まさに記録づくめの大失速になった。首位で9月に入ると残りのゲーム数やホームゲームの多さなど、データ的には有利と言われていたが、結果はセ・リーグタイ記録の月間20敗(5勝)で、14あった貯金をすべて吐き出すと4位に転落。首位で9月を迎えたチームが最終的にBクラスになったのは史上初で、66年振りの適地12連敗のおまけまでもついた。
大瀬良大地(九共大~13年①)に床田寛樹(中京学院大~16年③)、森下、九里亜蓮(亜大~13年②)の先発4本柱を擁し、このメンバーでそうそう連敗はないだろうと思っていた。ただ、疲労が蓄積した投手陣がチーム打率リーグ最下位、得点数リーグ5位の打線を遂にカバーできなくなり、終盤になってオフェンス面の弱さが勝敗を左右し、優勝どころかCSにすら進めなかった。
【10/5現在のチーム成績…67勝70敗5分/4位】
24年/4位 23年/2位 22年/5位
防御率(失点数)…2.63③(418②) 3.20④(508⑤) 3.54⑤(544④)
打 率(得点数)….238⑥(412⑤) .246④(493⑤) .257①(552②)
守備率(失策数)….988②( 66②) .985⑤( 82⑤) .986④( 73④)
本塁打数/盗塁数… 52⑥/64③ 96④/78② 91④/26⑥
チーム防御率はリーグ3位で、先発4本柱にアドゥワ誠(松山聖陵高~16年⑤)と玉村昇悟(丹生高~19年⑥)が加わり層は厚くなった。ただ、この6人で貯金はゼロで、防御率の高さとは裏腹に、打線の援護が乏しく勝ちには恵まれなかった。
リリーフは栗林がリーグ2位の38セーブを上げ、島内も今季56試合(昨年は62試合)の鉄腕ぶりで、実績のある2人がリリーフ陣を支えた。さらに昨年不振だった森浦と塹江敦哉(高松北高~14年③)が復活のシーズンになり、黒原拓未(関学大~21年①)もリリーフ転向がハマった。
【投手 ※は規定投球回数 ○の数字は順位】
☆先発…※④大瀬良大地(155回)※⑦床田寛樹(167回)※⑧森下暢仁(151回2/3)
九里亜蓮(131回2/3)アドゥワ誠(106回1/3)玉村昇悟(76回)
☆ リリーフ…栗林良史(60試合)島内颯太郎(58試合)
塹江敦哉・森浦大輔・黒原拓未(53試合)ハーン(34試合)
課題の打線は、22年に鈴木誠也(カブス)が移籍したのち下降線を辿り、西川龍馬(オリックス)のFA移籍が追い打ちをかけた。長打力を期待された新外国人のシャイナーとレイノルズは2人合わせて1本塁打6打点の不発に終わり、既に退団している。結果、4番で小園海斗(報徳学園高~18年①)を起用せざるを得ないような打線になり、本塁打は坂倉将吾(日大三高~16年④)の11本塁打が最高で、チーム本塁打はリーグ最小で長打力が不足している。
今季はチーム打率と本塁打、出塁率、長打率もリーグ最下位でそれ以上に驚いたのはリーグ2番目の盗塁成功率の低さで、盗塁企画数は110回と断トツ1位だが、成功は61(.555)の五分五分。元々走るチームと言ってしまえばそれまでだが、数字だけ見ると正直、無謀な攻めを繰り返しているイメージしかない。
【野手 ※は規定打数 ○の数字は順位(試合数/打席数)】
☆捕 手…※⑪坂倉将吾(121/462)曾澤 翼(56/159)石原貴規(55/136)
☆内野手…※⑫小園海斗(142/587)※㉓菊池涼介(135/497)
※⑲矢野雅哉(136/492)堂林翔太(86/272)上本崇司(62/146)
二俣翔一(79/119)田中広輔(66/108)
☆外野手…※⑤秋山翔吾(137/585)※⑯野間峻祥(112/442)末包昇大(78/300)
田村俊介(36/102)
●育成路線から大学・社会人の即戦力路線にシフトも結果は今ひとつ…
資金が限られている広島は、ドラフトを軸に育成でチーム強化を図る戦略で毎年注目しているが、残念ながらここ数年は結果が出ていない。16~18年の3連覇の際の高校生主体の超育成路線のドラフトは、過信とも言える指名で、あまり評価できなかった。それでも坂倉やアドゥワ、小園が主力に成長し、大学生では床田や島内、矢崎拓也(慶大~16年①)を獲得し結果は出ている。
一方、連覇が途絶えた19年からは即戦力指名にシフトし、森下や栗林の単独指名成功に味をしめたのか、20年からは大学生・社会人(独立リーグ含む)が高校生を上回り、遂に昨年は支配下指名5名中、高校生は1名しかいなかった。
ドラフトを最も巧く活用していたチームだけに、ここ数年の偏りや一貫性に欠けた方向性に戸惑いを覚える。森下に栗林以外に主戦で活躍しているのは、森浦と矢野、末包くらいで、22年~23年組は残念ながら結果が出ていない。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
19年④…森下暢仁(明大/①・投手)
20年⑤…栗林良史(トヨタ自動車/①・投手)森浦大輔(天理大/②・投手)
矢野雅哉(亜大/⑥・内野手)
21年④…末包昇大(大阪ガス/⑥・外野手)
22年⑤…なし
23年②…なし
↓↓
【広島の補強ポイント】
投 手…年齢バランスで高校生と大学生(特に左腕)
捕 手…必要なし(坂倉野手起用なら別)
内野手…高校・大学生の左打ち、右打ちの大卒社会人
外野手…高校・大学生(内野手含め中軸候補)
昨年Aクラス、今季も優勝争いをしていたチームの割には、補強ポイントが意外に多い。とにかく打線の強化が必須課題で、長打を打てる中軸候補が最優先ポイントなる。
年齢構成も良くない。内野手は22歳以下の左打ちが不在で、右打ちは23~32歳まで不在と極端だ。外野手も23歳以下は田村俊介(愛工大名電高~21年④)1名しかおらず、そもそも若手が不足している。
投手も現状は万全だが、大瀬良と九里は来季35歳になり、世代交代の波が近づいている。投手も年齢構成が悪く、22歳以下は3名しかおらず、うち1名は西川の人的補償で獲得した日高暖己(富島高~22年オ⑤)で、この間の大学生・社会人への傾倒が年齢構成も顕われている。
☆投手~年齢バランスで高校生と大学生(特に左腕)
来季も先発は大瀬良に九里、床田、森下の4本柱に、アドゥワ、遠藤淳志(霞ケ浦高~17年⑤)、常廣羽也斗(青学大~23年①)が控え、左腕も玉村に森翔平(三菱重工ウエスト~21年②)がおり即戦力に拘る必要はない。
一方、リリーフは心配で、今季も少数精鋭で臨んだシーズンになり、栗林や島内、森浦、塹江の登板過多が心配だ。若手の突き上げも不足しているなか、将来性重視の指名で良いと思うが、リリーフは即戦力が欲しい。
1位候補で挙がるのが金丸夢斗(関大)と今朝丸裕喜(報徳学園高)で、左腕の金丸は補強ポイントにはピッタリだ。世代ナンバーワンと評される今朝丸は将来のエース候補で、同じ上位候補の村上泰斗(神戸弘陵高)は、最速153キロの本格派で奪三振率が高く、柴田獅子(福岡大大濠高)は投打二刀流で評価されている。
このほか高校生では、いずれも最速150キロを超える本格派右腕の坂井遼(関東一高)と清水大暉(前橋商高)は甲子園でも注目を浴びた。甲子園は未出場だが昆野太晴(白鷗大足利高)に川勝空人(生光学園高)、狩生聖真(佐伯鶴城高)も成長著しく、山口廉王(仙台育英高)も今春150キロを超えた。
小川哲平(作新学院高)と茨木佑太(帝京長岡高)、岩瀬将(誉高)総合力が高く、岩瀬は変化球の制球力が評価されている。津嘉山憲志郎(神戸国際大高)と高尾響(広陵高)、吉岡暖(阿南光高)はゲームメークに長け、吉岡は完投能力も高い。
大学生・社会人では寺西成騎(日体大)と岩崎峻典(東洋大)、坂口翔楓(国学院大)、鷲尾昂哉(三菱重工ウエスト)が上位候補に挙がる。それぞれ真っ直ぐが150キロを超える本格派右腕だが、寺西と鷲尾は真っ直ぐとキレのあるフォークで奪三振率が高く、鷲尾は即戦力のリリーフ候補。岩崎は球威で押す投球が身上で、坂口は制球力が高く、変化球を織り交ぜ打ちとるタイプでリリーフもこなす。
左腕の候補が少ないなか、徳山一翔(環太平洋大)と荘司宏太(セガサミー)は最速150キロを超え奪三振率も高くリリーフもこなせる。沢山優介(ヤマハ)は186センチの長身左腕で、高卒3年目で伸びしろもある。
☆捕手~必要なし(坂倉野手起用なら別)
正捕手は打てる捕手の坂倉が務め、石原貴規(天理大~19年⑤)とベテランの曾澤翼(水戸短大高~06年③)が控えている。曾澤が来季38歳と出番が限られてくるが、ともに26歳の坂倉と石原は安泰で補強を急ぐ必要はない。
ただ打線が課題なだけに、坂倉を一昨年のように野手で活用するなら補強が必要だ。ファームでは持丸泰輝(旭川大高~19年育①)に高木翔斗(県岐阜商高~21年⑦)、清水叶人(健大高崎高~22年④)が控えるが、高木と清水は打率1割台で厳しい。
候補は多くなく、強肩強打の箱山遥人(健大高崎高)がリストアップされているが、若手捕手の育成、場合によっては中村奨成(広陵高~17年①)の再コンバートも想定すれば優先順位は低い。
☆内野手~高校・大学生の左打ち、右打ちの大卒社会人
内野は二塁・菊地、三塁・小園、遊撃には矢野がおり、菊地と矢野の二遊間は鉄壁と言える。一塁はレギュラーが不在だが、来季は坂倉や外国人選手が入れば課題は解消される。ただ、坂倉以外の中軸候補と来季で35歳を迎える菊地の後継が必要で、二俣翔一(磐田東高~20年育①)や佐藤啓介(静岡大~23年育②)に次ぐ候補が欲しい。
中軸候補では石塚裕惺(花咲徳栄高)と宇野真仁朗(早実高)は世代を代表するスラッガーで、片井海斗(二松学舎大高)もパワーでは負けていない。1年からレギュラーを務める佐々木泰(青学大)も大学を代表する長距離砲で、いずれも右打ちのスラッガーで補強ポイントに合う。
ポスト菊地の候補は多くないが、今季は幸運にも左打ちの遊撃手候補が多い。地元出身の宗山塁(明大)は巧打好守の逸材で、二塁・矢野、遊撃・宗山の布陣も組めることもできる。
斎藤大翔(金沢高)と今坂幸輝(大院大高)も補強ポイントに合い、斎藤は守備力が高く、今坂は打力が評価されている。ポスト菊地でハマるのが、山縣秀(早大)で、菊地と同じ右打ちで二塁の守備力に長けている。
☆外野手~高校・大学生(内野手含め中軸候補)
外野手は秋山と野間がレギュラーだが、秋山は来季38歳を迎え、末包や田村の台頭が必要になる一方で補強も必要だ。また、外野手はリードオフマンタイプが多く、中軸候補に絞って良いと思う。
上位候補は西川史礁(青学大)と渡部聖弥(大商大)で、ともに一年目からレギュラー候補になれる力はある。竹内翔汰(立命館大)も広角に長打を打てるスラッガーで、こちらは下位でも獲得できるチャンスが高い。高校生では、モイセエフ・ニキータ(豊川高)と正林輝大(神村学園高)が候補で、ともに長打力が魅力の左のスラッガーだ。
●今年も得意の1本釣りは封印し、10年振りの大卒野手1位指名があるか
今年は最後まで1位候補は熟考すると思う。即戦力左腕の金丸夢斗(関大)は、先発の層を厚くし、22歳以下の左腕ゼロの状況も改善できる。宗山塁(明大)はポスト菊地の候補としてではなく、攻撃力の改善に繋がり、地元出身のスター選手候補だけにスルーする訳にはいかない。中軸候補の西川史礁(青学大)は、長打力不足を解消し、1年目から外野のレギュラーを掴む可能性が高い。
いずれにせよ、この貧打線で規定打席は6選手がクリアしており、レギュラーと控えの差は歴然で、野手の底上げは必須課題と言え、競合覚悟で臨むしかない。
【指名シミュレーション】
(Aパターン) (Bパターン)
2位~斎藤大翔(金沢高・内野手) 柴田獅子(福岡大大濠高・投手)
3位~吉岡 暖(阿南光高・投手) 寺西成騎(日体大・投手)
4位~岩崎峻典(東洋大・投手) 正林輝大(神村学園高・外野手)
5位~荘司宏太(セガサミー・投手) 徳山一翔(環太平洋大・投手)
6位~山縣 秀(早大・内野手) 竹内翔汰(立命館大・外野手)
おススメは、宗山と行きたいところだが、地元中国地区の徳山一翔(環太平洋大)で、最速152キロの左腕で高い制球力に奪三振能力も高い。先述したように22歳以下の左腕ゼロの現状から抑えておきたい投手で、リリーフもこなせるのも強みだ。