ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆ソフトバンク~3年連続のFA補強で優勝を狙う戦力だが、投打に不安も抱える

 最終戦で優勝を逃した一昨年に続く劇的なシーズンだった。オフに近藤健介(横浜高~11年④)を5球団競合に末に獲得し、ロッテからオスナ、阪神からガンケル、開幕前にはNPB復帰の有原航平(早大~14年日①)も獲得する大型補強を敢行した。

 開幕5連勝と6月までは順調だったが、前身の南海以来54年振りの15連敗で優勝争いから後退。その後は一度も3連勝がなく、勝てば2位確定の最終戦を落としたことでロッテに抜かれ3位に転落、CSのファーストステージも延長10回裏に3点差をひっくり返される劇的なサヨナラ負けで終戦し、試合後に藤本監督の退任が決まった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打 盗塁 得天  防御率 失点

 23年 3位 71勝69敗 3分 .248  104本  73個 536点 3.27 507点

 22年 2位 76勝65敗 2分 .255  108本  86個 555点 3.07 471点

 21年 4位 60勝62敗21分 .247 132本  92個 564点 3.25 493点

 20年 1位 73勝42敗  5分 .249 126本  99個 531点 2.92 389点

 19年 2位 76勝62敗  5分 .251 183本  113個  582点 3.63 564点

 3年連続でV逸のチームは、選手層が厚く、投打の総合力は依然として高いが、意外に不安要素が多く、特に昨年は軒並み数字が落ちているのが気になる。

 チーム防御率は、リリーフ陣はリーグ1位も、先発の駒不足に悩み規定投球回数をクリアした選手がいなかった。攻撃陣も得点数はリーグ1位だが、チーム打率が後退し、本塁打数と盗塁数も年々減少している。守備はリーグ最少の失策数で鉄壁を誇った。 

【過去5年のドラフトの主戦力】

 22年~大津亮介(投手~日本製鉄鹿島②)

 21年~野村 勇(内野手~NTT西日本④)

 20年~なし

 19年~津森宥紀(投手~東北福祉大③)

 18年~甲斐野央(投手~東洋大①)柳町 達(外野手~慶大⑤) 

 充実した施設と育成システムで、一昨年からは四軍制を敷き、圧倒的な選手層の厚さでこれまでリーグを席捲してきた。ただ、ここ数年のドラフトは決して上手く行っているとは言えない。

 主力の壁が高いと言ってしまえばそれまでだが、主力を脅かす若手が不足し、直近はFA補強に積極的で焦りが補強スタイルにも出ている。21年の又吉克樹(四国IL香川~13年中②)から始まり、、22年の近藤と嶺井博希(亜大~13年D③)と続き、昨年は山川捕高(冨士大~13年西②)と3年連続でFA選手を獲得している。

 捕手は経験が必要だが、打撃に定評のある渡邊陸(神村学園高~17年育①)や強肩の海野隆司(東海大~19年②)がいるなか嶺井を獲得。また、レギュラーに左打者が多いなか、右の山川を獲得する意図は理解するが、ファームで4度の本塁打王のリチャード(沖縄尚学高~17年育③)や成長株の井上朋也(花咲徳栄高~20年①)がいるなかの獲得で、昨年は外国人野手が総崩れで、デスパイネを呼び戻すくらいなら、辛抱強く起用しても良かったと思う。

 また、育成選手からの輩出がここ数年は滞っている。18~22年で47名の選手がドラフトで指名されたが、支配下登録されたのは、独立リーグからNPBに復帰した藤井晧哉(おかやま山陽高~14年広④)を含め5名しかいない。投手は大関友久(仙台大~19年育②)と中村亮太(東農大オホーツク~20年育⑧)、木村光(佛教大~22年育③)の3名だが、中村は現在育成契約になっており、野手は渡邊のみでは寂しい。

●投手陣~先発の立て直しが課題で、守護神オスナに繋ぐ勝ちパターン確立がポイント

 課題の先発は、エースの千賀滉大(メッツ)がMLBへ移籍した穴は大きく、辛うじて有原が10勝を上げたものの、規定投球回数には届かず、リリーフがリーグ防御率1位の成績を残しただけに、先発の不甲斐なさが目立った。

 東浜巨(亜大~12年①)や石川柊太(創価大~13年育①)が勝ち星を伸ばせず、ガンケルは僅か5試合登板で未勝利に終わった。先発転向の藤井も結果を残せずリリーフに再配置転換され、結果、42歳の和田毅早大~02年自)に頼らざるを得ない状況になった。先発で期待に応えたのは、後半ローテーションに定着したスチュアートJrくらいで、2年続けて先発のやり繰りに苦労し、若手の底上げも進まなかった。

 反面リリーフ陣は、防御率0点台の守護神オスナを中心に、モイネロが夏場に左肘の手術で離脱しても、松本裕樹(盛岡大付高~14年①)や津森がセットアッパーを務め、甲斐野や又吉も勝ちパターンを担った。ルーキーの大津は46試合に登板し、田浦文丸(秀岳館高~17年⑤)もキャリアハイの成績を上げた。

【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…石川柊太(125回2/3)有原航平(120回2/3)大関友久(104回2/3)

       和田 毅(100回)東浜 巨(99回2/3)板東湧梧(83回)     

 ・救援…津森宥紀(56試合)松本裕樹(53試合)オスナ(49試合)

       甲斐野央(46試合)大津亮介(46試合)田浦文丸(45試合)

       藤井晧哉(34試合)又吉克樹(32試合)

【今年度の予想】

 ・先発…東浜 巨 有原航平 和田 毅 石川柊太 モイネロ 大関友久

      (スチュアートJr 大津亮介 ※村田賢一 松本 晴 板東湧梧

     ※大山 凌 笠谷俊介 田上奏大)

 ・中継…津森宥紀 又吉克樹 藤井晧哉 田浦文丸 ヘルナンデス 松本裕樹 

      (武田翔太 ※岩井俊介 ※澤柳亮太郎 尾形崇斗 ※長谷川展威)

 ・抑え…オスナ 

 今季は開幕投手に有原が決まり、先発に転向するモイネロと43歳の和田までは決まっている。残り3枠は実績と経験で上回る東浜と石川、昨年の開幕投手大関が順当だが、昨年後半にローテーションに定着した板東とスチュアートJrも有力だ。

 さらに今季から笠谷俊介(大分商高~14年④)と大津が先発に転向し候補は多い。若手では昨年初先発した松本晴(亜大~22年⑤)や2年連続ファームの開幕投手の田上奏大(履正社高~20年⑤)は少ないチャンスを活かしたい。新加入ではルーキーの村田賢一(明大~23年④)は制球力が高くゲームメークに長けている。

 リリーフは、モイネロに代わるセットアッパーと嘉弥真新也(ヤクルト)に代わる左のワンポイント候補か課題になる。セットアッパーは松本裕と津森が有力で、藤井や経験豊富な又吉など候補は多く、昨年ファームのセーブ王の尾形崇斗(学法石川高~17年育①)も飛躍のシーズンにしたい。

 左のワンポイントには既に田浦がいるが、期待したいのはヘルナンデスで、制球力が課題だが左腕から繰り出される159キロの速球はモイネロの代わりとして十分だ。面白いのは嘉弥真と同じ変則左腕の長谷川威展(金沢学院大~21年日⑥)で、昨年のファームの最多勝投手だが、今季はリリーフに専念する。

 ルーキーでは、直球に力のある岩井俊介(名城大~23年②)、多彩な変化球が武器の大山凌(東日本国際大~23年⑤)は先発の適性もあり、澤柳亮太郎(ロキテクノ富山~23年⑤)はカーブが武器の即戦力右腕で、豊富なリリーフ陣に割って入る力がある。

●野手陣~山川とウォーカーの加入で右打者の補強が進んだが課題は若手の底上げ

 昨年は近藤の加入がなければどうなったかと思う、近藤は本塁打王打点王、打率も2位と三冠王に迫る活躍を見せ、柳田悠岐(広島経大~10年②)も負担の少ない指名打者との併用で全試合に出場した。また、中村晃(帝京高~07年③)と今宮健太(明豊高~09年①)が規定打席をクリアし、甲斐拓也(楊志館高~10年育⑥)の主力も相変わらず元気だったが、世代交代はなかなか進まなかった。

 昨年終盤に一番打者に座った周東佑京(東農大オホーツク~17年育②)や、キャリアハイの成績を上げた柳町、内野のユーティリティで存在感を高めた川瀬晃(大分商高~15年⑥)など中堅の選手が頑張ったが、若手の台頭という面では乏しかった。

 昨年もケガ人が多く、8月の勝負所で栗原陵矢(春江工高~14年②)と牧原大成(城北高~10年育⑤)が骨折で離脱。また、ガルビスにホーキンス、アストゥディーヨの外国人選手が機能せず、急遽デスパイネが復帰するも4人合わせて本塁打は1本と散々な成績に終わり、開幕スタメンに抜擢された正木智也(慶大~21年②)など、右の長距離砲にはチャンスはあっただけに残念だった。 

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…甲斐拓也(139/420)

 内野手…☆今宮健太(126/484)栗原陵矢(96/387)牧原大成(91/387)

       三森大貴(102/316)周東佑京(114/268)川瀬 晃(102/208)

 外野手…柳田悠岐(143/625)☆近藤健介(143/613)☆中村 晃(136/585)

     柳町 達(116/375)上林誠知(56/99)

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)牧原大成④      1)三森大貴④     

  2)近藤健介⑦         2)牧原大成        

  3)柳田悠岐⑨      3)柳田悠岐DH   

  4)栗原陵矢⑤      4)近藤健介⑦      

  5)正木智也⑧      5)中村 晃③    

  6)中村 晃③      6)柳町 達⑨   

  7)アストゥディーヨDH   7)栗原陵矢⑤  

  8)今宮健太⑥      8)今宮健太

  9)甲斐拓也②      9)甲斐拓也②

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…嶺井博希 甲斐拓也 谷川原健太(海野隆司 吉田賢吾 渡邊 陸)

 内野手…川瀬 晃 今宮健太 牧原大成 三森大貴 周東佑京 栗原陵矢

       ※山川穂高 井上朋也(※廣瀬隆太 リチャード 野村大樹 野村 勇) 

 外野手…近藤健介 中村 晃 柳田悠岐 ※ウォーカー 柳町 達 

    (正木智也 生海)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)牧原大成④      捕 手)甲斐拓也(嶺井博希)

  2)近藤健介⑦      一塁手山川穂高

  3)柳田悠岐DH       二塁手)牧原大成(三森大貴)

  4)山川穂高③      三塁手)栗原陵矢(井上朋也)

  5)栗原陵矢⑤      遊撃手)今宮健太(川瀬 晃)

  6)中村 晃⑨      左翼手)近藤健介

  7)柳町 達⑧      中堅手柳町 達(周東佑京)

  8)今宮健太⑥      右翼手)中村 晃

  9)甲斐拓也②      D H)柳田悠岐(ウォーカー)          

 今年はFAで山川、トレードでウォーカー、ドラフトでも廣瀬隆太(慶大~23年③) を獲得し、右の長距離打者が補強ポイントなのは明らかだ。3度の本塁打王の山川は実績十分で、守備に不安のあるウォーカーは指名打者で得意の打撃を活かすことが期待でき、左打者偏重の課題クリアの目途が立った。反面、6年目の野村大樹(早実高~18年③)や5年目のリチャード、3年目の正木も正念場のシーズンになる。

 ポジション別で見ると、捕手は今季も甲斐が扇の要で、嶺井や今季から捕手に専念する谷川原健太(豊橋中央高~15年③)が控える。5年目の海野や打撃の良い吉田賢吾(桐蔭横浜大~22年⑥)にも期待がかかり、渡邊はケガからの復帰が待たれる。

 内野のレギュラー争いはし烈で、特に一塁と二塁はハイレベルだ。一塁は中村と山川の争いになり、中村の卓越した守備力は惜しいが、中村は外野も守れ、右打者を打線に据えたい状況から山川が有力だ。

 二塁は横一線と言え、三森大貴(青森山田高~16年④)と今季は二塁に専念する牧原大、外野も守れる周東の争いになる。いずれも左打ちの俊足巧打タイプで、三森と牧原大は打率と出塁率も遜色なく、周東は打撃面では両名よりは見劣りするが、チームの半分の盗塁数を稼ぐ機動力があり、誰が一番打者に名前を連ねるか注目だ。

 三塁は栗原で決まりだが、若手の井上や背水の陣で臨むリチャードは打撃でアピールしたい。遊撃は攻守に今宮が中心だが、守備力に定評のある川瀬や野村勇は課題の打撃が向上すればレギュラー奪取の可能性は十分にある。

 外野は中村が左翼に回れば、近藤と柳田、ウォーカーを指名打者で併用しながらの起用になり、周東も加えた布陣はなかなか若手がつけ込む隙がない。出塁率の高い柳町は打撃でアピールしたいし、昨年ファームで活躍した笹川吉康(横浜商高~20年②)や生海(東北福祉大~22年③)は長打力でアピールしたい。 

支配下枠に余裕があり、トレードと外国人補強含む「育成と補強」のバランスに注目

 少数精鋭と言えば聞こえが良いが、現在支配下は62名とかなり余裕がある。投手なら中村亮や古川侑利(有田工高~13年楽②)はファームの主力で支配下の実績もある。

 野手でも、スイッチヒッターの仲田慶介(福岡大~21年育⑭)はファームで高打率を残し、俊足で外野守備に定評のある佐藤直樹JR西日本~19年①)はチームで貴重な右打ちで、同じ外野手の川村友斗(仙台大~21年育②)は、ファームで6本塁打のは長打力が魅力で、それぞれ一芸に秀でておりなぜ支配下にしないか理解に苦しむ。

 昨年のオフは、功労者ともいえる森唯斗(DeNA)や嘉弥真を戦力外にし、FAで賛否両論があるなか山川を最終的に獲得するも、人的補償で将来の幹部候補生の和田をプロスペクトから外す失態を犯した。結果、貴重なリリーバー甲斐野(西武)が移籍するなどゴタゴタ続きのオフになったこともあり、今一度「育成と補強」の原点に立ち返り、両輪の片方であり育成に力点を置いて欲しい。