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どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆西武~今季も投手陣は万全で、若手野手の奮起があれば優勝も狙える

 在籍6年間で2度のリーグ優勝、5度のAクラスを達成した辻発彦監督が勇退し、満を持して新監督に松井稼頭央を迎えたシーズン。ただ期待とは裏腹に、一度もAクラスに浮上せず、優勝争いに絡むことなく5位でシーズンを終えた。

 低迷の要因は打撃の不振に尽きる。FAで森友哉オリックス)が移籍し、攻守の要の源田壮亮トヨタ自動車~16年③)がWBCで骨折し、チームに合流したのが5月下旬、一昨年、本塁打王打点王山川穂高ソフトバンク)は自身の不祥事で17試合の出場に留まり、最後までベストメンバーで臨むことが出来なかった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 23年 5位 65勝77敗  1分 .233    90本   80個  435点  2.93  465点

 22年 3位 72勝68敗  1分 .229  118本   60個  464点  2.75  448点

    21年 6位 55勝70敗18分 .239  112本   84個  521点  3.94  589点

 20年 3位 58勝58敗  4分 .238  107本   85個  479点  4.28  543点

 19年 1位 80勝62敗  1分 .265  174本 134個  756点  4.35  695点

 課題の打線は、チーム打率こそリーグ5位で最下位を免れたが、本塁打と得点数、出塁率長打率得点圏打率もリーグ最下位で終わった。松井監督が掲げたスローガン「走魂」のもと、チーム盗塁数はリーグ2位まで改善したが、成功率が高くなく、犠打成功率も最下位と理想には程遠い数字が並ぶ。

 出塁が少なく、犠打の失敗も目立ち、盗塁も積極的だが失敗が多く、一発の怖さもなく、貴重なランナーを返すポイントゲッターも不足の状況で、これでは得点数が上がる由もない。攻撃陣の強化が最優先で、文字通り打線になるように走塁や小技の精度を上げていかなくては課題は解決しない。

 一方で投手陣は昨季も盤石で、高橋光成前橋育英高~14年①)と今井達也(作新学院高~16年①)、先発に転向した平良海馬(八重山商工高~17年④)が10勝を上げ、先発陣は防御率こそオリックスに及ばず2位だったものの、10完投とクオリティスタートはリーグ1位でゲームメークに長けた投手が揃っている。

【過去5年のドラフトの主戦力】

 22年~青山美夏人(投手~亜大/④)

 21年~隅田知一郎(投手~西日本工大/①)佐藤隼輔(投手~筑波大/②)

    20年~水上由伸(投手~四国学院大/育⑤)

 19年~宮川 哲(投手~東芝①)

 18年~松本 航(投手~日体大①)森脇亮介(投手~セガサミー⑥)

 昨年は森、今季も山川が移籍し、もはや恒例とも言えるFAによる選手の移籍だが、それを見事に補っているのがドラフトの成功だ。直近5年では投手が中心になっているが、捕手の古賀悠斗(中大~21年③)に内野手の佐藤龍世(冨士大~18年⑦)、外野手の蛭間拓哉(早大~22年①)は今季レギュラー定着が期待される。

 また、捕手の柘植世那(ホンダ鈴鹿~19年⑤)、内野手では渡部健人(桐蔭横浜大~20年①)に昨年源田に変わり遊撃の開幕スタメンを掴んだ山村崇嘉(東海大相模高~20年③)、外野手でも長谷川信哉(敦賀気比高~20年育②)に岸潤一郎(四国IL徳島~19年⑧)、若林楽人(駒大~20年④)などレギュラー候補が控えており、そのスカウトセンスには目を見張る。

 今季も即戦力左腕の武内夏暉(国士館大~23年①)を3球団競合のなか獲得し、21年から会心のドラフトが続いている。また、20年は育成が大当たりで、リーグ初の育成から新人王に輝いた水上をはじめ、レギュラーが期待される長谷川、さらに豆田泰志(浦和実高~20年育④)は、昨年のシーズン途中に支配下登録されると16試合に登板して防御率0.59の好成績を上げた。

 また、西武は年齢バランスが秀逸で、19歳~31歳までで、投手は22歳、野手は29歳以外で年齢の空白がなく、年齢の偏りにより一気に戦力が落ちるリスクが少なく、FAで選手が流出しても安定した戦力を維持できている。ドラフト巧者ではなく、ドラフトを知り尽くしいる稀有なチームと言える。

●投手陣~先発陣は今年も万全だが、リリーフは再編は必要でクローザー育成が急務

  先発は高橋光がリーグ防御率2位、平良も4位の好成績を上げ、今井は規定投球回数に10イニング不足も、全員が防御率2点台の安定した投球を見せた。さらに昨年1勝(10敗)の隅田も昨季は9勝を上げ、10勝カルテットの誕生も夢ではない。

 リリーフは先発以上に安定感を見せ、防御率はリーグ2位の2.79と先発を上回った。平井と佐藤隼、森脇を軸に、ルーキーの青山や新加入のティノコが防御率2点台を維持し、支配下登録された豆田などの新戦力がリリーフ陣を底上げした。

 一方でクローザーは不安要素で、増田が19セーブながら防御率5点台を安定感を欠き、後半はNPBに復帰したクリスキーが務めた。また、防御率は良いものの与四球数はリーグ最悪の数字で、無駄な四球を減らせばさらに失点も減るはずだ。

【23年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア 

 ・先発…☆高橋光成(155回)☆平良海馬(150回)今井達也(133回)

       隅田知一郎(131回)松本 航(116回2/3)與座海人(83回)

 ・救援…平井克典(54試合)佐藤隼輔(47試合)増田達至(40試合)

       青山美夏人(39試合)ティノコ(38試合)森脇亮介(31試合) 

【今年度の予想】※は新加入選手

 ・先発…高橋光成 與座海人 隅田知一郎 松本 航 今井達也 平良海馬 

      (※上田大河 渡邊勇太朗 ※武内夏暉 羽田慎之介 ボー ※中村祐太)

 ・中継…※ヤン 佐藤隼輔 平井克典 青山美夏人 ※甲斐野央 豆田泰志

      (増田達至 ※糸川亮太 本田圭佑 ※宮澤太成 大曲 錬 水上由伸)

 ・抑え…田村伊知郎(※アブレイユ)  

 先発は高橋光と今井、平良、隅田は確定と言え全員が昨年以上の成績が期待できる。5~6番手は順当なら松本航(日体大~18年①)と與座海人(岐阜経大~17年⑤)になり、下手投げの軟投派の與座は先発ローテーションの大きなアクセントになる。さらに、制球力の良い大学ナンバーワン左腕のルーキー武内、今季先発に転向するボー、復活を期す渡邊勇太朗(浦和学院高~18年②)も先発の座を狙う。

 また、青山と現役ドラフトで加入した中村祐太(関東一高~13年広⑤)、ルーキー上田大河(大商大~23年②)は先発・リリーフともに適性があり、チーム状況に応じて起用を見極める。楽しみなのが最速150キロの長身左腕の羽田慎之介(八王子高~21年④)で、一軍での登板はないが本格ブレイクが期待される大器だ。

 リリーフは大きな再編が迫られる。森脇と佐々木健(NTT東日本~20年②)がケガで今季は育成契約になり不在で、クローザーの固定も急務になる。

 クローザー候補は、田村伊知郎(立大~16年⑥)に山川の人的補償で加入した甲斐野央(東洋大~18年①)が有力だが、増田もこのまま終わる訳にはいかない。さらに高速シンカーが武器の新加入のアブレイユも加えたクローザー争いはし烈だ。

 セットアッパーは今季も平井と佐藤隼を中心に、水上に豆田、本田圭佑東北学院大~15年⑥)が控える。新戦力では新外国人のヤンは奪三振率の高い左腕で、オールドルーキーの糸川亮太(ENEOS~23年⑦)は投球術に長け、大学に在籍しながら独立リーグでプレーした宮澤太成(四国IL徳島~23年⑤)もリリーフの適性が高い。

●野手陣~レギュラー確約は源田と外崎のみ!このチャンスを掴む若手の出現に期待

 18~19年の連覇の際に、相手投手陣を震え上がらせた山賊打線は見る影も無く、4年で貧打線と化してしまった。昨年、規定打席をクリアしたのは外崎とマキノンだけで、このチャンスを活かす若手も期待外れだった。

 特に外野手は、20年に秋山翔吾(広島)がMLBへ移籍したのち、規定打席をクリアしたのは20年のスパンジェンバーグと22年のオグレディの外国人選手だけで4年間もレギュラー不在が続いている。

 守備はセンターラインの強化が進み、古賀は盗塁阻止率リーグ1位を記録するまでに成長し、外崎と源田の二遊間はリーグ屈指の守備力を誇る。失策数も少なく、防御率も高い守りのチームになったなかで、攻撃陣の奮起が上位進出の最大要件になる。

【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…古賀悠斗(100/282)柘植世那(59/127)

 内野手…☆外崎修汰(136/571)☆マキノン(127/514)源田壮亮(100/435)

     中村剛也(88/322)佐藤龍世(91/257)渡部健人(57/209)

     児玉亮涼(56/132)平沼翔太(67/110)

 外野手…愛斗(73/267)鈴木将平(72/267)ペイトン(57/225)

       蛭間拓哉(56/223)長谷川信哉(59/198)岸潤一郎(61/197)

       栗山 巧(77/191)西川愛也(41/109)     

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)ペイトン⑦      1)源田壮亮⑥  

  2)マキノン⑤      2)外崎修汰④       

  3)外崎修汰④      3)蛭間拓哉⑨  

  4)山川穂高③      4)マキノン③     

  5)栗山 巧DH       5)中村剛也DH      

  6)柘植世那②      6)佐藤龍世⑤   

  7)山村崇嘉⑥         7)鈴木将平⑦    

  8)愛斗⑨        8)古賀悠斗②

  9)金子侑司⑧      9)長谷川信哉⑧ 

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…古賀悠斗 ※炭谷銀仁朗 柘植世那(古市 尊)

 内野手…外崎修汰 源田壮亮 渡部健人 佐藤龍世 平沼翔太 山村崇嘉

       ※アギラー 中村剛也 

     (児玉亮涼 山野辺翔 ※元山飛優 陽川尚将 滝澤夏央 ※村田怜音)

 外野手…栗山 巧 蛭間拓哉 西川愛也 ※コルデロ 長谷川信哉

      (金子侑司 若林楽人 鈴木将平 岸潤一郎 高木 渉)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)源田壮亮⑥      捕 手)古賀悠斗(炭谷銀仁朗) 

  2)外崎修汰④      一塁手)アギラー(渡部健人)

  3)蛭間拓哉⑨      二塁手)外崎修汰

  4)アギラー③      三塁手)佐藤龍世(平沼翔太)

  5)コルデロDH       遊撃手)源田壮亮

  6)佐藤龍世⑤      左翼手)長谷川信哉

  7)長谷川信哉⑦     中堅手)西川愛也

  8)古賀悠斗②      右翼手)蛭間拓哉(山村崇嘉)

  9)西川愛也⑧       D H) コルデロ(中村剛也

  捕手は3年目の古賀と5年目の柘植の争いになるが、そこに今季はベテランの炭谷銀仁朗(平安高~05年①)が復帰したのが大きく、炭谷が2~3番手でベンチで控えているのは若い捕手には心強くこれ以上のない手本になる。

 内野は一塁と三塁の争いに注目で、一塁は新外国人のアギラーと渡部が候補で、アギラーはバットコントロールが良く広角に本塁打を打て、MLB通算114本の強打者で、昨年6本塁打の渡部は打力で上回ることが必須になる。三塁は佐藤龍が有力で、昨季キャリアハイの成績を上げ、後半は中軸を担っており、今季から背負う背番号10が期待の大きさを表している。

 このほか、平沼翔太(敦賀気比高~15年日④)は内野の全ポジションを守れ、児玉亮涼(大阪ガス~22年⑥)と今季ヤクルトから加入した元山飛優(東北福祉大~20年ヤ④)は守備力に定評がある。一方、陽川尚将(東農大~13年神③)とルーキー村田怜音(皇學館大~23年⑥)は打力でレギュラー争いに加わりたい。

 最もし烈なのが外野手で、2年目の蛭間に今季から外野手に専念する長谷川、打力に勝る山村、守備力の西川に俊足の若林、走攻守に秀でた鈴木将平(静岡高~16年④)、勝負強い打撃の岸がレギュラーを争う。さらにMLB通算27本塁打の新外国人のコルデロ、キャンプで高卒2年目の古川雄大佐伯鶴城高~22年②)もアピールしており、ベテランの金子侑司(立命大~12年③)も背水の陣で臨むシーズンになる。

 指名打者はともに41歳の中村剛也大阪桐蔭高~01年②)と栗山巧(育英高~01年④)の併用になるが、コルデロは守備に不安があり、指名打者起用も有力で、若手が成長し中村と栗山が代打に回るようななれば怖い打線になる。

 打線は中軸がカギで、両外国人の活躍なくしては、いくら源田と外崎がチャンスメークしても打線として機能せず、走塁や犠打といった小技の成功率も課題になる。

先ずはAクラス復帰だが、若手野手が一気に覚醒すれば、高い投手力で優勝も狙える

 今季は十分に戦える戦力は揃っているが課題も多い。山川の人的補償で43歳の和田毅ソフトバンク)を狙ったように若い選手が多く、主力が故障離脱するようなことになると厳しく、リリーフ陣も勝利の方程式を確立するには時間を要する。 

 支配下は62名と余裕があり、ケガさえ治れば森脇と佐々木は直ぐにでも復帰するだろう。ただ、育成でも投手は斎藤大将(明大~17年①)に粟津凱人(東日本国際大~18年④)など支配下候補は多いが、野手は候補が少なく、両外国人が結果を出せなければトレードなどの対応を急ぐ必要がある。

 今季も課題は打線の奮起になり、盤石な投手力を背景にソツのない攻めで1点をもぎ取り、守り勝つ野球でAクラス入りを狙いたい。優勝を狙うには戦力が十分とは言えないが、競争のなかからの新戦力の台頭でAクラスを確保しながら、終盤まで優勝争いに絡めば十分にチャンスはある。