今年は「豊作」と呼ばれたドラフトだったが、それを証明するかのように、1位競合による抽選が過去最多の7回を数えた。例え抽選で外しても、1位候補の選手が多く、各球団が積極的に欲しい選手を指名した。「豊作」と言われた今年が、本当に「豊作」になるか、今後の活躍に期待は膨らむ一方だ。
支配下選手の指名は、昨年より3名増の72名。内訳は高校生24名(▲1名)、大学生28名(+1名)、社会人・独立リーグ20名(+3名)で、2年連続で大学生が高校生を上回った。育成は▲7名減の50名で、指名総数は122名(▲3名)になった。最多指名は楽天の8名(反面、育成はゼロ)で、最少は日本ハムとヤクルト、巨人、広島、ロッテの5名で、ロッテは5年連続で最少の指名になった
【23年ドラフトの概要】
1)過去最多の1位指名7回の抽選
①度会隆輝/ENEOS・外野手(中日、DeNA、ロッテ)
②西舘勇飛/中大・投手(日本ハム、巨人)
⑤草加 勝/亜大・投手(中日、ロッテ)
⑥前田悠伍/大阪桐蔭高・投手(日本ハム、楽天、ソフトバンク)
2)独立リーグから史上最多の23名が指名され、ロッテ2位の大谷輝龍(日本海L
富山・投手)と阪神2位の椎葉剛(四国IL徳島・投手)は、又吉克樹(中日→
ソフトバンク)以来、過去最上位で指名
3)明大が同一チーム史上最高を更新する14年連続の指名。ちなみに来年も宗山塁
(内野手)がすでに1位候補と言われ記録更新が続きそうだ。また、徳島インディ
ゴソックスも11年連続の指名を受けている
●全般的に上位チームの評価が高く、下位チームは今ひとつのドラフト
今年のドラフトを振り返り、大成功は西武と広島、オリックスで会心のドラフトになったと思う。一方で大失敗と呼べるチームも無く、各球団とも自軍の戦略に沿ったドラフトが出来た。
1位指名は順当だったが、意外だったのが今ドラフトの主役と評された細野晴希(東洋大)が、外れ外れ1位指名でも呼ばれなかったことで、指名順位で言えば11番目になり、直前で即戦力というよりは素質型と評価されたのだろう。
また、昨年のドラフト終了時には、豊作の大学生投手プラス、佐々木麟太郎(花巻東高)に真鍋慧(広陵高)、佐倉侠史朗(九州国際大高)の高校生スラッガーが注目の的だったが、佐々木は米国留学を決め、真鍋は指名漏れ、佐倉は育成指名と寂しい結果になった。事前に4位以下なら進学と表明した真鍋と、育成でもプロへと言っていた佐倉も明暗が別れた。
個人予想では、指名予想の100名中67名が指名を受け、昨年より▲8名で難しかったです。
【12球団ドラフトの評価】
◎…西武、広島、オリックス
△…ヤクルト、DeNA、ロッテ
✕…中日、日本ハム、巨人
✕✕…楽天
✕中日(55点)
1位で度会を指名し、今年も野手中心の指名になることが予想されたなか、1位を投手にして、2~3位で即戦力の遊撃手2名を指名した。競争させる意図だとは思うが、こうなると昨年の内野手4名を指名したのは何だったのか思う。また、長打力不足のチームのなか、俊足巧打の似たような選手ばかり集めてもチーム強化には繋がらない。
投手は主力が高齢化するなか、1位の草加はゲームメークに長け、スタミナも豊富で完投能力が高く、先発ローテーションを期待できる。ただ、土生と加藤は素材型のリリーバーで、2年連続最下位のチームにしては投打に中途半端なドラフトになった。
②津田啓史(三菱重工ウエスト・内野手)⑤土生翔太(BC茨城・投手)
③辻本倫太郎(仙台大・内野手) ⑥加藤竜馬(東邦ガス・投手)※育成4名
✕日本ハム(55点)
指名選手は悪くない。1位の細野は時間はかかるかもしれないが、リーグを代表する投手になれ、強肩の進藤とともに将来日本代表も狙える。3位の宮崎は俊足で新庄監督好みの外野手で、4位の明瀬と5位の星野は将来の中軸を担えるスラッガーだ。
ただ、来季は上沢と加藤に移籍の可能性があり、即戦力投手と課題の二遊間補強が急務だったが、いずれも十分な補強とは言えなかった。投手は現有戦力で賄えると判断したのだろうが、捕手に余裕があるので2位で即戦力投手を獲得しても良かった。また、2年連続で道内選手の指名がなく、残念を通り越し、球団の姿勢に疑問すら感じる。
①細野晴希(東洋大・投手) ④明瀬諒介(鹿児島城西高・内野手)
②進藤勇也(上武大・捕手) ⑤星野ひので(前橋工高・外野手)※育成3名
③宮崎一樹(山梨学院大・外野手)
△ヤクルト(65点)
課題は明白で投手力強化。特に先発陣の補強が急務のなか、1位で武内を指名し、抽選で外したあとは、長身でクレバーな投球が身上の右腕・西舘を単独指名した。2位の松本も直球と変化球の質が高く、どちらかは先発ローテーションに食い込みたい。3位指名の石原は制球力の高い左腕で、補強ポイントを押さえた指名になった。
捕手の支配下選手が少ないなか4位で鈴木を指名し、5位の伊藤は堅守と俊足の遊撃手で不足の箇所を埋めた。ただ、年齢構成に偏りのある外野手や将来のエース候補の高校生、ポスト村上の中軸候補の指名がなく、5位指名で終えたのは勿体なかった。
②松本健吾(トヨタ自動車・投手) ⑤伊藤瑠偉(BC新潟・内野手)※育成2名
③石原勇輝(明大・投手)
◎西武(90点)
即戦力左腕の武内の1位指名を公表し、最多3球団競合するなか見事に武内を射止めた。2位の上田も先発もリリーフもこなせる即戦力右腕で、左右の即戦力投手を1~2位で獲得できた時点で成功と言え、3位の杉山指名まで満点ドラフトだった。
北大に在学しながら独立リーグでプレーした5位の宮沢は隠し玉、唯一の野手指名になった村田は未完のロマン砲で、西武が育成に長けているタイプと言える。投高打低のなか投手の人数が少ないため投手主体の指名になり、4位の成田指名で高校生も左右一人ずつ、7位で社会人の糸川を指名し年齢バランスの取れた会心のドラフトになった。
①武内夏暉(国学院大・投手) ⑤宮沢大成(四国IL徳島・投手)
②上田大河(大商大・投手) ⑥村田怜音(皇學館大・内野手)
③杉山遥希(横浜高・投手) ⑦糸川亮太(ENEOS・投手)※育成6名
✕巨人(55点)
1位で西舘を抽選で獲得し、その後どんなドラフトになるか期待したが、2位以降は社会人のオンパレードで賛否を呼んだドラフトになった。私は“否”のほうで、3年連続のV逸、2年連続のBクラスで目先の結果が気になるのか、今季の船迫の成功に味をしめたのかは分からないが、中・長期的視点に欠けたドラフトになった。
投手力強化で即戦力を獲得したい気持ちは理解するが、高校生が育成2名ではチーム力は上がらない。佐々木は走攻守揃った外野手だが、昨年1位の浅野、2位の萩尾の指名は何だったのか?堅守の遊撃手・泉口も門脇が台頭しているなか期待値が掴めない。
①西舘勇飛(中大・投手) ④泉口友汰(NTT西日本・内野手)
②森田駿哉(ホンダ鈴鹿・投手) ⑤又木鉄平(日本生命・投手)※育成7名
③佐々木俊輔(日立製作所・外野手)
✕✕楽天(50点)
1位指名を2度外すも、徹頭徹尾で投手を指名し、即戦力左腕の古謝を指名した。投手力が課題で指名が多くなることは問題なく、2位の坂井と3位の日當は良い指名だと思うが、昨年は大学生と社会人投手5名指名で高校生はゼロ、今年は一転して高校生投手3名と、年齢構成を気にしないのか楽天のドラフトはとにかく偏る。
また、高校生選手の育成が決して得意ではないチームにおいて、4位以降の高校生は超がつく素材型。5位・松田の指名は良かったが、中島は俊足巧打の左打外野手で、外野に同じタイプの選手が多いなか意図が掴めない。また、育成ゼロも残念だった。
①古謝 樹(桐蔭横浜大・投手) ⑥中島大輔(青学大・外野手)
②坂井陽翔(滝川二高・投手) ⑦大内誠弥(日本ウェルネス宮城高・投手)
③日當直喜(東海大菅生高・投手) ⑧青野拓海(氷見高・内野手)
④ワォータース璃海ジュミル(日本ウェルネス沖縄高・内野手)
⑤松田琢磨(大産大・投手)
△DeNA(65点)
今永や石田健、バウアーの去就が微妙で、即戦力投手の1位指名が予想されたなか、度会の1位指名は驚いた。一方で外野手の若手選手(19歳~23歳)がゼロで、主力野手が硬直化しているなか度会の指名は両方の課題を埋め、さらに度会とはタイプの違う長距離打者の井上の指名は競争相手として申し分ない。また、堅守で俊足の石上も遊撃手のレギュラーが決まらず、機動力不足のチームの課題を埋めて良い指名になった。
ただ、課題の投手指名が万全とは言えず、松本はリリーフ、武田は投手より野手のほうが評価が高く、結果、先発候補が石田のみでは不安が残る。
①度会隆輝(ENEOS・外野手) ④石上泰輝(東洋大・内野手)
②松本凌人(名城大・投手) ⑤石田裕太郎(中大・投手)
③武田陸玖(山形中央高・投手) ⑥井上絢登(四国IL徳島・外野手)
※育成5名
〇ソフトバンク(80点)
この間、隠し玉や無名の選手指名でアッと言わせていたが、反面、過信とも思えるドラフトで成果も今一つ挙がらなかった。そんななか今季は、オリックス3連覇の現実に危機感を持ったのか、王道のドラフトで臨み、さすがと呼べる指名になった。
1位でエース候補の前田、2位の岩井は奪三振率の高い先発候補で、下位指名ながら村田は制球力に長け、大山は総合力の高さで先発ローテーションを狙え、経験豊富な沢柳はチームの状況に合わせた起用法ができる。廣瀬は遊撃以外守れる右打ちのスラッガーで、先発投手の補強、主力野手の世代交代の課題を埋めた会心のドラフトになった。
①前田悠伍(大阪桐蔭高・投手) ⑤沢柳亮太郎(ロキテクノ富山・投手)
②岩井俊介(名城大・投手) ⑥大山 凌(東日本国際大・投手)
③廣瀬隆太(慶大・内野手) ⑦藤田悠太郎(福岡大大濠高・捕手)
④村田賢一(明大・投手) ※育成8名
◎広島(90点)
12球団最速で1位指名選手を公表し、想いが叶い見事に常廣を獲得した。常廣と2位の左腕・高は先発・リリーフともに適性があり、5位の赤塚はリリーフタイプで、投手の層が薄く、登板過多になっていた投手陣に的確な補強になった。
また、3位の滝田は素材型の左腕で、大化けする可能性があり、4位の仲田は一塁専任だが、将来の中軸候補で即戦力✕将来性を抑えた成功ドラフトになった。ただ、やや点数を低くしたのは、高校生投手の指名が育成選手1名のみでは寂しく、6位で高校生投手を指名しても良く、二遊間を守れる社会人野手も欲を言えば欲しかった。
①常廣羽也斗(青学大・投手) ④仲田侑仁(沖縄尚学高・内野手)
②高 太一(大商大・投手) ⑤赤塚健利(中京学院大・投手)※育成3名
③滝田一希(星槎道都大・投手)
△ロッテ(70点)
即戦力野手の度会から即戦力投手、素材型投手を指名するも3回抽選を外し、最後に即戦力野手に戻り上田を指名した。これだけ1位を外せば失敗ドラフトになるなか、絶妙な育成指名も含め見事リカバリーした。評価したのは、投打に選手層が薄く即戦力選手が欲しいなか、長期目標に沿って育成に大きく舵を取ったことだ。
上田はチャンスに強い中距離打者で出番は早そうで、2位の大谷は無名ながら、TV特番で古田敦也氏が絶賛していた速球派右腕で、ポスト益田を狙える。将来性十分の木村と早坂、寺地は捕手だが内野も守れる巧打者で、将来が楽しみなドラフトになった。
①上田希由翔(明大・内野手) ④早坂 響(幕張総合高・投手)
②大谷輝龍(日本海L富山・投手) ⑤寺地隆成(明徳義塾高・捕手)※育成5名
〇阪神(85点)
ドラフト前から岡田監督らしい駆け引きで、下村の単独指名に成功した。結果、大学・社会人の右投手4名と高校生遊撃手2名と、一見すると偏りがあるように見えるが指名の内容が良い。下村は身体は大きくないが、制球力に長けた先発候補で、椎葉は最速159キロのクローザー候補。投球術に長けた石黒と緩急を使い分ける津田と、同じ150キロを超える右腕だが、それぞれタイプも適性も異なり起用法の幅が拡がった。
野手も山田は堅守とキャプテンシーがあり、百崎はパンチ力のある将来のリードオフマン候補で、次期遊撃候補の競争を促す指名になり、ここ数年の巧者振りを発揮した。
①下村海翔(青学大・投手) ④百崎蒼生(東海大熊本星翔高・内野手)
②椎葉 剛(四国IL徳島・投手) ⑤石黒佑弥(JR西日本・投手)
③山田脩也(仙台育英高・内野手) ⑥津田淳哉(大経大・投手)※育成5名
◎オリックス(95点)
個人的には今年1番のドラフトだったと思う。上位4名を将来性で高校生、下位で不足箇所を埋める社会人を指名し、3連覇を達成した余裕すら感じるドラフトで、1位の横山指名も頷ける。2~3位で左右の先発候補を指名し、4位の堀はよくこの順位で獲れたと思う正捕手候補で、3~4年後は上位4人が主力になっているかもしれない。
即戦力投手は、高島はゲームメークに長けた先発候補で、山本や山崎福の移籍の可能性があるなか、5~6番手に入る力はある。古田島は先発・リリーフともにこなせ、権田はU-23の守護神で、各々が役割に沿って力を発揮できる満点ドラフトになった。
①横山聖哉(上田西高・内野手) ⑤高島泰都(王子・投手)
②河内康介(聖カタリナ高・投手) ⑥古田島成龍(日本通運・投手)
③東松快征(享栄高・投手) ⑦権田琉
④堀 柊那(報徳学園高・捕手)
最後に、個人的に注目している育成選手は、投手では広島3位の杉原望来(京都国際高・投手)も将来有望な左腕で、ソフトバンク6位の藤原大翔(飯塚高・投手)は高校から投手を始めた伸びしろがある。ロッテ2位の松石信八(藤蔭高・投手)は高校時はケガで満足なプレーができなかったが中学時代から注目されていた好投手。ロッテ1位の武内涼太(星稜高・投手)とオリックス1位の寿賀弘都(英明高・投手)打者としても評価が高い。
野手では、ヤクルト3位の高野颯太(三刀屋高・内野手)とDeNA3位の小笠原蒼(京都翔英高・内野手)は将来の中軸候補で、ロッテ3位の高野光海(日本海L・外野手)は昨年の指名漏れから1年でプロに届いたスラッガー。阪神2位の福島圭音(白鷗大・外野手)は超がつく俊足で脚だけで一軍を狙え、日本ハム2位の平田大樹(瀬田工高・外野手)は走攻守のバランスの取れた選手で、チーム好みの外野手だ。