ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆巨人~投手陣が改善できれば、優勝を狙える戦力が揃い期待膨らむシーズン

 連勝したかと思えば、その直後に連敗するパターンを繰り返し、月間で見ると大きな勝ち越しもなければ負け越しもなく、5月からは4位が定位置になり、そのままシーズンを終えた。2年連続のBクラスは、05~06年以来になり原辰徳監督が勇退した。

 昨季もこの間の課題は解消されず、不安定な投手陣はリーグ最下位の防御率で最後まで勝ちパターンが決まらなず、打線も相変わらずで一発頼みの大味な攻撃は変わらなかった。そんななかドラフトで獲得した選手が活躍し、これまでFAでの補強を繰り返していたチームに育成の芽がでてきた収穫の多いシーズンになった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗       打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 23年 4位 71勝70敗  2分 .252  164本   48個  523点  3.39  507点

    22年 4位 68勝72敗  3分 .242  163本   64個  548点  3.69  589点

 21年 3位 61勝62敗20分 .242  169本   65個  552点  3.63  541点

 20年 1位 67勝45敗  8分 .255  135本   80個  532点  3.34  421点 

 19年 1位 77勝64敗  2分 .257  183本   83個  663点  3.77  573点

 課題の投手陣は、一昨年リーグワーストのチーム防御率は改善したとは言え、それでもリーグ5位で、リリーフ陣はリーグワーストの数字だった。 

 特にクローザーに苦労し、大勢が6月下旬にケガで離脱すると、その後は流動的で、先発のビーディを配置転換し、シーズン中にトレードで鈴木康平(日立製作所~17年オ②)、新外国人のバルドナードを獲得するなど手は打ったが、結果的には中川晧太(東海大~15年⑦)が務めた。中川がさすがの安定感だったが、セットアッパーが不在になる悪循環に陥り、単純に戦力不足が露呈してしまった。

 打撃陣はチーム打率と本塁打数はリーグ1位も、得点数は阪神とヤクルトに次ぐ3位と得点能力が高くない。一昨年よりも打率も本塁打数も改善し、長打率も断トツ1位の4割超えだが得点数はなぜか減少している。出塁率は3位と決して高くなく、機動力不足は相変わらずで、犠打数も中日を僅かに1つ上回るリーグ5位と、重量打線と言っても個人のパフォーマンス頼りで、打線として見れば弱点は多い。 

【過去5年のドラフトの主戦力】 

 22年~田中千晴(投手~国学院大③)門脇 誠(創価大~内野手④)

    船迫大雅(投手~西濃運輸⑤)

 21年~大勢(投手~関西国際大①)赤星優志(投手~日大③)

 20年~山崎伊織(投手~東海大②)

 19年~なし

 18年~戸郷翔征(投手~聖心ウルスラ高⑥)

 伝統的に優勝が至上命題のチームで、豊富な資金力と人気でこれまでFA市場を席捲してきたが、20年の梶谷隆幸(開星高~06年D③)を最後に3年間獲得した選手はいない。その裏返しなのかもしれないが、21年からは極端とも言える即戦力中心にドラフトになっている。

 21年は大学・社会人4名に高校生3名、翌22年は1位で浅野翔吾(高松商高~22年①)以下ははオール大学生・社会人指名で、昨年も西舘勇飛(中大~23年①)を2球団競合で獲得すると、以降は4名全員が社会人指名になった。

 過去10年を見ても、高校生指名が上回ったのは18~19年のみで、18年の戸郷の大成功はあるが、そのほかは伸び悩んでおり、待てる状況ではないのも理解できる。実際に昨年は田中と船迫が不安定なリリーフ陣を支え、門脇は不動のレギュラー坂本勇人光星学院高~06年①)を三塁に追いやる活躍を見せた。

 即戦力指名は勇気のいる判断で、高校生とは異なり、大学生・社会人は育成の猶予期間が短い。そのなかで20年の山崎は、ケガで1~2年は投げられないことを覚悟して指名し、昨年10勝を上げた。また、中央では無名だった大勢を1位指名するスカウトの勇気のある判断は特筆できる。

 ただ、何事にもバランスは大切で、長期的な視点に立ったチームづくりに移行することも期待したい。また、ケガで長期離脱→育成契約の流れも見直しが必要で、実績のない若手ならまだしも、一昨年の中川や梶谷はさすがに行き過ぎだと感じた。

●投手陣~オフの積極補強で選手層は厚くなった。勝ちパターンの早期構築が課題

 チーム防御率は昨年よりわずかに改善も、全体の底上げにはならなかった。先発は戸郷が2年連続12勝を上げ、新エース誕生の活躍を見せ、山崎も3年目で初の2桁勝利に届き、新外国人のグリフインも先発ローテーションを守った。ただ、後が続かず、頼みの菅野智之東海大~12年①)は4勝、期待の赤星も後半にようやく5勝を上げるに留まり、リリーフ同様に枚数不足が顕著だった。

 全体的に厳しかった投手陣だが光明もあり、横川凱(大阪桐蔭高~18年④)は先発で4勝、菊地大稀(桐蔭横浜大~21年育⑥)はリリーフで50試合に登板し、それぞれキャリアハイの成績を残した。また、ルーキーの田中千と船迫も一時期勝ちパターンに入る活躍を見せた。

【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆戸郷翔征(170回)☆山崎伊織(149回)グリフィン(121回)

     メンデス(87回)横川 凱(84回1/3)菅野智之(77回2/3)

 ・救援…高梨雄平(55試合)菊地大稀(50回)中川晧太(44回)

       船迫大雅(36試合)鈴木康平(33試合)大江竜聖(32試合)

       ビーディ(30試合)田中千晴(30試合)

【今年度の予想】

 ・先発…※西舘勇飛 菅野智之 山崎伊織 戸郷翔征 グリフィン メンデス 

    (※高橋 礼 赤星優志 ※森田駿哉 直江大輔 横川 凱 松井 颯

     井上温大)    

 ・中継…鈴木康平 中川晧太 バルドナード 高梨雄平 船迫大雅 菊地大稀

      (今村信貴 ※近藤大亮 ※馬場皐輔 田中千晴 ※又木鉄平 ※泉 圭輔 

     大江竜聖 平内龍太 京本 真) 

 ・抑え…堀田賢慎(大勢 ※ケラー)

 今季の投手陣は期待の持てる布陣が揃っている。先発は戸郷中心に、山崎に左のグリフィン、メンデスは決まりで残り2枠の争いになる。実績の菅野、昨年4勝の横川に後半戦から復調した赤星が候補で、35歳の菅野はまだまだ老け込む年ではない。

 このほかドラフト1位の西舘勇飛(中大~23年①)は前評判通りの好投を見せ、27歳のオールドルーキー森田駿哉(ホンダ鈴鹿~23年②)も即戦力左腕。ソフトバンクから加入した高橋礼(専大~17年ソ②)は貴重なアンダースローで、新天地での先発復帰を目指している。若手では、昨年ファームで7勝、防御率0点台の井上温大(前橋商高~19年④)に8勝の松井颯(明星大~22年育①)、5年目の直江大輔(松商学園高~18年③)は昨年リリーフで自己最多16試合に登板するなど結果を残している。

 リリーフはクローザーがポイントになり、一番手は大勢だが、キャンプで出遅れており、候補として急浮上の堀田賢慎(青森山田高~19年①)の大抜擢もあるかもしれない。さらに阪神自由契約になったケラーも候補に挙がる。

 全体的にリリーフの層は新加入の選手で厚くなり、近藤大亮(パナソニック~15年オ②)と泉圭輔(金沢星稜大~18年ソ⑥)、馬場皐輔(仙台大~17年神①)等、実績十分のリリーバーが加わり、ルーキー左腕の又木鉄平(日本生命~23年⑤)も評価が高い。

 ここに中川に2年連続50試合登板の高梨雄平(JX-ENEOS~16年楽⑨)を中心とし、昨年好投の菊地に船迫、バルドナード、大江竜聖(二松学舎大高~16年⑥)などタレントは多く、今季は駒不足で悩むことはなさそうだ。

 野手陣~課題は1~2番の確立で、大味な打線から脱却し得点力を上げたい

 昨年は前年最下位だったチーム打率がリーグ1位に改善、同じくリーグ最多の本塁打数など間違いなく打てるチームではあるが、得点数は一昨年よりも減り、効率の悪い攻撃になっている。一発頼みの大味な打線は優勝を逃している21年シーズンから変わっていない課題だけに、なぜ3年も放置するのか理解に苦しむ。

 1~2番が固定できず、2桁盗塁が門脇と重信慎之介(早大~15年②)しかいない弱みはあるが、それなら犠打やエンドランなどを用いて、坂本や岡本の前にランナーを溜める攻撃は見られなかった。同じ4番で、打点王を獲得した牧秀悟(DeNA)は29本塁打で103打点だが、本塁打王の岡本和真(智弁学園高~14年①)は41本塁打で93打点と、この成績が攻撃の不味さを物語っている。

【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆大城卓三(134/490)小林誠司(60/91)

 内野手…☆岡本和真(140/589)☆吉川尚輝(132/478)☆坂本勇人(116/455)

     門脇 誠(126/348)中田 翔(92/288)中山礼都(78/147)

 外野手…秋広優人(121/439)丸 佳浩(121/431)ブリンソン(88/294)

       梶谷隆幸(102/291)長野久義(75/176)オコエ瑠偉(41/127)

       ウォーカー(57/120)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)オコエ瑠偉⑦     1)梶谷隆幸

  2)吉川尚輝④         2吉川尚輝④      

  3)丸 佳浩⑨           3)本勇人⑥    

  4)岡本和真⑤      4)岡本和真③     

  5)中田 翔③      5)秋広優人⑦     

  6)坂本勇人⑥      6)丸 佳浩⑧      

  7)ブリンソン⑧     7)大城卓三②     

  8)大城卓三②      8)門脇 誠⑤ 

  9)グリフィン①     9)戸郷翔征①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…小林誠司 大城卓三 岸田行倫(山瀬慎之助) 

 内野手…増田大輝 吉川尚輝 門脇 誠 坂本勇人 岡本和真 中山礼都 秋広優人

      (湯浅 大 ※泉口友汰 若林晃弘 中田歩夢) 

 外野手…長野久義 丸 佳浩 ※オドーア ※佐々木俊輔 オコエ瑠偉 松原聖弥

      (萩尾匡也 梶谷隆幸 岡田悠希 重信慎之介)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)門脇 誠⑥      捕 手)大城卓三(小林誠司) 

  2)吉川尚輝④      一塁手)岡本和真

  3)坂本勇人⑥      二塁手)吉川尚輝松原聖弥⑧ 

  4)岡本和真③      三塁手坂本勇人

  5)オドーア⑨      遊撃手)門脇 誠(中山礼都)

  6)秋広優人⑦      左翼手)秋広優人(オコエ瑠偉

  7)大城卓三②         中堅手)松原聖弥(佐々木俊輔)

  8)松原聖弥⑧      右翼手)オドーア(丸 佳浩)

  9)戸郷翔征①  

 今季の課題は、1~2番の定着と中田翔(中日)が抜けた5番打者の確立が優先課題になる。1番は機動力を活かすなら門脇や松原が有力で、出塁率の高いベテラン梶谷に加え、オコエ出塁率や走塁への意識が高まれば十分に可能性はある。2番は吉川に決まりだが、松原やオコエが1番なら、門脇2番でも良いし、坂本の代わりにクリーンアップを打つ選手がいれば坂本が二番でも良いと思う。

 個人的には打席数は少ないが、増田大輝(四国IL徳島~15年育①)は出塁率も高く走塁能力の高さは折り紙つき。ルーキーの佐々木俊輔(日立製作所~23年③)も足が使え、1番に抜擢されても不思議ではない。また、犠打も多く、出塁率も高く長打も打てる大城は守備負担もあり大変だとは思うが2番起用も面白いと思う。

 中田が抜けた5番は新外国人のオドーアが有力で、MLB通算178本塁打の長距離砲が岡本の後ろに控えると打線は厚みを増し、OPSが7割5分を超える大城、秋広や丸も候補になる。

 ポジション別で見ると、捕手と内野手に心配がある。捕手は正捕手で大城、打撃に課題はあるもののともに強肩の小林誠司日本生命~13年①)に山瀬慎之介(星稜高~19年⑤)が控え質的には問題ないが、支配下人数5名は少なすぎる。

 内野は一塁・岡本、二塁・吉川、三塁・坂本、遊撃・門脇とレギュラーは決まっているが、控えの差が大きく層の薄さは否めない。若手の中山礼都(中京大中京高~20年③)やルーキーの泉口友汰(NTT西日本~23年④)等、若手の活躍に期待したい。

 一方外野は豊富で、左翼と中堅の争いがし烈だ。右翼はオドーアで決まりだが、左翼は丸に秋広、40歳のベテラン長野久義(ホンダ~09年①)も控える。中堅はまさに若手にはチャンスで、松原とオコエ、ルーキー佐々木に加え、打撃の良い萩尾も元気で、今季こそは丸からレギュラーを奪取したい。

●オフの補強が功を奏し、十分に優勝を狙える戦力が揃う!阿部新監督の手腕に期待

 今オフは課題のリリーフ投手を中心に補強が進み、特にウォーカーと高橋礼&泉のトレードは良い意味でよく成立したと思う。また、育成から京本真(明豊高~21年育⑦)と中田歩夢(東奥義塾高~22年育④)を支配下登録した。

 現在、支配下は65名で、シーズン前はこのまま行きそうだ。開幕後の状況判断になるが、豊富な外野手を軸に捕手や内野手のトレードはありで、投手は外国人や育成からの補強になりそうだ。投手は支配下復帰を狙う小沼健太(BC埼玉~19年ロ育②)、富田龍(四国学院大~21年育⑧)に山崎友輔(福山大~20年育⑩)も好投しており候補は多い。野手では楽天から再加入したウレーニャが控える。

 今季はとにかく投手陣の改善がペナントのカギを握り、優勝を狙える戦力が十分に揃っている。ただ、菅野に坂本、丸がいずれも35歳を超え、岡本のMLB移籍の可能性もあり、優勝を目指しながら今年以降を見据えた若手の抜擢と覚醒に期待したい。