ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

18年のドラフトを振り返る~5年目の今季、チームに貢献する選手は

 ドラフトの成否を見るには、5年後を見てみないと分からないと言われている。入団時にどれだけ注目されても、5年後に主戦として育っているかが大事で、5年前の当たりクジが外れクジになる場合もあるし、その逆もあり、そして当然チームの成績に連動してくる。

 年齢的にも、高卒なら同学年が大学生ルーキーとして入団し、大卒選手は27~28歳の全盛期を迎え、社会人選手は脂の乗り切った年齢になる。そこで今回は、5年前の18年のドラフトにスポットを当ててみた。

 ちなみに18年は、広島がセ・リーグ3連覇を果たし、パ・リーグは西武が優勝するもCSでソフトバンクに敗れ、そのソフトバンクが日本一に輝いた。甲子園は大阪桐蔭高が史上初の2度目の春夏連覇を果たし、夏の甲子園は100回大会を迎え「金農旋風」が巻き起こった。 

【18年のドラフトは?】

 ・史上最強と言われた大阪桐蔭高から何人指名されるか?

 ・東洋大の150キロトリオ(上茶谷・甲斐野・梅津)はどの球団に?

 ・甲子園のヒーロー吉田輝星の1位指名があえうか?

 結果、大阪桐蔭高の根尾昂に4球団(中日・日本ハム・巨人・ヤクルト)、藤原恭大(楽天阪神・ロッテ)と報徳学園高の小園海斗(DeNA・ソフトバンク・広島)に3球団指名し、西武は松本航(日体大)を単独指名した。

 このほか、甲子園を沸かせた金足農高の吉田輝星が日本ハムから、東洋大の甲斐野央はソフトバンク、上茶谷大河はDeNAから1位指名を受けるなど、華やかな上位指名になった。ただ、それより目立っているのが下位指名選手の活躍で、6位で阪神の湯浅京己、巨人は戸郷翔征のWBCメンバーを獲得しており、オリックスも7位で中川圭太が入団しており、現状の活躍を見ると改めて順位でないことが分かる

 どのチームが一番成功と言うには難しかったが、現状では総じてパ・リーグのほうが良いドラフトになっている。また、育成を除く指名総数83名中、既に7名の選手が戦力外で退団している。

 5(大成功)…なし

 4(成 功)…阪神、ロッテ

 3(及第点)…楽天オリックス日本ハムソフトバンク、西武

 2(今一つ)…DeNA、巨人、ヤクルト、広島

 1(失敗…)…中日

 

 

阪神は近本と湯浅の投打の主戦を獲得!ロッテはまだまだ将来性を秘めている

 現段階で一番の成功は阪神と言える1位の近本光司(大阪ガス~外野手)の実績はずば抜けており、昨季まで出場試合数を上回る630安打を放ち通算打率.292、最多安打1回、盗塁王3回、21年から2年連続でベストナインゴールデングラブ賞を獲得するなど、リーグを代表する選手になった。

 そして6位でWBCでの活躍が記憶に新しい湯浅京己(BC富山~投手)を獲得している。入団時高卒1年目の19歳の無名の右腕を発掘、育成した手腕が今の投手王国に繋がっている。この2人の獲得だけで十分成功と言えるが、このほか、3位の木浪聖也(ホンダ~内野手は即戦力として一年目からチームの戦力になり、2位の小幡竜平(延岡学園高~内野手はレギュラー候補で、即戦力と育成がそれぞれ結果を残している良いドラフトになった。

 一番の成功が阪神なら、現段階でも将来性一番のドラフトになったのがロッテだ。1位の藤原恭大(大阪桐蔭高~外野手)が5年目にして覚醒の兆しを見せ、4位の山口航輝(明桜高~内野手は、現在ケガで離脱中だが、若き4番として成長曲線を描いている。また、3位の小島和哉(早大~投手)は今季開幕投手を務め、左のエース格としてローテーションを支えている。

 2位の東妻勇輔(日体大~投手)と5位の中村稔弥(亜大~投手)が今ひとつ伸び悩んでいるが、エースと左右のリリーバー、4番候補にトリプルスリーも狙えるリードオフマンを獲得し、阪神と同じく即戦力と育成のバランスが悪くなく、藤原に山口が独り立ちできれば優勝を狙える布陣が整ってくる。

 

オリックス日本ハムは打者が充実!西武は投手王国の礎になった

 将来性で言えばオリックス日本ハムも負けていない。オリックス7位の中川圭太(東洋大内野手は、内外野守れるユーティリティプレーヤーで、打ってもどの打順もこなし、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなる欠かせない存在になっている。2位の頓宮裕真(亜大~捕手)も強打を武器に一塁手やDHも務め、今季レギュラーを掴みかけている。

 このほか、1位の太田椋(天理高~内野手、5位の宜保翔(未来沖縄高~内野手)は将来のレギュラー候補として着実に出番を増やしており、現在はリハビリ中で育成契約だが、4位の富山凌雅(トヨタ自動車~投手)も復活すれば、大成功ドラフトになる可能性をまだ秘めている。

 日本ハムにも将来性を秘めている選手が揃う。1位の吉田輝星(金足農高~投手)の伸び悩みは頭の痛いところだが、2位の野村佑希(花咲徳栄高~内野手と4位の万波中正(横浜高~外野手)がチームの主軸として成長しており、野村と万波は現段階で打点リーグ2位、3位で本格的なブレイクが期待できる。

 ただ、野村と万波に続く選手がおらず、先述した吉田以外にも3位の生田目翼(日本通運~投手)や7位の福田俊(星槎道都大~投手)など、投打に成長中のチームだけに、阪神からトレードで加入した阪神4位の斎藤友貴哉(ホンダ~投手)と合わせて投手の活躍が待遠しい。

 西武は投手が主戦に成長し、現在の投手王国の礎になっている。1位の松本航(日体大~投手)に6位の森脇亮介(セガサミー~投手)は即戦力としての力を発揮している。ただ、松本は位置づけ的には先発3~4番手、森脇も勝ちパターンに完全に定着とは言えず、さらなる飛躍に期待したい。また、2位の渡邊勇太朗(浦和学院高~投手)も将来のエース候補として嘱望されており、投手陣の充実が特筆できる。

 反面、野手は今ひとつで3位の山野辺翔(三菱自動車岡崎~内野手日本ハムから出戻りの佐藤龍世(富士大~内野手もサブ的な役割から抜け出せていない。

 

●即戦力中心の楽天ソフトバンクは主戦が不在…高校生の育成も不発気味

 楽天ソフトバンクもまずまずだが、いずれもサブ的な役割の選手が多い。この年最下位だった楽天は即戦力中心のドラフトで、1位の辰巳涼介(立命大~外野手)から始まり、2位の太田光(大商大~捕手)、6位は渡邊佳明(明大~内野手、7位で小郷裕哉(立正大~外野手)が加入しているが、いずれもレギュラー獲得に至っていない。

 太田を除く3名はいずれも左の巧打者タイプで、チームに似たような選手が多く、渡邊や小郷は不運な面も否めず、この後もどういう役割を期待されているか見えない。また、抜群の守備範囲を誇りパンチ力もある辰巳、強肩の太田も未だチームの中心選手になっていないのはやはり物足りない。

 投手も同様で4位の弓削隼人(スバル~投手)、8位の鈴木翔天(富士大~投手)の両左腕もワンポイントやロングリリーフが主で、高校生の2人はいずれも今季から育成契約になっており、将来性の面でも成功とは言い難い。

 ソフトバンクも同様で、1位の甲斐野央(東洋大~投手)は、1年目こそ大車輪の活躍を見せたが、登板過多がたたったのかその後は精彩を欠いている。5位の板東湧梧(JR東日本~投手)に6位の泉圭輔(金沢星陵大~投手)も、一時期は良い場面で投げていたが、長続きせずにロングリリーフや敗戦処理が主になりつつある。2位の杉山一樹(三菱重工広島~投手)も毎年ブレイク候補に名前が挙がりながらチャンスを活かしきれておらず、この年7名中5名が大学・社会人の即戦力投手だったが、どれも「帯に短し襷にに長し」のような感じは否めない。

 野手では3位の野村大樹(早実高~内野手)がおり、ポスト松田の一番手とも言われていたが、栗原にレギュラーを奪われ、二軍が主戦場になってしまっている。二軍では圧倒的な成績を残しているだけに、まだまだ期待したい。

 

●ヤクルトと広島は退団選手が多く、DeNAは大貫、巨人は戸郷の活躍が救い

 ここからは今一つの評価で、奇しくもすべてセ・リーグになってしまった。2連覇中のヤクルトは、リリーフ転向で才能が開花した1位の清水昇(国学院大~投手)に、ブレイク感の漂う4位の濱田太貴(明豊高~外野手)、左のリリーフで7位の久保拓真(九共大~投手)が控えるが、すでに2名の即戦力選手が退団し、5位の坂本光士郎(新日鉄住金広畑~投手)は、トレードでロッテに移籍しており、実質3名の即戦力で獲得した選手が既にチームにいない。

 広島も同様で、1位の小園海斗(報徳学園高~内野手に2位の島内颯太郎(九共大~投手)は主戦で活躍しているが、7名中5名が高校生と育成重視の指名だったにも係わらず既に2名が退団し、6位の正髄優弥(亜大~外野手)は現役ドラフトで楽天に移籍している。また、3位の林晃汰(智弁和歌山高~内野手は、昨年一軍出場ゼロで伸び悩み、7位の羽月隆太郎(神村学園高~内野手もレギュラー候補とは言い難く、この年の優勝を最後に、低迷期に入っているチームを象徴するようなドラフトになってしまった。

 DeNAと巨人も芳しくない。DeNAは3位で獲得した大貫晋一(新日鉄住金鹿島~投手)、巨人は6位の戸郷翔征(聖心ウルスラ高~投手)がエース級の活躍を見せ、何とか体裁は保てているが、このほかの選手がパっとしない。

 この年のDeNAは即戦力中心のドラフトだったが、1位の上茶谷大河(東洋大~投手)は決して先発の層が厚いとは言えない投手陣のなかで、ローテーションに定着できていない。6位の知野直人(BC新潟~内野手も、野手の層が厚い状況はあるが、一軍に定着することができず、2位の伊藤裕季也(立正大~内野手は、昨年トレードで楽天に移籍している。

 反対にこの年の巨人は育成中心のドラフトで、1位の高橋優貴(八戸学院大~投手)以外はすべて高校生の指名になった。その高橋は順調に勝ち星を重ねていたが、昨年は僅か1勝に終わり、今季は左ひじの手術後と言うこともあり育成契約(現在は支配下登録)でシーズンを迎えた。

 戸郷を除く高校生4名のうち、1名は既に退団しているが、2位の増田陸(明秀日立高~内野手に3位の直江大輔(松商学園高~投手)、4位の横川凱(大阪桐蔭高~投手)は全員が一度育成契約になっている。現段階では全員が支配下に復帰しているが、チームの育成方針が見えず、気の毒な部分もあるが個人、チームとも将来像が見えてこない。

 

●予想外の根尾の不振…ドラフトでの低迷がチームの成績に直結

 最後に唯一失敗の評価をしたのが中日で、1位の根尾昂(大阪桐蔭高~内野手がここまで苦労するとは思わなかった。大阪桐蔭高の中心選手で、走攻守三拍子揃いまさにこの年のドラフトの目玉だった。4球団競合の末、地元(岐阜県出身)の中日への入団が決まり、誰もが中日の看板選手を期待したが、野手で迷走を続けた結果、4年で40安打1本塁打、打率.171の成績で、昨年投手に転向した。ただ、その投手でも今季は一軍登板がなく、ファームでも6試合登板(5/7現在)と精彩を欠いている。

 2位の梅津晃大(東洋大~投手)は、入団前から未完の大器と言われていたが、かねてより懸念されていた故障癖が続き、昨年から未だ登板がない。唯一、3位の勝野昌慶(三菱重工名古屋~投手)が奮闘しているが、通年で結果を残せておらず、ここ数年の低迷もドラフトを見れば納得せずにはいられない。

 

 育成選手でも主戦はいないが、捕手が充実しており阪神の片山雄哉(BC福井~捕手)にソフトバンクの渡邊陸(神村学園高~捕手)、西武の中熊大智(徳山大~捕手)の3選手に、このほか野手ではヤクルトの松本友(BC福井~内野手)に広島の大盛穂(静岡産大から外野手)が支配下登録されている。投手はオリックスの漆原大晟(新潟医療福祉大~投手)にDeNAの宮城滝太(滋賀学園高~投手)しかおらず、やや寂しい結果になっており、指名21選手中9名が退団している。