ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆ヤクルト~打線の主力が揃えば上位を狙える布陣で、課題は今季も投手陣

 チーム初のリーグ3連覇を狙い、優勝候補に挙げらていたシーズン。開幕からいきなり5連勝し、うち4試合は完封勝利の絶好のスタートを切った。

 ただ、レギュラーの塩見泰隆(ENEOS~17年④)と山崎晃大朗(日大~15年⑤)が開幕に間に合わず、一昨年、史上最年少3冠王を獲得した村上宗隆(九州学院高~17年①)も不振で、頼みの打線が機能せず、課題の投手陣も防御率、失点数ともに昨年より後退した。結果、3~4月こそ借金2で終えたが、5月に6勝17敗の借金11で早々とペナントレースから脱落し、勝率で中日を上回るも最多敗でシーズンを終えた。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 23年 5位 57勝83敗  3分 .239  123本   62個  534点  3.66  567点

 22年 1位 80勝59敗  4分 .250  174本   69個  619点  3.52  566点

 21年 1位 73勝52敗18分 .254  142本   70個  625点  3.48  531点

 20年 6位 41勝69敗10分    .242     114本  74個  468点  4.61  589点

 19年 6位 59勝82敗  2分 .244  167本   62個  656点  4.78  739点

 打線が相手投手陣を圧倒しリーグ連覇を果たしたが、昨季はその打線が機能せず、課題の投手陣を援護できなかった。4番の村上以外の打順は流動的で、得点数こそリーグ2位だったものの、チーム打率に得点圏打率がリーグ5位と、村上や山田哲人履正社高~10年①)など、ポイントゲッターの不振がチームの成績に反映してしまった。

 それでも、オスナやサンタナの両外国人がシーズンを完走し、捕手と外野を守った内山壮真(星稜高~20年③)や二遊間で好守を見せた武岡龍世(八戸学院光星高~19年⑥)、得意の足でアピールした並木秀尊(独協大~20年⑤)の台頭は好材料だった。

 投手は昨季も頼みは小川泰弘(創価大~12年②)とサイスニードになり、WBCメンバーの高橋奎二(龍谷大平安高~15年③)は4勝止まり、即戦力ルーキーの吉村貢司郎(東芝~22年①)も2勝と期待に応えることができなかった。リリーフもクローザーのマクガフが抜けた後は田口麗斗(広島新庄高~13年③)が埋めたが、その田口の穴を埋めることができず、チーム防御率と失点数はリーグワーストで改善が進まなかった。 

【過去5年のドラフトの主戦力】

 22年~なし

 21年~なし

 20年~木澤尚文(投手~慶大①)

 19年~大西広樹(投手~大商大④)長岡秀樹(内野手八千代松陰高⑤)

 18年~清水 昇(投手~国学院大①) 

 ヤクルトのドラフトは成功と課題が両極端だ。成功は高校生野手の育成が上手く、村上と山田、長岡以外に、捕手の中村悠平福井商高~08年③)や代打の切り札の川端慎吾(市和歌山商高~05年③)など、日本代表メンバークラスを多数擁している。

 中村は在籍16年目で34歳、山田も在籍14年で32歳と高卒選手が主力に成長すると長年レギュラーを務めることができ、スケール感があり、戦力を維持することができる。昨季は内山に武岡、濱田太貴(明豊高~18年④)が揃ってキャリアハイの成績を上げており、今季は新旧交代が進むかもしれない。

 一方で課題は投手陣で、特に先発投手がこの間育っていない。14年~23年の10年間で投手のドラフト1位は9名(唯一の野手指名は17年の村上)を数えるが、主戦はリリーバーの清水と木澤のみで、吉村に山下輝(法大~21年①)、ケガで低迷しているが奥川恭伸(星稜高~19年①)の奮起に期待したい。

 また、投打に年齢バランスが悪く、投手は25~27歳に15名(35名中)が集中し、19~22歳は12球団最小の僅か2名しかいない。野手は外野手が酷く、19~23歳はゼロでこれも12球団でヤクルトだけ、しかも24歳と25歳、31歳と32歳と4つの近い年代に集中し、これでは上手く世代交代が進まない。

 主力は軒並み30歳オーバーで、ともに投打の球界最年長選手の44歳の石川雅規青学大~01年自)と42歳の青木宣親早大~03年④)が在籍している。この年齢まで主力で活躍できることは称賛に値するが、若手の伸び悩みの裏返しでもある。

●投手陣~リーグ最多の失点数解消に向け、若手・ベテランの関係なく底上げが必要

  一昨年リーグ連覇を支えたリリーフ陣は、防御率は3.02から3.21と悪化し、マクガフに代わるクローザー候補のケラは一軍未登板で7月に退団、田口が33セーブを上げるもセットアッパーが不足し、清水も56試合登板も8敗と精彩を欠き、リリーフの負け数はリーグ最多の30を数えた。 

 先発は小川とサイスニードが先発ローテーションを守ったが、高橋に吉村、新加入のピーターズが期待を裏切り、ベテランの高梨裕稔(山梨学院大~13年④)と原樹里(東洋大~15年①)が未勝利に終わるなどローテーションの編成に苦労した。

 そんななか、リリーフから先発へ配置転換した小澤怜史(日大三島高~15年ソ②)が6勝を挙げ、星知弥(明大~16年②)と山本大貴三菱自動車岡崎~17年ロ③)はキャリアハイの成績を上げるなど明るい材料もあった。 

【23年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア ※は新加入選手

 ・先発…☆小川泰弘(144回)サイスニード(135回)高橋奎二(101回2/3)

     小澤怜史(101回1/3)ピーターズ(100回2/3)      

 ・救援…清水 昇(56試合)木澤尚文(56試合)田口麗斗(50試合)

       石山泰稚(50試合)星 知弥(47試合)大西広樹(46試合)

       山本大貴(42試合)

【今年度の予想】

 ・先発…石川雅規 吉村貢司郎 小川泰弘 小澤怜史 高橋奎二 サイスニード

    (※西舘昂汰 山下 輝 原 樹里 奥川恭伸 山野太一 ※松本健吾

     ロドリゲス 高梨裕稔 阪口晧亮 ※ヤフーレ)

 ・中継…石山泰稚 清水 昇 木澤尚文 星 知弥 大西広樹 ※嘉弥真新也

      (※石原勇輝 山本大貴 尾仲祐哉 ※宮川 哲 丸山翔太 今野龍太)

 ・抑え…田口麗斗(※エスパーダ)

 課題の先発陣は昨年10勝の小川、加入3年目のサイスニードを中心に、高橋は初の2桁勝利を狙うシーズンになる。残り3枠は新戦力を含め候補者が多く、2年目の吉村に3年目の山下のドラフト1位コンビに、昨年プロ初勝利を上げた山野、昨季途中加入のロドリゲス、実績はないが多彩な変化球と潜在能力を評価されたヤフーレにも期待がかかる。23年目の大ベテランの石川は残り15勝に迫った200勝を目指し、原と高梨も復活を期すシーズンになる。

 さらに小澤や昨季DeNAから加入した阪口晧亮(北海高~17年D③)、ルーキーの松本健吾(トヨタ自動車~23年②)は先発・リリーフともにこなせ、チーム状況に応じての起用になる。一方でキャンプで奥川が離脱し、ルーキーの西舘昂汰(専大~23年①)も二軍スタートになりデビューは遅れそうだ、

 リリーフは、今季もクローザーは田口が有力で、最速150キロの直球に変化球も多彩なエスパーダが台頭するようになれば層は厚くなる。清水と木澤の安定感が増せば、経験豊富な石山泰稚ヤマハ~12年①)や今野龍太(岩出山高~13年楽⑨)に加え、西武から宮川哲(東芝~19年西①)も加入し、昨年キャリアハイの大西と星も控える。

 また、に昨季田口が抜けた課題の左のワンポイントでは、ソフトバンクから嘉弥真新也(JX-ENEOS~11年ソ⑤)が加入し、山本やルーキーの石原勇輝(明大~23年③)との併用でバリエーションが広がり、期待の持てる布陣が揃っている。

●野手陣~強力打線は健在で、レギュラーの壁は高いが若手の成長に期待したい

 塩見と山崎、山田が規定打席に届かず、特に山田は年々成績が落ちているのが気がかりだ。ただ、これだけ主力が不振でも出塁率本塁打数はリーグ2位で犠打は1位、盗塁数も3位と、結果、得点数はリーグ2位で強力打線であることは間違いない。

 特に、オスナとサンタナがシーズンを完走し、レギュラー奪取には届かなかったが、内山は得意の打力を活かし6本塁打、武岡は二遊間の守備で好プレーを見せ、並木は俊足を活かしてリーグ3位の15盗塁など若手が自分のセールスポイントを伸ばした。

 守備は村上のリーグ最多失策はあるものの、盗塁阻止率はリーグナンバーワンで、山田と長岡、武岡を加えた二遊間の守りは固く、中堅には俊足で守備範囲の広い塩見がおり、センターラインがしっかりしている。 

【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…中村悠平(106/376)内山壮真(94/269)

 内野手…☆村上宗隆(140/597)☆オスナ(134/543)☆長岡秀樹(135/488)

       山田哲人(105/422)武岡龍世(84/178)川端慎吾(80/105)

       宮本 丈(65/123)

 外野手…☆サンタナ(136/516)濱田太貴(103/276)青木宣親(96/264)

       塩見泰隆(51/209)並木秀尊(82/174)山崎晃太朗(64/153)

       丸山和郁(67/106)        

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)濱田太貴⑧      1)塩見泰隆⑧      

  2)青木宣親⑦      2)青木宣親⑦        

  3)山田哲人④      3)山田哲人④  

  4)村上宗隆⑤      4)村上宗隆⑤      

  5)オスナ③       5)サンタナ

  6)中村悠平②      6)オスナ③     

  7)内山壮真⑨      7)中村悠平②  

  8)長岡秀樹⑥      8)長岡秀樹⑥

  9)小川泰弘①      9)小川泰弘①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…中村悠平 内山壮真 古賀優大(西田明央 松本直樹

 内野手山田哲人 川端慎吾 長岡秀樹 宮本 丈 オスナ 村上宗隆 武岡龍世

      (赤羽由紘 ※北村拓己 太田賢吾 北村恵吾 ※増田 珠 ※伊藤琉偉)

 外野手…並木秀尊 ※西川遥輝 塩見泰隆 青木宣親 サンタナ 濱田太貴

    (丸山和郁 山崎晃大朗 澤井 廉)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)塩見泰隆⑧      捕 手)中村悠平(内山壮真) 

  2)濱田太貴⑦      一塁手)オスナ(宮本 丈)

  3)山田哲人④      二塁手山田哲人(武岡龍世)

  4)村上宗隆⑤      三塁手)村上宗隆

  5)サンタナ⑨      遊撃手)長岡秀樹

  6)オスナ③       左翼手)濱田太貴(西川遥輝

  7)中村悠平②      中堅手)塩見泰隆(並木秀尊)

  8)長岡秀樹⑥      右翼手サンタナ青木宣親

  9)小川泰弘①

 ヤクルトで今季注目なのは左翼争いで、昨季左翼で最多出場の青木、一昨年のレギュラーの山崎、昨季キャリアハイの103試合に出場し、長打力が魅力の濱田、そして新加入の西川遥輝智弁和歌山高~10年日②)など実績のある候補がひしめいている。

 さらに、昨季のイースタン本塁打王の澤井廉(中京大~22年③)は今季の新人王候補に挙がり、内山とソフトバンクから加入の増田珠(横浜高~17年ソ③)はともにパンチ力のある打撃がセールスポイントで、走攻守揃った太田賢吾(川越工高~14年日⑧)も今季は外野にチャレンジする。並木と丸山和郁(明大~21年②)は西川に引けをとらない俊足が武器で、激しい左翼手争いにより、強力打線がさらに厚みを増しそうだ。

 内野は一塁・オスナ、二塁・山田、三塁・村上、遊撃・長岡のレギュラーに、プラス代打の切り札の川端も確定で内野の枠は少なく、控えの選手は数少ないチャンスを活かしていきたい。昨年、堅守を武器にキャリアハイの試合出場した武岡、内野ならどこでも守れる北村拓己(亜大~17年巨④)、新加入の伊藤琉偉(BC新潟~23年⑤)は走攻守揃った遊撃手で山田や長岡を脅かす存在になりたい。

 また、チームを支えるリザーブでも、内外野の守備固めと代走のスペシャリスト宮本丈(奈良学園大~17年⑥)、内野のユーティリティー三ツ俣大樹(修徳高~10年オ②)はチームに貴重な右打ちの内野手で、プロ初安打が満塁本塁打の北村恵吾(中大~22年⑤)はオスナに挑む。

 捕手は中村が中心になるが、今季は着実で成長している内山の出番が増えそうだ。その内山に負けたくないのが古賀優大(明徳義塾高~16年⑤)で、課題の打撃を上げ中村を脅かし、内山を外野に追い出すくらいの活躍をしたい。

●的確な補強で課題の解消は進んだ。今季も打ち勝つ野球で、上位を狙いたい

 今季のオフの補強は秀逸で、田口に代わる左のワンポイントで嘉弥真、昨季の外野のレギュラー離脱で西川を獲得しともに課題を埋めた。一方で内野は武岡の成長もあり、元山飛優(西武)を放出し、手薄な投手陣の補強で宮川を獲得した。その内野手も山田以外の右打者不足で、昨年の三ツ俣に続き、巨人から北村拓とソフトバンクの増田、ルーキー伊藤を補強し課題を解消する的確な補強と言える。

 現在、支配下は66名でこのままのシーズンインが濃厚で、課題と言えば外国人投手の活躍(状況)次第ではさらなる補強やトレードの可能性はある。一方で、育成から支配下の枠は少なく、先発では沼田翔平(旭川実高~18年巨育③)、リリーフでは近藤弘樹(岡山商大~17年楽①)が再昇格を目指し、野手では捕手の橋本星哉(中央学院大~22年育①)と外野手の岩田幸宏(BC信濃~21年育①)が昨年ファームで好成績を挙げており、念願の支配下を勝ち取りたい。