ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年の夏の甲子園のドラフト候補選手25名

●コロナ前に戻った大会の熱気とは裏腹に、やや寂しいドラフト候補選手

 今年の甲子園も数々の熱戦が繰り広げられ、いよいよ決勝戦を残すのみになり、昨年の東北初優勝から連覇を狙う仙台育英高(宮城)に1世紀ぶりに決勝進出を果たした古豪・慶応高(神奈川)が頂点を狙う。高校入学前からコロナ禍に翻弄された世代で、今夏より開会式や応援もコロナ前の形に戻り、感慨深い大会になった。

 ただ、ドラフト候補に目を向けるとやや物足りない大会になった。今大会の主役は,紛れもなく高校通算140本塁打佐々木麟太郎(花巻東高)だったが、甲子園名物の“怪物”の異名を獲得するまでには至らず、今一つ評価が上がり切らなかった。

 ケガの影響で本調子ではないことはあったが、結果ノーアーチでヒットも単打ばかりで、以前より課題とされていた守備や走力、太りすぎなど、マイナスの要素を払拭するような結果を残せなかった。予てより進路は夏が終わってからと表明していたが、実力は抜きんでており、プロ志望を表明すれば1位指名は間違いない。進学の可能性もあるとのことだが、その進路に注目が集まる。

豊作と言われている大学生の一方、今一つ高校生候補の評価が上がらない…

 投手の有力候補はいずれも県大会で敗退するなか、唯一の上位候補と言われた平野大地(専大松戸高)は、手指の不調による制球難で甲子園は未登板で終わった。前評判は高く将来性も十分だが、最後の夏で結果を残せず評価が難しくなり、大学進学のコメントが出るまでになった。

 そんななか、大会ナンバーワン投手と呼ばれたのは、森煌誠(徳島商高)で投手分業が主流になったなか、徳島大会を一人で投げ抜き、初戦完封の好投を見せた。ただ、既に社会人へ進むことを表明しており、3年後の上位指名を目指す。

 森同様に評価を上げたのが東恩納蒼(沖縄尚学高)で、クレバーな投球で沖縄大会を無失点で凌いだ。修正能力が高く、ゲームメークに長け、ピンチでギアを上げる投球は高校生離れしている。

 連覇を目指す仙台育英高の150キロトリオでは、湯田統真(専大育英高)が評価を上げた。湯田は今春の東北大会で153キロを投げ、安定感抜群でゲームメークに長け、決勝までの5試合中3試合に先発している。

 エースナンバーを着ける高橋煌稀(仙台育英高)は183センチの長身から角度のあるボールを投げ、多彩な変化球も精度が高い。左腕の仁田陽翔(仙台育英高)もポテンシャルの高さは魅力だが、制球力に課題を残す。ただ、仁田以外は進学を希望しており、プロでの姿を見るのはまだ先になる。

 プロ志望では、大阪大会の決勝戦大阪桐蔭高を完封した福田幸之助(履正社高)の評価が高い。馬力のある140キロのパワーピッチャーで、制球力に課題はあるものの将来性は十分だ。 

 福田と同じ左腕の黒木陽琉(神村学園高)も評価を上げた。故障やベンチ外などの挫折を味わいながら、スライダーとカーブを武器にリリーフでチームをベスト4に導いた。家族のためにプロ志望を表明するなど、ハングリー精神はプロ向きだと思う。

 進路は未定だが、安田虎汰郎(日大三高はストレートの質が良く、球速以上にスピードを感じ、決め球のチェンジアップは大きな武器になる。寿賀弘都(英明高)は現状は驚くような球はないが、素質が高く評価されている左腕。

 今夏も背番号3で迎えた熊谷陽輝(北海高)と昨年のセンバツで8強入りした武内涼太(星稜高)は、常時140キロを超える右の本格派だが、ともに打者としても評価が高く、甲子園で本塁打を放っている。

【主なドラフト候補】

 投 手…熊谷陽輝(北海高)高橋煌稀・湯田統真・仁田陽翔(仙台育英高)

       平野大地(専大松戸高)安田虎汰郎(日大三高)武内涼太(星稜高)

       福田幸之助(履正社高)寿賀弘都(英明高)森 煌誠(徳島商高)

       黒木陽琉(神村学園高)東恩納蒼(沖縄尚学高)

 捕 手…尾形樹人(仙台育英高)

 内野手…佐々木麟太郎(花巻東高)山田脩也(仙台育英高)高中一樹(聖光学院高)

       横山聖哉(上田西高)森田大翔(履正社高)真鍋 慧(広陵高)

       佐倉侠史朗(九州国際大高)百崎蒼生(東海大熊本星翔高)

       仲田侑仁(沖縄尚学高)

 外野手…松本大輝(智弁学園高)西 綾太(履正社高)知花慎之介(沖縄尚学高)

 佐々木と並び昨年から期待されていたスラッガー真鍋慧(広陵高)佐倉侠史朗(九州国際大高)本塁打がないまま甲子園を去り、上位指名確約とは言えるインパクトも結果も残せなかった。

 真鍋は高校通算60本塁打を放っているが、コンタクト率が高く打率も残せる選手で2~3位で消える可能性が高い。ただ、広陵高は進学が基本線なだけに、どういった決断を出すか佐々木同様に注目だ。佐倉も真鍋同様、どちらかと言うとアベレージ型で木製バットへの対応力も高い。ただ、ともに守備が一塁で、プロを目指すのであればポジションの選択肢を増やす必要がある。

 そんななか評価を高めたのは森田大翔(履正社高)で、甲子園で2試合連続、大阪大会から5本塁打を放ち今夏で急成長した。脚力もあり守備力も問題なく、貴重な右投げ右打ちのスラッガーで需要は高い。仲田侑仁(沖縄尚学高)も森田同様、右投げ右打ちのスラッガーで、甲子園では足のケガで本調子ではなかったが、甲子園ではしっかり一発放っており将来性は十分だ。

 このほか、181センチの大型遊撃手の横山聖哉(上田西高)も評価を確立させた。高校通算30本塁打で、守備と肩の強さは既にプロで通用するレベル。打撃が課題だが、2~3年みっちりファームで鍛えれば正遊撃手候補になれる逸材。

 このほか、横山と同じ遊撃手では百崎蒼生(東海大熊本星翔高)山田脩也(仙台育英高)高中一樹(聖光学院)の評価が高い。百崎はリードオフマンとしてアグレッシブなプレースタイルで、打撃が良くパンチ力もある。名門校で2年生から主力として活躍した山田は、堅守と俊足が武器。高中も50メートル6秒4の俊足で、ともに遊撃手として総合力が高い。

 外野手では森から本塁打を放った松本大輝(智弁学園高・外野手)は期待の長距離砲、ともにリードオフマン西綾太(履正社高・外野手)知花慎之介(沖縄尚学高・外野手)はパンチ力があり、西は1年秋から中堅のレギュラーを獲得し、知花は俊足巧打で広角に打ち分ける。

 最後に、昨年は逸材が揃った捕手だが今年は候補者が少ないなか、尾形樹人(仙台育英高)が一人目を引いた。昨夏から正捕手を務め、タイプの違う投手をリードし、遠投100メートルの強肩に足も早い。今夏の甲子園では打率4割を超える活躍を見せているが、尾形も大学進学が有力のようだ。

●進学・社会人希望が増える背景は?WBC代表の約6割は高卒選手の現実

 現時点で各自の進路の表明は分からないが、有力選手のなかでは大学進学や社会人へ進む選手が多くなる記事を見た。理由は様々だが、3~4年後の上位指名を狙ったり、厳しいプロの世界を前に、万が一のために大学や社会人へ進むのが本音のようだ。

 これもあるスカウトのコメントだが、「厳しいプロの世界を生き抜くのに、順位だとか引退後のためだとか…そんなことを考えるならプロに来なくても結構」と述べていたが、これもまた本音なのだろう。

 ただ、私は本当にプロで活躍したいのなら、高校生からチャレンジするほうが良いと思っている。言い方は悪いが、高校で指名されないので進学や社会人へ進むのがプロの世界だと思っている。実際に今年のWBCの代表選手で、ヌートバーを除く29名中、高卒は17名、大卒は8名、社会人・独立リーグは4名で、ドラフトは総体的に高卒指名が多いとはいえ、高卒が全体の約6割を占めている。

 また、今年ドラフト解禁の大学生は、佐々木朗希(大船渡高→ロッテ1位・投手)や宮城大弥(興南高→オリックス1位・投手)と同学年だが、4年前(19年)の高校生ドラフト候補のなかで、今年候補に挙がっているのは¥、投手では西舘勇陽(花巻東高→中大・投手)に村田賢一(春日部共栄高→明大・投手)、赤塚健利(中京大中京高→中京学院大・投手)と木村仁(北九州高→九共大・投手)、野手では福島圭音(聖望学園高→白鷗大・外野手)くらいで、西舘以外は上位候補ではない。

 一方で今年の上位候補の細野晴希(東亜学園高→東洋大・投手)や常広羽也斗(大分舞鶴高→青学大・投手)は高校時代は無名で、当然と言えば当然だが、高校時代の高評価が3~4年後の上位指名に直結する訳ではない。

 近年、ドラフト制度が整備され、ドラフト指名→拒否は限りなく少なくなり、支配下指名で入団拒否したのは、16年日本ハム6位指名の山口裕次郎履正社高・投手)が最後で、その山口は指名順位が低いのを理由に社会人へ進んだが、残念ながら以降ドラフト候補に挙がることはなかった。

 本人の希望だけではなく、親御さんや学校の関係もあると思うが、高校からプロへ進める可能性があるのなら、是非チャレンジして欲しいと思う。

高校野球丸刈りを求めるのは何故?時代に合わせて変化は必要

 最後に、今年の甲子園では酷暑により大会運営のほかに、髪形が取り上げられた。正直、丸刈りがどうこうなど報道になることが自体がおかしいと思う。ましてや「高校生らしくない」などの意見もあるらしいが、こんな声を真に受ける必要はない。

 髪型は各校の校則(ブラック校則は問題外だが…)や部則に沿えば良いだけだし、丸刈りにするかしないかは個人の自由で強制されるものではない。とにかく高校野球を美化(神聖化)して、「高校野球=丸刈り」の同調圧力には令和の時代になっても残っていることにはうんざりする。丸刈りが嫌で野球離れが加速しているという現場の声もあり、野球人口を増やすためにもこんな無毛な論議はいい加減止めて欲しい。

 一方で野球人口の話にもなったが、これは課題が多いと感じている。野球界全体の組織運営形態、旧態依然の軍隊的とも言える指導方法やそれを是非とする指導者、用具代の高さなどの経済的な課題など多々あり、私は今一度ゼロベースで少年野球からプロ野球まで一気通貫で全体で取り組んでいく課題だと思っている。

 特に野球への入り口として、少年野球の勝利至上主義は見直しが必要だと思う。小学生はもっと伸び伸びと野球というスポーツ自体を楽しんで裾野を拡げて欲しい。