シーズン前から優勝を狙うには戦力を不安視する声が多かったが、不安は的中し、優勝した阪神には借金12で独走を許す要因となった。チームとしては05~06年以来2度目の2年連続のBクラスになり、同一監督となると初めてのことで、歴代最長を更新し、今季で17年目の指揮を執る原監督にとって不名誉な記録が残った。
かつて逆指名やFAでチームを強化してきたが、最近は他球団の選手からのFA人気も今一つで、思うように意中の選手を獲得できていない。常に優勝を求められるチームは「大型補強」と「育成と発掘」の間で過渡期を迎えている。
【9/29現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 139試合 68勝69敗2分④
防御率…3.47⑤(3.69⑥)打率….253①(.242⑥)
本塁打…163①(163②)盗塁47④(64③)
得点…517③(548③)失点…504⑤(589⑥)
●一発頼みの大味な打線は今年も変わらず、投手は先発・リリーフともに層が薄い
チーム成績を見ても典型的な打高投低のチームだが、得点数は阪神とヤクルトよりも低く、意外に得点能力は高くない。打率と本塁打数は1位で、長打率も12球団で唯一4割を超えているが、一発頼みの大味な打線は変わっておらず、出塁率はリーグ3位、盗塁数は4位と、チャンスに弱い云々の前に、この辺りに原因がありそうだ。
投手陣は今年も厳しく、先発は戸郷が孤軍奮闘し12勝を上げ、山崎も9勝を上げ頭角を現してきたが、次に続くのが横川凱(大阪桐蔭高~18年④)や新外国人のグリフィンと計算できる投手が少ない。先発以上に厳しかったのはリリーフ陣で、クローザーの大勢がケガで離脱すると、代わりになる選手がおらず、チームの総セーブ数はリーグ最少の29と勝ちパターンを確立することが出来なかった。
発掘と育成の方針を掲げながら、どういうチームにしたいか、編成からその方針が窺えない。昨年オフには、大量12人の選手を支配下から育成にし、そのなかにはリリーフエースの中川晧太(東海大~15年⑦)や、前年に53試合登板でフル回転した平内龍太(亜大~20年①)、FA加入の梶谷隆幸(開星高~06年横③)などケガで離脱した主力選手も含まれ、高木京介(国学院大~11年④)に至っては、34歳のベテランながら3度目の育成契約である。
結局、12名中9名がシーズン中に支配下登録されたが、新たに支配下登録されたのはDeNAを戦力外になった三上朋也(JX-ENEOS~13年D④)とルーキーの松井颯(明星大~22年育①)だけで、果たして意味があったのだろうか疑問だ。
また、右打ちのベテラン野手で中島宏之(伊丹北高~00年西⑤)がいるなか、長野久義(ホンダ~09年①)が広島から復帰し、さらにソフトバンクを戦力外になった松田宣浩(亜大~05年ソ希)まで獲得している。確かに彼らベテランから若手が学ぶことは多いが、コーチ的な役割も期待するなら、コーチに任せたほうが良く、実際に中島と松田は今季20打席にも満たず、松田は引退を決断した。
外国人選手も不発で、6人の新外国人選手を獲得するも、戦力になったのはグリフィンとビーディ、途中加入のバルドナードの3投手くらいで、ブリンソンは凡ミス連発で悪目立ちし、残留したウォーカーは成績を落とし、放出したポランコが移籍したロッテで本塁打王を争っており明暗が別れてしまった。
●投手陣強化が最優先だが、課題が多く難しいドラフトになる
ただ、悪い話ばかりではなく、過去5年のドラフトで獲得した選手が着実に主力に成長しているのは評価できる。戸郷と大勢が投手陣の柱となり、先発では山崎に赤星優志(日大~21年③)、横川が結果を残し、リリーフでは平内が復帰し、ルーキーの田中千と船迫も多くの経験を積んだシーズンになった。
野手では秋広優人(二松学舎大高~20年⑤)がブレイクし、ルーキーの門脇は、長年坂本勇人(光星学院高~06年①)の聖域だった遊撃のポジションを奪う活躍を見せており、波に乗れなかったチーム状況のなか、来季に向け光は間違いなく差している。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
18年③…戸郷翔征(聖心ウルスラ高/⑥・投手)
19年①…なし
20年①…山崎伊織(東海大/②・投手)
21年③…大勢(関西国際大/①・投手)菊池大稀(桐蔭横浜大/育⑥・投手)
22年④…田中千晴(国学院大/③・投手)門脇 誠(創価大/④・内野手)
船迫大雅(西濃運輸/⑤・投手)
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【巨人の補強ポイント】
投 手…将来のエース候補、即戦力先発左腕とリリーフ
捕 手…高校生と即戦力捕手
内野手…将来の中軸候補(高校生)と大卒社会人(リードオフマン)
外野手…大学生または社会人
今年のドラフトの最大テーマは投手陣の強化で、極論で言えば、指名選手全員が投手でも良いくらいだ。ただ、投手以外にも課題は多く、捕手は現状支配下選手は僅かに5名で、質量ともに不十分で即戦力と年齢バランスで高校生も必要だ。年齢構成で言えば、投手は高校生、内野手は大卒社会人、外野手は大学生が必要になる。
話を戻して、内外野では出塁率が高く、足のあるリードオフマンが欲しい。数字を見て分かるように主力やファームでも長打力のある選手が多く、阪神の近本・中野のような1・2番がいれば、文字通りクリーンアップが活きてくる。
また、投打にベテランが多く世代交代に迫られ、岡本和真(智弁学園高~14年①)のMLB移籍の可能性もあるなか、「急がば回れ」ではないが、優勝が至上命題のなか、長期的視点でどこまで我慢できるかが、今後のポイントになる。
☆投手~将来のエース候補、即戦力先発左腕とリリーフ
最大の課題は投手力で、先発で計算できるのは戸郷と山崎しかおらず、赤星や横川の成長はプラスだが、中堅の高橋優貴(八戸学院大~18年①)やベテランの菅野智之(東海大~12年①)も今ひとつ精彩に欠ける。
リリーフも層が薄く、2年目の菊地が大きく成長したが、大勢や鍵谷陽平(中大~12年日③)が戦列を離れ、相変わらず中川や高梨雄平(JX-ENEOS~16年楽⑨)、大江竜聖(二松学舎大高~16年⑥)頼みで、故障明けの中川などは、登板過多にならないか観ていて心配になってしまう。
今年は上位で質量ともに豊富な大学生投手を獲得したい。1位候補では細野晴希(東洋大)と武内夏暉(国学院大)の両左腕に、常広羽也斗(青学大)の名前が挙がる。ただ、細野はポテンシャルは一級品だが制球力に課題があり、安定感のある常広と武内のほうがチームにフィットする。
このほか、即戦力の先発候補では、西舘昂汰(専大)に草加勝(亜大)、村田賢一(明大)、上田大河(大商大)は安定感抜群で、古謝樹(桐蔭横浜大)や尾崎完太(法大)の両左腕の評価も高い。特に古謝は、状況次第では1位指名もある逸材だ。
リリーフでは、パワーピッチャーの富士隼人(平成国際大)や制球力に長けた左腕の高太一(大商大)も上位候補に名前が挙がり、素材型の真野凛風(同大)や田中太聖(太成学院大)も面白い。社会人では最速154キロの稲葉虎大(シティライト岡山)は奪三振能力が高く、皆川喬涼(東京ガス)や広沢優(JFE東日本)もリストアップしている。
高校生投手では、前田悠伍(大阪桐蔭高)や東松快征(享栄高)、坂井陽翔(滝川二高)が上位候補に挙がるが、1~2位で消える選手で獲得は難しい。
中位以降であれば、大型右腕於日當直喜(東海大菅生高)や篠崎国忠(修徳高)、藤原大翔(飯塚高)に、早坂響(幕張総合高)は投手歴1年で150キロを超える素材型で、武内涼太(星稜高)や天野京介(愛産大工高)も大化けの可能性が高い。左腕では武田陸玖(山形中央高)や杉原望来(京都国際高)が上位候補で、杉山遥希(横浜高)は指名を明言しており、武内と武田は野手としての評価も高い。
☆捕手~高校生と即戦力捕手
捕手は投手同様、補強の優先度合いが高い。レギュラーの大城卓三(NTT西日本~17年③)は、打撃は申し分ないが、課題のリード面が相変わらず指摘され、逆にリードに定評のある小林誠司(日本生命~13年①)は打てなさすぎる。岸田行倫(大阪ガス~17年②)も第3の捕手を卒業できないまま、6年目のシーズンが終わろうとしている。
即戦力捕手では、世代トップの進藤勇也(上武大)は他球団も高評価している上位候補で、間違いなく1位で消える選手で、下位指名ならばともに打力もある有馬諒(関大)や久保田拓真(パナソニック)を狙いたい。
支配下選手の最年少が22歳の山瀬慎之介(星稜高~19年⑤)で、育成でも支配下を狙える選手が見当たらなく、年齢バランスで高校生も必要だ。高校生ナンバーワン捕手の堀柊那(報徳学園高)に、鈴木叶(常葉菊川高)や藤田柊太郎(福岡大大濠高)のいずれかを確実に獲得したい。
☆内野手~将来の中軸候補(高校生)と大卒社会人(リードオフマン)
内野は主砲の岡本が一塁と三塁の併用で、二塁の吉川尚輝(中京学院大~16年①)と門脇の遊撃は堅守の二遊間になった。また、坂本が三塁での出番を増やし、中田翔(大阪桐蔭高~07年日①)や秋広の併用で、内野陣の大きな課題はない。
中田と坂本が35歳を超えるが、岡本と吉川はまさに今が全盛期で、秋広と門脇、中山礼都(中京大中京高~20年③)の若手がレギュラー候補として結果も残している。ファームでも菊田拡和(常総学院高~19年③)が成長しており、内野は補強を急ぐ必要はない。将来の中軸候補として、真鍋慧(広陵高)や佐倉侠史朗(九州国際大高)、仲田侑仁(沖縄尚学高)が候補に挙がる。
☆外野手~大学生または社会人
外野手は、昨年の浅野翔吾(高松商高~22年①)の獲得が本当に大きかった。年齢と左右の構成、将来のスター候補でありリードオフマン候補と一気に課題を解消した。
今季は丸佳浩(千葉経大高~07年広③)が不振で、新外国人のブリンソンも安定感を欠くなか、ベテラン梶谷や長野、若手の秋広でやり繰りした。ただ、丸と梶谷が35歳を超え、長野も40歳になり、内野とは逆に世代交代が遅れている。浅野やファームで主力の岡田悠希(法大~21年⑤)や萩尾匡哉(慶大~22年②)に期待したい。
上位候補として挙がるのが度会隆輝(ENEOS)で、広角に打てる中距離打者としてポスト丸にはピッタリだ、高卒3年目の左打ちと、年齢と左右のバランスを一気に埋めることができる。俊足巧打の福島圭音(白鷗大)や宮崎一樹(山梨学院大)も補強ポイントに合っている。
最後に内外野通じて、大卒の社会人選手が欲しい。内外野ともに25~26歳が不在なのも理由だが、社会人出身選手は献身的なプレーでチームを支え、若手も含め中軸候補が多く、中川拓紀(ホンダ鈴鹿)のような1~2番を打てる足のある選手が欲しい。
●即戦力投手を確実に獲得したい。今年はバッテリー強化のドラフト
先述したが、今年は投手と捕手のバッテリー中心のドラフトになって良い。歴史的にも結果を求められるチームだけに、安定感のある常広羽也斗(青学大)か武内夏暉(国学院大)を確実に1位で獲得したい。先発とリリーフ、年齢と左右のバランスを意識したドラフトにしたい。
一方で、今年は大学生を中心に即戦力投手が豊富で、2~3位でも1位クラスと遜色ない選手を獲得できる。進藤勇也(上武大)や度会隆輝(ENEOS)の野手の1位指名は決してサプライズではなく、補強ポイントをしっかり抑えた指名になる。
【指名シミュレーション】
(Aパターン) (Bパターン)
1位~常広羽也斗(青学大・投手) 武内夏暉(国学院大・投手)
2位~高 太一(大商大・投手) 堀 柊那(報徳学園高・捕手)
3位~有馬 諒(関大・捕手) 広澤 優(JFE東日本・投手)
4位~杉山遥希(横浜高・投手) 武田陸玖(山形中央高・投手)
5位~稲葉虎大(シティライト岡山・投手)田中大聖(太成学院大・投手/外野手)
6位~藤田柊太郎(福岡大大濠高・捕手) 久保田拓真(パナソニック・捕手)
おススメの選手は、近畿学生2部の二刀流・田中大聖(大成学院大)で、投手では最速153キロを超えるストレートを武器にし、打ってはパワーとスピードを兼ね備えた左打ちで、ポスト丸にもピッタリで指名後に適性を見極めて良いと思う。