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どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年戦力展望☆日本ハム~新球場元年!「優勝しか目指さない」今季は、チームがどう変わるか?

 新庄剛志を新監督に迎え、就任からシーズン中に至るまで話題にはこと欠かなかったが、「優勝は目指しません」発言から、打順を選手間で決めたり、本人もシーズン開幕直前にも係わらず、TVやイベントに出演するなど眉を顰めるファンも多かった。

 事実、新庄監督のパフォーマンスやきつねダンスで盛り上がりは見せたが、肝心のチームは開幕5連敗から始まり、以降一度も順位を上げることなく最下位を独走し、札幌ドームのラストイヤーにも係わらず観客動員数は伸び悩んだ。8月末に両リーグ最速の70敗到達、9月初めに早々とCS出場が消え、北海道移転後最低の成績で、9年振りの最下位でシーズンを終えた。実はホームゲームに限れば、34勝35敗3分で五分の戦いが出来ていたが、最下位独走のチームに球場へ足を運ぶファンは少なかった。

 シーズン前から「今年1年はトライアウト」を明言し、高卒ルーキーを含む日本人支配下選手全員が一軍出場を果たした。負けが込んでもその方針がブレることはなく、良く言えば、1年間勝敗度外視で有言実行したと言えるが、結果がすべての世界で、勝つための策を講じたのかと言えば疑問が残る。

 オフはチーム再編を進め、FAでオリックスから伏見寅威(東海大~12年オ③)を獲得し、3件のトレードを成立させた。一方で主力の近藤健介(横浜高~11年④)はFAでチームを去り、人気者の杉谷拳士(帝京高~08年⑥)も引退を決めた。結果、16年の優勝メンバーで野手で残っているのは中島卓也(福岡工高~08年⑤)のみで、チームは世代交代が進んでいる。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 22年 6位 59勝81敗  3分 .234  100本   95個  483点  3.48  534点

 21年 5位 55勝68敗20分    .231    78本   77個  454点  3.32  515点

 20年 5位 53勝62敗  5分 .249    89本   80個  493点  4.02  528点

 19年 5位 65勝73敗  5分 .251    93本   48個  560点  3.76  590点

 18年 3位 74勝66敗  3分 .251  140本   98個  589点  3.77  586点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 21年~上川畑大悟(内野手~NTT東日本⑧)

    20年~伊藤大海(投手~苫小牧駒大①)

 19年~なし

 18年~野村佑希(内野手花咲徳栄高②)

 17年~清宮幸太郎内野手早実高①)

 常に優勝争いに絡み、3年に一度は優勝するチーム方針のもと、ドラフトでチームを強化する戦略で、「育成の日本ハム」と言われ、ダルビッシュ有(東北高~04年①)や大谷翔平花巻東高~12年①)など文字通り数多くのスター選手を輩出した。

 過去5年のドラフトを見ても、伊藤が既にエース格に成長し、清宮と野村の左右の大砲候補も主力に成長し悪くはないと思うが、4年連続Bクラスの結果が物語るように、思うように進んでいないのも事実だ。ドラフト戦略の大方針は変わっておらず、育成中心のチームの平均年齢は、12球団で一番若い26.4歳(最も高いのは楽天の27.6歳)で、現状は投打に戦力が乏しく、発展途上なのは否めない。

 そんななか昨年は、新庄監督の意向が強く働いたドラフトと報道で見聞きしたが、即戦力にシフトした形になった。要は1年間のトライアウトで、現状の育成主体の戦力では上位進出が臨めないとの監督の判断であり、単年での戦略としては問題ないと言え、新庄監督の本気度も伝わるが、個人的にはあまり評価できなかった。

 高卒で入団し、原石からスター選手に駆け上がった新庄監督自身のように、スケールの大きい選手を育てて欲しく、何よりも昨年豊作だった地元出身の選手を全員スルーしたのは本当に残念だった。

 

●投手陣~中継ぎ陣が崩壊…一昨年改善した防御率は、昨年はリーグ5位まで後退

  とにかく厳しかったのはリリーフ陣で、防御率はリーグワーストの3.83。逆転負けもリーグ最多の35試合と競り合いに弱かった。クローザーは一昨年28セーブの杉浦稔大国学院大~13年ヤ①)の穴を埋めることができず、ルーキー北山亘基(京産大~21年⑧)の9セーブが最多で、勝ちパターンを最後まで形成することができなかった。

 経験豊富な玉井大翔(新日鉄住金かずさマジック~16年⑧)の孤軍奮闘が光ったが、一昨年最多ホールドの堀瑞樹(広島新庄高~16年①)が11ホールドと精彩を欠き、鉄腕の宮西尚生関学大~07年③)も新人から続いてきた50試合登板が途切れた。

 一方で先発は、伊藤が2年連続の2桁勝利を上げ、上沢直之専大松戸高~11年⑥)と加藤貴之(新日鉄住金かずさマジック~15年②)も、規定投球回数をクリアしともに8勝を上げた。上沢はケガでの離脱が痛かったが、加藤貴は防御率3位、72年振りに最小与四球(11)の記録を塗り替えたが、打線の援護がなかった。

 このほか、ノーヒットノーランを達成したポンセ、2年目19歳の根本悠楓(苫小牧中央高~20年⑤)がローテーションを守り、先発転向の鈴木健矢(JX-ENEOS~19年④)にも覚醒の予感が出てきた。 

【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆伊藤大海(155回2/3)☆上沢直之(152回)☆加藤貴之(147回2/3)

     ポンセ(83回1/3)上原健太(73回1/3)根本悠楓(60回2/3)

 ・救援…北山亘基(55試合)吉田輝星(51試合)玉井大翔(50試合)

     堀 瑞樹(41試合)石川直也(36試合)古川侑利(34試合)

【今年度の予想】

 ・先発…加藤貴之 上沢直之 伊藤大海 上原健太 ポンセ 根本悠楓

    (吉田輝星 杉浦稔大 ※金村尚真 ※田中正義 ガント  鈴木健矢)

 ・中継…※矢澤宏太 玉井大翔 河野竜生 西村天裕 堀 瑞樹

    (宮西尚生 井口和朋 ロドリゲス ※斎藤友貴哉 ※斎藤鋼記 メネズ)

 ・抑え…石川直也 北山亘基 

 シーズン開幕前の最大の関心事はリリーフ陣強化で、伊藤を先発、リリーフどちらで起用するかの判断のなる。事実、伊藤はWBC代表ではリリーフを任せられることになっており、先発陣が揃えば伊藤をクローザーに回すことができる。

 そのためには新戦力の台頭が必要で、昨年ただ一人一軍未登板で終わったMLB通算24勝のガントや即戦力ルーキー金村尚真(富士大~22年①)の活躍や、移籍の田中正義(創価大~16年ソ①)の覚醒など条件は多い。ただ、今オフMLB移籍を希望している上沢や、同じくFA権取得の加藤貴も単年契約を結んでおり、根本を含めた若手の台頭を早める必要がある。

 リリーフ陣の再編は急務で、伊藤が抑えを任せられれば問題ないが、先発に回るようだと厳しくなる。昨年の成績だけ見れば北山や石川直也(山形中央高~14年④)、経験値なら玉井やロドリゲスにも可能性がある。また、河野竜生(JFE西日本~19年①)や移籍の斎藤鋼記(北照高~14年オ⑤)、メネズなど左のリリーフが豊富なだけに、調子さえ戻れば堀の抑えもあると思う。

 投手は両リーグ最多の38名が支配下登録され、頭数は十分にいる。反面、数的競争から質的な競争へ転化していかないと今シーズンも厳しい戦いになる。

 

●野手陣~今季は守備優先?打撃優先?今季も日替わり打線で臨むかに注目!

 143試合で143通りの打順で、石井一成(早大~16年②))に淺間大基(横浜高~14年③)、万波中正(横浜高~18年④)、ルーキーの上川畑に新加入のアルカンタラはすべての打順で先発出場し、まさしく日替わり打線で臨んだが、残念なから結果が出たとは言えない。

 11年目の松本剛(帝京高~11年②)が首位打者を獲得したが骨折で離脱し、近藤も3割を打ったが規定打席に届かず、期待の4番・野村は昨季もケガに悩まされ、年間通して主力選手が揃うことがなかった。

 ただ、本塁打は一気に増え18年以来100本を超えた。清宮が17本、万波が14本、今川優馬(JFE東日本~20年⑥)も10本塁打を放ったが、いずれも打率は2割前半で、確実性に乏しく、主力が揃っていれば、ここまでのチャンスを貰えていたが疑問だ。

 かつて少ない点差を守り抜いた鉄壁の守備陣も見る影がなく、失策数86と守備率はリーグワースト…、盗塁阻止率もリーグワーストで、頭の痛い数字が並んでいる。

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…宇佐見真吾(81/237)古川裕大(36/106)

 内野手…☆清宮幸太郎(129/461)野村佑希(93/369) 石井一成(102/328)

     上川畑大悟(80/301)アルカンタラ(97/285)ヌニエス(63/180)

     谷内亮太(78/167)中島卓也(68/150)杉谷拳士(61/109)

     佐藤龍世(37/106)

 外野手…☆松本 剛(117/445)近藤健介(99/396)万波中正(100/314)

     今川優馬(94/309)淺間大基(75/240)木村文紀(38/101) 

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)今川優馬⑦      1)松本 剛⑧      

  2)浅間大基⑧           2)上川畑大悟⑥       

  3)石井一成⑥           3)近藤健介⑦    

  4)松本 剛⑨      4)野村佑希⑤      

  5)ヌニエス③      5)万波中正⑨      

  6)近藤健介DH       6)ヌニエスDH     

  7)佐藤龍世④      7)清宮幸太郎③   

  8)宇佐見真吾②     8)宇佐見真吾② 

  9)水野達稀⑤      9)アルカンタラ④  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…マルティネス 宇佐見真吾 ※伏見寅威(清水優心 古川裕大)

 内野手…※加藤豪将 上川畑大悟 野村佑希 アルカンタラ 中島卓也 清宮幸太郎

     谷内亮太 石井一成(水野達稀 細川凌平 ※山田遥楓 ※奈良間大己)

 外野手…松本 剛 ※江越大賀 五十幡亮汰 今川優馬 万波中正

    (浅間大基 木村文紀)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)松本 剛⑧      捕 手)伏見寅威(宇佐美真吾) 

  2)上川畑大悟⑥     一塁手清宮幸太郎

  3)清宮幸太郎③     二塁手)石井一成(加藤豪将

  4)野村佑希⑤         三塁手)野村佑希

  5)万波中正⑨         遊撃手)上川畑大悟(中島卓也

  6)アルカンタラDH     左翼手)今川優馬(江越大賀)

  7)今川優馬⑦         中堅手)松本 剛(五十幡亮汰)

  8)伏見寅威②      右翼手)万波中正

  9)石井一成④       D H)アルカンタラ(マルティネス) 

 今季は「優勝しか目指さない」言っている新庄監督。重視している守備優先か、はたまた打撃優先で行くのか、昨年敢行したトライアウトの結果がどう出るか注目したい。明確にレギュラーと呼べるのは松本だけで、他は捕手の伏見、一塁の清宮、三塁の野村に遊撃の上川畑がレギュラーを確立するシーズンになる。

 捕手は高い守備率(.990)を誇る伏見が加入し、正捕手不在の課題が解消された。昨年、最も多くマスクを被った宇佐見真吾(城西大~15年巨④)や、若手の古川裕大(上武大~20年③)等の競争に期待したい。

 課題は内野になり、清宮と野村はともに守備に不安があり、指名打者に有力な選手がいないことから、清宮と野村を一塁と指名打者で併用して、三塁は守備に定評のある谷内亮太(国学院大~12年ヤ⑥)や西武から移籍の山田遥楓(佐賀工高~14年西⑤)、外野の淺間と五十幡亮汰(中大~20年②)も三塁を守れ、起用法に注目が集まる。

 注目は二遊間で、堅守で巧打の上川畑は二塁と遊撃を守れ、石井とアルカンタラ、山田も内野のユーティリティプレーヤーだ。二塁は昨年開幕スタメンの水野達稀(JR四国~21年③)は守備は一級品で、MLBからの逆輸入ルーキーの加藤豪将(メッツ~22年③)もいる。遊撃も細川凌平(智弁和歌山高~20年④)やルーキーの奈良間大己(立正大~22年⑤)にもチャンスはある。

 一方、外野は守備も良く打撃がカギになる。飛躍が期待される今川に万波、3年目を迎える五十幡もそろそろ結果を出したい。ただ、期待の選手で新庄監督から名前が出るのが、3年連続無安打で阪神から移籍した江越大賀(駒大~14年神③)はやや寂しい。

 

期待の吉田も今季ではや5年目、先発かリリーフか判断が迫るシーズン

 注目の選手は、投手では吉田輝星(金足農高~18年①)で、昨年は51試合に登板し中継ぎでの適性を見せたが、防御率4.26では役割を果たしたとは言えない。本人はあくまで先発にこだわると言うが、今季ではや5年目を迎え決断する時期が近づいているのも事実。個人的には先発で見たい希望はあるが、現状はリリーフ向きと言え、ファンも悩ましく新庄監督の起用法に注目したい。

 野手は移籍の中日から移籍のマルティネスで、捕手登録だが起用は一塁か左翼、または指名打者になる。育成から始まり、NPB通算6年目を迎え27歳と年齢も若い。中日では十分に力を発揮したとは言えず、新天地で守備負担のない指名打者で一気に覚醒する気配も漂う。

 最後に、正直今季も厳しい戦いになると思う。新庄監督は序盤の50試合が大事と語っているが、前半戦をどういうメンバーを起用し、どういった野球で5球団と対峙していくのか注目したい。新球場元年を迎え、やはり観客動員数を上げるには、面白い+勝つ野球でないとファンも満足しない。優勝に目標を据えたたチームが、どういう風に変化していくのか楽しみは尽きない。