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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆日本ハム~新監督が目指すのはかつての守り勝つ野球も、苦戦必至の厳しいシーズン

 新庄剛志監督の就任で、昨年オフの話題を独占。暗く沈滞ムード漂うチームに明るさと活気を取り戻した。

 昨年を振り返ってみると、開幕3試合目から引き分けを挟んで7連敗と波に乗れず、開幕戦から本塁打が9試合も出ないなど打線に勢いを欠いた。一昨年の打点王中田翔大阪桐蔭高~07年①)が大不振でスタメンを外れ、西川遥輝智弁和歌山高~10年②)と大田泰示東海大相模高~08年巨①)も精彩を欠き、近藤健介(横浜高~11年④))が孤軍奮闘するも本調子には程遠かった。

 一方で投手陣は奮闘を見せ、安定感抜群のエースの上沢直之専大松戸高~11年⑥)が自己最多の12勝、ルーキー伊藤も最終戦で10勝に到達した。リリーフでは堀が最多ホールド、杉浦稔大国学院大~13年ヤ①)もリーグ3位の28セーブを挙げた。

 ただ、成績以上に影を落としたのがトラブルで、主将も務めた中田は同僚への暴力事件で謹慎したのち、巨人に電撃トレードされ賛否を呼んだ。加えて同僚への差別発言、シーズンオフには主力の西川と大田等を、ノンテンダーと言う新たな戦力外通告を行った。球団最長の10年目の指揮を執った栗山英樹監督のラストシーズンは、3年連続の5位という結果以上に後味の悪いシーズンで幕を閉じた。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 5位 55勝68敗20分    .231    78本   77個  454点  3.32  515点

 20年 5位 53勝62敗  5分 .249    89本   80個  493点  4.02  528点

 19年 5位 65勝73敗  5分 .251    93本   48個  560点  3.76  590点

 18年 3位 74勝66敗  3分 .251  140本   98個  589点  3.77  586点

 17年 5位 60勝83敗  0分 .242  108本   86個  509点  3.82  596点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~伊藤大海(投手~苫小牧駒大①)

 19年~なし

 18年~なし

 17年~なし

 16年~堀 瑞樹(投手~広島新庄高①)石井一成(内野手早大②)

    玉井大翔(投手~新日鉄住金⑧)

 直近5年のドラフトは苦戦している。平均年齢25.9歳は12球団でも断トツの若いチームで、有望な若手も育ってきてはいるが、主力と呼べる選手が少なく物足りなさを感じる。

 高卒なら吉田輝星(金足農高~18年①)と清宮幸太郎早実高~17年①)と投打のスター選手候補がいるが、ともに伸び悩んでいる。それならと久しぶりに即戦力中心にシフトした19年ドラフトも期待通りには行かなかった。高卒選手は伸び悩み、即戦力も不発で、かつて呼ばれた育成の日本ハムの響きも空しく聞こえる。

●投手陣~先発・リリーフ陣ともに整備が進み、ガントとポンセの期待の新戦力も加入

  一昨年4点台だったチーム防御率は、昨年リーグ3位まで改善し、課題だった投手陣の整備が進み、最下位を免れたのも投手陣の働きが大きかった。

 先発では上沢が初の防御率2点台(2.81)で名実ともにエースになり、加藤貴之(新日鉄かずさマジック~15年②)も、以前はオープナー的な起用で、先発しても短いイニングで変えられることが多かったが、上沢を上回る25試合に先発し150回を投げ6勝を挙げた。

 嬉しい誤算だったのはルーキーの伊藤で、1年間先発ローテーションを守り、2桁勝利に防御率2.90の好成績を挙げた。また、オリンピック日本代表にも選出され、大舞台も経験できたのは大きな財産になった。

 このほか、シーズン途中から先発に回った河野竜生(JFE西日本~19年①)、後半戦から先発ローテを守った立野和明(東海理化~19年②)は、勝ち星こそ上がらなかったものの、防御率はともに2点台と結果を残した。バーヘイゲンにしろ、トレードで加入した池田隆英(創価大~16年楽②)にしろ、打線がマシならもっと勝ち星は上がり、先発陣の駒は揃ってきた。

 リリーフ陣も、5年目23歳の堀が60試合の登板し、リーグ1位の39ホールド、杉浦もクローザーとしての目途が立った。さらに昨年も50試合登板の宮西尚生関学大~07年③)に経験豊富な玉井とロドリゲス、43試合登板で防御率1点台の井口和朋(東農大オホーツク~15年③)も加わり、勝ちパターンが確立できた。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆加藤貴之(150回)☆上沢直之(160回1/3)☆伊藤大海(146回)

     バーヘイゲン(96回)池田隆英(82回1/3)河野竜生(90回1/3)

 ・救援…堀 瑞樹(60試合)杉浦稔大(56試合)宮西尚生(50試合)

       玉井大翔(50試合)ロドリゲス(47試合)井口和朋(43試合)

【今年度の予想】

 ・先発…上沢直之 加藤貴之 伊藤大海 河野竜生 立野和明 ※ガント

       池田隆英 金子千尋 吉田輝星 生田目翼 根本悠楓 ※ポンセ   

 ・中継…堀 瑞樹 宮西尚生 玉井大翔 井口和朋 西村天裕

       鈴木健矢 上原健太 石川直也 ※北山亘基

 ・抑え…杉浦稔大 ロドリゲス

 先発ローテは上沢に加藤、伊藤は当確で、順当にいけば河野と立野が入り、残り1枠の争いになる。期待の新外国人のガントは、メジャーで173試合登板、通算24勝の右腕。多彩な変化球を操るグラウンドボーラーで、残り1枠どころか先発ローテ入りしてもらわないと困る投手だ。長身右腕のポンセも、ガントと同じゴロを打たせて取るタイプで、ともに先発向きと言える。ガントは与四球の多さ、ポンセは長打の被打率が高く、それぞれ課題を克服できればバーヘイゲンが抜けても問題はないだろう。

 ここまでで先発の枠は埋まっているが、池田やベテランの金子千尋トヨタ自動車~04年オ自)、昨季ファーム最高防御率の生田目翼(日本通運~18年③)も先発の座を狙っている。若手で面白いのは2年目の根本悠楓(苫小牧中央高~20年⑤)で今春のキャンプでも好投を続けているブレイク候補の一人だ。期待のエース候補の吉田は、昨年ファームでみっちり得意の直球に磨きをかけた。結果を残せないうちに、投手陣の層が厚くなり、期待値ではなく実力で先発ローテの座を勝ち取って欲しい。

 リリーフ陣も大きな問題はなく杉浦がクローザー、堀と宮西の両左腕、ロドリゲスがセットアッパーを務め勝利の方程式が確立できている。安定感が増した井口、故障からの本格復帰を目指す石川直也(山形中央高~14年④)も控えている。

 玉井と西村天裕(NTT東日本~17年②)はロングリリーフもでき、先発ローテの状況によっては池田や金子、ポンセを回すこともできる。変則右腕の鈴木健矢(JX-ENEOS~19年④)は課題の左打者を克服できれば貴重なワンポイントになり、ルーキーの北山亘基(京産大~21年⑧)も最速153キロの直球で奪三振率が高く、多彩なリリーフ陣候補が揃っている。 

●野手陣~今季も貧打に悩みそう…横一線のレギュラー争いから誰が抜け出るか

 昨年の目を覆うような貧打の印象が強いが、中田が打点王を獲得した20年シーズンは、チーム打率はリーグ2位、得点数も3位と、広い札幌ドームで本塁打数の少なさは変わらないが、そこまで悪くなかった。

 ここ数年の日本ハムを支えていた西川と大田、中田と近藤、渡邊諒(東海大甲府高~13年①)で、昨年は近藤を除いて全員が不振に陥った。期待の外国人選手も3年目を迎えた王伯融は昨年も実力を発揮できず、ロドリゲスも好不調の波が大きく1年でチームを去った。

 そのなか若手では、野村佑希(花咲徳栄高~18年②)が中軸を担い、育成契約も経験した高濱祐仁(横浜高~14⑦)も自己最多の107試合に出場し経験を積んだ。また、細川凌平(智弁和歌山高~20年④も高卒ルーキーながら遊撃で6試合に先発出場し、非凡な打撃センスを見せた。

 もう一つの課題の守備だが、昨年もリーグ最多の失策数は解消できず、先述した野村と高濱も守備が課題で、特に野村の16失策(三塁)はさすがに多すぎる。また、捕手陣はリーグ最多の10捕逸(最少はオリックスの3)で、清水優心(九州国際大高~14年②)と宇佐見真吾(城西大~15年巨④)はそれぞれ4捕逸に加え、リーグ最少の盗塁阻止率と課題が解消されていない。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…清水優心(100/256)石川 亮(60/123)

 内野手高濱祐仁(107/404)野村佑希(99/394)渡邊 諒(83/325)

       石井一成(111/321)中田 翔(39/150)佐藤龍世(51/129)

       ロドリゲス(50/125)中島卓也(67/117)谷内亮太(106/44)

 外野手…☆西川遥輝(130/547)☆近藤健介(133/545)☆浅間大基(128/458)

     王 伯融(95/283)大田泰示(76/206)万波中正(49/133)

     松本 剛(47/104)

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)西川遥輝⑧      1)浅間大基⑧      

  2)松本 剛⑦           2西川遥輝⑦       

  3)近藤健介DH          3)野村佑希⑤    

  4)中田 翔③      4)近藤健介DH      

  5)渡邊 諒④      5高濱祐仁③      

  6)大田泰示⑨      6)渡邊 諒④      

  7)野村佑希⑤      7)大田泰示⑨     

  8)清水優心②      8)石井一成⑥ 

  9)中島卓也⑥      9)清水優心②  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…清水優心 石川 亮(宇佐見真吾 郡 拓也)

 内野手…※ヌニエス ※アルカンタラ 中島卓也 渡邊 諒  野村佑希

     高濱祐仁 石井一成 谷内亮太

    (杉谷拳士 ※上川畑大悟 清宮幸太郎 佐藤龍世 ※水野達稀 細川凌平)

 外野手…王 伯融 近藤健介 松本 剛 浅間大基 五十幡亮汰 万波中正

    (木村文紀 今川優馬)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)浅間大基⑦      捕 手)清水優心(石川 亮) 

  2)アルカンタラ⑥    一塁手高濱祐仁(清宮幸太郎

  3)近藤健介⑨      二塁手)渡邊 諒(杉谷拳士

  4)ヌニエスDH          三塁手)野村佑希(佐藤龍世)

  5)野村佑希⑤         遊撃手)アルカンタラ(石井一成)

  6)渡邊 諒④      左翼手)浅間大基(松本 剛)

  7)高濱祐仁③         中堅手)万波中正(五十幡亮汰)

  8)万波中正⑧      右翼手)近藤健介(今川優馬

  9)清水優心②       D H)ヌニエス(王 伯融) 

 打線は残念ながら昨年以上に厳しい。何せ昨年の開幕スタメンから3選手がチームにおらず、レギュラーと呼べるのは近藤だけ。特に西川の放出は理解し難く、色々と理由はあると思うが、悪いなりにも出塁率は打率を1割上回る.362、盗塁数はチームの1/3を稼ぐリードオフマンがいなくなるのは厳しい。

 新庄監督はレギュラーは横一線、若手にもチャンスがあると言うが、どう見ても打ち勝てる打線ではない。浅間大基(横浜高~14年③)や五十幡亮汰(中大~20年②)、新外国人のアルカンタラが出塁し、近藤と新4番候補のヌニエス、実績のある王伯融や渡邊、昨年活躍した野村と高濱が機能してようやく形になり、いずれも“たられば”が付いてしまう。

 新庄監督が目指す守り勝つ野球でも、守備力に不安があり、キャンプで色々と試しながら、打撃と守備のどちらを優先したオーダーを組むか頭を悩ますところだと思う。そこで守備別で候補を見てみた。

 捕手は実績なら清水と石川亮(帝京高~13年⑧)の争いになる。打てる捕手が欲しいところだが、まずはディフェンス面を重視して良いと思う。そうなると技術面では一日の長のある宇佐見や、若手では強肩の梅林優貴(広島文化学園大~19年⑥)の抜擢もあるかもしれない。(打撃優先~石川、守備優先~宇佐見)

 一塁は高濱とヌニエスの争いになり、ここに清宮が加わる。ただヌニエスはDHが有力で、守備力よりも打力が求めれるポジションだけに、高濱と清宮は打力をアピールしたい。

 二塁は万全なら渡邊が近藤に次いでレギュラー当確と言える。対抗はパンチ力が持ち味の佐藤龍世(富士大~18年西⑦)とムードメーカーの杉谷拳士(帝京高~08年⑥)、二遊間も守れるアルカンタラも候補になる。(打撃優先~渡邊、守備優先~杉谷)

 三塁は今年は野村で良いと思う。攻守に課題はあるが、将来の日本ハムを背負う選手であり、中田に代わる4番候補になる。キャンプでは左翼も守っているが、守備に難があるだけに実戦で守備機会を増やしたほうが良い思う。このほか佐藤やヌニエスは元々は三塁が本職で、打力は申し分なく、守備に定評のある谷内亮太(国学院大~12年ヤ⑥)も控えている。(打撃優先~野村、守備優先~谷内)

 最もし烈な争いなのが遊撃手で、一番手はアルカンタラになる。守備力と走力のあるスイッチヒッターで、打撃の粗さが課題だが長打力もある。対抗は石井と中島卓也(福岡工高~08年⑤)だが、成長著しい細川とルーキー水野達稀(JR四国~21年③)は打撃がセールスポイント。ケガで出遅れているが同じルーキーの上川畑大悟(NTT東日本~21年⑨)は堅守に定評がある。(打撃優先~石井、守備優先~アルカンタラ)

 外野も大混戦で近藤を除く2つのポジションを狙う。経験で言えば走攻守揃った浅間と松本剛(帝京高~11年②)になり、浅間は広い守備範囲と強肩を誇り、昨季規定打席をクリアした実績がある。松本はパンチ力に加え、小技も使えどの打順でもフィットする。また、ベテランの木村文紀(埼玉栄高~06年西①)は本来の実力を発揮できればレギュラー候補で、年齢を感じさせない右翼守備は脅威になる。

 レギュラーを狙う若手では、万波中正(横浜高~18年④)は走攻守で高いポテンシャルを秘めており、あとは好不調の波を克服できればレギュラーが近づく。俊足の五十幡は、新庄監督は4番起用も示唆しているが、ポスト西川の一番手で今季のブレイクが期待できる。今川優馬(JFE東日本~20年⑥)はチーム待望の長距離打者で、努力でプロまで辿り着き、何かやってくれそうな期待感を持たせる。また、明るく元気なムードメーカーでベンチに置いておきたい選手だ。

 打力、守備力ともに左翼・近藤と中堅・浅間が有力で、右翼は打力なら万波と今川、守備力重視なら松本や木村の争いになる。指名打者は近藤とヌニエスを休ませながらの起用になり、ヌニエスの状況次第では王伯融の起用になる。

札幌ドーム最終年…新監督には厳しい戦力で、Bクラス予想が現実的

 注目の選手というより、起用法で注目しているのが上原健太(明大~15年①)と郡拓也(帝京高~16年⑦)の2人だ。上原は秋季キャンプから二刀流に挑戦しており、投手としては今一つ結果を残せていなかったが、元々高い身体能力は評価されており、今年は打者上原を見てみたい。

 郡は捕手登録ながら、昨年スタメン15試合中三塁の出場が最も多く、捕手では一度もなかった。打順も一番が多く、隠れポスト西川として近藤や栗原(ソフトバンク)のように、捕手ではなく打撃中心に出番が増えるかも知れない。

 今季の日本ハムは新庄監督の効果で、話題だけでは一番だが、プレーするのはあくまで選手。投手陣は良いが、攻撃力のダウンは否めず、新監督には厳しいシーズンになると思う。良くてAクラスと言いたいが、Bクラスが現実的と言え、来年の新球場開業に向け今後に続く実りのあるシーズンにしていきたい。

 最後に、投手陣は守り勝つ野球を実践できる陣容になっており、仮に1~2人欠けても戦力ダウンにはならない。個人的には野手とのトレードに踏み切っても良いと思うのだが…。