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どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年戦力展望☆中日~盤石な投手陣と深刻な貧打戦…不可解なトレードは活性化に繋がるか?

 ファンが待ち望んだ立浪新監督を迎え、逆襲を狙ったシーズン。ただ、大きな補強もなく期待より不安が大きいなか、終わってみれば16年以来の最下位に沈み、新監督には厳しい船出となった。

 最大の要因は誰が見ても分かるように、深刻な貧打に尽きる。得点数と本塁打数は12球団ワーストで、得点数トップのヤクルトとは200点以上の差があり、本塁打数はヤクルトの村上1人と6本差しかない…。1試合当たりの平均得点数は2.9と3点に満たないのは中日のみで、シーズン26度の完封負けは球団記録を更新するなど、打線に関しては頭を抱えてしまう数字が並ぶ。

 現有戦力の底上げで戦えると判断したと思うが、期待の石川昂弥(東邦高~19年①)は序盤にケガで早々と戦線離脱し、悩める根尾昂(大阪桐蔭高~18年①)は本当に投手に転向してしまった。また、ドラフトで右のロングヒッターの大学生を一気に3名獲得するなど、大胆な指名も不発に終わった。

 弱り目に祟り目ではないが、根尾の投手転向の迷走劇を始め、シーズン前は茶髪とヒゲ禁止(今シーズンは解禁)が賛否を呼び、正遊撃手の京田陽太(日大~16年②)の試合途中の強制送還から、DeNAにトレードされるなど、ネガティブなニュースが悪目立ちしてしまった感は否めない。

 一方で、若手が成長したのは少ない好材料で、投手では高橋宏斗(中京大中京高~20年①)に覚醒の気配が漂い、チームでただ一人WBCに選出された。清水達也(花咲徳栄高~17年④)もリリーバーとしての素質を開花させ、野手では岡林が最多安打でレギュラーを獲得した。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗     打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 22年 6位 66勝75敗 2分 .247    62本   66個  414点  3.28  495点

 21年 5位 55勝71敗17分   .237    69本   60個  405点  3.22  478点 

 20年 3位 60勝55敗 5分 .252    70本   33個  489点  3.84  489点

 19年 5位 68勝73敗 2分 .263    90本   63個  563点  3.72  544点

 18年 5位 63勝78敗 2分 .265    97本   61個  598点  4.36  654点

【過去5年のドラフトの主戦力】

    21年~なし

    20年~なし 

 19年~岡林勇希(外野手~菰野高⑤)

 18年~なし

 17年~なし

 13年から昨年までの10シーズンで、Aクラスは20年の一回だけと低迷しているが、その要因の一つはドラフトの不振で、過去5年の主力選手は、昨年ブレイクした岡林しかいない。

 それならばと10年スパンでも見ても、投手は柳裕也(明大~16年①)と藤嶋健人(東邦高~16年⑤)、小笠原慎之介東海大相模高~15年①)と福敬登(JR九州~15年④)、祖父江大輔トヨタ自動車~13年⑤)と主力が並ぶが、野手は京田と木下拓哉トヨタ自動車~15年③)、阿部寿樹(ホンダ~15年⑤)のみで、その阿部と京田はトレードで移籍してしまった。

 木下も阿部も良い選手だが、どちらかと言うと中距離打者でホームランバッターではない。中日がバンテリンドームに本拠地を変更したのは97年で、最近の話ではない。それにも係わらず、長距離砲と呼べる選手は福留孝介日本生命~98年①)しか見当たらなく、ドラフトで課題が解消されていない。

 また育成選手の獲得も、昨年こそ3名獲得したが、そもそも17年~21年の5年間で僅か6名、しかも全員が投手でとても課題を正しく認識してるとは思えず、本当にチームを強くしようとしているのかする姿勢を疑ってしまう。

 

●投手陣~盤石なリリーフ陣で、投手王国は健在!涌井の加入でさらに厚みを増した

  安定感のある投手陣は昨年も健在で、大野雄大(佛教大~10年①)と柳、小笠原が規定投球回数をクリアし、小笠原はキャリアハイの10勝を上げた。2年目の高橋宏は27回連続無失点の記録を打ち立て6勝、ベテラン左腕の松葉貴大(大体大~12年オ①)も同じく6勝を上げ、松葉はFA移籍も囁かれていたが残留を決めた。

 たが、先発陣で貯金できたのは小笠原だけで、打線の援護がないとは言え、物足りない結果に終わってしまった。また、6人目を確立することができず、主力の5名以外に先発マウンドには12名が登板したが、チャンスを活かす選手は現れなかった。そのなかでも上田洸太朗(享栄高~20年育②)と勝野昌慶(18年③)が、それぞれ8試合ずつに先発したのは期待の高さが窺える。

 一方で救援陣は万全で、先発の防御率3.46に対し、リリーフ陣の防御率は2.93と奮闘が光った。クローザーのRマルティネスは28試合連続無失点、防御率は驚異の0.97で最多セーブ数を獲得した。先発からリリーフに転向したロドリゲスも最優秀中継ぎに輝き、清水も54試合で32ホールドと勝ちパターンを担う活躍を見せた。

【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆大野雄大(157回)☆柳 裕也(153回1/3)☆小笠原慎之介(146回2/3)

     高橋宏斗(116回2/3)松葉貴大(100回)

 ・救援…Rマルティネス(56試合)ロドリゲス(56試合)清水達也(54試合)

       藤嶋健人(50試合)祖父江大輔(46試合)福 敬登(36試合)

       谷元圭介(34試合)森 博人(30試合)山本拓実(30試合)

【23年の予想】※は新加入

 ・先発…小笠原慎之介 柳 裕也 高橋宏斗 ※涌井秀章 大野雄大 松葉貴大 

      (福谷浩司 ※仲地礼亜 岡野祐一郎 勝野昌慶 鈴木博志 上田洸太朗)

 ・中継…森 博人 ロドリゲス 祖父江大輔 ※砂田毅樹 清水達也 藤嶋健人

      (根尾 昂 田島慎二 橋本侑樹 谷元圭介 福 敬登 山本拓実)       

 ・抑え…Rマルティネス

 今季は先発で、楽天からトレード加入した涌井秀章(横浜高~04年西①)を含めた5人(大野雄、柳、小笠原、高橋宏)は確定と言え、残りの1枠の争いに注目だ。

 順当ならば松葉で決まりだが、楽しみなのがルーキーの仲地礼亜(沖縄大~22年①)で、最速151キロに多彩な変化球を持ち合わせており、開幕ローテーションの可能性も高い。また、昨年育成から支配下登録され初勝利を挙げた左腕の上田に、勝野と先発転向の鈴木博志(ヤマハ~17年①)もまだ26歳と現在が全盛期、一昨年の開幕投手福谷浩司(慶大~12年①)も復活を期すシーズンになる。

 リリーフ陣は、Rマルティネスも残留を決め、今季もロドリゲスとのキューバコンビの活躍が期待される。ここに清水に藤嶋、山本拓実(市西宮高~17年⑥)、森博人(日体大~20年②)といった若手に加え、経験豊富なの祖父江と福、谷元圭介バイタルネット~08年日⑦)のベテランに、DeNAから通算75ホールドの左腕・砂田毅樹(明桜高~14年D育①)が加入したリリーフ陣は万全と言える。

 このほかの若手では、根尾や左腕の福島章太(倉敷工高~20年④)、昨年は故障で一軍登板のなかった石森大誠(火の国サラマンダーズ~21年③)や、支配下を目指す松田宣哲(名大~19年育①)なども控えており、プラスアルファも期待できる。また、育成契約になったがベテランの岩嵜翔市船橋高~05年ソ①)の復帰にも期待したい。

 

●野手陣~深刻な貧打戦は今年は解消できるか…新戦力の台頭ないと今季も厳しい

 打線については冒頭でも述べたが、昨年も得点力不足は深刻だった。ただ、一番の大島洋平日本生命~09年⑤)は、ヤクルトの村上と首位打者を争い、岡林は最多安打を放っている。この1~2番を擁しても、点数が獲れないのだから、いかに中軸が機能していないかが分かる。

 それならばと、犠打(リーグ1位)を絡め、機動力(リーグ3位)も活用しているが、こちらも点数に結びついていない。四球数はリーグ最少、出塁率阪神と並んでワーストで、相手投手が楽に投げられている裏返しだと思う。守備率はDeNAと並んでリーグトップなだけに、守り勝つ野球はできると思う。

 ただ、長打力不足はここ数年の最大の課題で、外国人選手の補強もなく、ルーキーに頼ること自体が無理な話で、繰り返しになるがその補強も育成も巧くいっているとは言えない。それにも係わらず、チーム打率が2年連続、得点数は3年連続最下位のなか、試合数、打席数ともにチーム最多の阿部を放出するなど、本当に不可解な補強が多い。

 また、ドラフト後、捕手は6名いたが、石橋康太(関東一高~18年④)はオフに手術し、2人は高卒ルーキーと高卒2年目で、木下が離脱すればどうなるだろうと心配していたが、ロッテから加藤匠馬(青学大~14年⑤)をトレードで譲渡してもらい課題が埋まった。中日のチーム編成の不可解さは、こういうところにも垣間見える。 

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆木下拓哉(120/466)Aマルティネス(82/266)郡司裕也(33/48)

 内野手…☆阿部寿樹(133/548)☆ビシエド(129/532)高橋周平(78/290)

     土田龍空(62/229)溝脇隼人(87/157)三ツ俣大樹(58/154)

     京田陽太(43/143)石川昂弥(37/141)

 外野手…☆岡林勇(142/608)大島洋平(109/482)鵜飼航丞(59/195)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)大島洋平⑧      1)大島洋平     

  2)岡林勇希⑨         2)岡林勇希⑨        

  3)福留孝介⑦              3)阿部寿樹④

  4)ビシエド③      4)ビシエド③      

  5)木下拓哉②      5)Aマルティネス⑦    

  6)阿部寿樹④      6)木下拓哉②       

  7)石川昂弥⑤      7)高橋周平⑤    

  8)京田陽太⑥      8)土田龍空⑥

  9)大野雄大①      9)大野雄大  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…木下拓哉 加藤匠馬 郡司裕也(石橋康太)

 内野手…※田中幹也 高橋周平 ※村松開人 石川昂弥 土田龍空 溝脇隼人

       ビシエド ※カリステ(石垣雅海 高松 渡  福田永将 ※福永裕基) 

 外野手…鵜飼航丞 大島洋平 ※アキーノ 加藤翔平 岡林勇

    (※細川成也 福元悠真 三好大倫 後藤駿太 ※アルモンテ)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)岡林勇希⑨      捕 手)木下拓哉(石橋康太)

  2)大島洋平⑧      一塁手ビシエド

  3)ビシエド③      二塁手)溝脇隼人(村松開人)

  4)アキーノ⑨      三塁手)高橋周平(カリステ)

  5)木下拓哉②      遊撃手)土田龍空(田中幹也)

  6)高橋周平⑤      左翼手大島洋平(細川成也)

  7)土田龍空⑥      中堅手)岡林勇

  8)溝脇隼人④      右翼手)アキーノ(鵜飼航丞)

  9)大野雄大①               

 繰り返しになるが、なぜ阿部と京田を放出したのか…。阿部は長打力こそないが、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなれる選手で、二塁と三塁、外野も守れる。京田も打つほうの課題は多いが、遊撃の守備は12球団髄一で、立浪監督が基本にしていたセンターライン強化で、肝とも言える二遊間を解体する意図が分からない。

 昨年のドラフトで二塁の村松開人(明大~22年②)と遊撃の田中幹也(亜大~22年⑥)を獲得し、即戦力の福永裕基(日本新薬~22年⑦)も二塁を守れる。遊撃の土田龍空(近江高~20年③)の成長も著しく、若手台頭の自信からの英断かもしれないが、正直、冒険と言わざるを得ない。

 オフ最大の補強は、MLB通算41本塁打のアキーノの加入で、期待されるのはもちろん長打力。日本野球にアジャストできれば、元々は中距離ヒッターのビシエドの負担も軽減され、本来の巧打が活かせる相乗効果も期待できる。また、内外野どこでも守れるカリステも新加入し、NPB3年で通算打率.316のアルモンテも復帰し、外国人選手の競争環境も整った。

 このほか、やはり期待がかかるのは長距離砲で、内野なら石川に石垣雅海(酒田南高~16年③)、外野は鵜飼航丞(駒大~21年②)やDeNAから加入した細川成也(明秀日立高~16年D⑤)がレギュラーを争い、福元悠真(大商大~21年⑥)は一塁でも出場している。また、捕手の郡司裕也(慶大~19年④)も打力を活かして外野にもチャレンジしており、一軍で結果を出すには良い機会になると思う。

 守備で最大の注目は二遊間で、三塁に石川が入れば、二塁に高橋周平(東海大甲府高~11年①)、遊撃には土田が現時点のベストな布陣で、石垣や溝脇隼人(九州学院高~12年⑤)、ルーキーを加えたし烈な争いに期待したい。また、アキーノの加入で、岡林が中堅に回り、大島は左翼になることで守備負担も軽減されるだろう。大島も今年38歳のシーズンを迎え、後継争いにも注目したい。

 

●期待の選手~投手は5度目の最多勝を狙うタフネス右腕、野手はオールドルーキー

 期待の選手は投手では、楽天から移籍の涌井に注目している。西武から始まり、ロッテ、楽天でエースとして活躍し、今年19年目、シーズン中に38歳を迎えるベテランが、中日のエースナンバー#20を背負い、初めてセ・リーグでプレーする。年齢を感じさせないタフネスな粘りの投球が身上で、5度目の最多勝も夢ではない。

 野手では、社会人4年を経た27歳のオールドルーキー福永に期待したい。過去2回の指名漏れを味わい、昨年のドラフトでも支配下選手で全体最後に呼ばれた苦労人だ。ちなみに同級生は西武の高橋光や巨人の岡本がおり、プロ入りまでのその苦労が分かると思う。本職は三塁で、二塁も守れることができるが、魅力は何といっても逆方向にも打てる長打力で、即戦力としてレギュラーを狙って良い。

 

 正直、今季も厳しい戦いになり、上位進出は簡単ではないと思うが、投打で若手ぼ主力が育ちつつあり、立浪監督の荒療治ともいえるトレードでチームが活性化することに期待したい。最下位から2連覇したオリックスのように、高い投手力をベースに、若手を積極的に起用して、今季は将来の土台を作り、来季には本気で優勝できるメンバーを育てていきたい。そうすれば、結果Aクラスも見えてると思う。