ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年ドラフト予想☆西武~打線は低迷も、先発10勝カルテットの可能性もあり、来季に向け伸びしろは十分

 在任6年で5度のAクラス、2度のリーグ優勝を果たした辻発彦監督が勇退し、満を持してファン期待の松井稼頭央新監督を迎えたシーズンだったが、残念ながら2年振りのBクラスが濃厚になってきた。

 連覇した18~19年に「山賊打線」と称された強力打線は見る影を無くし、反面、昨年はチーム防御率1位、今季もオリックスに次ぐ2位と投手力中心のチームに変身した。今季は盗塁王を獲得した松井監督らしく「走魂」をスローガンに、アグレッシブに機動力を重視した野球を目指したが、その形になるにはまだ時間がかかりそうだ。

【9/19現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】

 勝敗 128試合 59勝71敗1分⑤

 防御率…2.95②(2.75①)打率….235⑤(.229⑥)

 本塁打…82⑥(118①)盗塁70②(60⑥)

 得点…396⑥(464⑤)失点…434②(448①)

●かつての山賊打線が影を潜め、投手力中心のチームに変貌

 今季はスタートから主力を欠き、WBCで源田壮亮トヨタ自動車~16年③)が骨折で離脱し、山川穂高(冨士大~13年②)は調整不足で開幕に間に合わなかった。ただ、3~4月はまずまずのスターを切り、首位から1ゲーム差に付け、山川も復帰し「さぁこれから」というときに、その山川が5月にトラブルでチームを離脱。それがすべての要因だとは思えないが、結果チームの連敗が続き、僅か1ケ月で首位から8.5ゲームまで差が拡がった。

 今年の低迷の要因は打線に尽きる。チーム打率は日本ハムと最下位争いをし、出塁率長打率もリーグ最下位となると、当然のことながら得点数もリーグワーストで、未だに400点を超えていないのは西武と中日だけで、とにかく打てない。

 特に、昨年41本塁打本塁打王に輝いた山川の離脱はそのまま本塁打数に影響し、昨年リーグ1位の本塁打数が最下位に急落した。トラブルの中身が中身なだけに謹慎は当然の判断だとは思うが、山川の離脱は大きな誤算だった。

 ただ、責任を山川にだけに押し付けるのはフェアではない。課題だった外野のレギュラー不在も結局今年も決まらず、昨年オフにFAで正捕手の森友哉オリックスへ移籍したが、補強は十分とは言えなかった。

 森の移籍は早い段階で予測できたことで、打つほうは外国人選手で補強もできるが、捕手については補強に動く様子も無く、育成から強肩の古市尊(四国IL徳島~21年育①)を支配下にしたが経験不足は否めず、結果として4年目の柘植世那(ホンダ鈴鹿~19年⑤)や古市と同じ2年目の古賀の若い捕手を起用せざるを得なかった。

 また、昨年オフにはSNSトラブルでムードメーカーの山田遥楓も日本ハムへトレードで放出した。傍から見ても西武はこの間選手のトラブルが多く、選手個々の行動が基本なのだが、チーム全体で要因を掘り下げ、再発防止に向けてコンプライアンスへの取り組みを高める必要がある。

 結果、源田と外崎修汰(冨士大~14年③)、大ベテランの中村剛也大阪桐蔭高~01年②)と栗山巧(育英高~01年④)等かつての山賊メンバーに頼る状況は変わっていない。昨年、本塁打はリーグ1位も、チーム打率と盗塁数はリーグ最下位で、典型的な一発打線を改善したい松井監督の思いは分かるが、攻撃陣の底上げは進まなかった。

オフ恒例?のFA移籍も、ドラフトで主力選手を獲得し戦力をキープ

 西武のドラフトは悪くない。西武は12球団で最も多い20人の選手がFAで移籍し、直近5年間で18年に浅村栄斗(楽天)と炭谷銀仁朗(巨人→楽天)、19年に秋山翔吾(レッズ→広島)、そして昨年の森が移籍しても、チーム力を維持できているのはドラフトが上手く機能しているからだ。

 ただ、投手は高橋光成前橋育英高~14年①)や今井達也(作新学院高~16年①)を始め、松本や隅田など1位指名の選手が主戦に成長しているが、野手は源田を最後にレギュラーが生まれておらず、攻撃陣の低迷に直結している。

【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】

 18年①…松本 航(日体大/①・投手)森脇亮介(セガサミー/⑥・投手)

 19年①…宮川 哲(東芝/①・投手)

 20年③…水上由伸(四国学院大/育成⑤・投手)

 21年⑥…隅田知一郎(西日本工大/①・投手)佐藤隼輔(筑波大/②・投手)

       古賀悠斗(中大/③・捕手)

 22年③…蛭間拓哉(早大/①・外野手)青山美夏人(亜大/④・投手)

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【西武の補強ポイント】 

 投 手…将来のエース候補(左右)、即戦力リリーフ

 捕 手…打てる即戦力捕手

 内野手…将来の中軸候補 

 外野手…将来の中軸候補、右打ちの大学生、出塁率の高いリードオフマン

 西武のドラフトで良いところは、年齢と投打ともに左右のバランスも取れており、空白の年代等を埋める必要がなく、今季も良い意味でシンプルに補強ポイント(短期的)と将来性(長期的)に絞って臨める。

 短期的な補強では、やはり野手の補強が重点になる。一年遅れだが森の代わりになる捕手や固定できない一番打者、山川移籍の可能性もあり長打力のある打者も必要だ。また、高橋光はMLB移籍、平井克典(ホンダ鈴鹿~16年⑤)もFA移籍の可能性を含んでおり、先発・リリーフともに即戦力の必要性も出てくる。

 高校生では、内外野ともに将来性のあるスラッガーを獲得して良い。投手は伸びしろのある大学生も含めて、ストレートの球速や決め球となる変化球など、ストロングポイントを持っている選手の獲得に期待したい。

☆投手~将来のエース候補(左右)、即戦力リリーフ

 貧打の攻撃陣とは対象に、投手陣は素晴らしく、エースの高橋光と今季から先発転向の平良海馬(八重山商工高~17年④)がともに規定投球回数をクリアし、今井も10勝に到達し、2年目の隅田も9勝を上げ、5位ながら2桁勝利カルテットが誕生しそうな気配だ。さらに今年は勝ち星が伸びていないが、松本と與座海人(岐阜経大~17年⑤)もローテーションを守っている。

 ファームでも宮川や浜屋将太(三菱日立PS~19年②)が好投しており、渡邊勇太朗(浦和学院高~18年②)や黒田将矢(八戸工大一高~21年⑤)、育成の菅井信也(山本学園高~21年育③)など楽しみな若手も控える。

 一方で昨年は鉄壁を誇っていたリリーフ陣は不安が残る。平良が先発へ転向したあと、平井や佐藤隼、ルーキーの青山が奮闘しているが、クローザーの増田達至(NTT西日本~12年①)が不振で戦列を離れ、期待されていた森脇や水上も十分に穴を埋められていない。

 今年は先発投手なら高校生、即戦力投手はリリーフ候補で良い。上位候補は大学生では武内夏暉(国学院大)草加勝(亜大)富士隼人(平成国際大)で、武内と草加は安定感抜群の先発タイプだが、冨士は最速155キロのパワーピッチャーでリリーフの適性があり補強ポイントに合う。

 このほか、真野凛風(同大)谷脇弘起(立命大)といった素質型の大学生への評価も高く、特に真野は天理高時代は軟式野球部に所属して、硬式に転向して4年でドラフト候補になるのだから伸びしろは十分だ。

 リリーフの即戦力で絞ると、石原勇輝(明大)は緩急で打者を打ち取る左腕、サイドから最速153キロの速球を投げ込む松本凌人(名城大)は平井を彷彿させる。社会人投手では、稲葉虎大(シティライト岡山)奪三振率が高く、粂直輝(東芝は打たせて取る技巧派でリリーフの適性もある。

 高校生では、世代ナンバーワンの前田悠伍(大阪桐蔭高)も上位候補に、身長190センチを超える大型右腕の日當直喜(東海大菅生高)や今夏の故障が懸念材料だが、高いポテンシャルが評価されている平野大地(専大松戸高)も候補に挙がっている。 

☆捕手~打てる即戦力捕手

 捕手は年齢バランスも悪くないが、支配下登録7名中で古賀と柘植、古市以外に一軍経験があるのは岡田雅利(大阪ガス~13年⑥)だけで、数的にも少ない。また、打力に課題があるチームだけに打てる即戦力捕手は喉から手が出るほど欲しい。

 当然、上位候補で進藤勇也(上武大)の名前が挙げるが、進藤はどちらかと言うと守備型の選手で、打力優先なら萩原義輝(流通経大)久保田拓真(パナソニックは補強ポイントに合う。

 高校生は総合力に勝る堀柊那(報徳学園高)や打力のある寺地隆成(明徳義塾高)新妻恭介(浜松開誠館高)を下位で狙っても良いと思う。

内野手~将来の中軸候補

 内野は二塁の外崎修汰(富士大~14年③)と遊撃の源田が強固な二遊間を形成している。不動の正一塁手の山川が離脱した後は、新外国人のマキノンが好守備を見せ、渡部健人(桐蔭横浜大~20年①)もようやく台頭の兆しが見せた。

 レギュラー不在だった三塁も、日本ハムから出戻りの佐藤龍世(富士大~18年⑦)がキャリアハイの成績を残し、後半はレギュラーとして出番を増やしている。ここに打棒衰え知らずの中村に、内野ならどこでも守れる呉念庭第一工大~15年⑦)に平沼翔太(敦賀気比高~15年日④)、ルーキーの児玉亮涼(大阪ガス~22年⑥)が控える。

 補強の優先順位としては高くはないが、主力が元気なうちに将来の中軸候補を育成したい。意中の選手は佐々木麟太郎(花巻東高)で、中村や山川の大型の選手育成で結果を残しているだけに、4番候補としてファンの期待も高まる。佐々木を仮に外しても、次も真鍋慧(広陵高)を狙いにいって良いと思う。

 また、同じ中軸候補で百崎蒼生(東海大熊本星翔高)への評価も高く、森田大翔(履正社高)や地元の小野勝利(花咲徳栄高)も魅力のあるスラッガーだ。

 大学生でも長打力が売りの廣瀬隆太(慶大)は本職が二塁で外崎の後継候補にピッタリな選手。無名ながら村田怜音(皇學館大)も、大化けが期待できるスラッガーで個人的には西武に入れば面白いと思う。

☆外野手~将来の中軸候補、右打ちの大学生、出塁率の高いリードオフマン 

 今年も外野はレギュラー不在で、最も出番が多いのが66試合の愛斗(花咲徳栄高~15年④)で、鈴木将平(静岡高~16年④)に長谷川信哉(敦賀気比高~20年育②)、岸潤一郎(四国IL徳島~19年⑧)、ルーキーの蛭間と新外国人のペイトンという布陣で、タレントは揃っているがレギュラーを勝ち取る選手が出てこない。

 外野の課題は多く、右打ちの選手が不足しており、欲を言えば大学生の右打ちが欲しい。勝負強い打撃の桃谷惟吹(立命大)や俊足の宮崎一樹(山梨学院大は補強ポイントに合う。また、次に欲しいのが出塁率の高い即戦力のリードオフマンで、中島大輔(青学大や長打力もある山内慧(JR東日本が候補になる。

 最後に将来の中軸候補だが、ここは昨年、古川雄大佐伯鶴城高~22年②)を獲得しており、佐々木や真鍋を外したときに必要になってくる。高野颯太(三刀屋高)や投手でも評価の高い武田陸玖(山形中央高)は下位で指名できる可能性が高い。

●将来の中軸候補で佐々木麟の育成に自信アリ!2年連続で野手1位指名が濃厚

 打力が課題のチームだけに、1位指名は2年続けて野手の指名が予想され、将来の主軸候補として佐々木倫太郎(花巻東高)が最有力候補になる。ただ、現段階で佐々木はプロ志望を表明しておらず、進学または抽選で外した場合は、即戦力捕手の進藤勇也(上武大)や真鍋慧(広陵高)が1位候補になる。

 ただ、一方で西武はオリックスと同じく投手が野手より7名も少なく、投手の指名を多くする必要もある。即戦力左腕の武内夏暉(国学院大)や、高校ナンバーワン投手の前田悠伍(大阪桐蔭高)にシフトすることもあり得る。

【指名シミュレーション】

      (Aパターン)           (Bパターン)

 1位~佐々木麟太郎(花巻東高・内野手)   進藤勇也(上武大・捕手)

 2位~冨士隼人(平成国際大・投手)     真鍋 慧(広陵高・内野手

 3位~百崎蒼生(東海大熊本星翔高・内野手) 草加 勝(亜大・投手)

 4位~日當直喜(東海大菅生高・投手)    真野凛風(同大・投手)

 5位~谷脇弘起(立命大・投手)       平野大地(専大松戸高・投手)

 6位~久保田拓真(パナソニック・捕手)   桃谷惟吹(立命大・外野手)      

 おススメの選手は、今夏の甲子園でも活躍した百崎蒼生(東海大熊本星翔高)で、アグレッシブなプレースタイルはチームにフィットすると思う。同じ右打ちで外崎、守備では源田という手本がいるだけに、将来の遊撃手候補として獲得したい。