ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆広島~今季も全員野球で上位を狙い、優勝を狙える土台づくりを進めるシーズン

 4年連続のBクラスに沈み、一度もコーチ経験のない新井監督を新たに迎えた臨んだシーズンは、前評判は高くなく、大方Bクラス予想だった。スタートから開幕4連敗で、新監督には厳しいスタートになったが、その後の5連勝で借金を完済すると、3~4月を5割で乗り越え、7月の10連勝で阪神と優勝争いを演じ、終盤こそケガで主力の離脱が相次いで阪神に独走を許したが、大健闘の2位でシーズンを終えた。

 昨年は新井監督の再建テーマが明確で、「機動力野球の復活」と「中継ぎ陣の整備」は、チームの弱点を方針化することで、選手がチームの方向性と役割を理解した。

 【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打 盗塁   得点 防御率 失点 

 23年 2位 74勝65敗  4分 .246   96本  78個  493点  3.20  508点

 22年 5位 66勝74敗  3分 .257   91本  26個  552点  3.54  544点

    21年 4位 63勝68敗12分 .264 123本  68個  557点  3.81  589点

 20年 5位 52勝56敗12分 .262  110本 64個  523点  4.06  529点

 19年 4位 70勝70敗  3分 .254  140本 81個  591点  3.46  601点

 昨シーズンは得失点差がマイナスで、得点・失点ともリーグ5位と攻守に成績は芳しくない。チーム打率と本塁打はリーグ4位、チーム防御率はリーグ5位だから、数字だけを見ればBクラスだが、チーム全員で勝てる試合をモノにしてきた。新井監督が掲げた再建テーマは、盗塁数は3倍になり、リーグ2位の多さで伝統の機動力が復活。中継ぎ陣もリーグ3位の成績を残し、結果がついてきたことで選手も確信を持てた。    

【過去5年のドラフトの主戦力】

 22年~なし

 21年~松本竜也(投手~ホンダ鈴鹿⑤) 

    20年~栗林良史(投手~トヨタ自動車①)森浦大輔(投手~天理大②)

 19年~森下暢仁(投手~明大①)

 18年~小園海斗(内野手報徳学園高①)島内颯太郎(投手~九共大②)

 一昨年は秋山翔吾(八戸大~10年西③)の電撃加入があったが、資金力に限られているチーム状況から、12球団で唯一FA選手の獲得がなく、徹底的にドラフトを磨いてきた。

 特に昨年のドラフトは100点満点と言っても過言ではなく、常廣羽也斗(青学大~23年①)を競合の末に1位で獲得でき、2位で即戦力左腕ので高太一(大商大~23年②)、3位では素質型左腕の滝田一希(星槎道都大~23年③)を指名し、残念ながら3投手とも開幕一軍には届かなかったが、完璧な上位指名だった。

 また、19年の森下は佐々木朗希(ロッテ)や奥川恭伸(ヤクルト)、20年の栗林は早川隆久(楽天)や佐藤輝明(阪神)などがいる中での単独指名で、元々伝統的に単独指名が十八番のチームだが、相変わらずの巧者振りを発揮した。

 ただ一方で、即戦力選手への偏りが気になるのも事実だ。16~18年のリーグ3連覇中は、将来性を重視した高校生主体の指名だったが、20年からはすべて大学生・社会人の指名人数が高校生を上回り、指標としている年齢バランスが崩れている。

 投手なら昨年のドラフトで23歳に6名、25歳に4名、26歳には現役ドラフトで内間拓馬(亜大~20年楽④)も加入し7名もいる。一方で24歳はゼロで、19~22歳は僅か3名しかいない。野手は投手ほど偏ってはいないが、それでも24歳に5名が集中し、外野手は19~23歳に田村俊介(愛工大名電高~21年④)しかおらずバランスが悪く、早期の是正が必要だ。

●投手陣~先発4本柱に次ぐ若手の覚醒に期待!課題のリリーフはさらに強化が進む

  一昨年、昨年と先発の柱は変わらず大瀬良大地(九共大~13年①)に九里亜蓮(亜大~13年②)、森下、左腕の床田寛樹(中部学院大~16年③)の4本柱が健在で、床田がリーグ防御率3位で自身初の2桁勝利(11勝)を上げ勝ち頭になり、森下は右肘手術の影響で5月からの合流になったが9勝を上げた。

 ただ、昨年もこの4本柱に続く投手がおらず、森翔平(三菱重工エスト~21年②)が10試合、玉村昇悟(丹生高~19年⑥)が9試合、遠藤淳志(霞ケ浦高~17年⑤)が7試合に先発するもいずれも防御率が4点台、先発転向のコルニエルは8試合で防御率5点台と定着に至らず課題は埋まらなかった。

 リリーフは栗林の調子が上がらずクローザーを外れたが、矢崎拓也(駒大~16年①)が24セーブを上げ見事代役を務め上げた。島内はチーム最多62試合に登板し、最優秀中継ぎを受賞。大道温貴(八戸学院大~20年③)を含め、全員が防御率2点台をキープし、リリーフ左腕のターリー(楽天)は防御率1点台、29HPの好成績を上げた。 

【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆九里亜蓮(174回1/3)☆床田寛樹(156回)森下暢仁(131回2/3)

       大瀬良大地(129回1/3)

 ・救援…島内颯太郎(62試合)栗林良史(55試合)矢崎拓也(54試合)

       大道温貴(48試合)ターリー(44試合)中崎翔太(35試合)

【今年度の予想】

 ・先発…九里亜蓮 大瀬良大地 森下暢仁 黒原拓未 床田寛樹 アドゥワ誠

      (森 翔平 ※常広羽也斗 野村祐輔 ※ハッチ 斎藤優汰 玉村昇悟 

       遠藤淳志 コルニエル)

 ・中継…森浦大輔 益田武尚 塹江敦哉 矢崎拓也 島内颯太郎 河野 佳 

      (大道温貴 中崎翔太 ※高 太一 ケムナ誠 ※滝田一希 ※赤塚健利

       松本竜也 戸根千明 ※内間拓馬 ※ハーン)  

 ・抑え…栗林良史

 今季は九里が開幕投手に指名され、大瀬良に森下、床田の4本柱は健在で、今季も残り2枠の争いになり、この間の実績で言えば、遠藤と玉村が有力だ。森が出遅れ、ルーキー常廣も大学時代の疲労でデビューがは遅れそうで、コルニエルも制球力の課題が解消されていない。

 そんななか期待がかかるのが3年目の黒原拓未(関学大~21年①)で、昨季ファームで規定投球回数をクリアしており、今季は一軍で結果を残したい。また、8年目のアドゥワ誠(松山聖陵高~16年⑤)や2年目の斎藤優汰(苫小牧中央高~22年①)にも期待で、ベテランの野村祐輔(明大~11年①)はまだ老け込む年ではなく、今季こそはローテーションに復活したい。

 リリーフは栗林をクローザーに据え、矢崎と島内、セットアッパーが繋ぐ形が出来ており、大道や中崎も控え新たな勝ちパターンが出来つつある。期待なのがともに2年目の益田武尚(東京ガス~22年③)と河野佳(大阪ガス~22年⑤)が、オープン戦元気で、昨年8試合登板に終わった悔しさを晴らしたい。

 ターリーの移籍で、左のリリーフが不足気味だが、オープン戦で森浦と塹江敦哉(高松北高~14年③)がオープン戦で元気で課題は心配は解消されそうだ。

 全員が二軍スタートの大学生ルーキーや、新外国人のハッチやハーン、出遅れている戸根千明(日大~14年巨②)やケムナ誠(日本文理大~17年③)など、まだまだ戦力には伸びしろがある楽しみな布陣になった。

●野手陣~課題はFA移籍した西川の穴埋めと、誰が4番を担うかで悩みは尽きない

 一昨年リーグ1位のチーム打率が4位に後退し、得点数も前年より下がった。やはり鈴木誠也カブス)が抜けた4番の穴は大きく、来日2年目のマクブルームは大きく成績を落とし、デビッドソンも19本塁打と長打力はあったが、確実性に欠けた。

 結果、決して4番タイプではない西川龍馬(王子~15年オ⑤)が4番を務め、西川がケガで離脱後は、堂林翔太中京大中京高~09年②)や菊地涼介(中京学院大~11年②)、上本崇司(明大~12年③)等が務め、さすがにこれでは怖さを感じない

 課題だった機動力不足も改善が進み、チーム最多は羽月隆太郎(神村学園高~18年⑦)の14盗塁だが、秋山と小園、上本が8盗塁、西川に菊地、矢野雅哉(亜大~20年⑥)が7盗塁と、30代半ばの秋山や菊地、上本の姿勢がプラスに作用した。

 守備はリーグ5位の失策数で課題を残したが、坂倉将吾(日大三高~16年④)が正捕手として102試合(120試合中)にマスクを被った。一昨年は三塁手として、全試合に出場していただけに、内外野へコンバートと思っていたなか、捕手専任で起用し見事に期待に応えた。

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆坂倉将吾(120/448)曾澤 翼(54/133)

 内野手…☆菊池涼介(120/485)デビッドソン(112/381)小園海斗(80/306)

       堂林翔太(100/284)上本崇司(84/276)マクブルーム(70/259)

       田中広輔(111/253)矢野雅哉(93/146)

 外野手…☆秋山翔吾(115/483)西川龍馬(109/443)野間峻祥(108/418)

       松山竜平(79/156)末包昇太(65/146)        

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)小園海斗⑥      1)野間峻祥    

  2)野間峻祥⑨      2菊池涼介④       

  3)秋山翔吾⑧      3)西川龍馬⑦    

  4)マクブルーム③    4)マクブルーム③      

  5)西川龍馬⑦      5)坂倉将吾⑤      

  6)デビッドソン⑤    6)曾澤 翼②      

  7)坂倉将吾②      7)小園海斗⑥      

  8)菊池涼介④      8)上本崇司⑧

  9)大瀬良大地①     9)森下暢仁①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…曾澤 翼 坂倉将吾 石原貴規(持丸泰輝 高木翔斗)

 内野手…上本崇司 田中広輔 堂林翔太 ※レイノルズ 菊池涼介 小園海斗

       矢野雅哉 ※シャイナー(林 晃汰 韮澤雄也 羽月隆太郎 二俣翔一)

 外野手…秋山翔吾 野間峻祥 中村健人 松山竜平 久保 修 田村俊介

      (宇草孔基 末包昇大 中村奨成 中村貴浩)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)小園海斗⑥      捕 手)坂倉将吾(曾澤 翼) 

  2)野間峻祥⑨      一塁手)シャイナー(堂林翔太

  3)秋山翔吾⑧      二塁手菊池涼介(矢野雅哉)

  4)レイノルズ⑤     三塁手)レイノルズ(田中広輔

  5)坂倉将吾②         遊撃手)小園海斗

  6)田村俊介⑦      左翼手秋山翔吾

  7)シャイナー③     中堅手野間峻祥(久保 修)

  8)菊池涼介④      右翼手)田村俊介(中村健人

  9)九里亜蓮①     

 先ず4番は、新外国人のレイノルズとシャイナーが候補だが、ともにオープン戦では打率1割台で苦労しており時間がかかりそうだ。昨年、11本塁打でブレイクの兆しを見せた末包昇大(大阪ガス~21年⑥)もケガで出遅れ、結果、青写真も描けなかった

 一方、西川の穴埋めの外野手争いはし烈で、秋山と野間峻祥(中部学院大~14年①)は決まりで、残り1枠は期待の若手の争いになる。最注目は今春の欧州選抜戦で日本代表にも選出された田村で、オープン戦では長打率5割の3本塁打を記録し、今季我慢して起用すれば将来の4番候補になれる。

 また、久保修(大阪観光大~22年⑦)は強肩と俊足で守備は抜群で、こちらも打撃でも結果を残している。中村健人トヨタ自動車~21年③)と中村貴浩(九産大~22年育②)は、オープン戦の結果は今一つだったが、走攻守のバランスが取れた選手で一軍に帯同しレギュラー獲りのチャンスを掴みたい。ここに外野も守れる堂林やシャイナー、末包も控え競争が激化している。

 捕手は坂倉が攻守の中心で、ベテランの曾澤翼(水戸短大付高~06年③)と守備面の評価が高い石原貴規(天理大~19年⑤)が控える。若手でも高木翔斗(県岐阜商高~21年⑦)と持丸泰輝(旭川大高~19年育①)が次世代の正捕手候補で控え、高木は打撃、持丸は強肩と守備のセールスポイントを伸ばしたい。

 内野は一塁はシャイナーが有力で、堂林や松山竜平九州国際大~07年④)のベテランが控えている。二塁は菊地が不動だが、守備では引けをとらない矢野、俊足の羽月との争いになり、三塁は二遊間も守れるレイノルズが控え、べテランの田中広輔JR東日本~13年③)や昨年ファームで10本塁打の林晃汰(智弁和歌山高~18年③)がレギュラー復帰を狙っている。遊撃は小園で決まりだが、オープン戦では二俣翔一(磐田東高~20年育①)も守っており、元々捕手でそのセンスの高さには驚くしかない。 

●主力が抜け厳しいシーズンが予想されるが、2年目の新井監督の采配に期待

 今季も小園や菊地、野間と出塁率の高い上位打線に、秋山と坂倉に続く中軸は繋がりが良く、課題はポイントゲッターの確立にある。

 現状、支配下は68名と12球団で最も多く、補強は終了したと言える。可能性があるのはトレードと育成からの支配下登録しかなが、トレードね狙いたいのは先発投手と4番候補で、課題はどこのチームも同じで成立は難しい。

 育成選手では昨季ファームで好投した藤井黎来(大曲工高~17年育②)や新屋颯(田辺高~21年育①)がいるが、先発となると復活を期す岡田明丈(大商大~15年①)やルーキーの杉田健(日大国際関係学部~23年育①)のほうが可能性はある。

 昨年は大方の予想を覆す2位だったが、今季は西川が抜け、新外国人や若手の突き上げも現状では十分とは言えず苦戦が予想される。昨年のような全員野球で優勝を狙えるチームの土台づくりをしたいところで、若手の覚醒に期待したい。