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どのチームが「人」を育て強くなるのか

2022年ドラフト寸評~パ・リーグ編・会心のドラフトは西武とオリックス!日本ハムは地元の有望選手を逃す…

 個人的にこの表現は好きではないが、今年も不作(3年連続)と言われるなか、事前に9球団が1位指名を公表する稀なドラフトになった。

 公表しなかったロッテが荘司康誠(立大・投手)を指名し楽天と競合、阪神は浅野翔吾(高松商高・外野手)を指名し巨人と交渉権を競ったが、結果、ともに公表した楽天と巨人が当たりクジを引き当てた。DeNAは得意の一本釣りで松尾汐恩(大阪桐蔭高・捕手)を指名し、あとはすんなりと公表したチームが一本釣りを成功させた。

 本命なきドラフトで、競合も少なく盛り上がりに欠けた側面もあったが、各チームの補強ポイントや戦略がより顕著なドラフトになった。

 支配下指名は昨年より▲8名減の69名で、70名を割ったのは10年以来12年振りになり、昨年以上の不作と言われたことを数字が表している。内訳は高校生25名(▲5名)、大学生27名(▲4名)、社会人・独立リーグが17名(+1名)と、高校生の有望選手が少なく、大学生の投手や内野手が豊富だった状況を示すように大学生が高校生を上回った。

 一方で育成ドラフトは、過去最高だった昨年をさらに上回る57名(+6名)で、支配下指名が少なくとも、ソフトバンクが4軍制構想を打ち出したように、選手から見れば着実にチャンスは拡がっている。

 最多指名は中日と広島の7名、最小は5名の指名で、巨人、阪神、DeNA,ヤクルト、オリックス、ロッテと半分を占め、ロッテは4年連続で最小の指名になった。

 ちなみに支配下指名70名を割った10年は、早大3人衆(斎藤佑樹大石達也福井優也)で盛り上がった年で、不作の年とは呼ばれていなかった。投手では大野雄大(中日)に美馬学(ロッテ)、澤村拓一(元レッドソックス)がおり、野手では山田哲人(ヤクルト)に西川遥輝楽天)、柳田悠岐ソフトバンク)に秋山翔吾(広島)とビッグネームが並び、指名人数は少ないが14選手が現役でプレーしている。

【12球団ドラフトの評価】

 ◎…なし

 〇…広島・巨人・西武・阪神・DeNA・オリックス

 △…日本ハム・ロッテ・ヤクルト

 ✕…ソフトバンク

 ✕✕…中日・楽天

 個人予想では、指名予想の100名中75名が指名を受け、昨年よりプラス1名でししたので、まずまずかなと思っています。 

 

日本ハム(65点)

 昨年から今年のドラフトの目玉と言われていた矢澤宏太(日体大・投手/外野手)の1位指名を公表し、交渉権を獲得した。ただ、思いのほか評価が上がらなかったのが正直なところで、現時点では野手としての評価が高い。大谷翔平エンゼルス)の二刀流成功事例があるだけに、どのように起用していくか注目したい。

 以降も補強ポイントを抑えたまずまずのドラフトになった。2位で1位指名の可能性もあった即戦力投手の金村尚真(富士大・投手)を指名できたのは大きく、6位で変則サイドの宮内春樹(日本製鉄石巻・投手)を指名し、先発で金村、リリーフで宮内と即戦力投手を獲得できた。

 また、ドラフト直前に渡邊諒と高濱祐仁の両内野手阪神にトレードしたことから、3位で加藤豪将(NYメッツ・内野手、5位で奈良間大己(立正大・内野手を指名し、レギュラー不在の二遊間強化を図った。

 昨年は指名9人中、高校生を5名獲得したが、今年は4位の安西叶翔(常葉菊川高・投手)のみで、今年は新庄監督の要望を反映した即戦力志向に強いドラフトになった。 

 ただ、個人的に評価できない点がまさにこの部分で、断トツの最下位から新球場元年で上位進出を狙うには、即戦力での戦力アップを図りたいことが理解するが、日本ハムのドラフト戦略の基本方針は育成であり、監督の要望を聞いて即戦力志向に転じたことは、あまり評価できなかった。

 もう一つは、私は道産子で今年は北海道出身に好投手が揃い、広島1位の斎藤優汰とロッテ1位の菊地吏玖をはじめ、実に支配下で5名、育成で2名指名されているが、地元の日本ハムは1名も指名していない…。これにはかなりガッカリして、アメリカからの逆輸入やハワイ大からのサプライズ指名も良いが、これだけ道内出身選手で好素材が揃った記憶がなく、獲得がなかったのは残念だった。

 育成指名は4名で、育成1位の藤田大清(花咲徳栄高・外野手)は、チームには清宮幸太郎しかいない左のスラッガーで、良い指名になった。単年で見れば、即戦力の欲しい選手を獲れた会心のドラフトだったが、今ひとつらしくないドラフトだった。

 

ロッテ(65点)

 パ・リーグで唯一、1位指名を公表せずに臨みんだロッテ。今年は即戦力投手が優先だったのか、荘司康誠(楽天)を抽選で外すと、そのまま1位で菊地吏玖(専大・投手)を指名した。荘司はどちらかと言うとまだ素材型の時間がかかるタイプで、来季からの戦力アップを考えるなら菊地のほうが出番は早いと思う。

 2位は課題の二遊間強化で、友杉篤輝(天理大・内野手を指名。友杉は徐々に評価を上げてきた選手で、今ドラフトでは今年度もナンバーワン遊撃手とも言われている。レギュラー不在の遊撃は、守備は茶谷健太も小川龍成も巧く、小川は足も使え、藤岡裕大も戻ってくる。友杉は得意の守備と走塁に加え、打撃でのアピールが必要になる。 

 3位では将来のエース候補で田中晴也(日本文理高・投手)を指名できたのも良かった。今夏の甲子園では不振で初戦敗退したが、一時期1位候補とまで言われた逸材で、2~3年じっくりと育成すればエースの座を狙える。

 ロッテの出世順位でもある4位では、即戦力左腕の高野脩汰(日本通運・投手)を指名した。以前よりは左腕不足が解消されたとは言え、現状、坂本光士郎くらいしかブルペンには見当たらず、大学時代の故障も癒え、社会人では先発・リリーフとフル回転しており、ロッテではリリーフの起用が濃厚だ。

 5位の金田優太(浦和学院高・投手)も遊撃手で、打撃は発展途上だが守備と強肩は十分にプロレベル。年齢バランスで高校生内野手の獲得は必須で、5名という少ない支配下指名ながら課題を埋めることができた。

 育成指名も悪くなく、左腕の吉川悠斗(浦和麗明高・投手)を1位で指名し、打者としても評価の高い白濱快起(飯塚高・投手)を2位で、3位で強打の遊撃手・勝又琉偉(富士宮東高・内野手と4名全員が高校生と将来性重視の指名になった。

 全体、補強ポイントを抑え、大きなマイナスはないが、ここ数年攻めたドラフトをしていたので、悪く言えば万遍なく課題を埋めた可もなく不可もないドラフトになった。また、課題の遊撃候補の友杉も金田も、かつてロッテが好んだリードオフマンタイプで、スケールのあるスラッガーを獲得して欲しかった。

 

✕✕楽天(50点)

 昨年は一言でいうと良く分からないドラフト、今年は一目で悪いドラフトになった。その理由は支配下指名6名中5名が投手、6名全員が大学生・社会人の即戦力の偏重ドラフトだった。即戦力指名が悪いというわけではなく、何事もバランスが必要で、楽天はこの間、年齢やポジションなど偏りがありすぎる。

 確かに補強ポイントは投手であり、右打ちのスラッガーも指名し課題を埋めたが、ベテラン偏重のチームで、そのベテランが主力のうちに選手を育成しないでどうすると思う。特に高校生投手に至っては、18年~22年の5年で支配下4名(うち2名は育成契約へ変更)しか指名しておらず、そもそも育成する気がないのかと思ってしまう。 

 ドラフトを振り返ると、ロッテとの競合のなか、1位指名を公表した荘司康誠(立大・投手)を獲得できた。荘司は即戦力というよりは素質型の大学生で、勝負は来年以降になると思うが、数年後には世代ナンバーワン投手になっている可能性もある。

 荘司のあとに、2位で小孫竜二(鷺宮製作所・投手)の獲得も良く、荘司が時間を要するだけに、小孫は先発・リリーフともに即戦力になる。高校、大学、ドラフト解禁の昨年と3回の指名漏れを味わった苦労人で、プロではどの役割も担ってくれるだろう。

 3位の渡辺翔太(九産大・投手)は安定感のある右の本格派、4位の伊藤茉央(東農大オホーツク・投手)はタフな右のサイドハンドで、ともに先発・リリーフもこなせる。6位の林優樹(西濃運輸・投手)は、高校時代は細身の技巧派左腕だったが、社会人で本格派左腕に成長した。高卒3年目の20歳で年齢的にも良い指名になった。

 全員がタイプの違う良い投手だが、来季何勝、何ホールドを上積みする指名で、荘司を1位で獲得できたにも係わらず、小さくまとまったドラフトになった感は否めない。

 5位では唯一の野手で平良竜哉(NTT西日本・内野手を指名、小柄ながらフルスイングが身上で、チームには少ない右のスラッガーで出番は早いと思う。育成1位の辰見鴻之介(西南学院大内野手は超がつく俊足で、足だけで飯の食える選手。平良と同じく楽天には少ないタイプだけに、代走のスペシャリストとして支配下登録も早いかもしれない。ちなみに高校生は育成指名1名(大学生は3名)のみだった。

 

〇西武(75点)

 2年連続で会心のドラフトになったと思う。昨年は即戦力投手で上位を固め、投手陣が改善された今年は課題の野手強化を徹底した。

 西武も事前に蛭間拓哉(早大・外野手)の1位指名を公表し、公表しなかったヤクルトとDeNA、ロッテは外野手が最優先ではなく胸を撫でおろしたと思う。本人が「一番行きたかった球団」と言うように、西武も一番欲しかったのが即戦力の外野手で、開幕スタメンも夢ではない。

 2位の古川雄大佐伯鶴城高・外野手)は他球団が下位指名見え見えのなか、順位を上げての指名になった。1位で蛭間を獲得できたことで、2位で大器の古川を指名でき、課題の外野手で即戦力と将来の主力候補を獲得できた。古川は身体能力が高く、本人が目標とする柳田(ソフトバンク)のような選手になれるのも夢ではない。

 3位の野田海人(九州国際大高・捕手)は、森友哉のFA移籍に備えたというよりは、数的不足と年齢バランスの指名になった。打撃はまだまだだが、強肩にブロッキングなど捕手の基本的な要素は備えており、先ずは守備面で信頼を勝ち取りたい。

 4~5位では投手を指名し、4位の青山美夏人(亜大・投手)は、直球に力があり、多彩な変化球と制球力が良いタフネス右腕で、強力な投手陣に割って入る力は十分にある。5位の山田陽翔(近江高・投手)も良かった。甲子園での印象が強すぎて順位が低いとは思うが、本人も「これがいまの自分の評価」と言い切れる気持ちはプロ向きで、先発、リリーフ、また打者転向も含めて、焦ることなく可能性を見出して欲しい。

 唯一、ん?と思ったのが6位の児玉亮涼(大阪ガス内野手で、大学時代から守備力に定評のある俊足の選手だが、外崎修汰に山田遥楓、山野辺翔と似たような選手がいるなか、どこで使うのかがイメージが湧かなかった。

 育成では、投手、捕手、内野手、外野手を1名ずつ指名し、育成1位の野村和樹(BC石川・内野手は強打の三塁手で、2位の日隈モンテル(四国IL徳島・外野手)は、元は投手で今夏より外野手に転向した好素材で、肩と脚の一芸で飯を食える選手で支配下登録も早いかもしれない。

 

ソフトバンク(55点)

 一言でいえば、隠し玉すぎて評価の難しいドラフトだった。ただ、この傾向は今年から始まった訳ではなく、ここ数年はそういった傾向が強い。上手くいっていれば評価もできるが、選手層が厚い反面、若手は伸び悩み、過渡期を迎えるチーム状況のなか、今年はより顕著にその傾向が顕われた。

 1位指名を公表したイヒネ・イツア(誉高・内野手は理解できる。中日の指名も予想されたが、結果、ソフトバンクが一本釣りに成功した。今宮健太が元気なうちに、ファームでみっちり鍛えて2~3年後の主力を目指したい。

 首を傾げたは2位以降で、4位の大野稼頭央(大島高・投手)の指名は納得できるが、2位の大津亮介(日本製鉄鹿島・投手)、3位の甲斐生海(東北福祉大・外野手)、5位の松本晴(亜大・投手)は、あまりにも隠し玉すぎて、この順位が適正か疑問に思ってしまう。

 大津はそれなりに実績もあるが、例えば九州出身の益田武尚(広島3位)や渡辺翔太(楽天3位)を差し置いての2位指名は早く、下位でも獲得できたと思う。甲斐は左のスラッガーで長打力はセールスポイントだが、守備は一塁がメインで余程の打撃力がないとレギュラーは厳しい。左腕の松本は昨年肘の手術をしており、何とかドラフトに間に合った投手で、当然、チームが評価する理由はあるが、傍から見てどうも腑に落ちないのは私だけだろうか…

 6位の吉田賢吾(’桐蔭横浜大・捕手)も、現時点では捕手よりも、打撃で評価されている選手で、正捕手に甲斐拓哉がおり、2番手の海野隆司も守備力は高い。打つほうでは渡邊陸や谷川原健太もいるなか、正直どこで使うかイメージが湧かない。

 育成指名は昨年に続き14名(高校生8名・大学生6名)と最多で、4軍制を敷く構想のなか観ていてワクワクした。なかでも育成3位の木村光(佛教大・投手)と7位の水口創太(京大・投手)支配下指名が濃厚だった選手で、小柄ながらまとまりのある木村に、長身で粗削りながら150キロを超える水口のどちらが先に支配下になるか楽しみだ。

 

オリックス(80点)

 万全な投手陣をほこり、個人的にはレギュラー不在の二塁手かポスト吉田正尚で即戦力外野手で来るかと思ったが、大学ナンバーワン左腕の曽谷龍平(白鷗大・投手)の1位指名を公表し獲得に成功した。曽谷は競合すると思われただけに、1位公表が功を奏した形になった。

 課題の即戦力外野手では、4位で杉澤龍(東北福祉大を指名。今春のリーグ戦で3冠王を獲得した強打者で、守備と走塁も申し分なく、吉田正や杉本裕太郎、福田周平のレギュラーが30歳を超えるなか、レギュラーを争う若手には良い刺激になると思う。

 秀逸だったのは高校生指名で、2位で高校通算57本の内藤鵬(日本航空石川高・内野手を獲得。守備は三塁で、現状は宗佑磨がいるが、将来はチームの主軸として4番を期待されるスラッガーで、1位で思惑通りに欲しい選手が獲得できれば、こういったスケール感のあるドラフトができる。

 3位の斎藤響介(盛岡中央高・内野手は、投手としての総合力が高く、5位の日高暖己(富島高・投手)は、高校から本格的に投手になりドラフト指名まで上り詰めた。斎藤のほうがデビューは早いと思うが、日高はとんでもない投手になるポテンシャルを秘めており、ともに将来のエース候補としての資質は十分だ。

 西武より得点を上にしたのは、育成1位で西浜勇星(BC群馬・投手)と、2位で才木海翔(大経大・投手)を指名したことだ。西浜は今年の独立リーグの投手ではナンバーワンの評価で、年齢も19歳と伸びしろ十分で、大化けする可能性がある。

 才木は上位候補にも挙げられ、支配下では名前が呼ばれなかったのは意外だったが、元々の評価は高い。本人は悔しいだろうが、今年ブレイクした宇田川優希も同様の状況になか入団を決め、今年開花した実例もあり投手育成に長けたチームで是非チャレンジして欲しい。

 即戦力二塁手や数的に不足している捕手を指名しなかったのが気がかりだが、今オフはFAにも積極参入する構えもあり、ある程度見越した指名になったかもしれない。いずれにせよ、さらなる投手王国の確立を見据えた会心のドラフトになった。