リーグ3連覇を果たし、46年振りの4連覇を狙ったシーズン。大黒柱のエース山本由伸(ドジャース)を欠いたチームの穴は想像以上に大きかった。Bクラス転落の最大の要因は打線の不振で、山本不在の投手陣の不安を補うために、広島からFAで西川龍馬(王子~15年広⑤)を獲得するなど打線強化を図ったが、チーム打率に得点数、本塁打数はリーグ5位と攻撃陣の不振がそのまま順位に直結した。また、失策数もリーグ最多と、中嶋監督は連覇でチームに隙や緩みが生まれたと続投要請を固辞して退団した。
【過去5年のチーム成績】
20年 6位 45勝68敗 7分 .247 90本 95個 442点 3.97 502点
21年 1位 70勝55敗 18分 .247 133本 50個 551点 3.31 500点
22年 1位 76勝65敗 2分 .246 89本 62個 490点 2.84 458点
23年 1位 86勝53敗 4分 .250 109本 52個 508点 2.73 428点
24年 5位 63勝77敗 3分 .238 71本 61個 402点 2.82 448点
オリックスのここ最近の特徴は、上位は高校生・大学生の育成が主体、下位は社会人で補強目的の形になっている。実際に投手では宮城に山下、曽谷、野手でも紅林は主力として活躍し、斎藤響や来田といった期待の若手も頭角を表している。一方、下位では阿部や小木田、高島、古田島と言った経験豊富な投手が、社会人出身らしくフォア・ザ・チームで腕を振りチームを支えている。
また、育成選手の活躍も特筆できる。日本代表も務めた宇田川に続き、佐藤や才木と言った投手が昨年経験を積み、野手では大里が課題のリードオフマン候補に成長するなど、毎年のように支配下を輩出し、明確なドラフト戦略がチームの土台を築いている。
【過去5年のドラフトの主戦力】
19年~宮城大弥(投手~興南高①)紅林弘太郎(内野手~駿河総合高②)
佐藤一磨(投手~横浜隼人高/育①)
20年~山下舜平大(投手~福岡大大濠高①)来田涼斗(外野手~明石商高③)
阿部翔太(投手~日本生命⑥)宇田川優希(投手~仙台大/育③)
21年~椋木 蓮(投手~東北福祉大①)野口智哉(内野手~関大②)
福永 奨(捕手~国学院大③)渡部遼人(外野手~慶大④)
池田陵真(外野手~大阪桐蔭高⑤)小木田敦也(投手~TDK⑦)
22年~曽谷龍平(投手~白鷗大①)内藤 鵬(内野手~日本航空石川高②)
斎藤響介(投手~盛岡中央高③)杉澤 龍(外野手~東北福祉大④)
才木海翔(投手~大経大/育②)茶野篤政(外野手~四国IL徳島/育④)
23年~横山聖哉(内野手~上田西高①)高島泰都(投手~王子⑤)
●投手力は万全も野手の補強には課題が残る。機動力と長打力不足をどう補うか
昨年は比嘉に安達、T-岡田などのチームの顔とも言えるベテランが相次ぎ引退を決め、チームが世代交代を迎えたことを印象付けた。
課題はやはり打線強化で、ドラフトでは西川史礁(ロッテ)を外したものの走攻守三拍子揃った麦谷を獲得し、4位の山中も捕手登録ながら一塁と外野手を守れ、セールスポイントの打撃力を活かすことができる。
一方で心配なのは昨年チーム最多の15本塁打のセデーニョの退団で、新外国人のディアスは長打力が期待できるが、もう一人のアルバレスは中距離タイプで、麦谷も山中もホームランバッターではないだけに、長打力不足を補えるかには不安が残る。
投手陣は広島からFAを行使した九里の獲得に成功し、現役ドラフトでも本田圭が加入し、ともに経験豊富な選手だけに、昨年活躍した吉田輝星(金足農高~18年①)を欠くことになった不安を十分に埋めることができる。また、今年も下位で東山と片山の社会人投手が加入しており、昨年リーグ2位の防御率の投手陣はさらに強化された。
ただ、今季は新戦力というよりは、世代交代が進むチームのなかで、投手では5年目の山下に3年目の椋木、野手なら7年目の大田椋(天理高~18年①)や5年目の来田が投打の主力として活躍することが上位浮上のカギとなる。
【IN】
投手…寺西成騎(日体大~24年②)山口廉王(仙台育英高~24年③)
東山玲士(ENEOS~24年⑤)片山楽生(NTT東日本~24年⑥)
九里亜蓮(亜大~13年広②)本田圭佑(東北学院大~15年西⑥)
野手…麦谷祐介(冨士大~24年①)山中綾真(三菱重工イースト~24年④)
ディアス(アスレチックス)オリバレス(メッツ)
【OUT】
投手…比嘉幹基(引退)カスティーヨ(退団)
野手…山足達也(移籍→広島)セデーニョ(移籍→西武)
安達了一/小田裕也/T-岡田(引退)ゴンザレス/トーマス(退団)
●盤石のリリーフ陣は今年も健在!先発も九里の加入で層が厚くなった
チーム自慢の盤石な投手陣は今年も健在で、昨季23セーブのマチャドがクローザーを務め、ペルドモも残留。ベテランの阿部に山田修義(敦賀気比高~09年③)、昨年加入の鈴木博志(ヤマハ~17年①)に井口和朋(東農大オホーツク~15年日③)に加え、今季は山岡泰輔(東京ガス~16年①)がリリーフ1本で勝負し、先発転向も検討されていた古田島は今季もリリーフに専念する。
連覇を支えた平野佳寿(京産大~05年希)や山崎颯一郎(敦賀気比高~16年⑥)の出遅れや、吉田の故障離脱など懸念されたが、質量ともに豊富で大きな心配はなく、連覇の際に圧倒的な強さを見せたロースコアのゲームで逃げ切ることが出来る。
昨年、規定投球回数をクリアした選手はいなかったが、今季は宮城と山下を左右の2本柱に、昨季シーズンを完走した田嶋大樹(JR東日本~17年①)に曽谷、エスピノーザ、新加入の九里は8年連続110イニングを投げる鉄腕で、リリーフ陣同様に層は厚い。特に期待がかかるのは山下で、昨年は肉体改造がハマらず不本意な成績に終わったが、今季はシーズン通して相手を圧倒する投球に期待したい。
このほか、右ひじの手術から復活を目指す東晃平(神戸弘陵高~17年育②)、椋木もトミージョン手術からの本格復帰を目指すシーズンになる。さらに伸び盛りの21歳の斎藤と24歳の佐藤、昨季は先発・リリーフで活躍した高島もローテーションの座を狙っている。このほか山下と同学年の寺西、社会人時代は救援だった東山のルーキーコンビも先発候補で控え、投手陣に大きな心配はない。
【24年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…宮城大弥(141回2/3)エスピノーザ(133回2/3)曽谷龍平(119回)
田嶋大樹(117回1/3)カスティーヨ(94回1/3)山下舜平大(64回)
・救援…マチャド(53試合)古田島成龍(50試合)山田修義(50試合)
吉田輝星(50試合)鈴木博志(32試合)井口和朋(32試合)
【今シーズンの予想】※は新加入
・先発…エスピノーザ 山下舜平大 曽谷龍平 宮城大弥 ※九里亜蓮 田嶋大樹
(東 晃平 ※寺西成騎 椋木 蓮 斎藤響介 佐藤一磨 高島泰都)
・中継…古田島成龍 山田修義 井口和朋 ペルドモ ※本田圭佑 鈴木博志
(宇田川優希 山岡泰輔 阿部翔太 山崎颯一郎 本田仁海 才木海翔)
・抑え…マチャド(平野佳寿)
●主力が復調すれば得点力は上がるが、打率に本塁打、盗塁、失策の攻守に課題が多い
課題の打線は森友哉(大阪桐蔭高~13年西①)や頓宮裕真(亜大~18年②)、杉本裕太郎(JR西日本~15年⑩)等の実績も備える選手の復調、移籍1年目はリーグの壁に苦んだ西川にも期待したい。また、宗佑磨(横浜隼人高~14年②)に中川圭太(東洋大~18年⑦)も29歳と老け込む年ではなく、主力が期待通りの成績を残すことができれば得点力も上がってくる。
ポジション別に見ると、捕手は今季も森と若月健矢(花咲徳栄高~13年③)の併用になり、ともに捕手登録の頓宮やルーキーの山中は一塁手での出番が増えそうで、新加入のディアスとポジションを争う。内野のレギュラーは遊撃の紅林になるが、その紅林も昨季は打率,247、本塁打は僅かに2本では決して安泰とは言えず、俊足の大里や2年目の横山にもチャンスは十分にある。二塁は大田がレギュラー定着を狙うシーズンになり、三塁は宗と西野真弘(JR東日本~14年⑦)の実績十分の選手が競い、内野のユーティリティ大城滉二(立大~15年③)や廣岡大志(智弁学園高~15年ヤ②)も控える。
外野は順当に行けば、左翼・西川、中堅・中川、右翼・杉本は決まりで、新加入の麦谷にアルバレス、背番号を変えて復活を目指す福田周平(NTT東日本~17年③)、若手では来田や渡部、池田が主力を脅かすことができれば確実に戦力の底上げが進む。
一方で打線で見ると、一・二番打者の確立が課題になる。昨季は一番打者が12名、二番打者は14名が務め確立することが出来なかった。一番は機動力を活かすなら福田と大里になるが、ともに出塁率が高くなく、全体的に主力に中距離打者が多いなか、麦谷や渡部など機動力を使える選手の台頭があればより機能すると思う。
【24年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入
捕 手…☆森 友哉(117/457)若月健矢(96/299)
内野手…☆紅林弘太郎(136/523)太田 椋(91/399)宗 佑磨(97/322)
セデーニョ(98/314)西野真弘(89/312)頓宮裕真(81/290)
大里昂生(51/176)廣岡大志(61/119)
外野手…☆西川龍馬(138/553)福田周平(69/261)杉本裕太郎(82/239)
中川圭太(60/233)来田涼斗(54/189)
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…若月健矢 森 友哉 頓宮裕真 ※山中綾真(福永 奨 石川 亮)
内野手…西野真弘 宗 佑磨 大城滉二 紅林弘太郎 太田 椋 ※ディアス
中川圭太 大里昂生
(野口智哉 横山聖哉 廣岡大志)
外野手…渡部遼人 西川龍馬 ※アルバレス 杉本裕太郎
(※麦谷祐介 杉澤 龍 来田涼斗 池田陵真 茶野篤政 福田周平)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)中川圭太⑧ 捕 手)森 友哉(若月健矢)
2)太田 椋④ 一塁手)頓宮裕真
3)西川龍馬⑦ 二塁手)太田 椋(大城滉二)
4)森 友哉② 三塁手)西野真弘(宗 佑磨)
5)ディアスDH 遊撃手)紅林弘太郎(大里昂生)
6)頓宮裕真③ 左翼手)西川龍馬
7)杉本裕太郎⑨ 中堅手)中川圭太
9)紅林弘太郎⑥ D H)ディアス
●投手力は盤石も課題は打撃…昨年、緩んだチームを新監督が締めることができるか
昨年は山本の移籍から始まり、エース宮城の離脱、主軸の森や頓宮の不振など、不振と故障離脱が相次ぎ、チームとしては最悪の状況だと言えた。ただ、一方で中嶋前監督の総括にあったように、チームの課題は明確で、昨季コーチとして支えた岸田護新監督が、どのようにチームを再建するかがポイントになる。
投手陣は万全だが、課題はやはり打線になる。先述したようにチーム打率に得点圏打率、出塁率、本塁打、得点数はいずれもリーグ5位で、盗塁数に至ってはリーグ最小でどれか一つではなくすべてに課題がある。また、失策数もリーグワーストで、攻撃型・守備型どちらのオーダーをメインにするのかも注目したい。
リーグ3連覇の際の主力が多く残り、九里など計算できる新戦力も加わり、地力プラス経験値も高いチームだが、上位進出には投打に“たら、れば”の条件が多すぎる。また、若手の台頭も決して順調とは言えず、ソフトバンクや日本ハム、ロッテの上位チームを追い抜くには不安要素が大きく、現実的にはBクラス、翌年以降に向け優勝を狙える戦力の整備に充てるシーズンになる。