ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

チーム浮沈のカギを握るか?チームの戦略が分かる4位指名に注目!

 天才打者と言われたイチローオリックス)に前田智徳(広島)、そして日本のエースと言われている山本由伸(オリックス)に共通しているのは、全員がドラフト4位で指名された選手たちだ。

 ドラフトファンからすると、4位の指名はチームの自由度があり注目の順位になる。ドラフトは1位で希望選手を獲得できれば、ほぼ成功と言え、各チームとの駆け引きのなか、上位指名が埋まっていく。

 4位は上位3名のあとに、育成重視で行くのか、それとも即戦力で行くのか、はたまた一芸に秀でた選手で行くのか、その年のチームの特徴が出る。また、個性的な選手が多く輩出されているのも特徴と言える。

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◆80年代

 投手…大門和彦(83年/大洋~東宇治高)赤堀元之(88年/近鉄~静岡高)

 野手…川相昌弘(82年巨人~岡山南高)飯田哲也(86年ヤクルト~拓大紅陵高)

      藤井康雄(86年/阪急~プリンスホテル初芝清(88年/ロッテ~東芝府中

      前田智徳(89年/広島~熊本工高宮地克彦(89年/西武~尽誠学園高)

 80年代は野手の活躍が目立ち、川相や宮地は投手から、飯田は捕手から大成するなどコンバートの成功選手も多い。また、ソフトバンク監督の藤本博史(81年/南海~天理高)や元ヤクルト監督の小川淳司(81年/ヤクルト~河合楽器)、光山英和(83年/近鉄~上宮高)など育成手腕が高く評価されている指導者も輩出している。

◆90年代

 投手…下柳剛(90年/ダイエー~新日鉄君津)島崎毅(91年/日本ハム~NTT北海道)

    川尻哲郎(94年/阪神~日産)高橋建(94年/広島~トヨタ自動車

    石井弘寿(95年/ヤクルト~東京学館高)小林宏之(96年/ロッテ~春日部共栄高)    

 野手…鈴木尚典(90年/大洋~横浜高)桧山進次郎(91年/阪神東洋大

    イチロー(91年/オリックス~愛工大名電高)中村紀洋(91年/近鉄~渋谷高)

    金本知憲(91年/広島~東北福祉大多村仁(94年/横浜~横浜高)

    和田一浩(96年/西武~神戸製鋼鈴木尚広(96年/巨人~相馬高)

    坪井智哉(97年/阪神東芝森本稀哲(98年/日本ハム~帝京高)

    蔵本英智(98年/中日~名城大)川崎宗則(99年/ダイエー~鹿児島工高)

 90年代は大当たりと言っても良く、特に91年はイチローに中村、金本と一時代を築いた選手が同じ年の同じ4位で入団しており、これぞドラフトの醍醐味と言える。また、ホールドポイント導入のきっかけを作った中継ぎの島崎、代打の神様と言われた桧山、代走のスペシャリストの鈴木、守備の名手の英智など個性的な選手も多い。

◆00年代

 投手…渡辺俊介(00年/ロッテ~新日鉄君津) 武田久(02年/日本ハム~日本通運

     マイケル中村(04年/日本ハム~ブルージェイズ)武田勝(05年/日本ハム~シダックス) 

      森福允彦(06年/ソフトバンク~シダックス秋山拓巳(09年/阪神~西条高)     

 野手…赤星憲広(00年/阪神JR東日本石原慶幸(01年/広島~東北福祉大

      栗山巧(01年/西武~育英高)青木宣親(03年/ヤクルト~早大

      明石健志(03年/ダイエー~山梨学院高)藤田一也(04年/横浜~近大)

      亀井義行(04年/巨人~中大)前田大和(05年/阪神樟南高

      松山竜平(07年/広島~九州国際大清田育宏(09年/ロッテ~NTT東日本)

 07年までは、上位逆指名ドラフトや高校と大学・社会人の分離ドラフトなど、純粋に指名順位が4番目ではないがリストアップした。さすがに栗山や青木、藤田に大和、秋山など現役選手も多い。また、日本ハムの指名が秀逸で、北海道移転後の主力選手が獲得できており、そのまま戦力の底上げに繋がった好事例と言える。

 

それでは、11年から昨年まで4位指名された選手を、戦力外や引退した選手を除き、今度は球団別に見てみたいと思う。

パ・リーグ

 オリックスは、やはり山本由伸(16年/投~都城高)の獲得が大きい。中央では無名だったが、右の本格派として注目されており、イチロー同様、4位でよく獲れた言うのが本音だろう。このほか、故障を克服してリリーフに定着した本田仁海(17年/投~星槎国際湘南高)が主力に成長している。投手指名が8名と多く、有望株の前佑囲斗(19年/投~津田学園高)や支配下を目指す富山凌雅(18年/投~トヨタ自動車)が控える。野手の大成は少ないが、2年続けて渡部遼人(21年/外~慶大)に杉澤龍(22年/外~東北福祉大)の大卒野手を獲得した。

 ソフトバンクは、実に高校生9名が占め、うち野手が7名と将来の有望株の順位と言える。三森大貴(16年/内~青森山田高)や上林誠知(13年/外~仙台育英高)の活躍が光り、そろそろ川原田純平(20年/内~青森山田高)も続きたい。また、茶谷健太(15年/内~帝京三高)は移籍先のロッテで頭角を表してる。投手は笠谷俊介(14年/投~大分商高)に大野稼頭央(22年/投~大島高)の左腕を獲得している。即戦力では椎野新(17年/投~国士館大)と板東湧梧(18年/投~JR東日本)は、貴重なリリーバー、一昨年は05年以来、社会人野手の野村勇(21年/内~NTT西日本)を獲得した。

 西武も育成枠の順位で高校生指名が8名と多く、うち6名は野手指名。愛斗(15年/外~花咲徳栄高)と鈴木将平(16年/外~静岡高)、大卒の若林楽人(20年/外~駒大)はともに外野のレギュラー候補。川野涼多(19年/内~九州学院高)はポスト源田の候補の一人としても負けていられない。投手は大成功の雰囲気があり、今季先発に転向した平良海馬(17年/投手~八重山商工高)、羽田慎之介(21年/投~八王子高)は期待の大型左腕。青山美夏人(22年/投~亜大)はルーキーながら開幕戦でクローザーを任せられるなど、リリーフとして勝ちパターンを担っている。

 楽天はこの順位でも即戦力志向が高く、大学生指名が半分を占める。ただ、主力と呼べるのは岡島豪郎(11年/捕~白鷗大)くらいで、内間拓馬(20年/投~亜大)に弓削隼人(18年/投~スバル)は一軍に定着できておらず、開幕一軍を手にしたルーキーの伊藤茉央(22年/投~東農大オホーツク)にこの閉塞感を破って欲しい。高校生もレギュラーは不在で、堀内謙伍(15年/捕~静岡高)や武藤敦貴(19年/外~都城東高)は、ともにチャンスを活かし切れていない。今季で10年目を迎える古川侑利(13年/投~有田工高)は、戦力外や育成を経験し、既に4球団を渡り歩いている苦労人だ。

 ロッテはクローザーの益田直也(11年/投~関西国際大)の活躍が光り、これに味をしめた訳ではないが、東條大樹(15年/投~JR東日本)や河村説人(20年/投~星槎道都大)、高野脩汰(22年/投~日本通運)といった即戦力投手が半分を占める。野手の菅野剛士(17年/外~日立製作所)は一軍に定着できず、加藤翔平(12年/外~上武大)は中日に移籍した。最近は高校生指名も増え、18年は07年の分離ドラフト終了後、初めて高校生を指名した。山口航輝(18年/外~明桜高)は4番候補の一番手で、横山陸人(19年/投~専大松戸高)や秋山正雲(21年/投~二松学舎大高)の指名に繋がった。

 日本ハムは4位は育成と言わんばかりに、高卒指名が9名と多い。近藤健介(11年/捕~横浜高)を筆頭に、野手は万波中正(18年/外~横浜高)や細川凌平(20年/内~智弁和歌山高)、阪口楽(21年/内~岐阜一高)。投手も石川直也(14年/投~山形中央高)に安西叶翔(22年/投~常葉菊川高)とスケール感のある選手が並ぶ。大卒・社会人でも高梨裕稔(13年/投~山梨学院大)は新人王を獲得。鈴木健矢(19年/投~JX-ENEOS)は先発として主力に成長しており、4位の使いかたが巧い。ただ、高梨に平沼翔太(15年/内~敦賀気比高)はトレード、近藤もFAで移籍しており勿体ない。

 

セ・リーグ      

 ヤクルトは即戦力投手が多く、大学・社会人で半数の6名を指名している。ただ、残念ながら戦力になったのは大西広樹(19年/投~大商大)のみで、期待に応えられていない。野手も4位ながら一桁の背番号を与えられるなど期待が高く、塩見泰隆(17年/外~JX-ENEOS)はリーグを代表するリードオフマンで、元山飛優(20年/内~東北福祉大)は一軍定着を目指している。ここ数年は高校生指名が増え、濱田太貴(18年/外~明豊高)が外野のレギュラー候補に名乗りを上げ、直近は2年連続で小森航太郎(21年/内~宇部工高)に坂本拓己(22年/投~知内高)と高校生を獲得している。

 DeNAは、高校生と社会人が半々で、大学生指名は三浦銀二(21年/投~法大)しかいない。高校生の出世頭は桑原将志(11年/外手~福知山成美高)で、ハッスルプレーでチームの顔になり、東妻純平(19年/捕~智弁和歌山高)に小深田大地(20年/内~履正社高)も続きたい。投手は京山将弥(16年/投~近江高)がローテーションに定着せきず、昨年は森下瑠大(22年/投~京都国際高)を獲得した。社会人は戸柱恭孝(15年/捕~NTT西日本)しか在籍しておらず、三上朋也(13年/投手~JX-ENEOS)は、戦力外から巨人へ移籍しており、高校生も即戦力選手も現時点では物足りない。

 阪神はここ最近、チームの戦略同様、育成にシフトしている。浜地真澄(16年/投~福岡大大濠高)はリリーフとして、チームに欠かせない存在になり、遠藤成(19年/内~東海大相模高)に前川右京(21年/外~智弁学園高)、茨木秀俊(22年/投~帝京長岡高)が主力に成長すればチーム力が増す。大学生では、正捕手の梅野隆太郎(13年/捕~福岡大)は強肩堅守で3度のゴールデングローブ賞を獲得。同じ強肩の栄枝裕貴(20年/捕~立命大)、走攻守揃った島田海吏(17年/外~上武大)はレギュラーを狙う。社会人選手は物足りなく、斎藤友貴哉(18年/投~ホンダ)は日本ハムへ移籍している。

 巨人は残念ながら順位として軽んじられている印象を受ける。様々な理由はあるが、高木京介(11年/投~国学院大)に横川凱(18年/投~大阪桐蔭高)、井上温大(19年/投~前橋商高)を含む5名が育成契約を経験し、伊藤優輔(20年/投~三菱パワー)は肘の手術で僅か1年で育成契約になった。また、公文克彦(12年/投~大阪ガス)に奥村展征(13年/内~日大山形高)、宇佐見真吾(15年/捕~城西国際大)は既に移籍し、北村拓己(17年/内~亜大)に石田隼都(21年/投~東海大相模高)も時間がかかり、高木以外は壊滅的とも言え、ルーキー門脇誠(22年/内~創価大)への期待が高まる。

 広島の4位指名も特徴的で、16年の坂倉将吾(16年/捕~日大三高)から昨年の清水叶人(22年/捕~健大高崎高)まで7年連続で高校生を指名しており、大学生は11年を最後に4位での指名選手がいない。坂倉は貴重な打てる捕手として、レギュラーを獲得し、坂倉に続けと言わんばかりに、韮澤雄也(19年/内~花咲徳栄高)に小林樹斗(20年/投~智弁和歌山高)、田村俊介(21年/投~愛工大名電気高)が控える。面白いのが藤井晧哉(14年/投~おかやま山陽高)で、20年に戦力外、独立リーグから昨年ソフトバンクに入団し、現在はローテーション投手である。人生何があるか分からない。

 中日はなぜか分からないが、捕手の4位指名が多く、その数は5名に上る。しかも、直近5年は石橋康太(18年/捕~関東一高)から始まり、郡司裕也(19年/捕~慶大)、味谷大誠(21年/捕~花咲徳栄高)、山浅龍之介(22年/捕~聖光学院高)と4名が捕手だ。意図したものなのか、偶然かは知らないがバランスの悪さを感じてしまう。投手では笠原祥太郎(16年/投手~新潟医療福祉大)が、DeNAに移籍したが、福敬登(15年/投~JR九州)に清水達也(17年/投~花咲徳栄高)は勝ちパターンのリリーフを担い、福島章太(20年/投~倉敷工高)は育成指名から今季支配下に復帰した左腕だ。

 

 このように現役の4位指名の選手を挙げてみたが、球団ごとの戦略が分かって面白い。また、01年~22年までの新人王は、両リーグ合わせて1位指名(希望枠を含む)が24名とやはり多いが、以降は2位指名が6名、3位指名が4名、5位以降が2名、育成が3名のなか、4位指名は5名と2位指名と大差はなく、4位はやはり面白い順位と思う。