ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年ドラフト予想☆中日~貧打解消に打撃強化も、主力の高齢化で投手陣の補強も急務

●大した補強もないまま、今季も貧打は解消されず最下位に沈む

 ファン待望の立浪和義を新監督を迎えたものの、大した補強もなく期待と不安が入り混じったシーズンだったが、目立ったのは相変わらずの貧打とチームの不協和音を伝える話題だけで、最下位に沈んでいる。

 貧打はここ数年の課題ながら外国人選手の補強もなく、育成で獲得していた3選手を支配下にしたが、本塁打はレビーラの1本では全く効果はなかった。トレードで獲得した後藤駿太前橋商高~10年オ①)も、俊足巧打の守備型の選手で、補強ポイントに合致しているとは思えなかった。

 昨年のドラフトは異例とも言える、右打ちの大学生外野手を3名獲得したが、いずれも即戦力よりは未完の大器タイプ。鵜飼航丞(駒大~21年②)が、前半戦奮闘したが打線の上積みにはならなかった。また、育成契約は12球団唯一ゼロで、本気で優勝を狙う気があるのが疑問で、フロントの責任は大きいと思う。

 その課題の打線は、打率こそ改善し阪神や巨人よりも上だが、得点数は最下位。昨年も同じことを書いたが、広いバンテリンドームならではの戦い方があるはず。盗塁数が特別増えたわけでもなく、四死球の数は最も少なく、出塁率もリーグ最下位で3割に届いておらず、結局は昨シーズンから何も変わっていない…。

 一方で、盤石の投手陣は多少の翳りが見えたとは言え健在で、チーム防御率は2位。失点数と失策数もリーグで2番目に少なく、数字だけ見れば自ずと落合監督のときのように、とにかく1点を守り切る野球になると思うのだが…。

【9/10現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】

 勝敗 126試合 57勝68敗1分⑥

 防御率…3.34②(3.22①)打率….247④(.237⑥)

 本塁打…59⑥(69⑥)盗塁53④(60⑥)

 得点…362⑥(405⑥)失点…443②(478①)

 

●ドラフトの停滞がチームの成績に直結。根尾のコンバートに見える迷走感

 先日、中日が高校野球の指導者から教え子を行かせたくないと、総スカンされているという記事を見たが、なるほどそれも頷ける。今季、ようやく岡林勇希(菰野高~19年⑤)が主力に成長したが、過去5年、全くと言ってよいほど選手が育ってない。特にスラッガータイプは皆無と言っても過言ではない。

 現在のバンテリンドームに本拠地が移ったのは97年で、以降、平田良介大阪桐蔭高~05年高①)、堂上直倫愛工大名電高~06年高①)、福田永将(横浜高~06年高②)、高橋周平(東海大甲府高~11年①)等スラッガーを上位で指名したが、いつの間にか全員が中距離打者になってしまっている。

 そして、極めつけは根尾昂(大阪桐蔭高~18年①)で、遊撃か外野か起用法が決まらないなか投手に転向した。賛否はあったが、特別、投手に困っている訳ではない状況のなかで、スッキリとしないコンバートになった。

 先述したが、昨年、大学生のスラッガーを3名獲得した。俊足巧打タイプの指名が多いなかで、大胆且つ画期的な指名だったと思う。それ自体を否定することはないが、全員が右打ちの大学生外野手では、バランスが悪すぎて評価できない。

 今季も野手が補強ポイントになる。昨年同様、俊足巧打タイプではなく、スラッガーに絞って良い。遠くに打球を飛ばせるのは天性で、高校・大学時に巧打の選手がプロに入って長距離砲になることはほぼ無い。山川(西武)や杉本(オリックス)のように、走力や守備に目をつぶってでも、広い本拠地を苦にしない長距離砲を獲得して欲しい。

 一方、戦力の底上げも大切で、ここ10年でAクラスは一度だけ。現状を考えれば、投手を中心に守り勝つ野球でチームの基礎力を上げ、並行してスラッガーの育成を進めることが必要だと思う。盤石と言える投手陣も、エースの大野雄大(佛教大~10年①)が34歳、リリーフの祖父江大輔トヨタ自動車~13年⑤)も35歳など、主力の年齢が上がっており、投手陣の強化も急務で課題は多い。

【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】

 17年⑤…なし

 18年⑤…なし

 19年⑤…岡林勇希(菰野高/⑤・外野手)

 20年③…なし

 21年⑤…なし

  ↓↓

【中日の補強ポイント】 

 投 手…高校生、大学生投手(即戦力左腕)

 捕 手…即戦力大学生 ※但し、年齢構成では必要ない

 内野手…即戦力スラッガー

 外野手…即戦力スラッガー(左打ちならベスト)高校生 

 

投手~高校生、大学生投手(即戦力左腕)

 先発は大野雄と柳裕也(明大~16年①)の左右のエースに、小笠原慎之介東海大相模高~15年①)と松葉貴大(大体大~12年オ①)の両左腕、2年目の高橋宏斗(中京大中京高~20年①)が5勝を上げエース候補に名乗りを上げた。ベテランと若手が融合し、左右のバランスは悪くない。勝野昌慶(三菱重工名古屋~18年③)や梅津晃大(東洋大~18年②)など、20歳中盤に実力のある投手がおり、先発陣の層は厚い。 

 リリーフはR・マルティネスがリーグ2位のセーブ数を上げ、ロドリゲスと並び防御率1点台の好成績を残している。さらに清水達也(花咲徳栄高~17年④)に藤嶋健人(東邦高~16年⑤)、ベテランの祖父江と谷元圭介バイタルネット~08年日⑦)、福敬登(JR九州~15年④)と盤石の布陣と言えるが、谷元も祖父江も30代後半で、経験がモノを言うポジションだけに、清水や藤嶋に続く選手が必要になる。

 補強ポイントは、先発陣が充実しているうちに、ローテーション候補を獲得していきたい。特に、大野雄の後釜の左腕がベストで、リリーフの補強は先発以上に急務だ。

 1位候補は、矢澤宏太(日体大曽谷龍平(白鷗大)の両左腕、総合力の高い益田武尚(東京ガスが候補になる。ただ、矢澤は外野手も出来る二刀流でだが、中日が上手に使えそうなイメージが沸かず、曽谷と益田のほうがチームにフィットすると思う。

 上位候補は甲子園でも活躍した山田陽翔(近江高)に、社会人の吉村貢司郎(東芝河野佳(大阪ガスで、山田はリリーフ向きとも言われており、補強ポイントに合っている。社会人3年目の吉村は経験豊富、高卒3年目の河野は将来性も期待できる。

 また、年齢バランスで高校生の獲得は必須で、田中晴也(日本文理高)斎藤響介(盛岡中央高)星野翔太(八王子高)は右の本格派。白濱快起(飯塚高)野原元気(塔南高)は投打にチームの主力でポテンシャルが高い。

 多彩な変化球を操る米田天翼(市立和歌山高)に安定感抜群の川原嗣貴(大阪桐蔭高)も候補に挙がっている。左腕では打力も良い森下瑠大(京都国際高)、長身の清水風雅(奈良朱雀商工高)がリストアップされている。このほか、甲子園でもお馴染み。

 即戦力では、ともに完成度の高い金村尚真(東北福祉大吉野光樹(トヨタ自動車)、タフネス右腕の山優希(駒大)、粗削りながら150キロを投げる水口創太(京大)への評価も高い。また、安定感が光る左腕の大石晨慈(近大)や小柄ながらストレートに威力がある木村光(佛教大)も、下位で獲得しても面白い。 

捕手~即戦力大学生 ※但し、年齢構成では必要ない

 現状でいえば、捕手は必要ない。正捕手で木下拓哉トヨタ自動車~15年③)がおり、石橋康太(関東一高~18年④)も出番を増やしている。問題は人数で、Aマルティネスと山下斐紹(習志野高~10年ソ①)は実質的には野手で、代わりの利かないポジションだけに人数を確保する必要がある。

 いずれにせよ優先順位はさほど高くないので、下位指名が基本になり、木下以降の2番手捕手が見当たらない状況では、大学生のほうが良いと思う。

 地元の野口泰司(名城大)で盗塁阻止率の高い強肩で、長打も打てる。今年逸材の多い高校生では、山浅龍之介(聖光学院高)清水叶人(健大高崎高)は、守備に加え打撃も良く、清水は高校通算24本塁打を放っている。甲子園でも活躍した片野優羽(市船橋高)土屋奏人(鶴岡東高)は打撃力が高く、プロで守備を磨けば大化けするかも知れない。

内野手~即戦力スラッガー

 現在、規定打席に到達しているのは一塁のビシエドと二塁の阿部寿樹(ホンダ~15年⑤)で、プラス高橋周と京田陽太(日大~16年②)の布陣になる。シーズン当初は石川昂弥(東邦高~19年①)を三塁で使い続けるプランで、序盤だけで5本塁打の石川の離脱で計算が狂ったが、それ以上に高橋と京田の不振、根尾の伸び悩みなどが痛かった。

 この穴を土田龍空(近江高~20年③)に溝脇隼人(九州学院高~12年⑤)が埋めており、土田はレギュラー候補まで成長した。将来的には石川が三塁、京田と土田が遊撃のレギュラー争いをし、内外野どこでも守れる阿部や、高橋をはめる布陣が予想される。

 ただ、見まわしても、若手でスラッガータイプは石川と石垣雅海(酒田南高~16年③)だけで、やはりドラフトではスケール感のある選手を獲得して欲しい。

 イチオシは高校通算52本塁打のパワーヒッターの内藤鵬(日本航空石川高)で、石川と守備位置が被るが関係なく獲りに行って欲しい。また、高校通算25本塁打内田湘大(利根商高)は、3~4位で獲れる可能性もある。下位でも村上慶太(九州学院高)岡田将宗(神奈川工科大)も遠くに飛ばす力はあり、内田と村上、岡田はともに一塁手だが、ここもポジションに関係なくとにかくスラッガーを獲得して欲しい。

 このほかイヒネ・イツア(誉高)勝又琉偉(富士宮東高)は、走攻守揃った遊撃手で、特にイヒネは評価急上昇中だ。父が元中日の小池祐吏(東海大菅生高)、即戦力では田中幹也(亜大)友杉篤輝(天理大)門脇誠(創価大)への評価が高いが、ともに俊足巧打タイプの選手で、やはり長打力重視で行って欲しい。

☆外野手~即戦力スラッガー(左打ちならベスト)高校生

 外野は大島洋平日本生命~09年⑤)と岡林が規定打席をクリアしており、この間の懸念だったポスト大島の目途が立った。ただ、岡林ひとりだけでは心許なく、来シーズンのブライト健太(上武大~21年①)や鵜飼の覚醒に期待したい。

 内野以上に外野はレギュラー確立が急務で、上位指名候補で蛭間拓哉(早大浅野翔吾(高松商高が挙がる。ともに1位競合でしか獲れない選手で、現状から考えると蛭間指名がベストだと思う。

 外野手も昨年同様にスラッガーを狙いたい。でなければ、昨年の思い切ったドラフトが無になってしまう。地元の澤井簾(中京大は左のスラッガー、甲子園で持ち前の長打力を見せた前田一輝(鳴門高)西村瑠伊斗(京都外大西高三塚琉生(桐生一高はともに投手も兼任するセンスの塊で、三塚は通算31本塁打を放っている。俊足の中尾勇介(日大)はチームの機動力アップに貢献する選手だ。

 

●上位は計算できる即戦力投手。野手は左打ちのスラッガーが欲しい

 どうしても貧打に目が行きがちだが、個人的には今年は投手を1位指名し、主力の年齢を考慮と現状の戦力アップでディフェンス強化が良いと思う。先発強化なら矢澤宏太(日体大曽谷龍平(白鷗大)が候補になり、先発・リリーフ両にらみなら益田武尚(東京ガスで、曽谷と益田は競合を避け単独指名の可能性もある。

 野手なら、蛭間拓哉(早大が1位候補になる。浅野翔吾(高松商高の可能性もあるが、浅野を育てられるイマージが沸かない。蛭間や澤井簾(中京大が良いと思う。昨年のようなサプライズ指名は必要なく、的確に補強ポイントを抑えたドラフトを期待したい。

【指名シミュレーション】 

1位~益田武尚(東京ガス・投手)…課題の制球力も克服し、最速150キロを超える

2位~内藤 鵬(日本航空石川高・内野手…遠くに飛ばすケタ違いのパワーヒッター

3位~澤井 廉中京大・外野手)…大学で新人賞も獲得した左打ちのスラッガー

4位~米田天翼(市和歌山高・投手)…精度の高い多彩な変化球を操る技巧派右腕

5位~大石晨慈(近大・投手)…キレのある直球が武器の左腕でリリーフにも適性

6位~三塚琉生(桐生一高・外野手)…高校では投手も兼任し、通算31本塁打

 おススメの選手は、地元のイヒネ・イツア(誉高)で、走攻守三拍子揃ったスケール感の大きい遊撃手。秘めたポテンシャルの高さは折り紙つきで、昨年指名したブライトのように将来はとんでもない選手になる可能性がある。

 さすがに1位指名はないが、3~4位で消える可能性が高く、京田や土田のライバルとして、指名しても面白いと思う。