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どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年戦力展望☆西武~投手力が今年も万全!山賊打線が復活すれば3年振りの優勝も狙える!

 一昨年の42年振りの最下位から巻き返しを狙ったシーズンは、大方の下馬評を覆し7月中旬に首位浮上。8月は貯金を最大10にし、オリックスソフトバンクと激しい優勝争いを繰り広げた。勝負の9月に7連敗を喫し優勝争いから脱落したものの、何とかAクラスを確保できた。

 Aクラス復帰の原動力になったのは投手陣の大幅改善で、4年連続でリーグワーストだった防御率が2.75と、1点以上も改善されリーグトップになり、先発陣は前年の4.16から2.99、リリーフ陣も3.59から2.31とまさに盤石で、山賊打線と恐れらた打高投低のチームから、投高打低のチームに変貌した。

 オフには6年指揮を執り、Aクラス5回の辻発彦監督が退任し、松井稼頭央新監督を迎え、チーム再建を引き継ぐことになる。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 22年 3位 72勝68敗  1分 .229  118本   60個  464点  2.75  448点

    21年 6位 55勝70敗18分 .239  112本   84個  521点  3.94  589点

 20年 3位 58勝58敗  4分 .238  107本   85個  479点  4.28  543点

 19年 1位 80勝62敗  1分 .265  174本 134個  756点  4.35  695点

 18年 1位 88勝53敗  2分 .273  196本 132個  792点  4.24  653点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 21年~なし

    20年~水上由伸(投手~四国学院大/育⑤)

 19年~宮川 哲(投手~東芝①)

 18年~松本 航(投手~日体大①)森脇亮介(投手~セガサミー⑥)

 17年~平良海馬(投手~八重山商工高④)

 西武と言えば、もはや恒例ともなってしまったFAによる選手の移籍だが、昨年も正捕手の森友哉オリックスへ移籍した。森の移籍で、チーム通算の選手流出は20人になり、12球団で断トツの多さになる。ただ、FA制度が導入(93年)以降、西武はリーグ優勝7回、うち日本一は5回。最下位は一昨年の一度だけと、育成手腕の高さとドラフト巧者振りが際立ち、ここはもっと評価されて良い。

 昨年こそ、主力選手が生まれていないが、14試合に先発した隅田知一郎(西日本工大~21年①)に、9試合に先発し、隅田を上回る3勝を上げた佐藤隼輔(筑波大~21年②)、森移籍後の正捕手候補で古賀悠斗(中大~21年③)が控えており、なんだかんだ毎年のように主力選手を獲得、育成できている。

 とにかく西武は年齢バランスが秀逸で、平均年齢26.6歳の若いチームながら19歳~33歳まで年齢表の空白がない。年齢の偏りにより、一気に戦力が落ちるリスクが少なく、FAで選手が流出しても安定的な戦いができる要因の一つと言える。

 ただ気になるのは、源田壮亮トヨタ自動車~16年③)以降、野手の主力選手が誕生していないことで、期待の若手は数多くいるが、今ひとつ伸び切れておらず、山賊打線が鳴りを潜め、投高打低のチームになってしまった大きな要因と言える。

 

●投手陣~先発・リリーフともに盤石な投手陣だが、平良の先発転向がどう影響するか

  一昨年、ようやくチーム防御率4点台から抜け出した投手陣は、先述した通り大幅改善し、リーグ屈指の投手陣に変貌した。エースの高橋光成前橋育英高~14年①)に與座海人(岐阜経大~17年⑤)、新外国人のエンスが2桁勝利に防御率2点台の好成績を残し、故障に苦しんだ今井達也(作新学院高~16年①)も、僅か9試合の先発ながら5勝を上げ防御率2.41と、万全であれば結果を残せることを証明した。

 その先発陣より強固だったのがリリーフ陣で、平良と水上はともに60試合以上に登板し、30ホールドで防御率は脅威の1点台。森脇と本田圭佑東北学院大~15年⑥)も40試合で防御率1点台の好成績を残した。クローザーの増田達至(NTT西日本~12年①)は31セーブ、宮川に左腕の佐々木健(NTT東日本~20年②)、新加入のボーを加えたリリーフ陣は、首位に立った7/18時点で防御率1.55、6回終了時にリードしたゲームは36勝1敗とまさに鉄壁を誇った。

 ただ、シーズン終盤は蓄積疲労もあったか、8~10月は防御率3点台と失速の原因になっただけに、さらなる改善も求められる。

【22年シーズン結果】☆は規定投球回数クリア ※は新加入選手

 ・先発…☆高橋光成(175回2/3)松本 航(129回2/3)エンス(122回1/3)

       與座海人(115回2/3)平井克典(81回)

 ・救援…平良海馬(61試合)水上由伸(60試合)増田達至(52試合)

       本田圭佑(52試合)宮川 哲(45試合)森脇亮介(43試合)

       佐々木健(37試合)

【今年度の予想】

 ・先発…高橋光成 松本 航 今井達也 與座海人 平良海馬 エンス 

      (渡邊勇太朗 隅田知一郎 佐藤隼輔 浜屋将太 ※青山美夏人 赤上優人)

 ・中継…宮川 哲 平井克典 佐々木健 森脇亮介 本田圭佑 水上由伸

      (公文克彦 田村伊知郎 ボー ※張奕 ※ティノコ 大曲 錬)

 ・抑え…増田達至  

 先発は開幕投手に指名されている高橋に松本、今季から先発に転向する平良、昨年2桁の與座とエンス、今井も故障の心配がなければ当確と言え、既に先発の枠が埋まっている。ここに中継ぎもできる平井克典(ホンダ鈴鹿~16年⑤)に、2年目の飛躍を目指す隅田と佐藤隼の両左腕、昨年ファームで103回を投げ6勝を上げた渡邊勇太朗(浦和学院高~18年②)も控えており先発の層は厚い。

 さらに一軍登板はないものの、ファームで渡邊に次ぐともに3勝を上げた赤上優人(東北公益文化大~20年育①)、豆田泰志(浦和実高~20年育④)は支配下登録を狙う。また、ルーキーの青山美夏人(亜大~22年④)も完投能力が高く、着実に投手王国の地固めが進んでいる。

 一方で先発に比べ、リリーフ陣は若干心配が残る。平良が本人の強い希望(直訴)により先発に廻り、今季35歳を迎えるクローザーの増田も昨年の後半戦は失敗が目立った。水上を中心に、実績十分の平井と森脇、宮川、リリーフの適性を見せた本田に佐々木は、昨年以上に大事な場面での起用になるが、ここは新戦力にも期待したい。

 新外国人のティノコは最速157キロのストレートが武器で、奪三振能力が高いセットアッパー候補。森の人的補償で、オリックスから移籍した張奕(日本経大~16年オ育①)も50試合以上登板を目標にしており不安を埋めたい。

 

●野手陣~山川と源田、外崎以外のレギュラーは白紙。ポスト森など課題は多い

 改善した投手陣とは逆に、打線は低調で、チーム打率はリーグ最下位に沈み、得点数はリーグ5位で、2度のノーヒットノーランを喫するなど、かつての山賊打線の面影は見る影もなくなった。

 その打線は、山川穂高(富士大~13年②)が本塁打と打点の2冠に輝き、オグレディと外崎修汰(富士大~14年③)、中村剛也大阪桐蔭高~01年②)の4人が2桁本塁打を放ち、本塁打はリーグ1位だったが、得点圏打率は最下位、盗塁数も最下位で機動力も機能せず、結局は本塁打でしか得点できない単調な打線になってしまった。

 また、秋山翔吾(広島)がMLB移籍後、定着しなかった一番打者は今年も固定できず、実に13名を起用するなど課題が解消されなかった。

 チーム本塁打の1/3は山川、盗塁は源田と外崎が同じく1/3を占めており、その源田と外崎は失策数もリーグワーストのチームにおいて、ゴールデングラブ賞も獲得している。この主力の3人が欠けてしまうとチームは機能不全になり、実際に昨年後半の9~10月に山川が調子を落とすと、チームの成績も下降線を辿っている。

 森は移籍したが、外崎が残留を決め、源田も5年契約を結びFA移籍の心配は無くなった。一方で山川は今オフの移籍が濃厚と噂され、中村と栗山巧(育英高~01年④)も今年40歳を迎え、本格的な世代交代と並行して、打線の立て直しが急務だ。

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…森 友哉(102/412)柘植世那(42/118)

 内野手…☆外崎修汰(132/547)☆山川穂高(129/528)☆源田壮亮(108/456)

     呉 念庭(94/301)中村剛也(88/294)ジャンセン(35/128)

 外野手…☆オグレディ(123/465)愛斗(123/363)栗山 巧(89/267)

       鈴木将平(58/227)川越誠司(50/159) 金子侑司(44/128)      

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)鈴木将平⑧      1)外崎修汰④      

  2)オグレディ⑦     2)源田壮亮⑥       

  3)森 友哉②      3)森 友哉②    

  4)山川穂高③      4)山川穂高③     

  5)中村剛也⑤         5)呉 念庭⑤      

  6)外崎修汰④      6)愛斗⑨    

  7)栗山 巧DH       7)栗山 巧DH    

  8)愛斗⑨        8)オグレディ

  9)源田壮亮⑥      9)鈴木将平⑧  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…古賀悠斗 柘植世那(岡田雅利 中熊大智)

 内野手山川穂高 外崎修汰 源田壮亮 ※マキノン 平沼翔太 呉 念庭

      ※佐藤龍世 中村剛也 

     (山野辺翔 渡部健人 山村崇嘉 ※陽川尚将 滝澤夏央 長谷川信哉)

 外野手…栗山 巧 ※蛭間拓哉 ※ペイトン 鈴木将平 愛斗  川越誠司

      (金子侑司 若林楽人 西川愛也 岸潤一郎 高木 渉)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)外崎修汰④      捕 手)柘植世那(古賀悠斗) 

  2)源田壮亮⑥      一塁手山川穂高

  3)ペイトン⑦      二塁手)外崎修汰(佐藤龍世)

  4)山川穂高③      三塁手)呉 念庭(マキノン)

  5)呉 念庭⑤      遊撃手)源田壮亮

  6)愛斗⑨        左翼手)ペイトン(川越誠司)

  7)栗山 巧DH       中堅手)鈴木将平(蛭間拓哉)

  8)柘植世那②      右翼手)愛斗

  9)鈴木将平⑧       D H) 栗山 巧(中村剛也

 今季の重要課題は、森に代わる正捕手の確立と一番打者の固定、そして若手または新戦力台頭の3点になる。一塁の山川と二塁の外崎、WBCでの指の骨折が心配だが遊撃の源田は決まりで、残りのポジションはすべて白紙と言って良い。

 正捕手候補は柘植世那(ホンダ鈴鹿~19年⑤)と2年目の古賀、ベテランの岡田雅利(大阪ガス~13年⑥)が軸になる。ただ、柘植は3年通算で94試合の出場に留まり、通算打率は1割台。古賀も守備、打撃ともに課題は多い。べテランの岡田も左ひざ手術の影響で昨年はわずかに1試合出場と大きな期待を寄せるのは酷で、ファームの正捕手、中熊大智(徳山大~18年育③)も交えて横一線の競争になる。

 一番打者の固定は、昨年は外崎の38試合が最多で、次いで鈴木将平(静岡高~16年④)に源田、川越誠司(北海学園大~15年②)、若林楽人(駒大~20年④)等13名が務めた。機動力を活かすと源田に外崎、若林や金子侑司(立命大~12年③が候補になり、源田に川越、機動力も使える愛斗(花咲徳栄高~15年④)は出塁率が高い。また、19年のプレミア12米国代表で一番打者を務めたペイトンも候補になる。

 最後は若手と新戦力の台頭で、愛斗と呉念庭第一工大~15年⑦)は、今季こそレギュラーを確立するシーズンになり、新外国人マキノンと阪神から加入した陽川尚将(東農大~13年③)は長打力が期待される。

 このほか、内野では平沼翔太(敦賀気比高~15年日④)に日本ハムから出戻りの佐藤龍世(富士大~18年⑦)、昨年、源田の穴を埋めた滝澤夏央(関根学園高~21年育②)、内外野守れる長谷川信哉(敦賀気比高~20年育②)が控え、外野も走攻守揃ったルーキー蛭間拓哉(早大~22年①)にも十分にレギュラー獲得のチャンスはある。

 

ルーキー蛭間のレギュラー獲得はなるか?水上を輩出した20年育成指名組は宝の山

 期待の選手では、投手は同期入団の赤上優人と豆田泰志の2人で、ともに一軍経験はないが、赤上は昨年ファームで74回1/3を投げ3勝。豆田は赤上を上回る81回を投げ同じく3勝を上げ、ともに防御率は3点台を結果を残した。この年(20年)は、育成で5名指名されているが長谷川と水上はすでに支配下登録され、水上は新人王も獲得している。今季、2人がシンデレラボーイになる可能性は十分にある。

 野手はルーキーの蛭間拓哉で、外野のレギュラーポジションが決まっていないなか、1年目からの活躍が期待できる。走攻守ともにレベルが高く、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなれ、それこそ秋山翔吾のような選手になれる。この間、渡部健人(桐蔭横浜大~20年①)をはじめ、即戦力で獲得した野手が結果を残すことが出来ておらず、そろそろこの負のスパイラルを止めたいところだ。

 今季、森が抜けた穴は攻守で大きい。投手力は盤石だが、打線の課題は解消されておらず、守り勝つ野球をするにしても失策含め改善が求められる。優勝を狙うには戦力が不足しているが、競争のなかからの新戦力の台頭でAクラスを確保しながら、終盤まで優勝争いに絡めば十分にチャンスはる。