オリックスとともにリーグ3連覇を狙ったシーズンは明暗が別れ、まさか首位阪神から28.5ゲーム(9/10現在)も離されるとは誰も想像しなかっただろう。
昨年は7月にプロ野球史上最速でマジックを点灯させ、村上宗隆(九州学院高~17年①)の日本人最多の56本塁打、そして史上最年少の三冠王と明るい話題で持ちきりだったが、今シーズンは優勝争いに係わることもなく、個人の活躍もない。むしろ最近ではリーグ最多の与死球数で悪目立ちし、ダーティーなイメージすらついてしまい、早くも来季に向けて課題は多い。
【9/10現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 127試合 50勝74敗3分⑤
防御率…3.70⑥(3.52④)打率….240⑤(.250③)
本塁打…105②(174①)盗塁58③(69②)
得点…472④(619①)失点…508⑥(566⑤)
●チーム防御率も打率も低迷…負け始めたら止まらず3連覇の夢が潰える
今季は開幕5連勝と絶好のスタートを切り、序盤の10試合を終えて7勝2敗1分で3連覇の機運すらあった。ただ、直後の4連敗からチームが低迷し、6連敗が1度、7連敗が2度(うち1度は引き分けを挟む)あり、最長は引き分けを挟んで12連敗で、負け始めたら止まらかった。
チーム打率はリーグ5位ながらそれほど悪くない。犠打が一番多く、慎重な攻めが目立つが、出塁率も長打率のリーグ3位で得点能力が低い訳ではない。要因はチーム防御率最下位の投手陣で、失点数が500を超えているのはヤクルトだけた。元々、軸になる先発投手が小川泰弘(創価大~12年②)とサイスニードしかおらず、今季は新外国人のピーターズがローテーションを守ってるいるが、先発の層の薄さは連覇の時から変わらない。
今季の投手陣不振の最大の要因は、クローザーのマクガフのMLB移籍だが、ここまで悪くなるとは思わなかった。マクガフのあとは田口麗斗(広島新庄高~13年巨③)がクローザーを務め、田口は防御率1点台で30セーブを挙げており、田口まで繋げれば何とかなるが、その形ができていない。
勤続疲労もあるのか、セットアッパーの清水は防御率3点台で7敗、大西と石山泰稚(ヤマハ~12年①)も防御率4点台で、石山も6敗を喫している。2年連続50試合登板の今野龍太(岩出山高~13年楽⑨)も、年々成績が落ちてきており、今季は25試合のみで、経験のあるリリーフ陣の不振が際立つ。
打の要因は村上の不振と言え、昨年終盤、WBCでの不調が懸念されたが、その不安が的中してしまった。本塁打は昨年の約半分の26本、打率も.249では打点も上がらず、今季は無冠に終わりそうだ。また、昨年リーグナンバーワンの得点をたたき出した打線は、開幕に塩見泰隆(JX-ENEOS~17年④)や山崎晃大朗(日大~15年⑤)が間に合わず、ベストメンバーをなかなか組めなかった。
不振のなか、目立った補強もなく、投手力強化でDeNAから阪口晧亮(北海高~17年③)を獲得したのは将来性もあり良かったが、交換要員が貴重な右打ち内野手の西浦直亨(法大~13年②)であれば、もう少し違うトレードも出来たのではと思う。
●ここ10年の1位指名は即戦力投手に偏重…今季は投打の課題が浮き彫りに
直近5年の1位指名はすべて投手で、過去10年でも、18年の村上を除いて全員が投手指名だ。しかもその9名のうち高校生は奥川恭伸(星稜高~19年①)と16年の寺島成輝(退団)のみで、大学生・社会人の即戦力投手への偏重が強い。
ただ、今季先発ローテーション入りが確実視された吉村貢司郎(東芝~22年①)は2勝止まり、昨年8勝の原樹里(東洋大~15年①)、期待の山下輝(法大~21年①)と奥川も今季は一軍での登板がない。リリーフの清水と木澤の活躍で辛うじて面目を保っているが、思うような成果は出ていない。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
18年②…清水 昇(国学院大/①・投手)
19年⑥…大西広樹(大商大/④・投手)長岡秀樹(八千代松陰高/⑤・内野手)
20年⑥…木澤尚文(慶大/①・投手)
21年①…丸山和郁(明大/①・外野手)
22年①…なし
↓↓
【ヤクルトの補強ポイント】
投 手…即戦力の先発とリリーフ、大学生左腕(年齢構成)
捕 手…高校生または大学生(左打ちならベスト)
内野手…将来のクリーンアップ候補、社会人の右打ち
外野手…高校生は必須プラス大学生
チームが上手くいっているときは、良いところが目立つが、悪くなると悪いほうに目が向いてしまう。今季で言えば先発投手が不足するなか、チャンスを掴んだのは小澤怜史(日大三島高~15年ソ②)くらいで、先発の底上げは進んでいない。
打者も同様で、塩見や山崎が出場試合数を大きく減らし、山田哲人(履正社高~10年①)も成績が上がらないなか、内山壮真(星稜高~20年③)や濱田太貴(明豊高~18年④)の活躍はあったが、レギュラーを獲得するまでには至っていない。
今年のドラフトは課題が多く、投手陣の再編は最優先課題であり、捕手は支配下登録人数が5名しかおらず補強が必須で、外野手も19歳~22歳に育成選手を含めても選手がおらず年齢構成が悪い。18年の8名指名を最後に、ここ4年は5~6名の指名になっているが、豊作と言われる今年は指名人数が増えるかもしれない。
☆投手~即戦力の先発とリリーフ、大学生左腕(年齢構成)
今季も規定投球回数を超えているのは小川のみで、大型連敗を止めるエースの不在が続いている。侍ジャパン選出の高橋奎二(龍谷大平安高~15年③)は4勝、ベテランの石川雅規(青学大~01年自)が2勝、高梨裕稔(山梨学院大~13年日④)は未勝利で、今季はローテーションを組むのも一苦労だった。
リリーフは星が41試合、左腕の山本大貴(三菱重工岡崎~17年ロ③)が39試合と、ともにキャリアハイの登板数になり、明るい兆しも見られた。ただ、クローザーの田口はFA移籍の可能性もあり、2年連続でクローザー移籍となると厳しい。
年齢構成は、ルーキー吉村に移籍の阪口、現役ドラフトで成田翔(秋田商高~15年ロ③)も加入し、24歳~26歳に17名(38名中)も選手がおり、歪な構成になっている。ここを直ぐに是正することは難しく、空白の年齢を着実に埋めていきたい。
今年は大学生から細野晴希(東洋大)と西舘勇飛(中大)、上田大河(大商大)、高校生は東松快征(享栄高)と前田悠伍(大阪桐蔭高)の両左腕を1位候補でリストアップしている。
チーム状況からすると左腕の細野が補強ポイントにマッチするが、西舘勇と上田は安定感に長けており、現時点での総合力では細野より即戦力に近い。一方、長い目でチーム再編を目指すなら、大学生・社会人偏重を見直し、東松と前田の指名もアリだ。
このほか、大学生の即戦力では常廣羽也斗と下村海翔(ともに青学大)に西舘昂汰(専大)、左腕の武内夏暉(国学院大)は1位候補にも引けをとらず、西舘昂も安定感に長けたイニングイーター。草加勝(亜大)は制球力に優れ、冨士隼人(平成国際大)と尾崎完太(法大)は奪三振率が高い。谷脇弘起(立命大)はストレートが150キロを超え、中川響(城西大)と小柄な左腕の古川風勝(創価大)もストレートの質の高さが評価されている。
社会人では、ゲームメークに長けた竹田祐(三菱重工ウエスト)、古田島成龍(日本通運)は制球力が改善され抑えの適性もある。川船龍星(日本通運)は先発とリリーフのどちらでも結果を残し、昨年のU-23でクローザーを務めた権田琉成(TDK)はウィークポイントを埋める。
高校生では、他球団もマークしている逸材の坂井陽翔(滝川二高)に木村優人(霞ヶ浦高)は上位で消える可能性が高く、平野大地(専大松戸高)に日當直喜(東海大菅生高)、杉原望来(京都国際高)が上位候補に挙がる。
素材型では、篠崎国忠(修徳高)と清水麻成(樹徳高)は長身の大型右腕で、2年生から注目の細野龍之介(札幌新陽高)も最速145キロを超え、野川新(綾羽高)もポテンシャルが高さが評価されている。
☆捕手~高校生または大学生(左打ちならベスト)
正捕手に中村悠平(福井商高~08年③)を据え、25歳の古賀優大(明徳義塾高~16年⑤)と21歳の内山の出番も増え若手は育っているが、支配下5名は少ない。ただ、育成選手で松井聖(BC信濃~20年育③)と橋本星哉(中央学院大~22年育①)がおり、どちらかが支配下登録されるのでれば、指名は高校生で良い。
堀柊那(報徳学園高)と進藤勇也(上武大)をリストアップしているが、捕手の候補が多くなく上位で消える可能性が高い。鈴木叶(常葉菊川高)や斎藤陽貴(昌平高)、U-18選出の寺地隆成(明徳義塾高)は左打ちで下位や育成でも指名したい。
☆内野手~将来のクリーンアップ候補、社会人の右打ち
内野は今季も一塁にオスナ、二塁に山田、三塁に村上、遊撃に長岡とレギュラーが固定され、武岡龍世(八戸学院光星高~19年⑥)と元山飛優(東北福祉大~20年④)がバックアップを務めている。
村上が23歳、長岡と武岡も22歳と若く、これからさらに伸びる選手で、山田の不振が気になるが、まだ31歳で老け込む歳ではなく補強を急ぐ必要はない。ただ、シーズン前に三ツ俣大樹(修徳高~10年オ②)を獲得したように、右打ちの選手が欲しい。また、敢えて補強するなら、内野の長距離タイプが村上と北村恵吾(中大~22年⑤)しかおらず、将来のクリーンアップ候補を獲得したい。
高校生では、佐々木麟太郎(花巻東高)を筆頭に、真鍋慧(広陵高)に佐倉侠史朗(九州l国際大高)、森田大翔(履正社高)、百崎蒼生(東海大熊本星翔高)をリストアップしている。村上と佐々木が同じユニフォームを着るなど、想像するだけでワクワクするが、個人的には右打ちの森田が補強ポイントに一番フィットすると思う。
右打ちの社会人(大卒2年目)と書いたのは年齢構成で、23歳の北村から31歳の山田まで空白だ。内野のユーティリティ黒川貴章(セガサミー)はお薦めの選手だ。
☆外野手~高校生は必須プラス大学生
外野手はとにかく課題が多い。支配下は8名は少なく、30歳の塩見と山崎、24歳の丸山和と並木秀尊(独協大~20年⑤)、23歳の濱田とルーキー澤井廉(中京大~22年③)が同い年で年齢構成が極めて悪い。
今年は1位候補で度会隆輝(ENEOS)が挙がり、高校時代は巧打者だったが社会人に進み中距離打者に成長し、父が元ヤクルトの選手という縁故は関係なく補強ポイントに合う。
高校生は候補が少なく、長打力では明瀬諒介(鹿児島城西高)、西綾太(履正社高)走攻守三拍子揃っている。大学生では桃谷惟吹(立命大)は広角に打てる巧打者で、度会と同じ高卒3年目の大西蓮(JR東日本東北)は確実性も増した長距離ヒッターだ。
●課題が山積するなか、全体的に投手の指名を多めになる予想
今年は大学生投手か、度会隆輝のどちらかになると思う。大学生ならチーム的には西舘勇飛や上田大河がマッチし、西舘勇も上田は先発、リリーフも適性があり、万が一田口が移籍した際の穴を埋めることもできる。
また、今年は高校生外野手の候補が少ないため、投手力が課題のなか、高卒3年目の度会を1位指名するのは年齢構成的も良い。一方で高校生野手は将来のクリーンアップ候補を獲得したい。佐々木麟太郎は1位で消えると思うが、真鍋慧や佐倉侠史朗、森田大翔のいずれかは2~3位で獲得しておきたい。
【指名シミュレーション】
(Aパターン) (Bパターン)
1位~西舘勇飛(中大・投手) 度会隆輝(ENEOS・外野手)
3位~佐倉侠史朗(九州国際大高・内野手)森田大翔(履正社高・内野手)
5位~川船龍星(日本通運・投手) 尾崎完太(法大・投手)
6位~桃谷惟吹(立命大・外野手) 野川 新(綾羽高・投手)
おススメは西舘昂汰(専大)で、ゾーンに投げ込める制球力と豊富なスタミナで長いイニングを投げられる。先輩の菊地吏玖(22年~ロッテ1位)よりも上との評価もあり、いきなり先発ローテーションに喰いこむことも決して夢ではない。