昨年はチーム初の3連覇を目指すも、リーグ最多敗で最下位を免れるのがやっとで、今季も混戦セ・リーグのなか優勝争いに絡むことすらできなかった。21~22年の連覇が嘘のようにチームは低迷気味で、暗黒期に突入する雰囲気すらある。
最大の要因は投手陣で、連覇の際も決して盤石とは言えなかったが、先発投手をローテーションで回し、質量とみに充実していた強力な救援陣と村上宗隆(九州学院高~17年①)を中心にした破壊力抜群の打線で勝ち抜いてきた。
ただ、今季は先発ローテーションを組むのも四苦八苦で、救援陣もリーグ唯一の防御率3点台と精彩を欠いた。打線もサンタナや長岡の活躍はあるものの、村上が本調子と言えず、不安定な投手陣をカバーすることができなかった。また、投打ともにヤ戦病院と揶揄されるほどケガ人が相次ぎ、選手層の薄さが露呈した。
【9/14現在のチーム成績…54勝70敗4分/6位】
24年/6位 23年/5位 22年/1位
防御率(失点数)…3.69⑥(501⑥) 3.66⑥(567⑥) 3.52④(565⑥)
打 率(得点数)….240⑤(447②) .239⑤(534②) .250③(619①)
守備率(失策数)….987④( 61④) .987③( 70③) .987③( 69③)
本塁打数/盗塁数… 89②/58① 123②/62① 174①/69②
投手陣の数字を見ると先発の防御率が12球団ワーストで、4点台はヤクルトしかいない。エースの小川泰弘(創価大~12年②)の離脱は痛いが、今季も規定投球回数をクリアしている投手はおらず、チームの最多投球回数が新外国人のヤフーレ、チーム最多勝は2年目の吉村の7勝が現状の厳しさを物語っている。
リリーフはクローザーが不在で、田口麗斗(広島新庄高~13年巨③)の7セーブを最高に、木澤と石山泰稚(ヤマハ~12年①)、先発からリリーフに回った小澤怜史(日大三島高~15年ソ②)が務め、大西や山本大貴(三菱自動車岡崎~17年ロ③)でやり繰りしているが、救援防御率もリーグワーストで全体的な底上げが必要だ。
【投手 ※は規定投球回数 ○の数字は順位】
☆先発…ヤフーレ(119回1/3)吉村貢司郎(118回2/3)サイスニード(114回1/3)
高橋奎二(103回2/3)
☆ リリーフ…大西広樹(53試合)木澤尚文(51試合)山本大貴(41試合)
石山泰稚(37試合)星 知弥・田口麗斗(36試合)小澤怜史(33試合)
リーグ髄一の得点能力を誇った打線も下降気味だ。長岡の成長は好材料だが、村上とサンタナ、オスナ頼みは変わっておらず、塩見泰隆(JX-ENEOS~17年④)が不在の外野手はレギュラー不在で、長岡と村上を除けば主力は30歳代で世代交代が進んでいない。
ケガ人の多さも悩みで、山田哲人(履正社高~10年①)が離脱を繰り返し、塩見はシーズン絶望のケガで序盤に戦列を離れた。捕手は一時期人数が足らず、高卒ルーキーの鈴木叶(常葉菊川高~23年④)が先発マスクを被り、慌てて橋本星哉(中央学院大~22年育①)を支配下登録し、独立リーグから中川拓真(豊橋中央高~20年オ⑤)を獲得するなど迷走ぶりも目立った。
【野手 ※は規定打数 ○の数字は順位(試合数/打席数)】
☆内野手…※④長岡秀樹(128/540)※⑰オスナ(128/529)
※㉑村上宗隆(128/547)山田哲人(95/326)宮本 丈(53/154)
武岡龍世(71/142)
☆外野手…※①サンタナ(108/425)西川遥輝(100/314)丸山和郁(90/274)
岩田幸宏(67/119)青木宣親(61/115)塩見泰隆(31/113)
●上位指名投手の不振がチーム全体に波及し、投打に課題の多いドラフトになる
過去5年の1位指名を見ると、奥川恭伸(星稜高~19年①)から始まり、木澤~山下輝(法大~21年①)~吉村、そして昨年の西舘昂汰(専大~23年①)とドラフト1位ですべて投手を指名している。
さらに過去10年を見てみても、17年の村上を除きすべて1位は投手指名で、うち高校生は奥川と寺島成輝(退団)だけと超即戦力志向になっている。ちなみに2位指名も過去10年で投手は6名、うち高校生投手は一人もおらず、上位は即戦力で底上げを図っているが、残念ながら結果は出ていない。
そうなると野手は必然的に下位指名になり、長岡以外のレギュラー候補と呼べるのは丸山と内山壮真(星稜高~20年③)くらいで、結果この間のドラフトが上手く行っているとは言えない。
もう一つ気になるのが指名人数の少なさで、多ければ良い訳ではないが、過去5年で本指名27名はロッテの次に少なく、育成選手指名8名も阪神の7名に次いで少ない。この期間中の他球団の育成指名の投手では、大関友久(ソフトバンク)や宇田川優希(オリックス)、松山晋也(中日)、水上由伸(西武)がおり、獲得できるチャンスがあっただけにもう少し指名人数を増やし、選手層に厚みを持たせても良いと思う。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
19年⑥…大西広樹(大商大/④・投手)長岡秀樹(八千代松陰高/⑤・内野手)
20年⑥…木澤尚文(慶大/①・投手)
21年①…丸山和郁(明大/②・外野手)
22年①…吉村貢司郎(東芝/①・投手)
23年⑤…なし
↓↓
【ヤクルトの補強ポイント】
投 手…即戦力の先発とリリーフ、高校生(年齢構成)
捕 手…必要なし。強いて言えば即戦力捕手
外野手…高校生と大学生
昨年は上位3名が即戦力投手の指名になったが、西舘と石原勇輝(明大~23年③)は一軍未登板で、松本健吾(トヨタ自動車~23年②)も3試合の登板で1勝(1敗)に留まったのは想定外だったと思う。さすがにそろそろ育成路線に舵を取っても良いと思うが、奥川クラスの超高校級と呼べる投手がおらず、上位は即戦力指名にならざるを得ないだろう。
野手も課題が多く、サンタナとオスナの残留は朗報だが、村上は来季が3年契約の最終年で来年のオフにはMLB移籍の可能性もある。連覇を支えた中村悠平(福井商高~08年③)や山田、塩見も30歳中盤に差し掛かり、世代交代の遅れは否めない。また、投打に年齢構成が悪く、上位指名の不振がドラフトにも波及している。
☆投手~即戦力の先発とリリーフ、高校生(年齢構成)
先発は吉村と高橋奎二(龍谷大平安高~15年③)に、小川と奥川が揃えばある程度の計算はできる。特に高橋は来季10年目を迎え、チームの中心選手としての活躍を期待したい。ファームでは阪口晧亮(北海高~17年D③)と山野太一(東北福祉大~20年②)が好投しているが層の薄さは否めず、山下や西舘の巻き返しがないと来季も明るい材料は少ない。
リリーフは田口を中心に、同じ左腕の山本、27歳の大西、26歳の木澤と小澤、ファームでチーム最多セーブの丸山翔太(西日本工大~20年育④)がおり、清水昇(国学院大~18年①)が戻れば質量の厚さ+年齢ともに期待できる。
そうなると急ぐのは先発投手で、今ドラフトナンバーワン投手の金丸夢斗(関大)が最有力候補になる。将来性と年齢構成を優先すれば今朝丸裕喜(報徳学園高)や藤田琉生(東海大相模高)も1位候補だが、やはり金丸1位入札がベストだと思う。
金丸以外の即戦力では、中村優斗(愛知工大)と篠木健太郎(法大)がおり、先発タイプの篠木は補強ポイントに合致する。高校生では、清水大輝(前橋商高)や高尾響(広陵高)、田中綾真(旭川実高)が上位候補で名前が挙がり、奥川の指名以降、高校生投手の上位指名がなく、そろそろ獲得しても良いころだ。
このほか昆野太晴(白鷗大足利高)に小船翼(知徳高)、村上泰斗(神戸弘陵高)、川勝空人(生光学園高)、狩生聖真(佐伯鶴城高)は、中央では無名だが最速150キロを超える右の本格派で、右のスリークオーターの沼井怜穏(横浜隼人高)、総合力が高い上原堆我(花咲徳栄高)、左腕では洗平比呂(八戸学院光星高)の評価が高い。
大学生では柿本晟弥(東洋大)や寺西成騎(日体大)は、坂口翔楓(国学院大)は最速150キロを超え、坂口は制球力も高くリリーフもこなせる。ただ、即戦力が必要ならば早川太貴(くふうハヤテ)はファームで実績もあり期待できる。
☆捕手~必要なし。強いて言えば即戦力捕手
正捕手の中村が来季36歳になり、後継の育成が必要だが若手は揃ってきている。ファームでは24歳の橋本と19歳の鈴木がマスクを被り、21歳の中川、22歳の内山も控えており、敢えて指名の必要はない。
強いて言えば即戦力捕手の指名で、守備に長けている石伊雄太(日本生命)がいるが、打てる捕手の橋本に鈴木、内山を鍛えたほうが良く優先度は低い。
現在の布陣は一塁にオスナ、二塁に山田、三塁に村上、遊撃が長岡で、来季を見据えると優先順位は高くないが、山田がここ数年翳りを見せ、村上もMLB移籍の可能性がある。二塁は武岡龍世(八戸学院光星高~19年⑥)に小森航太郎(宇部工高~21年④)、三塁には北村拓己(亜大~17年巨④)と西村瑠伊斗(京都外大西高~22年②)がおり、北村拓を除けば全員が20歳代前半の楽しみな選手だ。ただ、山田や村上のようなスラッガーはおらず、将来の中軸候補を獲得したい。
1位候補で宗山塁(明大)に石塚裕惺(花咲徳栄高)の名前が挙がり、二塁・宗山と長岡の二遊間を見てみたいが、U-18の4番・石塚のほうが補強ポイントに合う。
このほか、高校通算64本の宇野真仁朗(早実高)、54本の片井海斗(二松学舎大高)、45本の森井翔太郎(桐朋高)、大学生は佐々木泰(青学大)も右打ちの三塁手で長打力もある中軸候で名前が挙がる。中軸タイプではないが、走攻守揃った遊撃手の斎藤大翔(金沢高)と坂口優志(樟南高)も評価が高い。
☆外野手~高校生と大学生
外野手は課題が多く、青木宣親(早大~03④)が引退を決め、塩見は潜在能力は高いがケガが多く、プロ7年で規定打席に達したのは連覇の21~22年だけで、計算が難しい。丸山や岩田幸宏(BC信濃~21年育①)も頑張ってはいるが、ともに打撃が課題で、濱田太貴(明豊高~18年④)の伸び悩みも頭の痛いところだ。また、年齢バランスが悪く、19~23歳が不在で、内山と西村が外野を守れるので、悲観することもないが、戦力的には補強が必要だ。
1位候補では西川史礁(青学大)か渡部聖弥(大商大)が挙がり、今季のドラフトでは数少ない即戦力候補で、外野の穴を埋めることができる。飯山志夢(立正大)は俊足巧打のリードオフマンで、同じタイプなら知念大成(オイシックス)はイースタンの首位打者で、増田将馬(くふうハヤテ)もウエスタンの盗塁王だ。高校生では、モイセエフ・ニキータ(豊川高)の評価が高く、低反発バットも苦にしない天性の長距離砲で補強ポイントに合致する。
●上位は即戦力、下位は将来性重視で高校生指名か?年齢構成の修正も投打に必要
投打に課題はあるが、タレントが揃えば地力のあるチームなので、上位で投手なら金丸夢斗(関大)、野手なら三塁も守れる渡部聖弥(大商大)の即戦力が獲得できれば、以降は将来性を重視した高校生中心の指名にシフトして良いと思う。
投手中心のドラフトになると思うが、野手は今年豊富な高校生の遊撃手を中心に将来の中軸候補に加え、即戦力の外野手は欲しい。また、昨オフのように西川や増田珠(横浜高~17年ソ③)等、戦力外選手の補強も結構だが、育成選手含めて、もう少し指名人数を増やしていかないと、チームの層は厚くならないと思う。
【指名シミュレーション】
(Aパターン) (Bパターン)
1位~金丸夢斗(関大・投手) 渡部聖弥(大商大・外野手)
2位~藤田琉生(東海大相模高・投手) 篠木健太郎(法大・投手)
4位~田中綾真(旭川実高・投手) 片井海斗(二松学舎大高・内野手)
5位~飯山志夢(明大・外野手) 知念大成(オイシックス・外野手)
6位~早川太貴(くふうハヤテ・投手) 上原堆我(花咲徳栄高・投手)
おススメの選手は高尾響(広陵高・投手)で、上背のなさが指摘されているが、新旧エースの小川と石川雅規(青学大~01年自)は、高尾と同じ170センチ前後の投手で、高尾にはこれとないお手本がおり、チームにフィットすると思う。