手元に昨年のプロ野球記録集計号があるが、中日の見出しタイトルは、「今季も深刻だった得点力不足。打線が投手陣を援護できず、ビジターの戦いにも大きな課題」とある。一年やそこらでチーム状況は大きく変わらないとしても、まさしく2年続けて同じタイトルを使えるほど、課題が解消されていない。
直近10年でAクラスは20年(3位)の一度のみで、初の2年連続の最下位が現実味を帯びてきた。不振の要因を挙げればキリがないが、この間の成績を見ればチーム作りの方向性が正しいとは言えず、ファンの期待を真摯に受け止めなければならない。
【9/1現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 118試合 45勝70敗3分⑥
防御率…3.20④(3.28②)打率….241⑤(.247④)
本塁打…55⑥(62⑥)盗塁32⑤(66③)
得点…332⑥(414⑥)失点…421③(495②)
●投高打低の状況のなか、チームが目指す野球の形がが見えない
すっかり貧打線のイメージが定着したなか、今季のチーム打率は昨年より下がり、本塁打数は今季もリーグ最下位を独走中で、17年を境に6年連続で減少している。打てないのであれば、四球などからチャンスを拡げたいが、怖くない打線相手に相手投手が無駄な四球を与えてくれるわけもなく、四球の数も最小で、出塁率も3割に届かず12球団ワースト、盗塁数もトップの広島の半分にも満たず機動力にも欠けている。
一方で投手陣は好調で、エースの大野雄大(佛教大~10年①)を欠いてもリーグ4位の防御率で失点数は3番目に少ない。与四球の数が多いのが気にはなるが、被本塁打数はリーグ最少で、チーム防御率はここ10年間では最も良い。
投打の数字を見れば、投手陣を中心に守り切る野球が現在のチームには必要だと思うが、失策数は阪神に次いで2番目に多く、攻守で野手陣が足を引っ張っていると言わざるを得ない。また、ビジターゲームでの弱さも相変わらずで14連敗を含む借金18(ホームゲームは借金7)と、この間の課題が解消されていない。
チーム編成にも疑問が残る。チームはベテランと中堅、若手のバランスが大切だが、開幕前に主力の阿部寿樹(ホンダ~15年⑤)と、打撃に課題はあるものの堅守の京田陽太(日大~16年②)の二遊間のレギュラーをトレードで放出した。昨年のドラフトで、即戦力内野手4名を獲得したことからだと思うが、結果として世代交代を急ぎ過ぎた感は否めない。
シーズン前には捕手がルーキーの山浅龍之介(聖光学園高~22年④)を含めても6名しかいない現状にようやく気づいたのか、ロッテから加藤匠馬(青学大~14年⑤)を出戻りで再獲得する失態も演じた。
さらに打撃が評価され捕手以外のポジションに挑戦していた郡司裕也(慶大~19年④)を日本ハムに放出し、代わりに獲得したのが同じ捕手の宇佐見真吾(城西大~15年巨④)で、別に左打者に困っていたわけではないなか首を傾げるトレードだった。
極めつけは外国人の不振で、新外国人のアキーノとカリステ、復帰したアルモンテも戦力にならず3人合わせて本塁打は4本。しかもアキーノは僅か20試合で見切りをつけた形になっている。反面、契約の折り合いがつかず日本ハムへ移籍したマルティネスは、本人の希望通りマスクを被りながら14本塁打を放つ活躍を見せている。
●課題の野手は即戦力よりも高校生主体で獲得したい
昨年、一昨年と打線強化のため野手の補強を積極的に進める意図は理解するが、昨年は大学生2名、社会人・独立リーグから2名の計4名の内野手を獲得し、一昨年は未完の大学生の外野手を3名獲得するなど、とにかくバランスが悪い。
今シーズンは村松や福永の奮闘もあり面目を保っているが、過去5年で主戦で活躍しているのは、高橋宏と岡林のみで、ドラフトの低迷がチームの成績に直結している。また、今季はファームも断トツの最下位で、チーム全体元気がない。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
18年⑤…なし
20年③…高橋宏斗(中京大中京高/①・投手)
21年⑤…なし
22年⑥…村松開人(明大/②・内野手)福永裕基(日本新薬/⑦・内野手)
↓↓
【中日の補強ポイント】
投 手…高校生、大学生投手(先発の左腕)
捕 手…大学生または年齢構成で社会人捕手(大卒2年目)
内野手…高校生・大学生スラッガー、二遊間(守備力強化)、俊足のリードオフマン
外野手…高校生スラッガー(右打ちならベスト)
投打に課題は多いなか、気になるのが野手の中堅の伸び悩みで、25~30歳で主力と呼べるのは高橋周平(東海大甲府高~11年①)と福永、ともに移籍組の宇佐見と細川成也(明秀日立高~16年D⑤)しかいない。
ただ、この年齢をドラフトで獲得するのは難しく、トレードを活用するしかない。投手力が課題の巨人やソフトバンク、楽天とのトレードや、トラブルはあったものの西武の山川穂高を獲得するくらいの本気度を見せても良いと思う。
そうなると野手は、即戦力よりも高校生主体で考えて良いと思う。一軍の壁に当たってはいるが、ファームではブライト健太(上武大~21年①)と鵜飼航丞(駒大~21年②)が7本塁打、福元悠真(大商大~21年⑥)が3割を打ち、9盗塁の三好大倫(JFE西日本~20年⑥)がそれぞれ持ち味を活かしており、即戦力野手の指名を繰り返すよりも、石川昂弥(東邦高~19年①)のような将来の大砲候補の獲得に期待したい。
☆投手~先発候補の高校生・大学生投手(特に左腕)
投手は若手の伸び悩みとベテラン偏重が課題と言える。先発の柳裕也(明大~16年①)に小笠原慎之介(東海大相模高~15年①)、リリーフでは藤嶋健人(東邦高~16年⑤)に清水達也(花咲徳栄高~17年④)、勝野昌慶(三菱重工名古屋~18年③)の中堅が主力に控え、今後の投手陣の中心を担っていく。
一方で、大野雄と涌井秀章(横浜高~04年西①)、リリーフの祖父江大輔(トヨタ自動車~13年⑤)に田島慎二(東海学園大~11年③)が大ベテランと言われる35歳を超え、先発・リリーフともに世代交代が求められている。
投手の補強ポイントは先発投手で、仲地礼亜(沖縄大~22年①)や梅津晃大(東洋大~18年②)の台頭には期待を持てるが、大野雄と涌井の年齢を考えれば、今年豊富な大学生投手、将来のエース候補を上位で確保しておきたい。特に、左腕の先発候補はルーキーの森山暁生(阿南光高~22年①)しかおらず補強しておきたい。
一方、リリーフは豊富で日本ハムから移籍の斎藤鋼記(北照高~14年オ⑤)や育成から支配下登録された松山晋也(八戸学院大~22年育①)が好投し、投手の数は幾らいても良いが上位指名で急ぐ必要はない。
今年豊富な大学生投手では、細野晴希(東洋大)と常廣羽也斗(青学大)、上田大河(大商大)に、地元の東松快征(享栄高)が1位候補でリストアップされている。このうち細野と東松が左腕で、地元出身の高橋宏と東松の左右エースなどは、実現すればファンならずともロマンがある。
先発に絞ると武内夏暉(国学院大)は安定感の光る左腕で、細野や東松を外した際には是非とも獲得したい。このほか草加勝(亜大)は制球力が武器のゲームメーカー、冨士隼人(平成国際大)と木村仁(九共大)、赤塚健利(中京学院大)は奪三振率の高い投手で、松本凌人(名城大)も変則サイドから力強い球を投げ、冨士と松本、赤塚はリリーフでも面白い。
社会人では松本健吾(トヨタ自動車)の評価が高く、経験豊富な竹田祐(三菱重工ウエスト)に高卒4年目の広沢優(JFE東日本)もリストアップしている。
高校生は東松と前田悠伍(大阪桐蔭高)の上位候補を獲得できなければ、同じ左腕の杉原望来(京都国際高)や杉山遥希(横浜高)のいずれかは獲得したい。このほか木村優人(霞ケ浦高)に日當直喜(東海大菅生高)、早坂響(幕張総合高)、藤原大翔(飯塚高)と他球団が狙う逸材も上位候補に名を連ねる。
また、今夏の甲子園で専番号8をつけた左腕の寿賀弘都(英明高)や、右の本格派の上藤大輝(滋賀短大付高)もこの1年で球速が10キロ以上早くなり、伸びしろに期待でき下位指名や育成契約でじっくり育ても良いと思う。
最後に今年の愛知は東松以外にも高校生投手が豊富で、天野京介(愛産大工高)や清水凰史(愛知啓成高)、お隣り三重県の中山勝暁(高田高)が候補に挙がり 宮國凌空(東邦高)や伊藤幹太(至学館高)など逸材が揃う。
☆捕手~大学生または年齢構成で社会人捕手(大卒2年目)
正捕手に木下拓哉(トヨタ自動車~15年③)、2番手で石橋康太(関東一高~18年④)も成長してきており長期的には必要ない。ただ、木下に加藤、宇佐見が30歳を超え、石橋のライバルになる選手が欲しい。
理想は大卒2年目の社会人で、久保田拓真(パナソニック)は長打力もあり、大学生では萩原義輝(流通経大)も強肩強打の選手で補強ポイントに合う。高校生の堀柊那(報徳学園高)や鈴木叶(常葉菊川高)もリストアップしているが、年齢バランスで敢えて獲得する必要はないと思う。
☆内野手~高校生・大学生スラッガー、二遊間(守備力強化)、俊足のリードオフマン
外野に比べ内野は課題が多く、現状は一塁がビシエド、二塁がともにルーキーの村松と福永、三塁は石川と高橋周、遊撃は龍空(近江高~20年③)がレギュラーに成長し、20代前半の石川に龍空、村松と一気に若返った。一方で若さゆえに手痛いミスも多く、意外に走れる選手も多くない。
高校生と大学生スラッガー候補では、今夏の甲子園で評価急上昇の森田大翔(履正社高)、広角に打てる技術も併せ持つ上田希由翔(明大)はともに三塁手で、石川昂の良いライバルになる。また、ともに一塁手だが、村田怜音(皇学館大)や真鍋慧(広陵高)は打率も残せ、仲田侑仁(沖縄尚学高)の長打力も捨てがたい。
このほか年齢構成で高校生は必須で、大型遊撃手の横山聖哉(上田西高)を筆頭に、山田脩也(仙台育英高)や百崎蒼生(東海大熊本星翔高)はリードオフマン候補になれる。また、堅守の二遊間で俊足の条件になると、松浦佑星(日体大)や武田登生(日本新薬)は広角に打てる俊足の遊撃手で補強ポイントにピッタリだ。
☆外野手~高校生スラッガー(右打ちならベスト)
外野は選手が揃っており、大島洋平(日本生命~09年⑤)が健在で、チーム一の盗塁数の岡林はポスト大島の地位を確立した。ここに細川が加わり、ブライトに鵜飼、福元、三好が一軍に定着すれば十分な形になる。
優先順位は高くはないが19~22歳に岡林しかおらず、右打ちのスラッガーなら明瀬諒介(鹿児島城西高)や萩宗久(横浜高)おり、真鍋の外野コンバートもアリだ。また、福島圭音(白鷗大)や宮崎一樹(山梨学院大)は大学球界屈指のスピードスターで、福島はパワーも兼ね備えている。
●上位は先発左腕で決まりか!今年は地元に投手の逸材が揃う
今年は先発左腕の上位指名で良く、競合必至だが、細野か東松のどちらかで行って欲しい。仮に外しても、豊富な大学生投手で上田大河(大商大)や武内夏暉(国学院大)、松本凌人(名城大)を獲得しても遜色はない。
1位で細野を獲得できたなら、2位は上田希由翔(明大)か真鍋が理想で、東松が1位指名なら武内や松本、草加勝(亜大)、冨士隼人(平成国際大)の即戦力を獲得したい。捕手は優先順位が高くないが、即戦力捕手は候補が少なく萩原や久保田拓真(パナソニック)など順位が上がることが予想される。
【指名シミュレーション】
(Aパターン) (Bパターン)
1位~東松快征(享栄高・投手) 細野晴希(東洋大・投手)
3位~萩原義輝(流通経大・捕手) 杉原望来(京都国際高・投手)
4位~横山聖哉(上田西高・内野手) 天野京介(愛産大工高・投手)
5位~松本健吾(トヨタ自動車・投手) 武田登生(日本新薬・内野手)
6位~福島圭音(白鷗大・外野手) 村田怜音(皇學館大・内野手)
おススメの選手は地元の天野京介で、素材の高さは上位候補にも引けをとらない。高校から硬式を始め、強豪校の誘いを蹴ってプロを目指し、無名校で無理せずじっくり育成を選んだ点に意思の強さを感じる。