ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆中日~投高打低は今年も変わらず…本気の補強姿勢が見えない…

 一昨年8年振りにAクラスに返り咲き、優勝候補にも挙がっていたが、与田監督の最終年は残念ながら自己ワーストの成績で終えた。

 その要因は貧打線の一言に尽きる。チーム打率、本塁打、得点がすべてリーグ最下位で、大島洋平日本生命~09年⑤)に任せっきりだった盗塁は、倍にはなったもののリーグ5位で「打てない、一発もない、走れない」では、いくら12球団ナンバーワンのチーム防御率でも勝ちに繋げることはできなかった。

 昨年は開幕7戦目を最後に、一度も5割に復帰することなく、最近の定位置5位に落ち着いた。主力が相次ぎ不振に陥り、平田良介大阪桐蔭高~05年①)や阿部寿樹(ホンダ~15年⑤)はシーズン途中に離脱した。何とか打開しようと、ロッテから加藤翔平(上武大~12年ロ④)をトレードで獲得したり、若手も起用するにはしたが、継続性に欠けた起用で新戦力の台頭はなかった。

「広いバンテリンドームだから長打力が出難い」という声を聞くが、全試合バンテリンドームで戦うわけではない。東京ドームや神宮球場横浜スタジアム本塁打の出やすい球場だが、ビジターは22勝44敗6分と散々な成績で「広い球場が本拠地だから」はただの言い訳にすぎない。

 そんななかファン待望の立浪和義監督が就任した。同じ新監督の新庄監督が「陽や動」なら、立浪監督は「陰と静」のようで対象的だ。茶髪やひげ、無用な私語禁止など、一見「昭和か?」と古臭い感じを受けるが、立浪監督が緩んだチームを引き締めるためのことで、外から見て相当歯痒く映ったのだろう。星野仙一落合博満といった稀代の名監督の下で主力として活躍し、誰よりも勝つことの大切さを知っているだけに、1年目からその手腕に期待が集まる。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗     打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 5位 55勝71敗17分   .237    69本   60個  405点  3.22  478点 

 20年 3位 60勝55敗 5分 .252    70本   33個  489点  3.84  489点

 19年 5位 68勝73敗 2分 .263    90本   63個  563点  3.72  544点

 18年 5位 63勝78敗 2分 .265    97本   61個  598点  4.36  654点

 17年 5位 59勝79敗 5分 .247  111本   77個  487点  4.05  623点   

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~なし 

 19年~なし

 18年~なし

 17年~なし

 16年~柳 裕也(投手~明大①)京田陽太内野手~日大②)

 近年ドラフトは不振で、この間の低迷も頷ける。16年の藤嶋健人(東邦高~16年⑤)、17年の鈴木博志(ヤマハ~17年①)、18年の梅津晃大(東洋大~18年②)に勝野昌慶(三菱重工名古屋~18年③)など、投手は及第点の選手は多いが、野手は見当たらない。

 昨年はDeNAの牧や阪神の中野、西武の若林にブランドン、高校生でもオリックスの来田が活躍しており、牧を除けば十分に獲れた選手。今季の外国人補強でも、立浪監督が「Aマルティネスより長打力がありそうな選手がリストに余りいなかった」と発言していたが、そのAマルティネスは通算2年で本塁打4本の選手で、一体どんなリストを立浪監督に見せたのか、フロントの眼力を疑ってしまう。

 また昨年は唯一育成指名がなかった。そもそも16年~20年の5年間で僅か7名しか指名していない。ドラフトが上手くいっていればそれでも良いか、ここ数年空振り続きのなかで、チームを強化しようとする姿勢を疑う。

 昨年でいえば高校生投手の指名は育成で不可欠だったし、長打力の一芸で指名されている選手もおり、この間成績が低迷しているなか、多くの育成指名で厚い選手層を誇るソフトバンクや、16年から育成指名を増やし昨年優勝したオリックスから学ぶことはないのだろうか?

●投手陣~12球団ナンバーワンの投手陣は今年も隙なし!又吉移籍も影響はない

  12球団でナンバーワンの防御率の投手陣は充実している。柳は最優秀防御率最多奪三振の二冠に輝き11勝を挙げた。大野雄と小笠原の両左腕も規定投球回数をクリアし、大野雄は防御率2点台で7勝、小笠原も8勝を挙げ、打線がまともなら2桁勝利は間違いなかっただろう。

 このほか開幕投手を務めた福谷浩司(慶大~12年①)に2年目の勝野、松葉貴大(大体大~12年オ①)、ロドリゲスが先発ローテーションを守った。

 リリーフ陣も盤石で、クローザーのRマルティネスは防御率2.06で23セーブと抜群の安定感を見せた。セットアッパーの又吉克樹(四国IL香川~13年②)は、66試合に登板し、防御率は驚異の1.28の33ホールドろ圧巻の成績を残した。さらに福敬斗(JR九州~15年④)と祖父江大輔トヨタ自動車~13年⑤)がともに50試合以上に登板し、先発同様リリーフ陣は充実している。

 さらに藤嶋も一年間一軍を完走し、キャリアハイの48試合で防御率も1点台と盤石のリリーフ陣に割って入る結果を残した。このほかの若手では橋本侑樹(大商大~19年②)にルーキー森博人(日体大~20年②)が経験を重ね、ベテランの谷元圭介バイタルネット~08年日⑦)や田島慎二東海学園大~11年③)、岡田俊哉智弁和歌山高~09年①)等がそれぞれ役割を果たした。 

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆柳 裕也(172回)☆小笠原慎之介(143回1/3)☆大野雄大(143回1/3)

     福谷浩司(103回1/3)勝野昌慶(91回1/3)松葉貴大(76回)

 ・救援…又吉克樹(66試合)福 敬登(57試合)祖父江大輔(55試合)

       Rマルティネス(49試合)藤嶋健人(48試合)谷元圭介(32試合)

【今年度の予想】

 ・先発…小笠原慎之介 柳 裕也 大野雄大 福谷浩司 松葉貴大 勝野昌慶

       梅津晃大 高橋宏斗 岡田俊哉 ロドリゲス 岡野祐一郎 笠原祥太郎 

 ・中継…橋本侑樹 谷元圭介 ※岩嵜 翔 祖父江大輔 福 敬登 藤嶋健人

       田島慎二 ※石森大誠 森 博人 鈴木博志 清水達也 山本拓実  

 ・抑え…Rマルティネス

 投手陣は今年も万全で大崩れすることはないだろう。先発は大野雄と柳、小笠原までは当確で、残り3枠の争いになる。実績で言えば福谷や松葉、昨年の活躍から見れば勝野とロドリゲスが順当だが、期待の若手が虎視眈々と先発の座を狙っている。

 誰もが潜在能力を認める梅津は、制球力や故障が多いなど課題は多いが大化けが期待できるブレイク候補の一番手。故障明けの清水達也(花咲徳栄高~17年④)も本格的に先発に転向し、評価上昇中の高橋宏斗(中京大中京高~20年①)も昨年ファームで体力づくりに励み、直球は155キロを超え2年目の活躍が期待できる。

 高橋と清水がローテーションの谷間で先発し、経験を積み重ねていけば、益々先発陣が強硬になる。また、開幕投手の経験もある笠原祥太郎(新潟医療福祉大~15年④)や先発に転向する岡田の両左腕も控え、裏ローテでも枚数に不安はない。

 リリーフ陣は又吉のFA移籍は痛いが、人的保障で岩嵜翔市立船橋高~07年ソ①)を獲得できたのは大きく、ほぼトレードで戦力ダウンにはならない。Rマルティネスがクローザーを務め、祖父江と福、岩嵜を加えたセットアッパー陣は、7回までリードできれば逃げ切れる陣容になっており、藤嶋の成長もプラスで勝ちパターンは既に形成できている。

 このほか谷元や田島のベテランはロングリリーフで試合を作れるし、再起を期す鈴木やルーキー石森大誠(火の国サラマンダー~21年③)はともにストレートで押す投球で盤石のリリーフ陣に喰い込みたい。2年目の森はチームでも貴重なスリークオーター、昨年は登板すべてがリリーフだった山本拓実(市西宮高~17年⑥)は、与えられた役割で結果を残し先発候補に浮上したい。

 万全な投手陣のなか育成にも期待の選手がいる。投手転向2年目で育成指名された松木平優大(精華高~20年育③)は、順調に成長曲線を描き一気にブレイクが期待できる。技巧派左腕の松田亘哲(名古屋大~19年育①)も支配下間近、2度目の育成契約から復活を期す大嶺祐太八重山商工高~06年ロ①)にも期待したい。

●野手陣~待ち望むのはノーチャンスからでも1点取れる長距離打者の覚醒

 チームで規定打席に達したのは大島とビシエド、高橋周と京田の4選手で木下も規定打席未満ながら正捕手の座を掴んだ。ただ、高橋周は不振、京田も課題の打撃で奮わず初の2軍落ちも経験した。痛かったのは一昨年、チーム2番目の本塁打と打点を稼いだ阿部の長期離脱で、ポイントゲッター的な枠割を果たしていただけに、打線がさらに迫力を欠いた。終わってみれば、結果を残したのは大島とビシエド、木下のみで、去就が微妙だったビシエドが残留したのは大きかった。

 新戦力の台頭も乏しく、新外国人のガーバーは、僅か12試合で打率.156、1打点の成績で早々と帰国。期待の根尾も今季も打率が2割に満たず、解説者に「話にならない」と酷評される始末。

 そのなかで4年目の高松渡(滝川二高~17年③)が自慢の俊足で出番を増やし、二塁で32試合にスタメン出場し、移籍の加藤も途中加入にも係わらずチーム3位の8盗塁で機動力不足を補う活躍を見せた。

 17年から本塁打や盗塁が年々低下傾向にあったが、チーム打率は悪くなく得点能力が乏しかった。ただ、昨シーズンはチーム打率もリーグ最下位に沈み、得点数405点は2年連続で12球団最低で、これまで数字で貧打が顕わになっているのに、補強らしい補強をしないフロントは本当に何を考えているか理解できない。 

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…木下拓哉(123/393)Aマルティネス(48/94)郡司裕也(30/76)

 内野手…☆ビシエド(130/526)☆高橋周平(137/520)☆京田陽太(113/448)

     福田永将(110/305)阿部寿樹(66/240)堂上直倫(75/234)

     根尾 昂(72/188)三ツ俣大樹(58/138)高松 渡(78/123)

 外野手…☆大島洋平(141/596)福留孝介(91/216)渡辺 勝(48/134)

     加藤翔平(55/128)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)大島洋平⑧      1)大島洋平     

  2)阿部寿樹④         2京田陽太        

  3)高橋周平⑤              3)福田永将   

  4)ビシエド③      4)ビシエド③      

  5)平田良介⑨      5)高橋周平⑤      

  6)京田陽太⑥      6)阿部寿樹④      

  7)木下拓哉②      7)木下拓哉     

  8)根尾 昂⑦      8)根尾 昂⑨

  9)福谷浩司①      9)柳 裕也①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…木下拓哉 Aマルティネス 桂依央利(山下斐紹)

 内野手…高松 渡 京田陽太 石川昂弥 高橋周平 阿部寿樹 三ツ俣大樹 

       福田永将   堂上直倫 ビシエド(石垣雅海 土田龍空) 

 外野手…根尾 昂 大島洋平 福留孝介 加藤翔平

   (※鵜飼航丞 平田良介 渡辺 勝 ※ブライト健太 伊藤康祐 岡林勇希)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)京田陽太⑥      捕 手)木下拓哉(Aマルティネス)

  2)加藤翔平⑨      一塁手ビシエド

  3)大島洋平⑧      二塁手)阿部寿樹(高松 渡)

  4)ビシエド③      三塁手)高橋周平(石川昂弥)

  5)高橋周平⑤      遊撃手)京田陽太

  6)阿部寿樹④      左翼手)鵜飼航丞(根尾 昂)

  7)木下拓哉②      中堅手大島洋平

  8)鵜飼航丞⑦      右翼手加藤翔平(岡林勇希)

  9)柳 裕也①               

 レギュラーは木下とビシエド、京田と大島は決まりだろう。とにかく現時点でビシエドと大島抜きの打線は考えられず、京田も入団後初の年俸ダウンを糧に打撃改造に取り組み今季もフル出場が望まれる。阿部と高橋周も順当に考えればレギュラー争いをする選手ではなく、今一度存在感を示したい。

 混戦は二塁手で、高松は足のスペシャリストとして存在感を増したが、打撃や守備、盗塁成功率の向上含め全体的にレベルアップが必要で、小技や粘り強い打撃で出塁率を上げれば1~2番での起用も増えてくる。ファームでチームトップの本塁打を放った石垣雅海(酒田南高~16年③)は、三塁も守れ自慢の長打力でアピールしたい。ベテランに差し掛かった三ツ俣大樹(修徳高~10年オ②)はバントと右打ちが巧く、昨年掴みかけたレギュラーの座を狙っている。

 三塁は石川昂弥(東邦高~19年①)に期待がかかる。昨季は一軍出場はなく、ファームでも壁に当たっているが、潜在能力は高くチーム待望の長距離砲だが、高橋周を脅かすまでには至っていない。中軸を打てれば、それに越したことはないが、まずは当たれば本塁打のように下位打線でも我慢して起用するくらいの長打力が求められる。

 昨年のドラフトで、大学生3人の外野手を獲得した異例のドラフトが示すように、外野手は大島以外レギュラー不在だ。なぜ、ダメもとでも日本ハムの西川と大田を獲りに行かなかったのか…本当に理解できないフロントだ。

 左翼では根尾やベテランの福田永将(横浜高~06年③)、右翼は加藤と岡林勇希(菰野高~19年⑤)が候補で、45歳の福留孝介日本生命~98年①)も健在だ。ここにルーキーのブライト健太(上武大~21年①)と鵜飼航丞(駒大~21年②)、昨年キャリアハイの成績を残した渡辺勝(東海大~15年育⑥)などが加わる。

 現時点では鵜飼の評価が高く、自慢の長打力でノーチャンスで1点を奪える打者で、それこそ下位打線辺りにいると怖い。ブライトは粗さはあるものの守備とスピードは一軍クラス打席で経験を積むことにより一気に開花するような気がする。誰が開幕一軍、そしてスタメンに名を連ねるか注目したい。

●今ひとつ煮え切らない現メンバーで優勝を狙えるか?育成含め立浪監督の手腕に注目

 期待の選手は投手では、ホークスから移籍した岩嵜を挙げたい。右肘の手術から復活した昨季は大事なところで痛打され、まさかプロテクトから外れたが、投手層の厚いホークスで最優秀中継ぎのタイトルを獲得した実績があり、同じく投手層の厚い中日でも勝ちパターンに入ってくる。是非、完全復活した岩嵜を今年は見てみたい。

 野手は根尾で、残念ながら今年もキャンプで苦労している。正直プロでどんな打者を目指しているか伝わらない。身体能力の高さは誰もが認めるが、オリックス吉田正のようにパワーを磨くのか、立浪監督のような中距離打者を目指すのか、スピードを活かして大島のようなリードオフマンを目指すのか、このままいけば中途半端な選手に終わってしまいそうな気がしてならない。

 今季は立浪監督の戦い方に注目している。高い投手力を活かし、技術に裏打ちされた実績も兼ね備えた選手を起用し優勝を狙うのか、それとも中途半端にAクラスを狙うより、若手を積極起用して将来の土台を作り、2~3年後に優勝できるメンバーを育てるのか、チームの方向性が開幕スタメンメンバーで伝わると思う。