29年振りのセ・リーグ連覇、チーム初の2年連続日本一を狙ったシーズンは、4月こそ一進一退の流れが続いたが、主砲・村上宗隆(九州学院高~17年①)の状態と呼応するかのように、5月から快進撃が始まり、6月は交流戦を制し、月間19勝4敗で圧倒すると7月2日にマジック53が点灯した。
しかし「好事魔多し」ではないが、直後のコロナで選手・コーチが大量離脱すると、チームは失速し、一時はDeNAに4ゲーム差まで迫られた。ただ、直接対決を3連勝で退けると、そのままフィニッシュしセ・リーグ連覇を果たした。日本シリーズでは残念ながらオリックスに敗れたが、チーム一丸で勝ち取った連覇だった。
その原動力が村上で、チーム最多の141試合に出場、3ケ月連続月間MVP、史上最年少で3冠王を獲得、日本人最多本塁打などまさに大黒柱と呼べる活躍だった。
【過去5年のチーム成績】
22年 1位 80勝59敗 4分 .250 174本 69個 619点 3.52 566点
21年 1位 73勝52敗18分 .254 142本 70個 625点 3.48 531点
20年 6位 41勝69敗10分 .242 114本 74個 468点 4.61 589点
19年 6位 59勝82敗 2分 .244 167本 62個 656点 4.78 739点
18年 2位 75勝66敗 2分 .266 135本 68個 658点 4.13 665点
【過去5年のドラフトの主戦力】
21年~丸山和郁(外野手・明大②)
20年~なし
18年~清水 昇(投手~国学院大①)
17年~村上宗隆(内野手~九州学院高①)塩見泰隆(外野手~JX-ENEOS④)
最近のヤクルトのドラフトは少数精鋭で、19年から5~6名の獲得に留まり、育成指名も同4年で6名と少なく、主力と呼べる人数は少ないが、質がずば抜けている。
三冠王の村上に、不動の一番の塩見、ブレイク候補だった長岡は一気に遊撃のレギュラーを獲得した。清水は高津監督のもとリリーフで素質が開花し、3年で108ホールドとWBC代表に選ばれなかったのが不思議なくらいで、いずれもリーグを代表する選手に成長している。
数字だけを見ると、投手ではリリーフ起用がハマった木澤尚文(慶大~20年①)に、同じリリーバーの大西広樹(大商大~19年④)、エース候補の奥川恭伸(星綾高~19年①)も控える。野手では、捕手の内山壮真(星稜高~20年②)に、このまま長岡には負けていられない元山飛優(東北福祉大~20年④)も及第点の成績を残している。
また、村上に長岡、奥川に見られるように高校生選手が主力に成長している育成力も評価できる。WBCメンバーでも29名中(ヌートバーを除く)17名が高卒選手で、ヤクルトから選出された村上、高橋奎二(龍谷大平安高~15年③)に中村悠平(福井商高~08年③)、山田哲人(履正社高~10年①)の全員が高卒で、高校生選手の輩出の多いチームはスケール感があり、そして強い。
●投手陣~12球団ワースト防御率の先発陣、マクガフの抜けたリリーフ陣再編が課題
リーグ連覇を支えたのは鉄壁とも言えるリリーフ陣で、先発防御率3.84に対し、リリーフは3.02と安定感抜群だった。マクガフが38セーブを挙げ、清水は28ホールド、田口麗斗(広島新庄高~13年巨③)18ホールド、コロナで途中離脱した石山泰稚(ヤマハ~12年①)も16ホールドを上げ、防御率はともに1点台の好成績を残した。また、2年目の木澤が、プロ初登板を経てチーム最多の55試合に登板し、防御率2.94で勝ちパターンに加わった。
一昨年の防御率2点台から後退したが、今野龍太(岩出山高~13年楽⑨)に大西、梅野雄吾(九産大九産高~16年③)もフル回転し、後半は久保拓真(九共大~18年⑦)が田口に次ぐリリーフ左腕で台頭し、層が益々厚くなった。
先発は、2年連続で2桁勝利の選手はいなかったが、小川泰弘(創価大~12年②)が3年振りに規定投球回数をクリアし、サイスニードに原樹里(東洋大~15年①)、高梨裕稔(山梨学院大~13年日④)の中堅が活躍し、コロナ離脱が痛かったが、高橋も自己最多8勝、防御率2点台の好成績を残し、エース誕生を予感させるシーズンになった。
一方で奥川が右肘痛で1試合登板、期待の金久保優斗(東海大市原望洋高~17年⑤)も3試合登板に留まり、若手の飛躍としては物足りないシーズンになった。
【22年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア ※は新加入選手
・先発…☆小川泰弘(153回1/3)サイスニード(132回1/3)原 樹里(107回2/3)
高梨裕稔(102回2/3)高橋奎二(102回2/3) 石川雅規(84回)
・救援…木澤尚文(55試合)マクガフ (55試合)今野龍太(51試合)
清水 昇(50試合)田口麗斗(45試合)大西広樹(43試合)
梅野雄吾(41試合)石山泰稚(38試合)コール(34試合)
【今年度の予想】
・先発…原 樹里 石川雅規 ※吉村貢司郎 小川泰弘 高橋奎二 サイスニード
(高梨裕稔 山下 輝 奥川恭伸 竹山日向 ※ピーターズ ※エスピナル)
・中継…石山泰稚 木澤尚文 田口麗斗 梅野雄吾 大西広樹 今野龍太
(小澤怜史 ※成田 翔 ※尾仲祐哉 市川悠太 久保拓真 大下佑馬)
・抑え…清水 昇(※ケラ)
今シーズンはマクガフが退団し、リリーフ陣の再編が優先課題になる。クローザー候補は清水と石山、新外国人のケラで開幕当初は流動的になることが予想される。実績十分の田口に梅野、今野、大西と層は厚く、実質2年目の木澤や後半勝ちパターンを任せられた久保のさらなる飛躍が期待される。
このほかロッテから加入した成田翔(秋田商高~15年ロ③)は左打者に強く、同じく阪神から移籍の尾仲祐哉(広島経大~15年D③)はファームで好成績を残している。2年目の柴田大地(日本通運~21年③)も、不本意な昨シーズンからの挽回を目指す。
先発は規定投球回数を基準に考えれば、小川と高橋、25歳の即戦力ルーキー吉村貢司郎(東芝~22年①)が軸になる。吉村はオープン戦でも好投しており、本人の目標通り、新人王の最有力候補を言える。このほか、原に高梨が有力で、大ベテランの石川雅規(青学大~01年自)はあと17勝に迫った200勝を目指す。若手では日本シリーズにも先発登板した山下輝(法大~21年①)に、今年のキャンプで好投している竹山日向(享栄高~21年⑤)が楽しみな存在だ。
外国人選手枠争いにも注目で、実績ならサイスニードだが、ピーターズはMLB通算6年で34試合に先発した左腕、エスピナルは150キロを超えるストレートでマイナーでの実績が高く、リリーフのケラと合わせて、高津監督の起用法にも注目だ。
●野手陣~三冠王・村上が打線の中心で攻守に層は厚い。塩見の不在をどう乗り切るか
2年連続で12球団ナンバーワンの得点数をたたき出した打線は、村上の活躍がどうしても目立つが、1~8番までどこからでも点数が獲れた。一番の塩見は16本塁打に24盗塁とパンチ力と機動力を兼ね備え、2番の山崎晃太朗(日大~15年⑤)もキャリアハイの成績を残し、1~2番コンビが打って好機を広げる形が機能した。
さらに村上のあとを打つオスナとサンタナも機能し、オスナは20本塁打で打点もチーム2番目の74打点、右ひざの手術で3ケ月離脱したサンタナも15本塁打と打ちまくった。また、主に6番に入った中村は小技を利かし貴重なつなぎ役を務めた。
若手の活躍も目立ち、特に遊撃のレギュラーを獲得した長岡は、8番でのびのびとプレーして9本塁打、長岡が本塁打を打つと負けまい不敗神話まで生まれ、守備でも山田とともにゴールデングラブ賞を獲得する大ブレイクを見せた。
内山は得意の打撃以外にも成長を見せ、2番手捕手として36試合でスタメンを務めた。サンタナ不在の際は、濱田太貴(明豊高~18年④)と太田賢吾(川越工高~14年日⑧)が前半線穴を埋めた、後半戦はルーキー丸山が守備固めで出番を増やし、9月25日には自身のサヨナラ打で優勝を決めた。
一方で不安なのは、3番を打った山田が自身ワーストの打率.243で不振で、41歳の青木宣親(早大~03年④)もさすがに衰えが目立ち、課題も残っている。
【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入
捕 手…中村悠平(86/307)内山壮真(74/197)
内野手…☆村上宗隆(141/612)☆長岡秀樹(130/548)☆山田哲人(130/540)
☆オスナ(138/529)宮本 丈(66/134)太田賢吾(37/131)
外野手…☆塩見泰隆(130/567)山崎晃太朗(118/378)青木宣親(81/256)
サンタナ(60/215)濱田太貴(73/148)丸山和郁(71/97)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】
1)塩見泰隆⑧ 1)塩見泰隆⑧
2)青木宣親⑦ 2)山崎晃太朗⑨
4)村上宗隆⑤ 4)村上宗隆⑤
6)長岡秀樹⑥ 6)中村悠平②
7)オスナ③ 7)オスナ③
8)古賀優大② 8)長岡秀樹⑥
9)小川泰弘① 9)小川泰弘①
【今シーズンの開幕一軍候補】
内野手…山田哲人 川端慎吾 長岡秀樹 オスナ 宮本 丈 太田賢吾
村上宗隆 ※三ツ俣大樹
(奥村展征 元山飛優 荒木貴裕 赤羽由紘)
(塩見泰隆 山崎晃大朗 ※澤井 廉)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)丸山和郁⑧ 捕 手)中村悠平(内山壮真)
4)村上宗隆⑤ 三塁手)村上宗隆
5)サンタナ⑨ 遊撃手)長岡秀樹(三ツ俣大樹)
7)オスナ③ 中堅手)丸山和郁(濱田太貴)
9)小川泰弘①
今季、厳しいのが開幕に塩見と山崎がともにコンディション不良で間に合わない。打順も1~2番、左翼と中堅の守備も鉄壁なコンビが揃って不在をどう乗り切るかがポイントになる。候補は丸山と濱田、太田、ベテランの青木を加えた布陣になる。
丸山に濱田、太田ともに守備には不安がなく、課題は打撃だ。打力なら濱田と太田が有力だが、濱田はパンチ力があるが1~2番タイプではない。内外野守れる太田も一昨年ファームで首位打者を獲得しているが、なかなか一軍では結果を残せていない。機動力なら丸山で、昨年後半に見せた勝負強い打撃でチャンスを掴みたい。
残りのポジションはレギュラーが決まっており、村上を軸に打順を組むことになる。山田が復調し、オスナとサンタナが村上の後ろに控えているのは相手チームにはプレッシャーになり、村上との勝負を避けることが出来ない。ここに勝負強い長岡や中村が控える打線は破壊力抜群だ。
さらに成長株の内山は代打要員としても使え、代打の切り札・川端慎吾(市和歌山商高~05年③)の存在は心強い。並木秀尊(独協大~20年⑤)は球界屈指のスピードスター、宮本丈(奈良学園大~17年⑥)は内外野守れ、並木とともに機動力も活かせる。
守備面ではともに二遊間を守る元山と奥村展征(日大山形高~13年巨④)、中日から加入した三ツ俣大樹(修徳高~10年オ②)も内野はどこでも守れ、捕手の松本直樹(西濃運輸~17年⑦)は球界屈指の強肩を誇る。攻守で様々な局面で使える選手が多く、量的にも質的にも控えの層は厚く、塩見と山崎が合流すれば盤石の布陣になる。
敢えて物足りない部分を探すとすれば、澤井簾(中京大~22年②)と北村恵吾(中大~22年⑤)など、即戦力ルーキーのアピール不足くらいか…。
●チーム初の3連覇を狙うシーズン!課題は投手陣で新戦力の台頭に期待
期待の選手は、投手はルーキーの吉村貢司郎で大学時代と社会人2年目にドラフトの有力選手も指名漏れした経験を持つ苦労人で、昨季のドラフトで1位指名まで上り詰めた。最速153キロのストレートに多彩な変化球を操り、ゲームメークにも長けた正真正銘の即戦力で、新人王の最右翼と言える。強力打線を背景に2桁勝利も夢ではなく、先発投手不足チームに貴重なピースが加わった。
野手は長岡秀樹で、昨年開幕スタメンに名を連ねたことで驚いたが、そのまま村上に次ぐ139試合に、すべて遊撃で出場を果たした。特に、前半戦は守備でミスも目立ったが、高津監督の我慢の起用に応え、リーグトップの守備率でゴールデングラブ賞を獲得し、打撃でも打率.241で9本塁打とパンチ力も見せ、WBCでは源田壮亮の代替メンバーで名前が挙がるなど、実質2年目(4年目)のさらなる飛躍に注目したい。
今季はチーム初のリーグ3連覇を狙うが、課題は投手陣になる。特に先発投手陣は、昨季12球団最低の防御率で、7~8名で回す“ゆとりローテーション”も悪くないが、そろそろシーズン通して任せる選手が欲しい。そのカギを握るのが吉村や新外国人の新戦力で、チームの浮沈を左右するといっても良い。