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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆西武~投手陣は改善傾向!山賊打線復活でAクラス返り咲きを狙う

 今年も残念ながら、新型コロナウィルス感染拡大のなかのキャンプスタートになったが、待ち遠しかった球春が到来した。今年も各チームの戦力分析をしながら(昨年は途半分しかできませんでしたが…)、順位予想もしていきたいと思います。

 昨年は最終戦日本ハムに負け、42年振りの最下位に沈んだ西武。18~19年と2連覇したチームがであり、80年代の黄金期を知る私からすれば、驚きと同時に寂しさを感じる。

 昨年は開幕ダッシュに成功したものの、山川穂高(富士大~13年②)と外崎修汰(富士大~14年③)がケガで相次ぎ離脱し、外崎は前半戦を棒に振った。ようやく一番に定着したルーキー若林楽人(駒大~20年④)も靭帯損傷の大ケガでシーズン中の復帰が絶望となり、徐々に打線が迫力を欠いた。それに呼応するように課題の投手陣も打たれる場面が目立ち、前半戦は借金ターンになった。

 後半戦になると主力が戻ってきたが、一度投打が噛み合わなくなったチーム状態が好転することはなかった。終わってみればチーム打率.239はリーグ4位で、かつての山賊打線の面影をなくし、課題の投手陣もチーム防御率こそ4点台から抜け出たが、リーグ最下位の定位置に落ち着いてしまった。

 ただ、平良が39試合連続無失点の日本新記録を塗り替え、ライオンズ一筋の栗山巧(育英高~01年④)が2000本安打を達成する明るい話題もあった。また、主力が離脱するなか、ともに6年目の呉念庭第一工大~15年⑦)や愛斗(花咲徳栄高~15年④)、若林に岸潤一郎(四国IL徳島~19年⑧)の中堅と若手が頭角を現すなど収穫もあったシーズンになった。

 また、何といっても昨年のドラフトが会心のドラフトになった。4球団競合のなか隅田知一郎(西日本工大~21年①)を獲得できただけでも成功なのに、1位級の評価を受けていた佐藤隼輔(筑波大~21年②)の大学球界屈指の左腕を獲得できた。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 6位 55勝70敗18分 .239  112本   84個  521点  3.94  589点

 20年 3位 58勝58敗  4分 .238  107本   85個  479点  4.28  543点

 19年 1位 80勝62敗  1分 .265  174本 134個  756点  4.35  695点

 18年 1位 88勝53敗  2分 .273  196本 132個  792点  4.24  653点

 17年 2位 79勝61敗  3分 .264  153本 129個  690点  3.53  560点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~なし

 19年~宮川 哲(投手~東芝①)

 18年~松本 航(投手~日体大①)森脇亮介(投手~セガサミー⑥)

 17年~平良海馬(投手~八重山商工高④)

 16年~今井達也(投手~作新学院高①)源田壮亮内野手トヨタ自動車③)

     平井克典(投手~ホンダ鈴鹿⑤)

 西武のドラフトは基本毎年、投手と野手をバランス良く指名しており、特に投手陣の年齢バランスは卓越している。また、主力選手を着実に獲得しており、単独指名の今井と松本はともに先発陣の柱に成長し、日本を代表するリリーフの平良、堅守でリーグを代表する遊撃の源田はキャプテンも務めている。

 源田以外の野手陣がいないのが気がかりだが、心配することはない。野手中心の指名になった20年は若林にブランドン大河(東農大オホーツク~20年⑥)が一軍で結果を残し、渡部健人(桐蔭横浜大~20年①)などブレイク間近の若手が揃っており、ニュー山賊打線を期待できる。 

 

●投手陣~高橋、松本、今井の3本柱に続く先発と、平良に繋げるリリーフ陣が課題

  ようやく4年振りにチーム防御率4点台から抜け出し、着実に改善はしているが、相変わらずチーム防御率はリーグ最下位で、課題の投手陣再建に時間を要している。

 昨年の先発陣は、高橋光成前橋育英高~14年①))が2年振りに2桁勝利を挙げ、松本も初の2桁勝利を記録し、今井も自己最多の8勝を挙げた。また、3選手とも防御率3点台でシーズン通してチームを支え、まさに3本柱と言える活躍を見せた。

 たが、この後に続く選手がおらず、ニールは不振で退団、リリーフ陣から平井を先発に回すなど、実に15名の選手(松坂の引退試合を除いて)が先発を務めた。そのなかで後半先発ローテに加わった、渡邊勇太朗(浦和学院高~18年②)が4勝を挙げたのは収穫だった。

 リリーフ陣では平良がチーム最多登板で60イニングを投げ、20セーブ、21ホールドで防御率0点台で大車輪の活躍を見せた。ベテランの武隈祥太(旭川工高~07年④)が46試合で防御率1点台で復活を果たしたが、平良まで回して勝ちに繋げるパターンが確立できなかった。平良に次ぐ61試合に投げたギャレットも退団し、リリーフ陣の再編が今年も大きな課題になる。 

【21年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア ※は新加入選手

 ・先発…☆高橋光成(173回2/3)☆今井達也(158回1/3)☆松本 航(149回2/3)

       平井克典(74回2/3)ニール(60回)渡邊勇太朗(55回)

 ・救援…平良海馬(62試合)ギャレット(61試合)武隈祥太 (46試合)

       森脇亮介(45試合)十亀 剣(40試合)増田達至(33試合)

【今年度の予想】

 ・先発…高橋光成 今井達也 松本 航 ※エンス 渡邊勇太朗

       平井克典 與座海人 本田圭佑 ※隅田知一郎 ※佐藤隼輔 ※スミス

 ・中継…武隈祥太 森脇亮介 十亀 剣 増田達至 宮川 哲 水上由伸

       公文克彦 田村伊知郎 浜屋将太 ※ボー・タカハシ

 ・抑え…平良海馬 

 先発は高橋と今井、松本は当確だろう。昨年、自己最多の登板数で2度目の2桁勝利を挙げた高橋は名実ともにエースに近づいた。1年目から先発ローテーションの松本も安定感を増し、2年連続の2桁勝利を狙う。今井も課題の四球を減らせば、3人揃っての2桁勝利が現実味を帯びる。

 残り3枠の争いは新加入の選手に期待したい。最速156キロ左腕の新外国人選手のエンスは、30歳と遅咲きながら昨季3Aで8勝を挙げた。また、メジャーで102試合に登板したスミスの加入も決まった。昨年は新外国人投手が不発だっただけに期待は大きい。

 ルーキーの隅田と佐藤にもチャンスはある。隅田は150キロの速球に加え、変化球も多彩でいずれも完成度が高く制球力も良い。調子の波が少なく2桁勝利も十分に狙える。佐藤は最速152キロの速球を武器に奪三振能力が高く、昨年春の段階では大学ナンバーワン左腕と言われた逸材で、ルーキー2人の先発ローテ入りも夢ではない。

 このほか順当なら渡邊が4~5番手になり、先発への適性を見せた與座海人(岐阜経大~17年⑤)、経験から言えば平井も候補になる。ただ、今シーズンは延長12回制になるので、中継ぎの駒が多いほうがよく、ロングリリーフや勝ちパターンで使える平井は中継ぎに残しておきたい。

 どちらにしろ、不足している全発左腕に隅田と佐藤、エンス。下手投げの與座が加われば、先発ローテーションのバランスという部分で強化になることは間違いない。

 リリーフはクローザーの平良は決まりで、平良までどう繋いでいくかがポイントになる。そのカギを握っているのが増田達至(NTT西日本~12年①)で、増田が復調すれば、以前のように8回平良、9回増田の勝ちパターンも形成できる。まだ34歳で老け込む年齢ではなく、今季の復調に期待したい。

 このほかには、実績では森脇が頭一つリードしているが、宮川や田村伊知郎(立大~16年⑥)の中堅、昨年、支配下になり29試合に登板した水上由伸(四国学院大~20年育⑤)にもチャンスがある。さらにリリーフ左腕では、復活した武隈や日本ハムより途中加入した公文克彦大阪ガス~12年巨④)もおり、それぞれ勝ちパターンの一角に喰い込みたい。

 先述した平井や田村に加え、先発経験のあるベテランの十亀剣JR東日本~11年①)や左腕の浜屋将太(三菱日立PS~19年②)はロングリリーフもでき、十分に一年間戦い抜く投手陣になりつつある。

 

●野手陣~若手の台頭で、山賊打線復活に期待。カギを握るのは2年目の若林

 昨年は振り返れば、ベストメンバーで戦えた時季が少なかった。開幕から相次ぎ主力が離脱し、秋山移籍以降、固定できなかった一番にルーキー若林の目途が立ったと思えば、靭帯損傷で5月を最後にチームを離れた。外国人選手も不振で戦力になれず、山川と外崎は復帰したものの不調のままシーズンを終えた。

 そのなかで森友哉大阪桐蔭高~13年①)は3割を打ち、源田は盗塁王、何だかんだ山川も5年連続で20本塁打は最低限の役割は果たした。呉念庭と愛斗、岸の若手がキャリアハイの成績を残し、ともに20年選手の栗山は球団初の生え抜き初の2000本安打を達成し、中村剛也大阪桐蔭高~01年②)もシーズン後半は4番を務め、ベテランが衰え知らずの活躍を見せた。

 チーム打率と本塁打はリーグ4位、盗塁はリーグ3位で、打ちまくった山賊打線にここ2年で陰りが見えるものの、戦力だけを見れば最下位になる陣容ではなく、投手陣同様に打線の立て直しのほうが急務な課題かも知れない。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆森 友哉(125/520)柘植世那(35/72)岡田雅利(34/55)

 内野手…☆源田壮亮(119/516)☆呉 念庭(130/478)☆中村剛也(123/475)

     山川穂高(110/414)外崎修汰(73/300)スパンジェンバーグ(61/212)

     山田遥楓(96/173)平沼翔太(41/98)

 外野手…☆栗山 巧(117/446)岸潤一郎(100/338)愛斗(97/316)

     金子侑司(101/220)川越誠司(63/174) ※若林楽人(44/161)

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)金子侑司⑧      1)若林楽人⑦      

  2)源田壮亮⑥      2)源田壮亮⑥       

  3)森 友哉②      3)森 友哉②    

  4)山川穂高③      4)中村剛也⑤      

  5)栗山 巧DH       5)栗山 巧DH      

  6)外崎修汰④      6)呉 念庭④      

  7)中村剛也⑤      7)山川穂高③      

  8)木村文紀⑨      8)愛斗⑨

  9)西川愛也⑦      9)金子侑司⑧  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…岡田雅利 森 友哉 柘植世那(古賀悠斗)

 内野手山川穂高 外崎修汰 源田壮亮 ジャンセン※ 呉 念庭 山田遥楓 

       中村剛也(山野辺翔 渡部健人 平沼翔太 ブランドン大河)

 外野手…栗山 巧 オグレディ※ 若林楽人 愛斗 岸潤一郎 川越誠司

      (金子侑司 鈴木将平 熊代聖人)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)若林楽人⑧      捕 手)森 友哉(柘植世那) 

  2)源田壮亮⑥      一塁手山川穂高(呉 念庭)

  3)森 友哉⑨      二塁手)外崎修汰(山田遥楓)

  4)山川穂高③      三塁手中村剛也(ジャンセン)

  5)オグレディ⑨     遊撃手)源田壮亮

  6)外崎修汰④      左翼手)岸潤一郎(栗山 巧)

  7)栗山 巧DH       中堅手)若林楽人

  8)中村剛也⑤      右翼手オグレディ(愛斗)

  9)岸潤一郎⑦       D H) 栗山 巧

 捕手は一時期野手転向の噂もあったが、今年も森の正捕手は変わらない。ベテランの岡田雅利(大阪ガス~13年⑥)はバントが巧く、ベンチに置いておきたい選手で、し烈なのはポスト森を狙う2番手捕手になる。昨年16試合に先発し勝負強い打撃を見せた柘植世那(ホンダ鈴鹿~19年⑤)が有力だが、強肩強打のルーキー古賀悠斗(中大~21年③)もアピール次第では十分にチャンスがある。

 内野は一塁の山川と遊撃の源田は決まりだと思うが、山川が昨年のような不調に陥れ決して安泰ではない。二塁も基本は外崎で決まりだと思うが、レギュラー獲りを狙う呉念庭や新外国人のジャンセンの状況次第では、外崎を三塁や手薄な外野に廻すこともできる。

 その三塁はポスト中村の争いに注目で、昨季ファーム本塁打王の渡部と、一足先に結果を残したブランドンが虎視眈々とレギュラーを狙っている。また、ジャンセンは三塁が本職で、3Aで打率.299、29本塁打スラッガーだ。守備に定評のある元気印の山田遥楓(佐賀工高~14年⑤)は、一塁以外はどこでも守れ、少ないチャンスから出番を増やしたい。

 外野のレギュラーは白紙で注目の争いになる。そのなかで最有力は若林で、昨年44試合で20盗塁を記録し、離脱する前の5月は3割を打っており、今年の西武打線のカギを握る選手になる。新外国人のオグレディは3Aで打率.281、本塁打15本の中距離打者で足も早い。ジャンセンも左翼を守れ、昨年不発だった外国人選手の二の舞にならないよいう、どちらかは結果を残してほしい。

 このほか、昨季結果を残した岸は中堅または左翼、愛斗は右翼の定位置を狙う。川越誠司(北海学園大~15年②)は遠投120メートルの強肩がセールスポイントで、打撃の粗さが解消できればレギュラー獲りも夢ではない。また、一昨年レギュラーを掴みかえた鈴木将平(静岡高~16年④)も控えており、若手が成長すれば、栗山を指名打者に専念することができ、打線の底上げに繋がる。

 打線のポイントは、一番打者の確立と新外国人選手の出来、今年で39歳を迎える中村と栗山を脅かす若手の成長になる。

 一番打者の最有力候補は若林で、今年のチームのカギを握るのは若林と言っても過言ではない。昨年は森に次ぐ出塁率を誇り、シーズン通して出場できれば盗塁王も獲得できる。わずか44試合に出場したルーキーが、今年のキーマンになるほど昨年のインパクトは強かった。若林が間に合わなければ、ベテランの金子侑司(立命大~12年③)や岸が候補になるが、開幕スタメンで誰の名前が一番の呼ばれるか注目したい。

 新外国人選手のオグレディとジャンセンは、どちらか言うとともに中距離打者で、2桁本塁打をコンスタントに狙える選手が揃っているなか、穴の多い一発屋より確実性を狙った補強は頷ける。オグレディは一塁と外野、ジャンセンも三塁を中心に、一塁と二塁、左翼を守れ、どのポジションと打順で起用するのか楽しみだ。

 中村も栗山も元気だが、そろそろかつての山賊打線のイメージを払拭しても良いころだ。ポスト中村で渡部やブランドン、ポスト栗山で岸や鈴木、ポジションは違うが左に強く得点圏打率の高い呉念庭に期待したい。あとはやはり、山川と外崎の復調なしに山賊打線復活は語れない。

  

 最後に期待の選手では、投手ではやはりルーキー隅田を挙げたい。キャンプを視察した松坂にチェンジアップを評価されており、焦ることはないが先発ローテに喰い込み、慢性的な先発左腕不足を解消したい。九州リーグが生んだ隅田の活躍は、地方リーグのレベルの高さの証明にもなる。

 打者では、今季本格的な打者転向4年目のシーズンを迎える川越だ。強肩と長打力に注目が集まるが、50メートル5秒9の俊足で実は出塁率も悪くなく、一番打者や源田に代わり攻撃的二番打者でも面白いと思う。

 重ねて言うが最下位になる戦力ではなく、2年連続でリーグ制覇したメンバーは数多く残っており、若手も着実に成長している。一気に優勝を狙うには、新戦力の台頭などが必要になるが、Aクラス復帰には十分な戦力が揃っている。