ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆ヤクルト~充実した先発陣に、隙なく1点を奪う打線で連覇を目指す

 史上初、両リーグとも前年最下位チームが優勝したが、オリックスを上位に予想した声はあったものの、ヤクルトをAクラス予想していたのはファン以外は記憶にない。開幕前はノーマーク、それ以上にシーズン後半、阪神と巨人の三つ巴になったが、真っ先に脱落すると思われていたなか、見事「全員野球」でペナントを勝ち取った。

 最初から良かった訳ではない。開幕時はコロナ陽性で主力を欠くなか、開幕は阪神にいきなり3連敗…予想通りと言えばそれまでのスタートになった。しかし粘り強く4月上旬に勝率5割に戻すと、交流戦も勝ち越し前半戦を3位で終えた。

 そして勝負の後半戦。阪神との首位攻防戦前に高津監督が発した「絶対大丈夫」を合言葉に勝ち越した。そして分岐点になったは9月13日の中日戦で、審判の判定ミスもあり惜敗すると、そこからチームは一致団結。翌日から日替わりヒーローが生まれる展開で、13戦負けなしの9連勝で抜け出すと、10月26日に戦前の予想を覆し高津監督が宙に舞った。優勝争いの終盤、観ていてもベンチの雰囲気が良く、まさしくチーム一丸で勝ち取ったペナントだった。 

 日本シリーズでも、大方の予想はオリックス優位で、ヤクルト優勝を予想していたのは谷繁氏くらいしか記憶がない。初戦に嫌なサヨナラ負けを喫したが、2戦目の高橋奎二(龍谷大平安高~15年③)が完封勝利で流れを呼び戻すと、6戦中5戦が1点差ゲームの歴史的大接戦を制し、20年振りの日本一に輝いた。

 野村ID野球の元でプレーをし、メジャーや独立リーグなど様々な経験を積むなかで、高津監督が目指した「次の1点を奪い、1点を防ぐ」野球が結実した日本一だった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 21年 1位 73勝52敗18分 .254  142本   70個  625点  3.48  531点

 20年 6位 41勝69敗10分    .242     114本  74個  468点  4.61  589点

 19年 6位 59勝82敗  2分 .244  167本   62個  656点  4.78  739点

 18年 2位 75勝66敗  2分 .266  135本   68個  658点  4.13  665点

 17年 6位 45勝96敗  2分 .234    95本   50個  473点  4.21  653点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~元山飛優(内野手東北福祉大④)

 19年~奥川恭伸(投手~星稜高①)

 18年~清水 昇(投手~国学院大①)

 17年~村上宗隆(内野手九州学院高①)塩見泰隆(外野手~JX-ENEOS④)

 16年~梅野雄吾(投手・九産大九州高③) 

 実は昨年までは、過去5年のドラフトはお世辞にも成功と言えず、投手では梅野と清水、野手では村上しか主力と呼べる選手はいなかった。(※ただ、村上1人でも大成功と言えるが…)

 しかし昨季は、奥川が中10日のゆとりローテでも、チーム最多タイの9勝を上げ、日本シリーズでも初戦に先発して山本由伸(オリックス)と投げ合うなど、若きエース誕生を予感させるシーズンになった。野手でもポテンシャルが高く、毎年期待の選手で名前の挙がっていた塩見が結果を残し、ルーキー元山も西浦直亨(法大~13年②)と正遊撃手を争った。

 さらに大西広樹(大商大~19年④)や坂本光士郎(新日鉄住金広畑~18年④)、大下佑馬(三菱重工広島~17年②)が、昨季リリーフでそれぞれキャリアハイの成績を残した。ファームでも長岡秀樹(八千代松陰高~19年⑤)は打率3位、武岡龍世(八戸学院光星高~19年⑥)は打率4位の好成績を残し、着実にチームの土台が出来つつある。

●投手陣~奥川と高橋がさらに一皮むければ先発陣は充実、クローザー争いにも注目

  昨年は開幕投手の小川泰弘(創価大~12年②)と、開幕直前にトレードで加入した田口麗斗(広島新庄高~13年巨③)が前半戦を支え、後半戦は奥川と高橋が左右のWエースと呼ばれても遜色ない活躍を見せた。

 日本シリーズの6戦すべて違う先発投手だったように、小川以外は登板間隔を空けたゆとりローテで、ベテランの石川雅規青学大~01年自)をはじめ、スアレス(退団)とサイスニード、高梨裕稔(山梨学院大~13年日④)が10試合以上に先発し、ともに防御率2点台の原樹里(東洋大~15年①)と金久保優斗(東海大市原望洋高~17年⑤)も加えた10投手でローテーションを回した。

 リリーフ陣は、当初クローザーを務めていた石山泰稚ヤマハ~12年①)が不振に陥ると、マクガフが代役を務め66試合で31セーブ、14ホールドと大車輪の活躍を見せた。そのマクガフに繋ぐゼットアッパー清水は、シーズン半分の72試合に登板し、日本新記録となる50ホールドを上げ、球界を代表するセットアッパーに成長した。

 清水からマクガフに繋ぐ形が出来ると、石山も徐々に復調し、後半からは田口がリリーフに加わった。今野龍太(岩出山高~13年楽⑨)は、役割が固定されないなか何度もピンチの場面を救い、64試合登板で被本塁打1は特筆もので、今野と大西、梅野は防御率2点台の好成績を上げた。

 結果、4点台のチーム防御率がリーグ3位の3.38まで改善し、これまでの「打高投低」から抜け出し、日本シリーズでも見せた守り勝つ野球が出来るようになった。

【21年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア ※は新加入選手

 ・先発…小川泰弘(128回1/3)奥川恭伸(105回)田口麗斗(100回2/3)

       石川雅規(82回)高橋奎二(78回1/3)スアレス(77回)

       サイスニード(68回2/3)高梨裕稔(62回)

 ・救援…清水 昇(72試合)マクガフ (66試合)今野龍太(64試合)

       石山泰稚(58試合)坂本光士郎(36試合)大西広樹(33試合)

       大下佑馬(30試合)

【今年度の予想】

 ・先発…奥川恭伸 高梨裕稔 石川雅規 小川泰弘 高橋奎二 サイスニード

     ※山下 輝 原 樹里 木澤尚文 金久保優斗 ※スアレス ※コール

 ・中継…清水 昇 坂本光士郎 田口麗斗 大西広樹 今野龍太

       星 知弥 吉田大喜 梅野雄吾 ※柴田大地 大下佑馬

 ・抑え…石山泰稚 マクガフ

 先発は2年連続で開幕投手務める小川、成長著しい奥川と高橋を軸にして、あとは昨年のように登板間隔を空けての起用になるだろう。日本シリーズでも好投した原と高梨、後半戦だけで5勝を上げたサイスニードが控え、金久保もローテーションに入ってくる。

 また、大ベテラン42歳の石川は、昨年は史上初の大卒投手20年連続勝利を上げ、これまた史上3人目の大卒投手3000回登板(通算でも28人目)まで残り47イニングまで迫っている。

 新加入ではルーキー山下輝(法大~21年①)は最速152キロの本格派左腕で、開幕は二軍スタートになるが、満を持しての一軍デビューを待ちたい。新外国人のスアレスは、昨年韓国リーグで10勝を上げ、メジャーでも1年間ローテーション投手を務めた技巧派左腕。コールもメジャー通算109試合登板の実力派で、多彩な変化球を操り、ともに先発の層をさらに厚くした。

 リリーフはクローザーを誰にするかで、石山とマクガフのどちらになると思うが、ともに安定感が増せば、セットアッパーの清水を挟み、盤石の勝ちパターンを形成できる。右で今野と大西、大下がおり、左は田口、坂本と左右のバランスも悪くない。

 また、梅野や星知弥(明大~16年②)は勝ちパターンに喰い込む投球を見せたいし、ルーキーの柴田大地(日本通運~21年③)は、最速156キロの直球で奪三振率が高く、先発同様に投手陣の底上げが進んでいる。

●野手陣~「繋がり」もあり、「一発長打」もある隙なく1点を獲れる打線

 昨年はチーム打率リーグ3位、本塁打と盗塁は2位、そして626得点は12球団ナンバーワンで、唯一600点を超えた。村上が最多本塁打のタイトルを獲得した以外、タイトルホルダーも3割打者もいないが、四球数はリーグで唯一500を超え、出塁率 .333は12球団トップの数字になる。

 昨年は打順が固定され、1番の塩見は、打率は.278ながら出塁率は.357、得点圏打率は.325とチャンスメーカーとポイントゲッター両方の役割を果たした。2番の青木宣親早大~03年④)は勝負強いバッティングを見せ、そして3番・山田哲人履正社高~10年①)と4番の村上は30本塁打、100打点以上をともに記録し、5番オスナと続く打線がハマった。下位打線でも6番の中村悠平福井商高~08年③)はチームナンバーワンの打率を残し、7番サンタナ規定打席未満ながら打率.290、19本塁打、62打点と繋がりがある一方で、一発長打もある打線が機能した。

 また脇役の活躍も素晴らしく、特に代打の切り札の川端慎吾(市和歌山商高~05年③)は、打率.372、得点圏打率は脅威の4割超えで、日本シリーズ第6戦で日本一を決める決勝打を打ったのは記憶に新しい。

 荒木貴裕(近大~09年③)は内野ならどこでも守れるユーティリティプレーヤーとしてキャリアハイの100試合に出場し、渡邊大樹(専大松戸高~15年⑥)も外野の守備固めと代走でチームに欠かせない選手となった。宮本丈(奈良学園大~17年⑥)も守備固めで内外野を守り、代走や代打でも少ないチャンスを活かし一軍に定着、23歳の古賀優大(明徳義塾高~16年⑤)が、中村に続く第二の捕手のポジションを獲得した。

 ファームでは太田賢吾(川越工高~14年日⑧)が首位打者奥村展征日大山形高~13年巨④)、長岡、武岡と1位から4位までヤクルト勢が独占した。また、並木秀尊(独協大~20年⑤)はイースタン2位の20盗塁を記録し、一軍でも4盗塁(失敗ゼロ)で自慢の快足をアピールした。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆中村悠平(123/445)古賀優大(54/125)

 内野手…☆村上宗隆(143/615)☆山田哲人(137/581)☆オスナ(120/495)

     西浦直亨(92/276)元山飛優(97/235)川端慎吾(91/93)

     荒木貴裕(100/67)

 外野手…☆塩見泰隆(140/534)☆青木宣親(122/501)サンタナ(116/418)

     山崎晃太朗(114/245)渡邊大樹(94/42) 

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)坂口智隆⑨      1)塩見泰隆⑧      

  2)青木宣親⑦      2)青木宣親⑦        

  3)山田哲人④      3)山田哲人④  

  4)村上宗隆⑤      4)村上宗隆③      

  5)内川聖一③      5)オスナ③   

  6)塩見泰隆⑧      6)中村悠平②      

  7)西浦直亨⑥      7)サンタナ⑨      

  8)中村悠平②      8)西浦直亨

  9)小川泰弘①      9)小川泰弘①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…中村悠平 内山壮真 嶋 基宏 古賀優大(西田明央)

 内野手山田哲人 西浦直亨 川端慎吾 内川聖一 荒木貴裕 オスナ 村上宗隆

      (奥村展征 宮本 丈 太田賢吾 長岡秀樹 松本 友 吉田大成)

 外野手…塩見泰隆 青木宣親 サンタナ 山崎晃大朗 渡邊大樹 

    (並木秀尊 ※丸山和郁 坂口智隆 濱田太貴)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)塩見泰隆⑧      捕 手)中村悠平(古賀優大) 

  2)青木宣親⑨      一塁手)オスナ(内川聖一

  3)山田哲人④      二塁手山田哲人

  4)村上宗隆⑤      三塁手)村上宗隆

  5)サンタナ⑨      遊撃手)元山飛優(西浦直亨

  6)中村悠平②      左翼手青木宣親(山崎晃大朗)

  7)オスナ③       中堅手)塩見泰隆

  8)元山飛優⑥      右翼手サンタナ坂口智隆

  9)小川泰弘①

 レギュラーは遊撃以外はすべて埋まっている。その遊撃は西浦と元山の争いが軸になる。実績でいえば西浦だが、正遊撃手候補を言われ既に31歳。若手への切り替えに舵を切ってよいころで、元山は守備に定評があり、打撃でアピールできればレギュラーも見えてくる。また、長岡と吉田大成(明治安田生命~18年⑧)も昨年スタメンを経験しており、本命不在のレギュラー争いに参戦したい。

 一方でレギュラーは確立されているが、一塁のオスナと左翼の青木、中堅の塩見には不安要素がある。まずオスナだが、昨季は後半戦に相手に攻略され始め、2年目でどう克服するかが課題になる。ただ、オスナの代わりはベテランの内川聖一(大分工高~00年横①)や坂口智隆(神戸国際大高~02年近①)、荒木もおり最悪対応はできる。

 厳しいのが外野で、青木は今季40歳を迎える年齢の心配、塩見は昨年の活躍がフロックではないことを証明するシーズンになる。万が一、青木と塩見が低迷するようだと攻撃力は一気に落ちる。そうなると外野ならどこでも守れる山崎晃太朗(日大~15年⑤)や昨季ファーム首位打者の太田、俊足堅守の宮本、ルーキーの丸山和郁(明大~21年②)が候補になる。塩見はともかく、青木は年齢から後継者探しは必須で、青木の代わりが、結局38歳の坂口になるようでは本当に厳しく、中堅若手のアピールに期待したい。

 その若手で楽しみなのは、捕手の古賀と内山壮真(星稜高~20年③)の2人で、古賀は昨季優勝のかかった後半戦でもスタメンマスクを被り、リードと守備は評価されており、打撃が課題になる。一方、内山は2年目ながら打撃センスが素晴らしく、高校時代は内野も守っていたこともあり、栗原(ソフトバンク)や坂倉(広島)のように打撃で出番を増やしたい。

 ただ、先日ある番組で高津監督が、今季レギュラーを獲得できるほどの若手ブレイク候補はいないとコメントしており、野手の最大の課題は若手の底上げになる。

無欲の優勝から、今季は追われる立場に。チーム2度目の連覇に視界は良好

 期待の選手は、連覇を狙うキーマンを上げたい。投手は高橋奎二で、昨年の日本シリーズの好投が自信になり、今季は先発の柱になるかもしれない。規定投球回数をクリアすれば、2桁勝利やタイトルも見えてくる。期待の選手と言われながら、今季7年目の25歳で、期待の若手から主力に成長してもらわないと困る。

 野手は中村悠平で、まさに攻守の要。昨年の日本シリーズで見せたように、中村の引き出しの多さは何ものにも代え難く、一昨年のように離脱すると控え捕手との差が大きいだけに一気に厳しくなる。リードだけなら嶋基弘(国学院大~06年楽③)、肩なら松本直樹西濃運輸~17年⑦)でも代役になるが、打撃でも6番のポイントゲッターを担っており、中村の存在の大きさは、今季から背負う背番号27が物語っている。

 最後に、今季は混戦セ・リーグのなか、連覇する戦力は揃っている。投手陣は先発、リリーフ含め層は厚くなっており、課題は野手陣になる。レギュラー陣が年間通じて結果を残し、打線が昨年のように繋がれば優勝は近づく。ただ、昨年は無欲で勝ち続け、ラストは勢いで制した面もあるだけに、今年は追われる立場になることで、昨季のような戦い方ができるかがポイントになると思う。