昨年も補強は積極的で、MLBでも実績のあるマルモレホスとギッテンス、日本ハムから西川遥輝(智弁和歌山高~10年日②)を獲得し、通算538勝の豪華先発投手陣に鉄壁のリリーフ陣を擁し、間違いなく優勝候補の一角だった。
序盤は前評判通り、4月後半からの11連勝もあり5/10終了時点で、貯金18、勝率8割で独走状態の思えた。ただ、翌日からの4連敗でチーム状況は一転し、6月以降は月間での勝ち越しがなく、6月後半に首位陥落、8月中旬に最大18の貯金がなくなると最終借金2でシーズンを終えた。ちなみに貯金18→▲2は、74年の阪神の記録を塗り替える歴史的な大失速になった。
また昨年はブラックフライデーと呼ばれ、金曜に限って言えば2勝22敗と呪縛のようで、3連戦の初戦を落とすのだから、勢いがつかず失速すたのも当然の結果だった。
【過去5年のチーム成績】
22年 4位 69勝71敗 3分 .243 101本 97個 533点 3.47 522点
21年 3位 66勝62敗15分 .243 108本 45個 532点 3.40 507点
20年 4位 55勝57敗 8分 .258 112本 67個 557点 4.19 522点
19年 3位 71勝68敗 4分 .251 141本 48個 614点 3.74 578点
18年 6位 58勝82敗 3分 .241 132本 69個 520点 3.78 583点
【過去5年のドラフトの主戦力】
21年~なし
20年~早川隆久(投手~早大①)
19年~小深田大翔(内野手~大阪ガス①)瀧中瞭太(投手~ホンダ鈴鹿⑥)
18年~辰巳涼介(外野手~立命大①)太田 光(捕手~大商大②)
17年~なし
楽天のドラフトを一言で言えば、「良く分からない」の一言に尽きる。とにかくバランスが悪く、単年ごとに方針で違う印象で、どういうチームにしたいかが分からない。特に、この2年は顕著で、一昨年は同じ右打ちで、タイプもそう違わない吉野創士(昌平高~21年①)と前田銀治(三島南高~21年③)の高校生外野手を上位で獲得。昨年はオール社会人&大学生で、6名指名したなか、5名が投手と極端な指名になっている。
結果、年齢別で見ると、投手では25歳に6名、27歳にも5名と偏り、逆に22歳以下の若手は4名しかいない。野手も27歳に5名が固まり、ご丁寧に昨年はDeNAから伊藤裕季也(立正大~18年D②)、現役ドラフトで広島の正髄優弥(亜大~18年広⑥)を獲得し、年齢バランスはさして気にしていないことが分かる。
また、高校生選手を育成するのも不得手で、投手は田中将大(駒大苫小牧高~06年①)や松井裕樹(桐光学園~13年①)の1位指名選手に加え、下位指名でも辛島航(飯塚高~08年⑥)がいるが、野手では銀次(盛岡中央高~05年③)しかいない。そのことに自覚があるのか、18~22年のドラフト(5年間)で、34名を支配下指名しているが、高校生10名は12球団最少で、反面、選手の平均年齢はもっとも高い27.6歳と、若手の台頭が既知として進まず、FAが主戦略なのも理解できる。
●投手陣~昨季、リーグワーストの投手陣の再編が急務。若手の台頭がないと厳しい
田中将に岸孝之(東北学院大~06年西希)、則本昂大(三重中京大~12年②)が揃う豪華な先発陣だったが、則本の10勝がチームトップで、田中は9勝(12敗)、岸は8勝(10敗)と期待していた数字ではなかった。また、早川は2年目の洗礼を受け5勝、瀧中も2勝に終わり、貯金が出来のは則本と辛島だけだった。
一昨年、リーグナンバーワンの防御率を誇ったリリーフ陣も、酒居知史(大阪ガス~16年ロ②)とブセニッツがケガで途中離脱し、安楽智大(済美高~14年①)も50試合以上に登板したが、防御率4点台で成績を大きく落とし、リーグ4位と崩れた。
ただ、そのなかでも松井は32セーブを上げ2度目のタイトルを獲得し、西口直人(甲賀健康医療専門学校~16年⑩)はリーグトップの61試合に登板し34ホールド、宋家豪も54試合登板20ホールドと好成績を上げた。また、左腕の鈴木翔天(富士大~18年⑧)が自己最多の38試合に登板し、シーズン途中に支配下になった宮森智志(四国IL高知~21年育①)は22試合連続無失点とブレークし、今季は新人王を狙う活躍が期待され、ようやく世代交代も進みつつある。
【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…☆田中将大(163回)岸 孝之(141回)則本昂大(125回)
早川和久(107回1/3)辛島 航(90回)瀧中瞭太(78回)
・救援…西口直人(61試合)宋家豪(54試合)松井裕樹(53試合)
安楽智大(52試合)鈴木翔天(38試合)ブセニッツ(34試合)
【今年度の予想】
・先発…岸 孝之 ※バニュエロス 則本昂大 田中将大 瀧中瞭太 辛島 航
(※荘司康誠 早川和久 高田孝一 松井友飛 藤平尚真 藤井 聖)
・中継…安楽智大 ※小孫竜二 宋家豪 鈴木翔天 西口直人 宮森智志
(酒居知史 ※渡辺翔太 弓削隼人 西垣雅矢 津留崎大成 石橋良太)
・抑え…松井裕樹
通算538勝カルテットの涌井秀章が中日へ移籍し、早川が昨年オフの手術で開幕に間に合わず、ローテーションが再編される。開幕投手には田中将が指名され、岸と則本、初の2桁勝利を狙う辛島までは決まりで、残り2枠の争いになる。
復活を期す瀧中に新外国人バニュエロスが有力だが、ファームのエースを卒業したい高田孝一(法大~20年②)、ともに昨年1勝の藤平尚真(横浜高~16年①)に藤井聖(ENEOS~20年③)など、若手にチャンスは十分にある。岸が39歳、田中将が35歳、則本と辛島も33歳になり、若手の台頭がないと将来的にも厳しくなる。
リリーフ陣もクローザーの松井に、どう繋げていくかがポイントになり、西口に宋家豪、宮森がセットアッパー候補になるが量的に少ない。西垣雅矢(早大~21年⑥)や鈴木翔の若手の成長、経験のある酒居や安楽も再度勝ちパターンに加わりたい。また、ロングリリーフもできるベテランの石橋良太(ホンダ~15年⑤)やリリーフ転向の弓削隼人(スバル~18年④)にも期待したい。
新戦力では、26歳のオールドルーキーの小孫竜二(鷺宮製作所~22年②)は即戦力の呼び声が高く、渡辺翔太(九産大~22年③)も多彩な変化球を持っており、先発もリリーフもできる。昨年のドラフトで唯一競合の荘司康誠(立大~22年①)は、じっくり体を作って将来のエース候補としてステップアップしていきたい。
●野手陣~超重量打線から、鉄壁の守備陣を擁した守りの野球に変革するシーズン
昨年の開幕前は、西川が一番に座り、浅村栄斗(大阪桐蔭高~08年西③)と島内宏明(明大~11年⑥)の中軸のあとを、ギッテンスとマルモレホスの新外国人選手が務めめる打線が期待された。ただ、西川は序盤こそ良かったものの打撃不振で調子を落とし、期待の新外国人はマルモレホスは7本塁打で退団し、ギッテンスも0本と期待を裏切りった。結局、打線は浅村と島内頼みで、浅村はリーグ2位の27本塁打、島内は最多安打で2年連続でタイトルを獲得した。
改善したのは機動力で、盗塁王4回の西川の加入で走塁への意識が高まったのか、小深田大翔(大阪ガス~19年①)が自己最多の21盗塁、辰巳と山崎剛(国学院大~17年③)を含めた4選手が2桁盗塁を記録し、一昨年リーグワーストの盗塁数が、リーグ2位まで改善した。
さらに良かったのが守備で、49失策は12球団最小。捕手で炭谷銀仁朗(平安高~05年西①)、二塁手で浅村がリーグトップの守備率を記録した。特に外野陣は素晴らしく、中堅の辰巳は俊足を活かした広い守備範囲で2年連続ゴールデングラブ賞を獲得。島内も無失策、弱肩と言われた西川もリーグトップの10補殺でまさに鉄壁だった。
ここ数年は相手に恐れられた超重量打線から、守り勝つ布陣に変わりつつある。そういった意味でも、やはり優勝を狙うには投手陣がカギを握っている。
【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入
捕 手…太田 光(71/182)炭谷銀仁朗(98/288)
内野手…☆浅村栄斗(143/633)☆小深田大翔(118/479)☆鈴木大地(125/477)
銀次(83/271)茂木栄五郎(73/268)山崎 剛(79/218)
渡邊佳明(60/168)
外野手…☆島内宏明(142/613)☆辰巳涼介(120/476)☆西川遥輝(108/451)
マルモレホス(58/223)岡島豪郎(53/199)武藤敦貴(43/99)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】
2)山崎 剛⑥ 2)小深田大翔⑥
3)浅村栄斗④ 3)浅村栄斗④
5)茂木栄五郎⑤ 5)銀次③
6)和田 恋DH 6)鈴木大地⑤
7)鈴木大地③ 7)マルモレホスDH
8)安田悠馬② 8)辰巳涼介⑧
9)小深田大翔⑧ 9)炭谷銀仁朗②
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…太田 光 炭谷銀仁朗 安田悠馬(田中貴也)
内野手…小深田大翔 浅村栄斗 ※阿部寿樹 茂木栄五郎 鈴木大地 ※フランコ
銀次 山崎 剛 渡邊佳明
(黒川史陽 ※平良竜哉 伊藤裕季也 ギッテンス 入江大樹 村林一輝)
(吉野創士 田中和基 武藤敦貴 小郷裕哉 和田 恋 ※正髄優弥)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
3)浅村栄斗④ 二塁手)浅村栄斗
5)フランコDH 遊撃手)小深田大翔(山﨑 剛)
今季の打線の課題は、①主力となる右打者不足の解消と、②世代交代を進める若手の台頭の2つになる。
浅村以外、主力の右打者不足の解消では、中日からトレードで阿部寿樹(ホンダ~15年中⑤)が加入し、メジャー通算130本塁打のフランコ、現役ドラフトではオコエ瑠偉を放出した代わりに正髄を獲得した。また、ドラフトではパンチ力と俊足を兼ね備えた平良竜哉(NTT西日本~22年⑤)も指名し、積極的に補強を続けている。
そのなかで阿部の加入は大きく、守っては二塁と三塁、外野も守れることができ、浅村と島内を休ませながら起用することが出来る。打ってはチャンスメーカーにもポイントゲッターにもなれ、阿部が下位打線に入ることで打線に厚みが出来た。
若手の台頭はチーム喫緊の課題だが、今季もレギュラー陣の壁は厚い。そのなかでも昨年開幕マスクを被った安田悠馬(愛知大~21年②)、内野手の黒川史陽(智弁和歌山高~19年②)はレギュラー獲得のチャンスがある。
安田は、炭谷と太田光(大商大~18年②)は守備力に定評があり、ともにチームに不足している右打ちということもありハードルは高い。黒川も同様で、二塁に阿部が加入し、三塁には鈴木大地(東洋大~11年ロ③)と茂木栄五郎(早大~15年③)と同じタイプの選手控え、2人とも打撃でアピールしてレギュラーを獲りに行くしかない。
このほか、内野手の村林一輝(大塚高~15年⑦)に外野手の武藤敦貴(都城東高~19年④)は守備・走塁要員からの卒業を目指し、2年目の吉野もここまで一軍キャンプに帯同し今季の一軍デビューを目指す。また、ともに5年目の渡邊佳明(明大~18年⑥)に小郷裕哉(立正大~18年⑦)も、まだまだレギュラーを諦めてはいない。
●ベテラン頼みのチームで世代交代が課題だが、今季も厳しいシーズンになりそう
注目の選手は、投手はルーキーの小孫を挙げたい。遊学館高で甲子園に出場し好投手と言われながらも指名漏れ。創価大に進学し、同学年のドラフト候補3人のうち小孫のみ指名がなく、一昨年の社会人2年目も名前が呼ばれることなく、3度の指名漏れを味わった苦労人である。同学年は移籍したオコエと村林で、比較するとその苦労が分かると思う。投手陣が課題のチームにあって即戦力としての力を発揮してもらいたい。
野手は黒川で、ファームでは不動のレギュラー。打撃技術の高さは誰もが認めるところだが、本職の二塁には浅村がおり、鈴木大に茂木、小深田、山崎と同じタイプの左打ちの選手が多数おり、正直気の毒な部分もある。ただ、昨季一軍17試合で打率2割前半と結果を残せていないのも事実で、結果でレギュラーをもぎ取って欲しい。キャプテンシーの高い選手で、主力へのい成長を心待ちにしているのはファンだけではない。
最後に、個人予想で楽天が優勝するなら昨年と思っていたので、今季は正直厳しいと予想している。優勝のためには投手陣の整備と若手の台頭が必須条件で、外野は層が厚く岡島豪郎(白鷗大~11年④)や田中和基(立大~16年③)、和田恋(高知高~13年巨②)など、控えでは勿体ない選手がおり、阪神や西武といった投高打低のチームとのトレードもアリだと思う。