16年~坂倉将吾(捕手~日大三高④) 

 25歳以下の主力選手が最も多いチームで、過去5年のドラフトを見ても投打の主力が並んでいる。先発の柱になりつつある森下に、チーム状況でクローザーに回っているが栗林も本体は先発投手で、即戦力がそのまま主力に成長している。

 野手でも、小園が遊撃の定位置を獲得し、同じ18年1位指名の藤原(ロッテ)や根尾(中日)が伸び悩んでいるなか、順調に成長曲線を描いている。かねてより打撃が評価されていた坂倉も昨季ブレイクし、選手層の厚い広島捕手陣のなかで打てる捕手としてレギュラーを掴みつつある。

 このほか先発で床田寛樹(中部学院大~16年③)と玉村、リリーフで大道温貴(八戸学院大~20年③)にケムナ誠(日本文理大~17年③)がおり、先発・リリーフともに充実している。野手でも林晃汰(智弁和歌山高~18年③)が4番候補に成長し、リードオフマン候補の宇草孔基(法大~19年②)、守備力が評価されている捕手の石原貴規(天理大~19年⑤)など、タイプの違う選手が着実に成長している。

●投手陣~数字以上に期待の若手が揃っている。今季は打高投低を覆したい

  昨シーズン、チーム防御率は前年より改善を見せたものの、2年連続でリーグ5位と打高投低の状況が続いている。ただ、数字だけ見れば物足りない部分は確かにあるが、それ以上に期待を抱かせる活躍を若手が見せた。

 先発は九里亜蓮(亜大~13年②)がチーム最多の13勝を挙げ、エースの大瀬良大地(九共大~13年①)も10勝、森下は8勝止まりだったが、それぞれ規定投球回数をクリアし、先発3本柱が形成されている。このほか玉村は17試合に先発し、床田と故障明けの高橋昂也(花咲徳栄高~16②)もそれぞれ15試合に先発し、年間でローテーションを固定することが出来た。

 開幕前はクローザーを誰にするか決まっていなかったが栗林が大役を務め、その栗林は23試合連続無失点、防御率は驚異の0.86で37セーブを挙げ新人王に輝く大活躍を見せた。同じルーキーの森浦もチーム最多の54試合登板で17ホールド、大道もリリーフが中心ながら7試合に先発し、即戦力ルーキーの上位指名が大当たりだった。

 このほか塹江敦哉(高松北高~14年③)は2年連続で50試合登板、同じくケムナも2年連続で40試合に登板し、中継ぎの柱も確立されてきた。膝の手術でフランスアの離脱は痛かったが、育成出身のコルニエルと退団したがバードが穴を埋めた。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆九里亜蓮(149回)☆森下暢仁(163回1/3)☆大瀬良大地(146回2/3)

       玉村昇悟(101回)床田寛樹(87回1/3)野村祐輔(35回2/3)

 ・救援…森浦大輔(54試合)栗林良史(53試合)塹江敦哉(51試合)

       コルニエル(50試合)ケムナ誠(40試合)菊地保則(33試合)

     バード(33試合)

【今年度の予想】

 ・先発…大瀬良大地 九里亜蓮 森下暢仁 床田寛樹 玉村昇悟 

       ※森 翔平 野村祐輔 高橋昂也 ※アンダーソン 小林樹斗 中村祐太 

 ・中継…森浦大輔 ※黒原拓未 ケムナ誠 塹江敦哉 菊池保則 コルニエル

       大道温貴 中崎翔太 中田 簾 ※松本竜也 高橋樹也 ※ターリー 

 ・抑え…栗林良史 フランスア

 エースの大瀬良が開幕投手に指名され、もはやWエースと言ってもよい九里に、森下と床田までは決まっている。残り2枠も玉村と高橋昂の両左腕が有力で、先発の枚数は揃っている。

 本来であれば実績のある野村祐輔(明大~11年①)や新外国人のアンダーソンが間に合えば、さらに先発争いのレベルが一段上がるのだが、野村は右鎖骨の手術明け、アンダーソンもコロナで来日の目途が立たず、ここが計算できないのは厳しい。

 ただ、変化球を駆使してゲームメークに長けたルーキーの森翔平(三菱重工エスト~21年②)や、2年目の19歳、小林樹斗(智弁和歌山高~20年④)は昨年終盤に先発を経験した成長株で、ここでも若手が先発争いを盛り上げている。このほか大道や遠藤淳志(霞ヶ浦高~17年⑤)、中堅の中村祐太(関東一高~13年⑤)など候補者は多く、誰がチャンスを掴むのか注目したい。

 リリーフは今年も森下がクローザーを務める。出来ることなら栗林を先発で起用できたら、さらに先発陣が厚くなるのだが、昨年の実績と現状では栗林を外すことはできない。セットアッパー候補では、最速165キロのコルニエルと実績のあるフランスア奪三振率の高い左腕ターリーも期待でき、この2年間で実績を積んだ塹江とケムナが控え、どういった勝ちパターンの布陣になるか、ここの争いも楽しみだ。

 さらにリリーフ陣は、ベテランの菊地保則(常磐大高~07年楽④)に森浦も控え質量ともに見劣りはしない。ルーキーも期待がかかり、ドラフト1位の黒原拓未(関学大~21年①)は先発・中継ぎどちらでもOKで、松本竜也(ホンダ鈴鹿~21年⑤)は力強いストレートとカットボールを武器に、度胸のあるピッチングが評価されリリーフ向きと言える。また、森や大道が先発枠から外れても、リリーフに回ることもでき層は厚くなっている。

 心配なのは若手が多い分、経験値の少なさは否めず中崎翔太日南学園高~10年⑥)や中田廉広陵高~08年②)等ベテランが本調子を取り戻すことができたのなら、課題もカバーできるのだが…。 

●野手陣~鈴木誠の穴は大きい…誰が新たな4番に座るか+坂倉の起用法に注目

 打線はチーム打率はリーグ1位も、本塁打はリーグ4位、お家芸の機動力もリーグ3位と得点力が今ひとつで、若手への転換期を迎えている投手陣をカバーするまでには至らなかった。

 打線の中心は不動の4番・鈴木誠で、打率.317で首位打者、38本塁打に88打点、9盗塁はいずれもチーム最多で、4割を超える出塁率でまさしくチームの大黒柱と言え、今季はメジャーに挑戦する。また、レギュラーの菊地涼は得点圏打率で、西川は安打数でチーム1位で、主力がしっかりと結果を残した。

 ここに小園が一気に田中広輔JR東日本~13年③)から遊撃のレギュラーを奪い、坂倉は最後まで首位打者争いをし、捕手以外に一塁も守った。林は新型コロナでの一・二軍入れ替えのワンチャンスをモノにし、規定打席には到達しなかったものの、10本塁打を放ちスラッガーの片りんを見せた。

 ただ本塁打数では、鈴木誠の次に多いのは菊地涼の16本で、期待されていたクロンの不振もあり、和製大砲の育成は喫緊の課題と言える。盗塁も2桁盗塁した選手はいなく、鈴木誠と曽根海成(京都国際高~13年ソ育③)の9盗塁が最高で、この辺りの課題がクリアできればもっと得点力は増すだろう。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆坂倉将吾(132/484)曾澤 翼(70/204)石原貴規(60/125)

 内野手… ☆菊池涼介(132/542)☆小園海斗(113/481)林 晃汰(102/376)

     安部友裕(85/170)田中広輔(81/160) 堂林翔太(70/143)

      クロン(42/137)羽月隆太郎(39/117)

 外野手…☆西川龍馬(137/551)☆鈴木誠也(132/533)野間峻祥(74/270)

     松山竜平(85/194)宇草孔基(43/158)長野久義(71/140)         

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)田中広輔⑥      1)菊池涼介    

  2)菊池涼介④           2)小園海斗⑥       

  3)西川龍馬⑧           3)西川龍馬⑦    

  4)鈴木誠也⑨      4)鈴木誠也⑨      

  5)松山竜平⑦      5)坂倉将吾③      

  6)クロン③       6)曾澤 翼②      

  7)堂林翔太⑤      7)野間峻祥⑧      

  8)曾澤 翼②      8)林 晃汰⑤

  9)大瀬良大地①     9)九里亜蓮  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…曾澤 翼 坂倉将吾 石原貴規(中村奨成)

 内野手田中広輔 安部友裕 堂林翔太 ※マクブルーム 菊池涼介  林 晃汰

       小園海斗(曽根海成 上本崇司 羽月隆太郎)

 外野手…野間峻祥 宇草孔基 ※中村健人 ※末包昇大 松山竜平 西川龍馬 

      (長野久義 正髄優弥)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)宇草孔基⑧      捕 手)曾澤 翼(石原貴規) 

  2)小園海斗⑥      一塁手)坂倉将吾

  3)西川龍馬⑦      二塁手菊池涼介

  4)マクブルーム⑨       三塁手)林 晃汰(堂林翔太

  5)坂倉将吾③         遊撃手)小園海斗(田中広輔

  6)菊池涼介④      左翼手)西川龍馬

  7)林 晃汰⑤      中堅手)宇草孔基(野間峻祥

  8)曾澤 翼②      右翼手)マクブルーム(末包昇大)

  9)大瀬良大地①     

 今シーズン注目しているのは2点で、一つは「鈴木誠に代わる4番を誰に任せるか」と「坂倉の起用法」だ。

 まず一点目だが、鈴木誠に代わる選手はいない。昨年、鈴木誠の次に4番を打ったのは西川で12本塁打と長打力もあり「つなぎの4番」なら十分に機能する。坂倉も同じ12本塁打を放ち、打率の高さもさることながら、得点圏打率が3割を超えチャンスにも強い4番を任せても良い。長打力に期待するなら林で、今季一気にブレイクする可能性は十分にある。

 新戦力にもチャンスはあり、ルーキーの末包昇大(大阪ガス~21年⑥)はキャンプで評価を上げ、オープン戦での結果いかんではルーキーの4番もあるかもしれない。新外国人のマクブルームは打率や出塁率は低いが、3Aで32本を放った長距離砲でここも期待できる。

 次に坂倉の起用法だが、打撃を活かすために本職の捕手のほかに一塁と今季は三塁にも挑戦している。鈴木誠がいたなら捕手で良いと思うが、捕手はベテランの曾澤に守備力の高い石原がおり、今季の布陣であれば栗原(ソフトバンク)のように打撃に専念したほうがプラスになると思う。個人的には5番に坂倉が座る打線は怖く、新たな4番が機能し、下位打線で得点圏打率の高い菊地涼が控えりようになれば、気の抜けない打線になる。

 このほかのポジションでは、内野は二塁が菊地涼、遊撃は小園で決まりで、一塁を坂倉とマクブルーム、三塁は林と堂林に坂倉起用の可能性もある。24歳の坂倉と22歳の小園と林がレギュラーになりつつある布陣はファンならずとも楽しみだ。ただ、ベテランも負けておれず、田中広や安部友裕福岡工大城東高~07年①)はまだ老け込む年ではなく、若手の壁になってチームを底上げして欲しい。

 外野は混戦で中堅と右翼のレギュラー争い注目だ。特に鈴木誠のいた右翼は、ポジションが一つ完全に空いている。中堅は野間と宇草が候補で、実績なら野間だが、昨季終盤に活躍を見せた宇草への期待の声が多い。右翼は末包と中村健人トヨタ自動車~21年③)のルーキー同士の争になり、ともに長打力が売りなだけに、オープン戦でアピールしたい。

 また、状況によってはマクブルームも外野(左翼と右翼)を守れ、捕手の中村奨成(広陵高~17年①)も今季は本格的に外野にチャレンジしており、出番を増やしたいならポジションに拘らず得意の打撃でアピールするのが近道だと思う。 

 今季の打線を予想すると、上位から下位まで切れ目のない打線になっている。残念ながら機動力の上積みは期待できないが、マクブルームや林、末包などの大砲候補が結果を残せば昨年より得点力は上がる。

●期待の若手とベテランをどう融合させるか、混戦のセ・リーグで優勝も夢ではない

 注目の選手で、投手では高橋樹也(花巻東高~15年③)に密かに注目している。昨年は大量リード後やビハインドゲームの登板がほとんどだったが、27試合で防御率1点台と結果を残している。150キロを投げることに驚かなくなった球速全盛のなか、変化球中心に球の精度で勝負するスタイルは面白い存在だ。勝ちパターンに喰い込めば、おのずと登板数も増えるてくるだろう。

 野手はリードオフマン候補の宇草で、今年はブレイクすると思う。昨季は後半戦から調子を上げ、一番打者で18試合に先発出場し、打率.291で素質の高さを見せた。本来であれば4割を超える長打率をほこり、3割20本塁打を期待できる中距離打者で、中軸で起用したいが、機動力も使えパンチ力もある。チームに勢いを与える一番打者として今季の活躍を期待している。

 このほか野手では育成の3選手も楽しみだ。二俣翔一(磐田東高~20年育①)は元々捕手だったが、打撃力を評価され内野手へコンバートされた右のスラッガー。捕手の持丸泰輝(旭川大高~19年育①)は、昨季のファームで最も多くマスクを被り、今春は一軍キャンプに帯同し実績を積んでいる有望株。外野手の木下元秀(敦賀気比高~19年育②)も、昨季ファームでただ一人チームで規定打席をクリアしている。支配下は66名と人数的には決して門は広くないが、レベルの高い支配下争いにも期待したい。

 最後に今年の順位予想だが、とにかくチームが若く、主力選手の世代交代も進んでいるが、若さと勢いだけでペナントレースを勝ち抜けるほど甘くはない。やはり優勝を狙うにはベテランとの融合や外国人の活躍が必須で、鈴木誠の穴をどう埋めるかがポイントになる。混戦模様のセ・リーグのなかで十分にAクラスを狙える力はあるが、若手が多いだけに佐々岡監督の采配により注目が集まるシーズンになる。