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どのチームが「人」を育て強くなるのか

20年ドラフト予想☆広島~意外に補強ポイントが多く、ドラフト巧者の真価が問われる

●打高投低でチームは低迷…あの暗黒時代の再来は避けたい…

 セ・リーグはシーズン前、どこのチームにも優勝の可能性(失礼ながらヤクルトは除いて…)がある混戦が予想されたが、多くの予想に反して巨人が独走状態に入った。その要因の一つが広島の低迷と言える。上位チームにいずれも負け越しし、昨年も苦手だった阪神とDeNaにはともに借金5と課題が克服されていない。

 最大の低迷の要因は、崩壊している投手陣である。チーム防御率は1点以上も悪くなり、遂にリーグ最下位まで落ちてしまった。先発・リリーフともに総崩れ状態で、そのなかでDJジョンソンを楽天に放出したのも理解に苦しむ。

 打線は悪くなく、チーム打率はリーグ2位で改善しているが、得点には結びついていない。そのためか打ち勝つチームのイメージもなく、今の広島は一言で言うと特徴のないチームになってしまっている。

 

【9/22現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】

 勝敗 79試合 30勝3741敗8分⑤

 防御率…4.56⑥(3.46②)打率….267②(.254③)

 本塁打…80④(140④)盗塁34④(81③)

 得点346④(591④)失点389⑤(601④)得失点差▲43(▲10)

 

 エース大瀬良大地(九共大~13年①)が故障で離脱し、今シーズンは絶望。Wエースのジョンソンは10試合に登板して防御率6点台で勝ち星なし…。現在は野村祐輔(明大~11年①)と九里亜蓮(亜大~13年②)、ルーキーの森下暢仁(明大~19年①)がローテーションを支えている。森下は防御率2.39で6勝を上げ、もし森下を獲得できていなかったらと考えると背筋が凍る思いだ。

 先発陣よりも厳しいのがリリーフ陣で、新守護神を期待されたスコットは早々と見切られ、代わりに指名された菊池保則(常磐大高~07年楽高④)も上手くいかず、現在はフランスアに落ち着いた。広島の挙げたセーブ数はフランスアが9セーブ、菊池保と一岡竜司沖データPC教育学院~11年巨③)と合わせてわずかに11セーブで、勝ちパターンが確立できていない。

 中継ぎは塹江敦哉(高松北高~14年③)がチーム最多、リーグ3番目の33試合に登板し、菊池保と薮田和樹(亜大~14年②)、島内颯太郎(九共大~18年②)が中心だが、勝ちパターンがとは言い難い。

 野手は好調で、3割打者の西川龍馬(王子~15年⑤)の離脱は痛いが、鈴木誠也二松学舎大高~12年②)に堂林翔太中京大中京高~09年②)、松山竜平九州国際大~07年大社④)、菊池涼介中京学院大~11年②)、ピレラ、田中広輔JR東日本~13年③)の6名が規定打席を超え、捕手を除くレギュラーが固定できている。

 ただ、上記のメンバー以外に若手の台頭が乏しく、坂倉将吾(日大三高~16年④)が曾澤翼(水戸短大高~06年高③)を唯一脅かしているが、他には見当たらないのが現状で、期待の小園海斗(報徳学園高~18年①)も打撃でプロの壁にぶつかっている。

 広島が3連覇しているとき、極端な育成路線になったのが気になった。16年~18年の3年間のドラフトで指名した19名中、高校生13名、大学生6名で社会人はゼロだ…。確かに鈴木を日本の4番に育て、菊池のような無名の大学生を見出したのは凄いと思うが、「策士、策に溺れる」ではないが過信は禁物だ。

【広島の補強ポイント】

 投 手…即戦力のクローザーと中継、将来のエース候補(左腕ならベスト)

 捕 手…不要だが、高校生を抑えておきたい

 内野手…ポスト菊池涼、田中広の即戦力野手(右打ちの大卒がベスト)

 外野手…ポスト鈴木の高校生スラッガー 

 

●基本は投手だが、野手ではパワーヒッターが欲しい

☆投手~即戦力のクローザーと中継、将来のエース候補(左腕ならベスト)

 ケガで今シーズンは絶望的だが、絶対的なエースの大瀬良がいる。ただ、大瀬良と九里が来年30歳を迎え、先発の柱になる後継の育成が必要だ。候補の一番手でルーキーの森下、次に21歳の遠藤淳志(霞ケ浦高~17年⑤)。同じ25歳の中村祐太(関東一高~13年⑤)と左腕の床田寛樹(中部学院大~16年③)が控えるが、次に続く投手が見当たらず、将来のエース候補を抑えておきたい。

 リリーフ陣は深刻で、ここは即戦力を獲得して層を厚くしたい。ただ、かつての勝利の方程式を担った中崎翔太日南学園高~10年⑥)も28歳、今村猛清峰高~09年①)と一岡も29歳と、老け込む歳ではなく復活を期待したい。若手では島内と塹江が今シーズン経験を積み、ファームで田中法彦(菰野高~18年⑤)が2年目ながら最多の10セーブを上げ、楽しみな若手もいる。

 崩壊状態の投手陣の立て直しの優先順位は、まずはリリーフ陣の底上げで、次に将来のエース候補を抑えておきたい。一方でさすがに年齢構成で穴はなく、補強ポイントを明確にして獲得できるのは強みだと思う。

 リリーフ陣の上位候補では、伊藤大海(苫小牧駒大)は最速153キロのストレートので大学日本代表でクローザーを務めた。このほかに155キロのストレートが武器のスリークオーター森博人(日体大、多彩な変化球で緩急自在の宇田川優希(仙台大)が候補になる。中位では打田雷樹(大商大)や、評価急上昇中の左腕の岡田和馬(JR西日本をリストアップしている。

 ただ、リストアップしている選手を見てみると、どうやら先発候補が本命のようで、高校生では高橋宏斗(中京大中京高)山下舜平大(福岡大大濠高)小林樹斗(智弁和歌山高)、大学生で早川隆久(早大大道温貴(八戸学院大、社会人では、栗林良史(トヨタ自動車大江克哉(NTT西日本)が上位候補だ。また、入江大生(明大)赤上優人(東北公益文化大)の素質型大学生もリストアップしている。

 中位では高校生主体になることが予想され、上位候補にも挙がっている川瀬堅斗(大分商高常田唯斗(飯山高)、左腕の下慎之介(健大高崎高)は早い段階で消える選手で、下位では佐伯成優(高岡一高)小牟田竜宝(青森山田高)黒田晃大(佐和高)をリストアップしている。

 

☆捕手~不要だが、高校生を抑えておきたい

 捕手は急ぐ必要がなく、正捕手で32歳の曾澤がおり、弱冠21歳の坂倉が虎視眈々とレギュラーを狙っている。3番手で経験豊富な磯村恭孝(中京大中京高~10年⑤)に、15年のドラフト1位の中村奨成(広陵高~17年①)もおり補強の必要はない。

 年齢的に大学生は不要で、二俣翔一(磐田東高)山下航汰(京都外大西高の高校生捕手がねらい目だ。ただ、豊富な捕手陣をトレード要員にするなら話も変わり、打力は発展途上だが、守備力抜群の強肩・榮枝裕貴(立命館大は広島が好みそうな選手だ。

 

内野手~ポスト菊池涼、田中広の即戦力野手(右打ちの大卒がベスト)

 内野のレギュラーは、一塁が35歳の松山、二塁が30歳の菊池涼、三塁が復活を果たした29歳の堂林、遊撃が31歳の田中広と脂の乗った選手が控え壁は厚い。ただ、昨年不振だった田中広は、今年も打率.239で規定打席29名中27位、堂林も当初はそれ程期待されたものではなく、悪く言えばレギュラーを脅かす若手が育っていない。

 ファームではともに2年目の20歳の小園や林晃太(智弁和歌山高~18年③)が中心を担っているが、レギュラーには程遠い。ただ、韋駄天の羽月隆太郎(神村学園高~18年⑦)など19~20歳には選手が揃っているので、即戦力の野手が必要だ。さらに欲を言えば、右打ちが少なく大卒または社会人の補強がベストだ。

 補強ポイントに合っているのが牧秀悟(中大)で、3年春には首位打者打点王の二冠を獲得し、守備位置も二塁と遊撃で守備力も安定している。渡部健人(桐蔭横浜大は115kgの大型三塁手で長打力に加え足も速い。平山快(JFE東日本)は一塁と三塁を守れる長距離砲で、今年は右打ちの即戦力野手が少ないため、確実に獲得したいところだ。

 あとは左打ちだが、佐藤輝明(近大)は三塁を守れ、クリーアップを打てる逸材だ。ただ、佐藤は1位以外では獲れず、守備力に定評のある元山飛優(東北福祉大、俊足で広角に打てる矢野雅哉(亜大)が候補になる。

 高校生では高校通算47本塁打井上朋也(花咲徳栄高)右打ちのスラッガー、身体能力が高く三拍子揃った中山礼都(中京大中京高)を高く評価し、度会隆輝(横浜高)奥村真大(龍谷大平安高)もリストアップしている。

 

☆外野手~将来のクリーンアップ候補 

 外野手には不動の4番・鈴木誠と巧打者の西川がおり、ともに26歳とこれからさらに脂が乗る年齢で、現段階では急ぐ必要はない。ここは将来の主軸候補を狙いたい。

 ここでも候補になるのが近大の佐藤で、力強いスイングと飛距離が魅力の将来の4番候補。高校生では西川僚祐(東海大相模高)牛島希(九州学院高)元謙太(中京高)はじっくり腰を据えて育てたいスラッガー候補だ。

 

●1位予想に迷うほど、意外に戦力が揃っていない…ドラフト巧者の真価は?

 今年の広島の指名は難しく、こう考えると思ったほど戦力が充実していない。シンプルに即戦力でいくなら投手なら早川隆久(早大、中日の上位指名が濃厚な栗林良史(トヨタ自動車日本ハムと相思相愛の伊藤大海(苫小牧駒大)への入札もあるかもしれない。野手ではやはり佐藤輝明(近大)で、内外野どちらでも補強ポイントに合っていて競合覚悟でも行く価値はある。

 個人的には、かつてに広島のお家芸だった社会人投手一本釣りで、栗林指名が現有戦力アップに直結すると思う。育成路線なら、高橋宏斗(中京大中京高)や成長著しい山下舜平大(福岡大大濠高)や候補になると思う。

 1位~栗林良史(トヨタ自動車・投手)…大学時代から投手に転向し、即戦力ながらまだ伸びしろも期待できる。150キロを超えるストレートと2種類のスライダーに変化球の精度も良く、強気な投球が身上で総合力が高い。日に日に評価が高まっている。

 2位~入江大生(明大・投手)…大学でのデビューが遅く、じっくり育った素材型。長身から投げ下ろすストレートは伸びがあり、変化球のレベルも高い。ゲームメークに長け先発でも良いが、リリーフなら即戦力で1年目から結果を残せる。

 3位~中山礼都(中京大中京高・内野手…山下同様に、合同練習会でさらに評価を不動のものにした。50メートル5秒9の俊足で強肩の遊撃手で実戦向きの選手。

 4位~常田唯斗(飯山高・投手)…昨夏甲子園で大舞台は既に経験。140キロ後半のストレート、キレ味抜群のスライダーが武器で、多くのチームがリストアップしている。

 5位~打田雷樹(大院大・投手)…2年春から主戦を務め、どのボールでもストライクを取れ、内角攻めが持ち味。進路はプロ一本と言い切る性格もプロ向き。

 6位~小牟田竜宝(青森山田高・投手)…故障が癒え、今春から投球を再開すると大きなフォームから150キロのストレートをバンバン投げるパワーピッチャー。

 7位~黒田晃大(佐和高・投手…夏の大会で自己最速を3キロも更新する145キロのストレートを投げるほど成長著しい。緩急を交えた投球で変化球の精度も高い。

 このほかに下位または育成候補でも高校生が主体で、投手であれば佐伯成優(高岡一高)辻垣高良(学法福島高)、野手としても評価の高い山本雄大霞ケ浦高)が候補になり、地元選手では左腕の高井駿丞(広島商高)や左のスラッガー間瀬場秋(高陽東高)、同じスラッガー牛島希(九州学院高)が候補になる。