一昨年は新庄剛志監督の就任、昨年は新球場「エスコンフィールド」が開場し、2年続けて話題には事欠かなかったが、「優勝しか目指さない」と豪語して臨んだシーズンは、新球場の盛り上がりに成績は伴わず、2年連続の最下位に沈んだ。
昨シーズンも開幕早々の5連敗が響き、3~4月は借金7の最下位スタート。その後の5月を勝ち越すと一時期Aクラスを狙える順位まで浮上したが、7月に悪夢の13連敗を喫しペナントレースから脱落。夏場に盛り返したものの、終盤9~10月に借金8で失速すると、5位西武に5ゲーム差をつけられシーズンを終えた。
【過去5年のチーム成績】
23年 6位 60勝82敗 1分 .231 100本 75個 464点 3.08 496点
22年 6位 59勝81敗 3分 .234 100本 95個 483点 3.48 534点
21年 5位 55勝68敗20分 .231 78本 77個 454点 3.32 515点
20年 5位 53勝62敗 5分 .249 89本 80個 493点 4.02 528点
19年 5位 65勝73敗 5分 .251 93本 48個 560点 3.76 590点
最下位ながら光明が見えたのが投手陣で、先発陣の整備が進み、懸案だったリリーフ陣も田中正義(創価大~16年ソ①)や池田隆英(創価大~16年楽②)の台頭で層が厚くなった。結果、チーム防御率と失点数がリーグ3位と改善し、特に与四球はリーグ最小と無駄な失点を防ぐことができた。
打線は万波を筆頭に野村と清宮幸太郎(早実高~17年①)、新加入のマルティネスが2桁本塁打を放ち、得点圏打率も3位と一発もあるチャンスに強い打線に成長した。ただ、今季もオーダーは141通りと当初目標としていたレギュラーを固定できず、チーム打率は最下位、得意とする機動力も盗塁数が減少し、得点数は5位と低迷した。
得点以上に投手陣の足を引っ張ったのが守備で、失策数はリーグワースト。天然芝の新球場になった難しさもあるが、失策は昨年もリーグワーストで守備力の向上は優先課題になる。また、盗塁阻止率も2年連続ワーストで、改善した投手陣の足を引っ張る形になってしまった。
【過去5年のドラフトの主戦力】
22年~なし
21年~上川畑大悟(内野手~NTT東日本⑧)
20年~伊藤大海(投手~苫小牧駒大①)
19年~河野竜生(投手~JFE西日本①)
18年~野村佑希(内野手~花咲徳栄高②)万波中正(外野手~横浜高④)
18年の3位を最後に、5年連続のBクラスの要因の一つにドラフトの低迷にある。今季もFAの山崎福也(明大~14年オ①)やMLB108本のレイエスを競合の末に獲得するなど補強は上手く進んでいるが、肝心のチームの底上げが進んでいない。
得意としていた高校生の育成が進まないなか、近年目立つのが即戦力志向への傾倒で、18~22年の5年間は高校生14名、大学生12名、社会人・独立リーグ9名となっており、特に社会人指名が増えている。
即戦力の指名が悪い訳ではないが、一昨年は二刀流が期待された矢澤宏太(日体大~22年①)やMLBから加藤豪将(メッツ~22年③)を指名したが、期待通りの活躍にはならず、特に矢澤は中途半端な起用になり、話題先行の感が否めない。
酷かったのが即戦力主体のドラフトになった19年で、指名した7名中(うち高校生は1名)在籍しているのは、河野と鈴木健矢(ENEOS~19年④)、梅林優貴(広島文化学園大~19年⑥)のみで、梅林は今季は育成指名で、僅か4年で半数がチームを去っており停滞する理由も頷ける。
また、昨季も地元の道内選手を華麗にスルーし、野手指名が中心になったなか、遊撃の守備力の高い辻本倫太郎(仙台大~中日③)は獲得のチャンスがあっただけに首を傾げた。阪神の門別啓人(東海大札幌高~22年神②)や広島の斎藤優汰(苫小牧中央高~22年広①)は、今季のブレイク候補に名前が挙がっており、もう少し意識しても良いと思うが…。
●投手陣~与四球数減で防御率はリーグ3位まで改善!今季も充実の先発陣
先発は昨季も上沢直之(専大松戸高~11年⑥)に加藤貴之(新日鉄住金かずさマジック~15年②)、伊藤の3本柱が健在で、伊藤の序盤の不振が無ければもう少し戦い方も変わってきた。ここに安定感の増した上原健太(明大~15年①)が加わり、リリーフから鈴木と北山亘基(京産大~21年⑧)を抜擢し先発陣の整備が進んだ。
リリーフ陣では、近藤健介の人的補償で入団した田中正の加入が大きく、ソフトバンクで伸び悩んでいた田中正のクローザー起用は、まさに双方WinWinの移籍になった。後半戦になると、池田と河野がセットアッパーに定着し、経験のある玉井大翔(新日鉄住金かずさマジック~16年⑧)や宮西尚生(関学大~07年③)を巧くやり繰りし、福田俊(星槎道都大~18年⑦)は29試合無失点と底上げが進んだ。
【23年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…☆上沢直之(170回)☆加藤貴之(163回1/3)☆伊藤大海(153回1/3)
上原健太(101回1/3)北山亘基(66回)鈴木健矢(65回)
・救援…池田隆英(51試合)河野竜生(50試合)玉井大翔(50試合)
田中正義(47試合)ロドリゲス(37試合)宮西尚生(31試合)
【今年度の予想】
・先発…加藤貴之 伊藤大海 ※山崎福也 上原健太 ※バーヘイゲン 根本悠楓
(金村尚真 ※細野晴希 ※マーフィー ※黒木優太 鈴木健矢 北山亘基)
・中継…玉井大翔 河野竜生 福田 俊 ロドリゲス 山本拓実
(杉浦稔大 宮西尚生 堀 瑞樹 ※ザバラ 石川直也 北浦竜次)
・抑え…田中正義 池田隆英
今季の先発は山崎福の加入はあったが、上沢がメジャーに移籍し、ややマイナス要素のほうが強い。山崎福は昨季2桁の11勝を挙げたが、23試合で130回、防御率は3.25で、上沢は勝ち星こそ9勝も、24試合で170回、防御率2.96で、数字だけを見れば上沢の穴を山崎福ひとりで埋めるのは容易ではない。
先発は開幕投手に指名された伊藤に加藤貴、山崎福の新3本柱を中心に上原とNPB13勝のバーヘイゲンまでは順当と言える。残り1枠を北山に鈴木、第2回アジアチャンピオンシップで好投した根本悠楓(苫小牧中央高~20年⑤)、昨季は故障で離脱したものの4試合に先発し、防御率1点台の金村尚真(冨士大~22年②)、オリックスから加入の黒木優太(立正大~16年②)が争う形になり先発陣は充実している。また、達孝太(天理高年①)も今季のブレイク候補で、プロ初勝利が見られるかも知れない。
リリーフは昨季活躍した田中正と池田、河野に期待がかかる。昨季のように8~9回が安定すれば、宮西に玉井、杉浦稔大(国学院大~13年ヤ①)、7年目のロドリゲスなど経験豊富な選手に加え、福田俊に山本拓実(市西宮高~17年⑥)など伸び盛りの若手が加わる。
さらに新加入の161キロ右腕のザバラはクローザー候補で、復活を期す堀瑞樹(広島新庄高~16年①)に石川直也(山形中央高~14年④)、育成契約だが巨人から復帰したベテランの鍵谷陽平(中大~12年③)も控える。また、北山と鈴木、黒木はリリーフ経験もあり、今季の投手陣はさらなる活躍が期待できる。
●野手陣~今季はレギュラーを固定できるか?守備力アップで守り勝つ野球を目指す
昨年は万波が本塁打王にあと1本と迫る25本塁打を放ち、強肩を活かした右翼守備は他球団の脅威になった。これまで故障の多かった野村は一年間完走し、五十幡亮汰(中大~20年②)や細川凌平(智弁和歌山高~20年④)等が自己最多の出場試合数で若手の台頭も目立った。
一方で一昨年首位打者の松本は成績を落とし、期待の清宮や上川畑、今川優馬(JFE東日本~20年⑥)が伸び悩み、即戦力ルーキーの矢澤や加藤豪もレギュラーポジションを脅かすことが出来なかった。打線以上に改善が必要なのが守備で、以前のスキのない鉄壁な守備は見る影もなく、新庄監督が理想とする、機動力や犠打を駆使し、しぶとく1点をもぎ取り、守り勝つ野球には程遠い状況になっている。
【23年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入
捕 手…☆マルティネス(119/444)伏見寅威(89/251)郡司裕也(55/187)
内野手…☆野村佑希(125/473)上川畑大悟(108/346)清宮幸太郎(99/416)
奈良間大己(65/196)加藤豪将(62/222)細川凌平(60/112)
アルカンタラ(41/125)石井一成(36/100)
外野手…☆万波中正(141/582)☆松本 剛(134/561)江越大賀(100/176)
五十幡亮汰(70/206)矢澤宏太(37/107)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】
1)松本 剛⑦ 1)松本 剛⑦
2)上川畑大悟⑥ 2)五十幡亮汰⑧
3)石井一成④ 3)清宮幸太郎⑤
4)野村佑希⑤ 4)万波中正⑨
5)清宮幸太郎③ 5)マルティネスDH
6)マルティネスDH 6)野村佑希③
7)万波中正⑨ 7)上川畑大悟④
8)宇佐見真吾② 8)奈良間大己⑥
9)五十幡亮汰⑧ 9)伏見寅威②
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…マルティネス 伏見寅威 郡司裕也 田宮裕涼(古川裕大 ※進藤勇也)
内野手…加藤豪将 上川畑大悟 野村佑希 清宮幸太郎 細川凌平 奈良間大己
(中島卓也 石井一成 福田光輝 有薗直輝 水野達稀)
外野手…※スティーブンソン 松本 剛 江越大賀 五十幡亮汰 万波中正
※レイエス(浅間大基 矢澤宏太 ※宮崎一樹 ※水谷 瞬 今川優馬)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)松本 剛⑦ 捕 手)伏見寅威(田宮裕涼)
5)野村佑希③ 遊撃手)上川畑大悟(奈良間大己)
8)伏見寅威② 右翼手)万波中正
9)上川畑大悟⑥ D H)レイエス(マルティネス)
捕手は伏見寅威(東海大~12年オ③)やマルティネスを中心に、郡司裕也(慶大~19年中④)に古川裕大(上武大~20年③)、田宮裕涼(成田高~18年⑥)などタレントが豊富で、特に昨季の後半戦で見せた亜田宮の強肩は盗塁阻止率の向上に繋がる。また、マルティネスと郡司は内野、古川は外野も守れ複数ポジションをこなせる選手が多い飲のも心強い。また、強肩強打のルーキー進藤勇也(上武大~23年②)も開幕スタメンのチャンスもあり、正捕手争いがし烈になっている。
内野は一塁の野村と三塁の清宮が確定だが、清宮が自主トレでケガをし出遅れ開幕が微妙になっている。清宮が間に合わなければ、野村や福田光輝(法大~19年ロ⑤)が有力だが、郡司も三塁守備に挑戦しており、3年目の有薗直輝(千葉学芸高~21年②)の抜擢の可能性もあり、このチャンスを活かす選手の出現に期待したい。
課題は今季も二遊間で、二塁は加藤豪に細川、石井一成(早大~16年②)、遊撃は上川畑に奈良間大己(立正大~22年⑤)、中島卓也(福岡工高~08年⑤)が候補だが、奈良間以外は全員が同じ左の巧打者タイプで、打撃か守備で飛び抜けた選手が欲しい。
外野は左翼の松本と右翼の万波が決まりのなか、新外国人のスティーブンスも加入した中堅がし烈な争いになる。俊足のスティーブンスと五十幡はともにリードオフマン候補で、抜群の守備力を誇る江越大賀(慶大~14年神③)は打撃の確実性を上げたい。このほか、現役ドラフトで加入の水谷瞬(石見智翠館高~18年ソ⑤)は、紅白戦初戦で4番を任され、走攻守揃ったルーキー宮崎一樹(山梨学院大~23年③)も一軍キャンプスタートしており大抜擢があるかもしれない。
今季は万波を4番に据え、清宮と野村を加えた若いクリーンアップにマルティネスやレイエスの長距離砲が6~7番に控える打線は強力だ。課題は1~2番で松本剛は決まりだが、俊足の五十幡にスティーブンソン、出塁率の高い上川畑が候補になる。
●支配下に余裕があり、育成も投手陣が豊富!野手はトレードで補強も必要か
今季もオフの話題性は十分で、山崎福とレイエスを大争奪戦の末に獲得し、今シーズンは育成も含めると外国人選手8名で臨む。ただ、充実している投手陣と比較して野手の補強はまだ必要で、豊富な捕手を軸に、昨季引退した谷内亮太のような終盤の守備固めを安心して任せられる選手や、空白の25~30歳の右打ちの内野手を補強したい。
現状、支配下は65名と人数には余裕がある。育成を見てみると、投手は鍵谷のほかに、昨季ファームで好成績を残した柿木蓮(大阪桐蔭高~18年⑤)に斎藤伸治(東京情報大~20年育②)、台湾球界期待の星の孫易磊も控え豊富だが、野手の候補が乏しくトレードを検討しても良いと思う。
2年連続最下位ながら、着実に若手が成長し、今季の大型補強で台風の目になるのは間違いない。一気に優勝までとは行かないまでも、Aクラスは狙える戦力が揃い期待の持てる布陣になった。