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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆オリックス~昨季優勝したが、チームは発展途上!常勝チームの土台をつくるシーズン

 優勝から遠ざかること25年、6年連続Bクラス、2年連続最下位のチームが四半世紀振りに優勝を果たした。一昨年までは、言い方は悪いが「投」なら山本、「打」なら吉田正尚青学大~15年①)しか目立たないチームだった。

 しかし昨年は、大きくメンバーが変わらないなか、「個」の野球から「全員」野球で優勝まで駆け上がった。開幕スタメンで佐野晧大(大分高~14年③)と太田椋(天理高~18年①)、紅林の若手を抜擢。更に頓宮裕真(亜大~18年②)に開幕マスクを託し、杉本裕太郎(JR西日本~15年⑩)を起用した。そのなかで杉本と紅林がレギュラーに定着し、杉本は一気に本塁打王まで獲得し期待に応えた。

 一方で単純に若手を起用するのではなく、結果が出なければ容赦なく入れ替え、チームに競争意識を植え付けると、福田が外野にコンバートしレギュラーに返り咲き、伏見寅威(東海大~12年③)も捕手で出番を増やした。

 ただ、最初から好調だった訳ではない。開幕当初の5月終了時点では借金4と手探り状態のなか、徐々に主力が固定されてくると、交流戦優勝を皮切りに11連勝もあり前半戦は首位でターンした。

 優勝候補のソフトバンクや、ライバルチームのロッテが自滅気味で後退したこともあるが、同一カード3連敗が一度もなく、最高でも4連敗が一度あるだけで安定感が抜群だった。その安定感を支えたのが盤石の投手陣で、エースの山本は投手5冠に輝き、2年目20歳の宮城が13勝を上げた。 

 最後はロッテとのデッドヒートを制し優勝。日本シリーズではヤクルトとの歴史的大接戦の末、惜しくも敗れたが、発展途上のチームだけに大きな糧になるいことは間違いないだろう。

 【過去5年のチーム成績】

    順位    勝敗       打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 16年 1位 70勝55敗 18分 .247  133本   50個  551点  3.31  500点

 20年 6位 45勝68敗   7分 .247    90本   95個  442点  3.97  502点

 19年 6位 59勝82敗   2分 .242  102本 122個  544点  4.05  637点

 18年 4位 75勝66敗   2分 .244  108本   97個  538点  3.69  565点

 17年 4位 45勝96敗   2分 .251  127本   33個  539点  3.83  598点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~なし

 19年~宮城大弥(投手~興南高①)紅林弘太郎(内野手駿河総合高②)

 18年~中川圭太(内野手東洋大⑦)

 17年~田嶋大樹(投手~JR東日本①)福田周平(内野手~NTT東日本③)

 16年~山岡泰輔(投手・東京ガス①)山本由伸(投手~都城高④) 

 過去5年のドラフトは実績ナンバーワンではないだろうか。16年に山岡と山本を獲得しただけでも凄いのに、17年の田嶋、19年の宮城とドラフト1位の投手が揃って主力選手になっている。ちなみに山岡は単独指名、田嶋は競合、宮城は外れ1位で「クジ運」の良さも際立っている。

 高校生選手の成長も特筆できる。以前のオリックスは即戦力偏重のドラフトだったが、ここ5年は山本と宮城、紅林のほかにも太田や来田涼斗(明石商高~20年③)、宜保翔(未来沖縄高~18年⑤)などブレイク候補の選手が控えている。また、早いうちから可能性のある選手は順位に関係なく一軍で起用しているのも特徴だ。

●投手陣~山本を中心に盤石の先発陣に、リリーフの層も厚く連敗は考えにくい

  昨年は先発陣が盤石だった。そのなかでも山本は別次元で、15連勝を含む18勝を上げて最多勝と最高勝率、防御率1.39で最高防御率、206奪三振は2年連続で最多奪三振、6完投(うち4完封)で沢村賞と投手の先発タイトルを総ナメにした。

 宮城も13勝に防御率2.51で新人王を獲得し、田嶋と山崎福はそれぞれ8勝を上げ、田嶋は規定投球回数をクリアしている。山岡が2年続けて故障離脱したが、増井浩俊東芝~09年日⑤)や竹安大知(熊本ゴールデンラークス~15年③)がローテーションの谷間を埋め、後半戦は山﨑颯一郎(敦賀気比高~16年⑥)が先発ローテーションに加わり、日本シリーズも経験できたのは収穫になった。

 リリーフ陣はディクソンがコロナ禍で来日できないまま退団し、クローザー不在でシーズンを迎えた。ただ、ヒギンスがセットアッパーに固定されると、ベテランの平野佳寿京産大~05年希)が交流戦から復帰後クローザーを務め、円熟味のある投球で29セーブを上げた。

 8~9回が固定されると、富山凌雅(トヨタ自動車~18年④)がチーム最多の51試合に登板し、防御率2点台で20ホールドを上げれば、後半戦からは吉田凌(東海大相模高~15年⑤)も勝ちパターンに加わった。リリーフ陣は3連投なしを徹底し、ベテランの比嘉幹貴日立製作所~09年②)や能見篤史大阪ガス~04年神自由)、山田修義(敦賀気比高~09年③)が要所を締め、リリーフに本格転向したK-鈴木(日立製作所~17年②)も好投し、リリーフ陣の層も厚くなった。 

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆山本由伸(193回2/3)☆田嶋大樹(143回1/3)☆宮城大弥(147回)

       山崎福也(116回1/3)増井浩俊(71回)山岡泰輔(69回1/3)

 ・救援…富山凌雅(51試合)ヒギンス(49試合)平野佳寿(46試合)

       山田修義(43試合)Kー鈴木(34試合)漆原大晟(34試合)

       比嘉幹貴(32試合)

【今年度の予想】

 ・先発…山﨑福也 宮城大弥 山本由伸 山岡泰輔 田嶋大樹 山﨑颯一郎

       増井浩俊 竹安大知 張 奕

 ・中継…富山凌雅 K-鈴木 比嘉幹貴 山田修義 バルガス 吉田 凌

       ※椋木 蓮 村西良太 能見篤史 海田智行 斎藤鋼記 澤田圭

       ※横山 楓 ※ワゲスパック 漆原大晟 ※ビドル 

 ・抑え…平野佳寿

 先発陣は12球団ナンバーワンと言っても良い。山本と宮城、田嶋、山崎福は決まりで、この4本柱ならば大きな連敗は考えにくい。今季も山本を攻略するのは難しそうで、絶対的エースがいるのは最大の強みになる。

 5~6番手は山崎颯と山岡が有力で、右と左が3枚ずつとバランスも良い。ただ、山岡は2年続けてシーズン途中に離脱しており、昨年は復帰後もチーム状況からリリーフに回っている。先発での完全復活が一番だが、ヒギンスが退団しており、状況によっては山岡のリリーフ起用もあるかもしれない。

 そうなると先発の枚数が不足気味になり、増井や竹安がいるが、そのあとに続く選手が見当たらない。張奕(日本経済大~16年育①)や本田仁海(星槎湘南高~17年④)の若手が少ないチャンスを活かしたい。

 リリーフ陣はヒギンスの退団で、改めて勝ちパターンを確立しなければならないが、層は厚く心配はない。平野にK-鈴木、漆原大晟(新潟医療福祉大~18年育①)が8~9回を争う形になり、新加入のワゲスパック、ルーキーの椋木蓮東北福祉大~21年①)もリリーフの適性が高く、色々なパターンを試しながら確立できれば問題ない。

 6~7回は富山と吉田凌、バルガスを軸にベテランの比嘉や能見がワンポイント、変則右腕の村西良太(近大~19年③)や山田はロングリリーフもできる。また、新戦力左腕のビドル、最速153キロのルーキー横山楓(セガサミー~21年⑥)、昨年ファームで41試合に登板した下手投げの中川颯(立大~20年④)も控えており、様々な場面に対応できるタレントが揃っている。

 とにかく投手陣は伸びしろ十分で、25歳以下で線を引いても、先発で山本と山崎颯、宮城、リリーフで富山と吉田凌、村西がおり、まだまだ成長過程の主力選手が充実しているのは大きな強みだ。

●野手陣~今季も1~4番までは不動!課題は5番以降の下位打線と打線の底上げ

 一昨年、得点数がリーグ最下位で、ここ数年は吉田正さえマークすれば何とかなる打線だったが、昨季はチーム打率と本塁打がリーグ1位と大きく改善を見せた。その吉田正は2年連続首位打者出塁率は4割を超え最高出塁率のタイトルも獲得し、得点圏打率も4割を超える。三振が少なく、豪快且つ緻密な打撃はパ・リーグで最も打ち取りにくい打者になった。

 打線が変わったのは、やはり中嶋監督の起用と采配によるところが大きく、その幾つかを紹介したい。

<福田と宗のコンバート>

 紅林の抜擢もあり、内野で出場機会が減少した福田を二塁から中堅へ、一方で強肩の宗を外野からレギュラー不在の三塁へコンバートした。この2人の1~2番コンビがハマり、福田は打率こそ.275ながら、出塁率吉田正と杉本に次いで高くリードオフマンの役割を果たし、宗は勝負所の大事な場面で勝負強さを発揮した。

<4番・杉本の覚醒>

 杉本の抜擢は当初驚きの目で見られ、これまでは当たれば飛ぶ打者で、分かりやすく言えば三振かホームランの打者だったが、打率3割、32本塁打本塁打王を獲得しブレイクした。物事に“たられば”は禁物だが、あのまま西村監督が指揮を執っていれば、杉本のブレイクはあっただろうか…。

<紅林は起用しながら育成>

 下位打線ながら宮城と同期、2年目20歳の紅林を遊撃手で起用し、打率.228、本塁打10本は十分な成績とは言えないが、経験と年齢を考えてもこれからの選手で、1年間完走したことは大きな自信になった。

<捕手・伏見の起用>

 どちらというと捕手よりも野手として計算されていた選手で、持ち前の打撃の良さで代打の切り札的存在だった。その伏見を捕手として起用し、緩急を活かす巧みなリードで宮城と山崎福とコンビを組んだ。結果、自己最多の91試合に出場し、今季は正捕手争いの中心選手に成長した。

<チームを献身的に支える脇役の存在>

 内野の山足達也(ホンダ鈴鹿~17年⑧)と外野の小田裕也(日本生命~14年⑧)は代走・守備要員で脇役に徹し、小田は101試合に出場しているが、打席は僅かに18打席で1安打。その小田は、ロッテとのCS第3戦で奇襲のヒットエンドランを決めるのだから、いかに中嶋監督がこういった選手も戦力として大事にしているのが分かる。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…伏見寅威(91/262)若月健矢(68/140)頓宮裕真(46/125)

 内野手…☆宗 佑磨(139/543)☆紅林弘太郎(136/473)☆福田周平(107/471)

     安達了一(100/382)モヤ(106/375)中川圭太(61/169)

     太田 椋(53/159)

 外野手…☆杉本裕太郎(134/542)☆吉田正尚(110/455)T-岡田(115/407)

     ジョーンズ(72/180)小田裕也(101/18)   

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)佐野晧大⑧      1)福田周平⑧      

  2)太田 椋④      2)宗 佑磨⑤       

  3)吉田正尚⑦           3)吉田正尚⑦    

  4)モヤ③        4)杉本裕太郎⑨      

  5)ジョーンズDH    5)T-岡田③      

  6)杉本裕太郎     6)安達了一④      

  7)頓宮裕真②      7)モヤDH      

  8)宗 佑磨⑤      8)伏見寅威②

  9)紅林弘太郎⑥     9)紅林弘太郎⑥  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…若月健矢 伏見寅威 頓宮裕真(福永 奨)

 内野手…安達了一 ※バレラ 宗 佑磨 紅林弘太郎 太田 椋 山足達也 

       ラベロ

    (西野真弘 ※野口智哉 大城滉二 大下誠一郎 宜保 翔 中川圭太)

 外野手…※渡部遼人 福田周平 吉田正尚 小田裕也 T-岡田 杉本裕太郎

    (後藤駿太 西村 凌 来田涼斗 ※池田陵真 佐野皓大)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)福田周平⑧      捕 手)伏見寅威(若月健矢) 

  2)宗 佑磨⑤      一塁手)T-岡田(中川圭太)

  3)吉田正尚⑦      二塁手)太田 椋(安達了一)

  4)杉本裕太郎⑨     三塁手)宗 佑磨(バレラ)

  5)ラベロDH         遊撃手)紅林弘太郎(野口智哉)

  6)T-岡田③      左翼手吉田正尚

  7)紅林弘太郎⑥     中堅手)福田周平(渡部遼人)

  8)伏見寅威②      右翼手)杉本裕太郎

  9)太田 椋④      D H)ラベロ

 昨季優勝したが、チームの力はいまがピークではなく、まだ伸びしろがある。今季も1番から4番までの上位打線は決まりで、福田と宗も3割を打てる力は十分にあり、今季この2人がさらに個人成績を伸ばせば厄介な1・2番になる。吉田正は3年連続の首位打者に加え、今季は三冠王を狙い、杉本は昨季のブレイクがフロックではないことを証明するシーズンになる。

 課題は5番以降で、ポジションで言えば捕手と三塁を除く内野の争いになる。5番を期待されているのが指名打者候補のラベロで、昨季7月に入団も骨折で一軍に合流したのは本当の終盤で、CSや日本シリーズでは不発に終わった。ただ、3Aでは4割を超える出塁率の実力者で、長打をガンガン打つタイプではないが、日本野球にフィットしそうな中距離打者だ。

 捕手は伏見と若月健矢(花咲徳栄高~13年③)の併用になりそうで、今季も固定するよりは投手との相性を見ての起用になりそうだ。打力の良い頓宮は守備力が課題、ルーキー福永奨(国学院大~21年③)は強肩強打でリードに定評がある。

 一塁はベテランのT-岡田(履正社高~05年①)を軸に勝負強い中川圭太(東洋大~18年⑦)や元気印の大下誠一郎が(白鷗大~19年育⑥)候補になり、遊撃は紅林に宜保やルーキーの野口智哉(関大~21年②)が挑む。し烈なのは二塁で、実績なら安達了一(東芝~11年①)で間違いないが、難病でフルシーズン出場が難しく、紅林に先を越された太田の争いは今季注目ポイントになる。

 このほか、新外国人選手のバレラは二塁と三塁、外野も守れるスイッチヒッターで三振の少ない中距離打者。また、レギュラーは固まっているが、外野もルーキーの渡部遼人(慶大~21年④)は俊足巧打の外野手で守備範囲も広く、代走や守備固めからチャンスを掴み、リードオフマン争いに加わりたい。同じルーキーの池田陵真(大阪桐蔭高~21年⑤)もオープン戦で結果を残し、ポスト吉田正ともいわれる2年目の来田涼斗(明石商高~20年③)は得意の打撃を活かし出番を増やしたい。

 外国人選手含め、やや長打力の欠ける打線だが、機動力を活かした繋ぐ打線で今季はさらに高みを目指す。

伸びしろのあるチームに優勝の経験が加われば黄金期到来も見えてくる 

 期待の選手には昨季ブレイクした2人を上げたい。ともに連覇を狙ううえでキーマンになる。投手は新人王を獲得した宮城で、ルーキーイヤーにプロ初勝利を上げ、昨年は20歳とは思えない落ち着いた投球で13勝を上げた。ただ、後半戦は勝ち星を伸ばせず、シーズン通した活躍が課題になる。

 野手は杉本で、長打力が乏しいチームだけに、昨年のような成績を残せるかはチームのカギを握る。いきなり活躍した翌年、不振に陥る選手はは数多くおり、杉本の覚醒が本物か真価を問われるシーズンになる。

 優勝したがチームはまだ発展途上で、昨年はライバルチームの不振など、“運”に助けられた面もあった。課題は打線とリリーフ陣で、ここが固まれば連覇も十分あり、Aクラスは確保できる。一方で、まだ投打の柱のである山本と吉田正への依存度は高く、昨季活躍した選手たちがさらに成長することで、常勝チームも見えてくる。