ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2021年ドラフト寸評~成功・失敗した球団(前編)

 1位指名を公言したチームが2球団しかなかった本命なきドラフト。最終的には単独指名が6名と、各チーム補強ポイントを見据えたドラフトになった。事前より投手が豊富で、有望な野手が少ないと言われたなか、1~2位指名24名中10名が野手指名になり、その傾向が顕われたドラフトになった。

 昨年に続きコロナ禍で、十分に選手の実力を測れず、昨年以上に不作と言われるなかで、蓋を開けてみれば本指名選手は77名で昨年より3名増え、育成選手は過去最高のの51名が指名された。高校生が30名(±0名)、大学生が31名(▲1名)、社会人・独立リーグが16名(+4名)と社会人野手の指名が今年は増えた。

 最多指名は日本ハムの9名、最小はソフトバンク、ロッテ、ヤクルトの5名で、ソフトバンクとロッテは3年連続で最小の指名になった。 

【12球団ドラフトの評価】

 ◎成功…西武

 〇合格…日本ハム阪神・ロッテ・ソフトバンクオリックス

 △普通…DeNA・巨人

 × 失敗…ヤクルト・広島・楽天・中日  

 個人予想では、1位指名は3名的中(公言は除く)、指名予想の100名は74名が指名を受けたので、まずまずかなと自分では思っています。 

 

◎西武(95点)

 久々の会心ドラフトになったと思う。ドラフトは1位選手が獲得できれば、成功と言えるが、1位で隅田知一郎(西日本工大・投手)と2位で佐藤隼輔(筑波大・投手)の実質1位クラスの投手を2名獲得できた。

 佐藤の評価が今一つだったのは意外だったが、佐藤はケガで今年は今ひとつ結果を残せなかったが、総合力では佐藤のほうが上だと思う。今シーズン左先発投手2勝のチームに隅田と佐藤の即戦力左腕が加わり、早くも来シーズンのローテーション争いが楽しみになってきた。

 3位の古賀悠人(中大・捕手)も、良くこの順位で残っていたと思う。FA間近の森の去就を見越して、捕手は左投手と同様に優先する補強ポイントの一つだっただけに、今年の大学生ナンバーワン捕手の呼び声高い古賀を獲得できたのも大きかった。

 ここまで十分に成功を確信していたが、4位で羽田慎之介(八王子高・投手)、5位で黒田将矢(八戸工大一高・投手)を指名したことで満点ドラフトになった。羽田は故障で今年の公式戦登板はなかったが、190センチの長身から最速149キロを投げ込む本格派左腕で、3~4年後は隅田、佐藤とともに先発ローテを担える逸材だ。

 黒田も中央球界では無名だが、上位指名の可能性もあった選手。早くより西武が指名を確約しており、シミュレーション通りに下位で獲得できた。黒田も188センチの長身右腕で伸びしろは十分。今年のドラフトで獲得した投手が、数年後の西武の台所事情を大きく変えているかもしれない。

 6位の中山誠吾(白鷗大・内野手は素直に良いチームに指名されたと思う。190センチの大型遊撃手で守備も巧く、チームには源田というこれ以上いない手本がいる。また打撃(左打)でも、森や栗山という手本がおり、レギュラーの世代交代のなかチャンスは十分にある。

 育成選手は4名指名し、育成1位の古市尊(四国IL徳島・捕手)は、超がつく強肩で、打撃に難はあるものの、守備だけで飯が食える選手。育成4位の川村啓真(国学院大・外野手)は長打力が魅力選手で、ともに早い段階で支配下登録の可能性がある。

 

日本ハム(80点)

 正直、1位で達孝太(天理高・投手)を単独で指名したとき、不安が頭を過った。達は確かに良い投手で、将来性は高校BIG3にも劣らないが、現状では0か100の可能性もある選手で、即戦力とも育成のどちらとも言えない指名で、1位入札指名に頭を傾げた。正直、まだ奇をてらうというか、話題づくりというか、そんな感想を覚えた。

 ただ、2位指名以降からその思いはなくなり、今年の日本ハムの確固たる戦略を感じることになった。2位ですかざす高校通算70本塁打有薗直輝(千葉学芸高・内野手を指名。有薗は打撃に注目が集まっているが、強肩の三塁手で守備からでもレギュラーを掴むこともできる。即戦力野手を一人挟んだあとに、4位で阪口楽(岐阜一高・内野手を指名し、左右のスラッガーを獲得。今から野村や清宮との競争が楽しみだ。

 高校生投手では5位で畔柳亨丞(中京大中京高・投手)、7位で松浦慶斗(大阪桐蔭高・投手)の左右のエース候補を獲得した。阪口と畔柳、松浦は最終学年で評価がやや落ちたが、今年の春先は1位にも挙げられた逸材で、畔柳と松浦は「もしかしたら指名がないかな…」と思っていたところで、順位も含め絶妙な指名だったと思う。

 即戦力選手も指名枠をフルに活用した指名になった。課題の二遊間には、攻撃型の水野達稀(JR四国・内野手を3位で、守備型の上川畑大悟(NTT東日本・内野手は9位でタイプの違う選手を補強できた。

 投手では、6位の長谷川威展(金沢学院大・投手)は左のサイドハンドで、早くもリリーバーとしての期待が高まり、左の好打者が多いパ・リーグでは貴重な戦力になる。8位の北山亘基(京産大・投手)も、よくここまで残っていたなというのが率直な感想で、キレのある直球で先発、リリーフとも可能性がある。

 育成でも育成1位の福島蓮(八戸西高・投手)と育成3位の柳川大晟(九州国際大付高)はともに190センチの長身右腕、育成4位の阿部和広(平塚学園高・外野手)は小柄ながら両打ちでパンチ力もあり、楽しみな選手が揃っている。

 目先の即戦力に拘らず、23年の新球場での優勝争いを目標に、将来性を前面に押し出した育成主体の日本ハムらしさを取り戻した良いドラフトになった。

 

阪神(75点)

 17年の清宮(日本ハム)から始まり、藤原(ロッテ)、奥川(ヤクルト)そして佐藤輝と、重複してでも1位で今年一番の選手を獲得する姿勢は今年も健在で、臆することなく隅田(西武1位)に入札した。残念ながら隅田は外したが、課題を埋める会心のドラフトになった。これまで、決してドラフトの上手な球団ではなかったが、直近5年を見ると、中長期的な視点を持つドラフトに変わりつつあることを実感できる。

 矢野監督が言うように、外れ1位で森木大智(高知高・投手)を獲得できたのは大きかった。体力面や技術面でまだ課題は多いが、ポテンシャルは本物。3~4年じっくり育成すれば球界を代表するエースになれる。少し気は早いが、同じ高知出身の藤川の背番号22を是非受け継いで欲しい。

 2~3位では課題の左腕投手を獲得できた。2位の鈴木勇斗(創価大・投手)は小柄ながら馬力のある投球が魅力で、先発候補だが状況によってはリリーフもできるマルチな投手。3位の桐敷拓馬(新潟医療福祉大・投手)は、最速150キロを誇る左腕で、こちらは先発候補で奪三振率が高い。

 阪神のもう一つの課題は外野手不足で、4位で前川右京(智弁学園高・外野手)を、6位で豊田寛(日立製作所・外野手)を獲得したのも見事だった。前川は今夏の甲子園で2本塁打を放った左の長距離砲で将来の中軸候補。右の外野手が多いなかで補強ポイントと合致する。右打ちのスラッガーの豊田は、小笠原(中日)とともに東海大相模で全国制覇したときの4番で、大振りせずに広角に打ち分けることのできる勝負強さも光る即戦力で、右の代打などで早くから出番が回ってきそうだ。

 5位の岡留英貴(亜大・投手)は変則右腕の直球派で、リリーバーとして直ぐに出番がありそうだ。7位の中川勇斗(京都国際高・捕手)は今夏の甲子園で評価を上げた選手で、守備の評価が高いが打撃もパワーがあり将来の正捕手候補。

 育成選手は1名のみで伊藤綾(中京大・投手)も左の速球派で、支配下も早いかもしれない。強いて言えば、昨年も高校生投手を獲得しておらず、森木以外に育成でも、もう1~2名は高校生投手を獲得して欲しかった。

 

〇ロッテ(70点)

 1位指名は高校生投手か即戦力左腕と思っていたので、1位で松川虎生(市和歌山高・捕手)の名前が呼ばれたときは驚いた。松川は捕手の評価も高いが、それ以上にミート力が高く広角に打てる長打力が評価されており、確かに2位以降では獲得は難しかった選手。

 捕手としては覚えることが多く時間がかかるが、森(西武)が捕手のレギュラーとなったのは4年で、得意の打撃を磨きながら、正真正銘の打てる捕手として成長を期待したい。村上(ヤクルト)のように、打撃を活かしコンバートの可能性も十分にある。

 2位ではポスト中村奨を見越して、同じ右打ちの二塁手池田来翔(国士館大・内野手を指名した。池田はパンチ力のある中距離打者で守備も巧く、中村奨のバックアップとして、右打者の少ないチーム状況から出番が早いかもしれない。

 ただ、松川も池田もチーム事情から順位を上げての指名で、ここまでは普通のドラフトだったが、一気に成功ドラフトになったのは、3位で社会人ナンバーワンの廣畑敦也(三菱自動車倉敷・投手)を獲得できたことだ。廣畑は今年のドラフト候補のなかで、即戦力中の即戦力とも言われ、1位指名が確実視されていた投手。まさかロッテも3位で獲得できるとは思っていなかっただろう。球威、スタミナ、制球力ともに一級品で、先発、リリーフともに重要なピースにはまる選手になる。

 廣畑以降、とにかく下位指名が光った。4位の秋山正雲(二松学舎大付高・投手)は、今夏の甲子園でも好投を見せた左腕で、強気に内角を攻める投球は将来性十分。5位の八木彬(三菱重工ウェスト・投手)は、最速152キロにフォークが武器の奪三振率の高い投手で、強固なリリーフ陣をさらに厚くすることができた。

 育成選手は4名指名したが、育成1位の田中楓基(旭川実高・投手)は速球と変化球の完成度が高く、育成4位の村山亮介(幕張総合高・捕手)も強打の捕手で、育成3位の永島田輝斗(立花学園高・投手)と合わせて会心の指名になった。

 マイナス点は、課題と言われた左腕を、今年豊富だった大学生投手をが獲得できず、年齢的に穴のある高校生内野手を獲得できなかったのが勿体なかった。

 

ソフトバンク(70点)

 今年は風間球打(明桜高・投手)の1位指名を公言して臨んだドラフト。間違いなく重複するだろうと思っていたが、蓋を開ければ単独指名になり、希望通りの投手を獲得できた。最速157キロの直球が注目されるが、変化球の精度も高く、ゲームメークにも長けたエース候補で、メジャー移籍が噂されるエース千賀の後継者になれる。

 2位で大学ナンバーワンスラッガー正木智也(慶大・外野手)を指名できたのも大きい。外れ1位もあると思っていた選手で、変化球への対応など課題はあるが、ストレートに力負けしない強打者で、柳田や松田などお手本になる選手は多く、リチャードと並んで将来の中軸を担える。

 3位の木村大成(北海高・投手)も大成功だった。消えると言われるキレのあるスライダーが武器の左腕で、正木ではないがよく3位まで残っていたと思う。風間とともに左右のエースを形成できる可能性が高い。

 下位の4位の野村勇(NTT西日本・内野手と5位の大竹風雅(東北福祉大・投手)の指名は驚いた。野村は昨年のドラフト解禁イヤーで候補に挙がっていたが、残念ながら指名漏れ。今年ようやくプロの道をこじ開けた。身体能力が高く、内外野守れる守備力と広角に打ち分ける即戦力。大竹はソフトバンク得意の隠し玉で、奪三振能力の高い本格派右腕。

 支配下の指名は、ほぼ例年通り5名で終えたが、育成選手を過去最高の14名(高校生9名、大学生5名)を獲得した。注目選手は、育成2位の川村友斗(仙台大・外野手)は、大学で三冠タイトルを獲得した強肩俊足の強打者。3位の井崎燦志郎(福岡高・投手)は県内屈指の進学校に通うクレバーな投手、7位の山崎琢磨(石見智翠館高・投手)は、今夏の県大会決勝でノーヒットノーラン、甲子園で好投を見せドラフト候補に駆け上がった。

 それぞれの課題は育成指名ですべてカバーでき、育成という制度をフルに活用し、原石を発掘していく姿勢は素晴らしい。施設面や経費面で簡単ではないが、近年ホークスが球界の中心であることは事実で、なぜ真似しようとしないか不思議でしょうがない。

 

オリックス(70点)

 ここ数年の育成路線から、今年は即戦力重視に切り替えてきた。これまでの育成が成功を見せ、優勝争いをできるチームに成長した。来年さらに優勝を狙うには、不足しているピースを埋めることを優先したドラフトで評価できる。ドラフトはなんでもかんでも高校生主体の育成が正しい訳ではなく、中長期的な視点でどういうチームを築きあげるかで、大切なのはバランス。オリックスはここ数年そのことを体現している。

 1位は大方の予想に反して、木蓮東北福祉大・投手)を指名した。椋木は150キロを超える本格派右腕で、リリーフへの適性が高く、課題であったリリーフ陣強化につながる。

 投手は今年、高校生指名はおらず6位で横山楓(セガサミー・投手)と7位で小木田敦也(TDK・投手)の社会人投手を獲得した。横山は好不調の波があるのが課題だが、ハマったときの投球は素晴らしい。小木田は昨年、上位候補に挙げられていた実力派で、順位は低いが最後の最後で即戦力投手を見逃さず獲得した。

 野手は2位で安打製造機と言われる野口智哉(関大・内野手を指名。広角に打ち分ける強打の遊撃手で、吉田正や福田など、左打ちのお手本が多いチームで、さらに打撃が開眼すれば中軸を担える。

 3位では、古賀(西武)をスルーして福永奨(国学院大・捕手)を獲得した。捕手は人数も少なく補強が必須で、誰を選ぶかに注目していたが、高い守備力が評価されている福永を選択した。福永はキャプテンシーも強く、扇の要として良い補強になった。

 4~5位は外野手を指名。4位の渡邊遼人(慶大・外野手)は攻守のスピードスターでリードオフマン候補。盗塁数の少ないチームだけに、代走も含めて出番が早そうだ。5位の池田陵真(大阪桐蔭高・外野手)も、」キャプテンシーの溢れ、広角かつ勝負強い打撃が持ち味の右打者で、将来の主軸が期待されている。この指名を見ると、元の内野手コンバートに備えた指名とも言える。

 育成は3名指名し、いずれも野手。育成2位の園部佳太(BC福島・内野手は、高校時代から注目されたスラッガーで、大学を中退し独立リーグに進み夢の扉を開いた。