ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

24年戦力展望☆中日~盤石な投手陣は健在!今季も得点力アップがチーム浮沈のカギを握る

 開幕直前にロドリゲスが亡命…開幕直後にはエースの大野雄大(佛教大~10年①)が左肘の手術でシーズン絶望と開幕早々チームに暗雲が立ち込めた。その負の連鎖は留まることなく、主軸を期待された新外国人アキーノは僅か20試合出場で本塁打1本、新外国人の保険も兼ねて復帰したアルモンテもかつての打棒は見る影もなかった。

 3~4月を借金7の最下位でスタートすると、その後月間の勝ち越しは一度もないまま球団初の2年連続最下位に沈んだ。得点力不足のなか緩慢な走塁や、試合外でも「令和の米騒動」などファンのストレスがたまる後味の悪いシーズンになった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗     打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 23年 6位 56勝82敗 5分 .234    71本   36個  390点  3.08  498点

 22年 6位 66勝75敗 2分 .247    62本   66個  414点  3.28  495点

 21年 5位 55勝71敗17分   .237    69本   60個  405点  3.22  478点 

 20年 3位 60勝55敗 5分 .252    70本   33個  489点  3.84  489点

 19年 5位 68勝73敗 2分 .263    90本   63個  563点  3.72  544点

 不振の要因は明らかで、得点力不足の一点に尽きる。チーム打率と出塁率本塁打数に得点数、奪四球数はリーグワーストで、盗塁数も半減するなど頭の痛い数字が並ぶ。

 打線に怖さがないから相手投手は無駄な四球を与えることなく、出塁率は12球団で唯一の2割台に沈んだ。貴重なランナーを還すにも、得点圏打率もリーグワーストでチャンスに弱く、得点数は12球団で唯一の300点台と、得点数が400点を割ったのはセ・リーグ50年振りの屈辱だった。

 立浪監督が目指した「投手を中心にセンターライン強化で守りの野球」はチーム状況からは的確な方針だったが、阿部寿樹(楽天)と京田陽太(DeNA)を放出し、若手と新戦力で臨んだ二遊間では荷が重く、失策数は昨年より増加してしまった。

 投手陣は先発・リリーフともに防御率リーグ2位で失点数も少なかったが、小笠原慎之介東海大相模高~15年①)に柳裕也(明大~16年①)、高橋宏、トレードで加入した涌井秀章(横浜高~04年西①)の先発4本柱で借金24も誤算だった。

【過去5年のドラフトの主戦力】

    22年~村松開人(内野手~明大②)福永裕基(内野手日本新薬⑦)

 21年~なし

    20年~高橋宏斗(投手~中京大中京高①)

 19年~岡林勇希(外野手~菰野高⑤)

 18年~なし 

 直近10年でも、Aクラスは20年の1回だけと低迷期が長くなっているが、要因の一つはドラフトの不振だ。WBCメンバーにも選出された高橋宏や2年連続ベストナインの岡林の活躍は光るものの、ここ5年はドラフトでチームの底上げが進んでいない。

 特に課題の野手は、18年~22年の5年間で17名の野手を獲得しているが、レギュラーを獲得したのは岡林だけで、昨季ようやく石川昂弥(東邦高~19年①)が規定打席をクリアし、ブライト健太(上武大~21年①)にも覚醒の気配があるが、過去10年を遡ってみてもレギュラーは岡林と木下拓哉トヨタ自動車~15年③)では寂しい。

 一方で投手は高橋宏に柳、小笠原など1位指名の選手が主力として活躍し、仲地礼亜(沖縄大~22年①)もシーズン後半にローテーションに定着して2勝を上げた。リリーフでも、育成の松山晋也八戸学院大~22年育①)が頭角を表し層が厚くなった。

 昨季のドラフトでは、度会隆輝(DeNA)を指名するも抽選で外し、2位で走攻守揃った津田啓史(三菱重工イースト~23年②)、3位で堅守の遊撃手と評判の辻本倫太郎(仙台大~23年③)を獲得した。これで2年連続で即戦力内野手を複数名指名し、センターライン強化の本気度は十分に伝わっており、4年目の龍空(近江高~20年③)、2年目の村松に福永、田中幹也(亜大~22年⑥)を加えた若手の台頭に期待したい。 

 ただ、度会指名のあと、ロッテと競合で獲得した草加勝(亜大~23年①)が、右肘の手術で今シーズン中の復帰が絶望になり、そのロッテに地元出身の巧打者・上田希由翔(明大)を指名されるなど、明暗が分かれそうな雰囲気も漂う。

●投手陣~先発・リリーフともにリーグ2位の防御率で、層の厚い投手陣は今年も健在

  大野雄とロドリゲスが抜けても投手陣は盤石で、先発は小笠原と柳、高橋宏、涌井の4本柱が支え、打線の援護があれば勝ち負けの数が逆になっても不思議ではなかった。

 先発以上に強固だったのがリリーフ陣で、クローザーのマルティネスは開幕から36試合連続自責点ゼロ、防御率0.39の32セーブはまさに無双状態だった。藤嶋健人(東邦高~16年⑤)は28試合連続無失点の安定感で、マルティネス離脱後はクローザーも務め、清水達也(花咲徳栄高~17年④)はチーム最多ホールドを記録した。

 また、先発からリリーフへ転向した勝野昌慶(三菱重工名古屋~18年③)に日本ハムから加入した斎藤綱記(北照高~14年オ⑤)、育成から支配下になった松山など新戦力も台頭し、リリーフの防御率阪神にも引けをとらない3.02の好成績を記録した。

【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆小笠原慎之介(160回2/3)☆柳 裕也(158回1/3)☆高橋宏斗(146回)

     涌井秀章(111回)

 ・救援…藤嶋健人(56試合)勝野昌慶(50試合)清水達也(50試合)

       マルティネス(48試合)祖父江大輔(45試合)松山晋也(36試合)

       田島慎二(32試合)斎藤綱記(31試合)福 敬登(29試合)

【今シーズンの予想】※は新加入

 ・先発…小笠原慎之介 柳 裕也 梅津晃大 高橋宏斗 涌井秀章 大野雄大 

      (根尾 昂 福谷浩司 仲地礼亜 松葉貴大 上田洸太朗 メヒア)

 ・中継…祖父江大輔 勝野昌慶 清水達也 藤嶋健人 斎藤綱記 松山晋也

      (田島慎二 福 敬登 ※梅野雄吾 砂田毅樹 福島章太 フェリス)       

 ・抑え…マルティネス

 先発は今季も小笠原と柳、高橋宏、涌井を軸に、復活を期す大野が加わる。残り1枠には梅津晃大(東洋大~18年②)が有力だが、トミージョン手術後で登板間隔を空ける必要があり、実績のある福谷浩司(慶大~12年①)や松葉貴大(大体大~12年オ①)との併用になる。また、昨季シーズン途中に加入し3勝を上げたメヒア、2年目の仲地や勝負の6年目を迎える根尾昂(大阪桐蔭高~18年①)など若手にも注目したい。

 先発以上に期待値が高いのがリリーフ陣で、マルティネスがクローザーを務め、20代後半の勝野に藤嶋、斎藤の脂の乗り切っている選手に、清水と松山の若手がブルペンの中心になる。さらにベテランの祖父江大輔トヨタ自動車~13年⑤)や福敬登(JR九州~15年④)が加わえたリリーフ陣は今季も盤石の布陣だ。

 また、昨季は不本意な成績に終わった砂田毅樹(明桜高~13年D育①)や森博人(日体大~20年②)、ヤクルトの2連覇を支え、現役ドラフトで加入した梅野雄吾(九産大九州高~16年ヤ③)は復活を期すシーズンになる。育成でも岡田俊哉智弁和歌山高~09年①)と岩嵜翔市立船橋高~07年ソ①)ぼベテランも控えている。

 新戦力では草加の離脱は残念だったが、土生翔太(BC茨城~23年⑤)は150キロのストレートをフォークを武器に先発・リリーフともにこなせ、加藤竜馬(東邦ガス~23年⑥)は最速154キロのパワーピッチャー。2年目のフェリスはMLBでは4年連続で40試合に登板したタフなリリーバーで、昨季ファームで好投した福島章太(倉敷工高~20年④)は一軍定着を目指すシーズンなり楽しみな選手が多い。

●野手陣~1試合平均2.72点の貧打線の改善が浮上のカギで移籍組に期待

 打線は思わず目を覆うデータが多いが、救世主になったのが現役ドラフトで加入した細川成也(明秀日立高~16年D⑤)で、本塁打24本、打点78の活躍を見せ、細川が加入していなければさらに悲惨な結果になっていた。岡林と2000本安打を達成した大島洋平日本生命~09年⑤)の1~2番コンビは脅威で、石川も自己最多の13本塁打を放ちブレイクの足掛かりを掴んだシーズンになった。

 打線の不振をビシエドなどの外国人選手の責任に寄せることは簡単だが、本来チームの顔となるはずの高橋周平(東海大甲府高~11年①)の不振、遊撃のレギュラーを期待された龍空は打撃が課題で、ブライトや鵜飼航丞(駒大~21年③)にもチャンスが転がっている状況にも拘わらず、レギュラーを獲得できないもどかしさのほうがが強い。  

【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…木下拓哉(89/315)宇佐見真吾(69/226

 内野手…☆石川昂弥(121/464)龍空(114/304)村松開人(98/304)

       福永裕基(97/325)ビシエド(91/347)高橋周平(86/172)

     カリステ(47/172)

 外野手…☆岡林勇(143/633)☆細川成也(140/576)大島洋平(130/494)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)岡林勇希⑧      1)林勇希⑧    

  2)大島洋平⑦        2)島洋平⑦       

  3)高橋周平⑤              3)細川成也⑨

  4)アキーノ⑨      4)石川昂弥⑤      

  5)ビシエド③      5)ビシエド    

  6)木下拓哉②      6)福永裕基④       

  7)福永裕基④      7)木下拓哉    

  8)龍空⑥        8)龍空⑥

  9)小笠原慎之介①    9)小笠原慎之介  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…木下拓哉 宇佐見真吾 石橋康太(加藤匠馬)

 内野手…高橋周平 村松開人 ※中田 翔 石川昂弥 龍空 ビシエド 福永裕基 

       カリステ(田中幹也 ※中島宏之 ※津田啓史 ※辻本倫太郎 石垣雅海) 

 外野手…岡林勇希 大島洋平 ※上林誠知 加藤翔平 細川成也

    (鵜飼航丞 ブライト健太 川越誠司 ※ディカーソン)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)岡林勇希⑧      捕 手)木下拓哉(宇佐見真吾)

  2)大島洋平⑦      一塁手)中田 翔(ビシエド

  3)細川成也⑨      二塁手村松開人(福永裕基)

  4)中田 翔③      三塁手)石川昂弥(高橋周平)

  5)石川昂弥⑤      遊撃手)カリステ(龍空)

  6)木下拓哉②      左翼手大島洋平(ディカーソン)

  7)カリステ⑥      中堅手)岡林勇

  8)村松開人④      右翼手)細川成也(上林誠知)

  9)柳 裕也①               

 立浪監督の3年目は積極的な補強が目立った。もどかしい若手への刺激か、巨人を自由契約になった中田翔大阪桐蔭高~07年日①)と中島宏之(伊丹北高~00年西⑤)、ソフトバンクからは上林誠知(仙台育英高~13年ソ④)、阪神から内野のユーティリティーの山本泰寛(慶大~15年巨⑤)のベテランを獲得した。

 ポジション別では、捕手はケガからの復帰を目指す正捕手の木下と、勝負強い打撃の宇佐見真吾(城西大~15年巨④)が中心になるが、ともに30歳を超えており、石橋康太(関東一高~18年④)等若手の台頭に期待したい。

 内野のレギュラーはすべて未定と言え、一塁は中田が有力だが、ビシエドも簡単にはレギュラーを譲る訳にはいかず、三塁は石川と高橋周の新旧の競争になる。し烈なのは立浪監督が重視している二遊間で、二塁は村松と福永に、打撃が好調であれば山本も候補になる。最もし烈なのが遊撃で、龍空や2年目の田中、ルーキーの辻本はいずれも守備力がセールスポイントで、津田は強肩と俊足に加え打撃が良く、シーズン後半に出番を増やしたカリステも2年目の覚醒が期待でき、ハイレベルな争いに期待したい。

 レギュラー未定の内野とは異なり、外野は左翼の大島、中堅の岡林、右翼の細川とレギュラーが決まっており、この3選手を上回る打力が期待される。身体能力の高いブライトに上林、長打力のある鵜飼、MLB通算40本塁打のディカーソンがどこまで脅かすことが出来るかが期待だ。

 打線は岡林と大島の1~2番は決まりで、クリーンアップが課題になる。ポイントとなるのは新加入の中田で、中田が1年通して4番に座れば細川と石川への負担も軽減され、下位で勝負強い木下にもう一枚加われば相手投手の嫌がる打線になる。また、代打で勝負強い中島や、三好大倫(JFE西日本~20年⑥)など足のスペシャリストも揃っており、厚みを増したのは間違いない。

●2年連続最下位脱出のためには、スピードを上げ思い切った更なる補強も必要

 今季のオフは他球団を戦力外になった選手を積極的に獲得し、支配下登録は65名とまだ余裕がある。課題はやはり攻撃陣の強化で、豊富な投手陣とのトレードや外国人選手の補強など、もたもたせずにスピードを上げて対応することが必要だ。

 育成選手を見てみると、昨季ファームで3割を打った福元悠真(大商大~21年⑥)や、阪神からは板山祐太郎(亜大~15年神⑥)も獲得し、支配下復活の可能性は高い。 

 投手はさらに豊富で、垣越建伸(山梨学院高~18年⑤)と松木平優太(精華高~20年育③)が昨季ファームでも好投した先発候補、リリーフではベテランの岡田に岩嵜、近藤廉(札幌学院大~20年育①)も支配下復活を狙っている。 

 今季は豊富な投手陣を中心に、中田や中島、上林の加入が刺激になると良いが、それよりもノーヒットでも1点をもぎ取るそつのない攻めに、その1点を守り切る野球で一つでも上の順位を目指していきたい。