昨年は序盤から投打のバランスが悪く、3~4月は借金5でスタートダッシュに失敗し、6月を終えた時点で借金12の最下位に沈んだ。しかし夏場から息を吹き返したように盛り返し、7月を15勝7敗で乗り切ると、シーズン最終戦までクライマックスシリーズの可能性を残した。ただ、最後の大一番でロッテに惜敗し、借金1の2年連続の4位でシーズンを終え、石井一久監督が辞意を表明した。
一昨年は後半に歴史的な大失速を喫し、昨年は前半不振と、通年でチームの好不調の波が小さければ結果も変わっており、地力はあるだけに歯痒いシーズンが続いている。
【過去5年のチーム成績】
23年 4位 70勝71敗 2分 .244 104本 102個 513点 3.52 556点
22年 4位 69勝71敗 3分 .243 101本 97個 533点 3.47 522点
21年 3位 66勝62敗15分 .243 108本 45個 532点 3.40 507点
20年 4位 55勝57敗 8分 .258 112本 67個 557点 4.19 522点
19年 3位 71勝68敗 4分 .251 141本 48個 614点 3.74 578点
リーグ屈指の打線は健在で、昨年もチーム打率こそリーグ3位も、四球数と出塁率はリーグ1位を誇る。ランナーに出れば、リーグ最多の犠打数と盗塁数で常に先の塁を狙い、長打と高い得点圏打率で得点能力はリーグ2位と高い。
ここ数年はFA選手の獲得もあり、レギュラー陣に変化はなかったが、昨年は8年目の村林一輝(大塚高~15年⑦)が、打撃が急成長し遊撃のレギュラーを掴み、5年目の小郷裕哉(立正大~18年⑦)も中軸を打つなど若手の成長を感じたシーズンになった。
一方で投手陣は厳しく、リーグ防御率と失点数はリーグワーストだった。先発は田中将大(駒大苫小牧高~06年①)に則本昂大(三重中京大~12年②)、岸孝之(東北学院大~06年西希)とビッグネームが並ぶが、貯金できたのは岸とルーキーの荘司のみで、先発が試合を作れなかった。
一方でリリーフ陣も松井裕樹(パドレス)が3度目のセーブ王に輝き、防御率1点台と盤石だったが、松井裕に繋ぐまでが苦労し、防御率5位と先発同様に精彩を欠いた。
【過去5年のドラフトの主戦力】
21年~なし
20年~早川隆久(投手~早大①)
18年~辰巳涼介(外野手~立命大①)太田 光(捕手~大商大②)
ドラフトの成否の前に、ここ数年の楽天のドラフトは良く理解できず、一言で言うとバランス感覚が欠如している。過去5年を振り返ってみても、18年は本指名8名中4名が大学生野手で、辰巳や大田、小郷と現在の主力に加え渡邊佳明(明大~18年⑥)もおり、左打ちの野手を一度に3名獲得している。
その後も21年は、右打ちの高校生外野手2名を上位で指名し、翌22年はオール大学生・社会人を6名指名し、そのうち5名が投手…。そして昨年はいきなり育成型に切り替えたのか、指名8名中高校生が5名となるなか、育成契約は12球団で唯一無しと毎年行きあったりばったりの印象を受ける。
また、高校生の育成が上手ではなく、既にNPBに編入して今年で20年目を迎えるが、高卒で主力と呼べるるのは田中将と松井裕、昨季引退した銀次しかいない。ようやく昨年、内と村林が台頭したが、それでも人数が少なすぎで、育成下手を自覚している訳ではないと思うが、FAに積極的な姿勢は理解できる。
良い点では1位指名の選手が主戦になっている。投手では早川と荘司は将来のエース候補、野手では辰巳と小深田は攻守でチームを引っ張っている。早川は4球団、辰巳は3球団、荘司は2球団競合の末に獲得するなどクジ運も良い。また、残念な事案で退団になったが安楽智大(済美高~14年①)もリリーフの中心で活躍した。
ただこの5年間、シーズン3~4位で落ち着いている閉塞感を打ち破るには、もっと若手選手の輩出を増やしたい。
●投手陣~リーグワーストの投手陣の改善が急務で、先発・リリーフとも再編を進める
昨年は先発がリーグワーストの防御率3.66と奮わず、頼みの田中将に則本、岸の三本柱にも翳りが見え始めてきた。期待の早川は左肘のクリーニング手術から復帰したものの、不安定な投球が続き6勝で終わり、辛島航(飯塚高~08年⑥)もケガで出遅れ、僅か1勝に終わるなど、計算できる投手の不振が誤算だった。
21年にリーグナンバーワンを誇ったリリーフ陣も年々成績を落とし、クローザーの松井裕まで繋ぐ形が確定できずに、昨年はリーグ5位の3.27まで後退した。
そんななか若手の台頭があったのは収穫で、特にルーキーの活躍が目立った。荘司は19試合で先発し5勝、渡辺翔も51試合に登板し、チーム最多の33HPを上げた。3年目の内も53試合登板防御率2点台、4勝11HPと一気にブレイクを果たした。
【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…☆則本昂大(155回)田中将大(139回1/3)岸 孝之(120回1/3)
荘司康誠(109回2/3)早川和久(96回2/3)
・救援…鈴木翔天(61試合)松井裕樹(59試合) 安楽智大(57試合)
内 星龍(53試合)渡辺翔太(51試合)宋家豪(49試合)
酒居知史(47試合)
【今年度の予想】
・先発…岸 孝之 ※ポンセ 田中将大 荘司康誠 早川和久 内 星龍
(※古謝 樹 松井友飛 藤平尚真 藤井 聖 瀧中瞭太 辛島 航)
・中継…※ターリー 酒居知史 渡辺翔太 伊藤茉央 宋家豪 鈴木翔天
(小孫竜二 弓削隼人 ※櫻井周斗 西垣雅矢 ※松田琢磨 宮森智志)
・抑え…則本昂大
今シーズンの投手陣は不安要素が大きい。絶対的守護神の松井裕がMLBに移籍し、今季は則本がクローザーに配置転換されるが、則本の抜けた先発の穴を埋めるのは容易ではなく、三本柱の田中将もオフに右肘のクリーニング手術を受け、岸も40歳を迎えかつてのような活躍を期待するのは酷だ。
早川と荘司が新たな軸になり、今季先発に転向する内やルーキーの古謝樹(桐蔭横浜大~23年①)などの新たな力に期待したい。また、藤平尚真(横浜高~16年①)や藤井聖(ENEOS~20年③)、松井友飛(金沢学院大~21年⑤)も候補で若手がこのチャンスを掴みたい。さらに復活を期す辛島や瀧中瞭太(ホンダ鈴鹿~19年⑥)、日本ハムから移籍のポンセなど経験のある選手も控え、先発ローテーションを勝ち取りたい。
リリーフは、松井裕の移籍に加え、57試合登板の安楽が退団、一昨年のセットアッパーの西口直人(甲賀健康医療専門学校~16年⑩)も今季はケガで育成からのスタートで不在で、リリーフ陣は大きな再編が迫られる。昨年チーム最多61試合登板の鈴木翔天(冨士大~18年⑧)に2年目の渡辺翔、ベテランの酒居知史(大阪ガス~16年ロ②)、宋家豪と広島から新加入にターリーがブルペンを支える。
ただ、枚数不足は否めず、昨年の内のような新戦力の台頭に期待したい。2年目の小孫竜二(鷺宮製作所~22年②)に伊藤茉央(東農大オホーツク~22年④)、現役ドラフトで加入した櫻井周斗(日大三高~17年D⑤)など候補は多く、昨年期待を裏切つた宮森智志(四国IL高知~21年育①)も今季こそは一軍を完走したい。
●野手陣~強力打線は顕在も、捕手不足や主力と控えの差の課題など不安要素も多い
リーグ屈指の攻撃陣は、出塁率が高く、長打力と機動力の加え小技も兼ね備え得点能力が高い。村林や小深田、辰巳がリードオフマンとして得点機を作り、本塁打王の浅村栄斗(大阪桐蔭高~08年西③)に、実績のある島内宏明(明大~11年⑥)と岡島豪郎(白鷗大~11年④)を加えたクリーンアップが機能した。
特筆できるのは盗塁数で、盗塁102はリーグで唯一100を超え、小深田は初の盗塁王を獲得し、辰巳に小郷、村林、山崎剛(国学院大~17年③)が2桁盗塁を記録するなど、どこからでも走れる選手が揃っている。守備は辰巳が3年連続でゴールデングラブ賞を獲得したが、一昨年12球団最小だった失策数が昨年は倍になった。複数ポジションを守る選手が多いことも要因と言えるが、守備面の綻びは不安を残した。
【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入
捕 手…太田 光(104/233)炭谷銀仁朗(65/145)安田悠馬(53/127)
内野手…☆浅村栄斗(143/601)☆小深田大翔(134/549)村林一輝(98/340)
フランコ(99/334)山崎 剛(117/307)鈴木大地(101/292)
阿部寿樹(78/253)伊藤裕季也(87/216)
外野手…☆辰巳涼介(133/495)小郷裕哉(120/441)岡島豪郎(114/410)
島内宏明(104/369)田中和基(95/41)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】
1)辰巳涼介⑧ 1)村林一輝⑥
2)小深田大翔⑦ 2)小深田大翔⑤
4)浅村栄斗④ 4)浅村栄斗④
6)阿部寿樹③ 6)辰巳涼介⑧
7)山崎 剛⑥ 7)小郷裕哉⑨
8)伊藤裕季也⑤ 8)鈴木大地③
9)安田悠馬② 9)太田 光②
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…太田 光 安田悠馬 堀内謙伍(田中貴也)
内野手…小深田大翔 浅村栄斗 阿部寿樹 鈴木大地 フランコ 山崎 剛
伊藤裕季也 村林一輝
(茂木栄五郎 平良竜哉 渡邊佳明 入江大樹 辰見鴻之介)
(※中島大輔 武藤敦貴)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)村林一輝⑥ 捕 手)太田 光(安田悠馬)
4)浅村栄斗⑤ 三塁手)浅村栄斗
5)岡島豪郎⑦ 遊撃手)村林一輝(山﨑 剛)
7)小郷裕哉⑨ 中堅手)辰巳涼介
9)太田 光② D H)島内宏明
今季も強力打線は健在で、小深田と辰巳、村林と山崎が出塁し機動力でかき回し、主砲の浅村と島内、岡島に昨年2桁本塁打&2桁盗塁の小郷のクリーンアップで還す形は出来ている。下位打線で2年目のフランコやベテランの阿部寿樹(ホンダ~15年中⑤)や鈴木大地(東洋大~11年ロ③)が控え、勝負強い阿部や鈴木大は重要な場面の代打としても起用でき、相手チームからは脅威になる。
ポジション別に見ると、内野は遊撃は村林と山崎の争いになり、浅村が三塁にコンバートされることで二塁が空白になる。昨年、二塁が主戦だった小深田、内野のユーティリティ伊藤裕季也(立正大~18年D②)が候補だが、5年目の黒川史陽(智弁和歌山高~19年②)、中日で正二塁手だった阿部にもチャンスがある。一塁はフランコに阿部、鈴木大が中心になり、ともに三塁も守れ浅村との併用になりそうだ。
外野は左翼の岡島、中堅の辰巳、右翼の小郷が有力で、島内は指名打者を兼務しながらの起用になる。このほか小深田と阿部、渡邊佳も外野を守れ、守備固めで田中和基(立大~16年③)も控えており、外野の不安要素は少ない。
ただ課題もあり、捕手の不足と選手層の薄さが不安要素が大きい。捕手は太田と安田悠馬(愛知大~21年②)に一人立ちの目途が立ったことは理解するが、捕手の支配下人数はわずか5名で、育成含めても7名(1名はケガでリハビリ中)しかおらず、炭谷銀仁朗(西武)放出は理解に苦しむ。万が一太田や安田のどちらかが離脱するようなことになれば、2番手は昨季はわずかに3試合出場の堀内謙伍(静岡高~15年④)になる。
捕手以外でも選手層の薄さは課題で、この間、FAなどの補強で育成が進まなかつたツケか、万が一主力の離脱が相次げばその穴を埋めるのは容易ではない。内野は黒川や渡邊佳、ベテランの茂木栄五郎(早大~15年③)がいるが、外野は武藤敦貴(都城東高~19年④)とルーキーの中島大輔(青学大~23年⑥)では経験の薄さは否めない。
●主力が抜けても補強らしい補強がなく、新監督には厳しい船出になる
今季から今江敏晃新監督(球団創立20周年で何と10人目)を迎えたが、松井裕や炭谷の主力が抜けても補強らしい補強がない。ドラフト以外での新加入は、日本ハムからポンセ、広島からターリーを獲得したくらいで、日本ハムを自由契約になった山田遥楓(佐賀工高~14年西⑤)も育成契約スタートになる。
現状、支配下登録は63名とゆとりがあり、ケガが治れば西口や捕手の水上桂(明石商高~19年⑦)は直ぐに支配下登録になると思うが候補は多くない。支配下復帰を目指す小峯新陸(鹿児島城西高~19年育②)や育成6年目の清宮虎多朗(八千代松陰高~18年育①)が候補で、野手は山田以外の候補が見当たらず、新外国人の補強やトレードは必須だと思うが動きはなさそうだ。
今季は投手陣がカギで、若手の台頭が進まないなか、主力が離脱や不調のようだと一気に置いてかれる危険性も孕んだ厳しいシーズンになることが予想される。