振り返ると開幕戦がすべてだったと言っても過言ではない。開幕戦に7点差をひっくり返されると、そこから悪夢の9連敗を喫し、10試合目で初勝利を上げたが、翌日から引き分けを挟み6連敗で、早々とペナントレースから脱落した。
それでも盤石な投手陣を背景に、最大16あった借金を前半戦で完済。後半戦はコロナ感染で主力が離脱し、なかなか波に乗れなかったが、巨人、広島との激しいCS争いを制し3位でシーズンを終えた。
キャンプ前に矢野監督が異例の退任を発表し、賛否を呼んだが、結果的にはマイナスに作用してしまった。12球団ナンバーワンの投手陣を擁しながら、チーム打率と本塁打、得点数はリーグ5位で、得点力不足を解消することができず、失策数は7年連続ちーグワーストで、課題が先送りされたまま岡田監督の再登板が決まった。
【過去5年のチーム成績】
22年 3位 68勝71敗 4分 .243 84本 110個 489点 2.67 428点
21年 2位 77勝56敗10分 .247 121本 114個 541点 3.30 508点
20年 2位 60勝53敗 7分 .246 110本 80個 494点 3.35 460点
19年 3位 69勝68敗 6分 .251 94本 100個 538点 3.46 566点
18年 6位 62勝79敗 2分 .253 85本 77個 577点 4.03 628点
【過去5年のドラフトの主戦力】
21年~なし
20年~佐藤輝明(外野手~近大①)伊藤将司(投手~JR東日本②)
19年~なし
18年~近本光司(内野手~大阪ガス①)木浪聖也(内野手~ホンダ③)
17年~なし
ここ5年のドラフトは社会人を中心に主力選手が誕生している。こう見ると、チームは即戦力中心の編成だと思えるが、18年~22年のドラフトでは、高校生を15名獲得しており、平均年齢26.5歳はリーグで一番、全体では2番目に若いチームだ。現在、2年連続でウエスタンリーグを制しており、着実に力は付いてきており、高卒から育成してきた若手が一気に覚醒することも期待できる。
25歳以下で見ると、投手では昨年ブレイクした湯浅京己(BC富山~18年⑥)を中心に、昨季6勝の西純矢(創志学園高~19年①)がおり、森木大智(高知高~21年①)も一軍デビューを果たした。野手では佐藤輝がチームの中心選手に成長するなか、捕手では中川勇斗(京都国際高~21年⑦)、内野手の高寺望夢(上田西高~20年⑦)がファームで高打率を残し、遊撃守備に定評のある小幡竜平(延岡学園高~18年②)は今季遊撃のレギュラー候補の一番手だ。
外野手でも長距離砲の井上広大(履正社高~19年②)がファームで11本塁打、前川右京(智弁学園高~21年④)も高卒1年目ながらプロへの高い適応力を見せた。また、昨年は即戦力で森下翔太(中大~22年①)も加入しており、楽しみな若手選手の名前がスラスラ出てくる。この間の育成路線が、花開く時期もそう遠くないと思う。
●投手陣~守りの野球を基本とする岡田監督のもと、どのような構成になるか注目
チーム防御率は12球団ナンバーワンの2.67で、先発・リリーフ陣ともに万全だった。そのなかでも光るのが投手3冠に輝いた青柳晃洋(帝京大~15年⑤)で、13勝4敗で最多勝、最高勝率と最高防御率のタイトルを獲得した。青柳はエース級と投げ合うカード初戦の先発がほとんどで、そのなかでの貯金9は数字以上の価値がある。
リリーフでブレイクしたのが湯浅で、シーズン開幕時は期待の若手の一人だったが、鋭いフォークを武器にセットアッパーに定着し、チーム最多59試合に登板し、WBC代表まで昇りつめた。さらに浜地真澄(福岡大大濠高~16年④)も52試合で21ホールドを上げ、ともに防御率1点台の好成績を残した。
クローザーこそ固定できなかったものの、岩崎優(国士館大~13年⑥)がチーム最多の28セーブ、防御率1点台の抜群の安定感を見せ、ケラーも当初はリリーフ失敗が目立ったが、終盤は勝ちパターンを担った。さらに岩貞祐太(横浜商大~13年①)に加治屋蓮(JR九州~13年ソ①)、渡邊雄大(BC新潟~17年ソ育⑥)も防御率2点台の好成績を上げ、理想ともいえる投手陣が出来つつある。
【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…☆青柳晃洋(162回1/3)☆西 勇輝(148回1/3)伊藤将司(136回2/3)
ガンケル(92回1/3)西 純矢(77回1/3)ウィルカーソン(70回2/3)
・救援…湯浅京己(50試合)岩崎 優(57試合)岩貞祐太(53試合)
浜地真澄(52試合)アルカンタラ(39試合)加治屋蓮(39試合)
ケラー(34試合)渡邊雄大(32試合)
【今年度の予想】
・先発…岩貞祐太 西 純矢 西 勇輝 青柳晃洋 伊藤将司 才木浩人
(森木大智 秋山拓巳 ※Bケラー 高橋遥人 村上頌樹 ※大竹耕太郎)
・中継…岩崎 優 浜地真澄 ケラー 加治屋蓮 渡邊雄大 ※ビーズリー
(二保 旭 島本浩也 ※富田 蓮 小林慶祐 岡留英貴)
・抑え…湯浅京己
FAで移籍濃厚と言われていた西勇輝(菰野高~08年オ③)をはじめ、岩崎も残留を決めた。最後まで悩んだ末に岩貞もチームに残ることを決め、これで今季も計算できる布陣になった。
先発は青柳に西勇、伊藤に加え、岩貞も今季は先発で勝負をかける。残り2枠は若手の西純と才木浩人(須磨翔風高~16年③)、復活を期す秋山拓巳(西条高~09年④)が候補になる。このほか、ソフトバンクから移籍の大竹耕太郎(早大~17年ソ育④)、新外国人のB・ケラーもおり先発争いが激しい。さらに2年目の森木、ファームでエース格の村上頌樹(東洋大~20年⑤)、トミージョン手術からリハビリ中の高橋遥人(亜大~17年②)が終盤にも間に合えば、さらに戦力が増す。
リリーフ陣はクローザーの筆頭候補は湯浅で、真上から腕を振り下ろすストレートとフォークは威力十分。さらに昨季、クローザースタートだったケラーに岩崎、新外国人のビーズリーもセットアッパーが期待され、盤石な勝ちパターンを形成できる。
このほか若手では、浜地にキャンプで好投を続けるルーキーの富田蓮(三菱自動車岡崎~22年⑥)、ベテランも負けておらず加治屋に小林慶祐(日本生命~16年オ⑤)、ファームでセーブタイトルを獲得した二保旭(九州国際大高~08年ソ育②)、左のワンポイントの渡邊、復活を期す島本浩也(福知山成美高~10年育②)など本当に層が厚い。
●野手陣~今季はポジションを固定し、守備強化の守り勝つ野球で優勝を目指す
盤石な投手陣に反して、得点力不足は相変わらずで、「打線がもう少し機能してくれれば…」と投手陣の嘆き節が聞こえてきそうだ。
そのなかで、マルテとロハス・ジュニアの外国人選手の不振の影響は大きかった。他球団との争奪戦を制し、鳴り物入りで入団したロハス・ジュニアは2年目も打棒は湿ったままで9本塁打、マルテは懸念されていた故障に泣かされ1本塁打と機能せず、途中加入したロドリゲスも起爆剤にはならず全員退団した。
一方、機動力はリーグトップの盗塁数で、一番の中野、6月から二番に定着した島田海吏(上武大~17年④)、そして3番近本と、上位3人でチーム全体の盗塁数の6割にあたる74盗塁を記録し、相手バッテリーにプレッシャーをかけることが出来た。
その後ろを打つ佐藤輝と大山悠輔(白鷗大~16年①)もそれぞれ20本塁打、80打点を超え、及第点の成績を残した。そうなると、この2人のあとを打つ外国人選手の不振が際立ち、投手陣とは逆に若手の台頭も不足したシーズンになった。
また、守備の不味さも相変わらずで、失策数は7年連続でリーグ最多。昨季の守備率もリーグワーストで、いくら鉄壁の投手陣を擁しても、打てない、守れないでは勝つことができず。チームが3位で終わる一番の要因になってしまった。
【22年シーズン結果(試合数/打席数)】※☆は規定打席クリア
捕 手…梅野隆太郎(100/331)坂本誠志郎(60/151)
内野手…☆中野拓夢(135/610)☆佐藤輝明(143/603)☆大山悠輔(124/510)
☆糸原健斗(132/495)山本泰寛(86/203)マルテ(33/102)
木浪聖也(41/101)
外野手…☆近本光司(132/580)島田海吏(123/339)ロハス・ジュニア(89/211)
糸井嘉男(62/182)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】
1)近本光司⑧ 1)中野拓夢⑥
2)中野拓夢⑥ 2)島田海吏⑦
3)マルテ③ 3)近本光司⑧
4)佐藤輝明⑨ 4)佐藤輝明⑨
5)糸原健斗④ 5)大山悠輔③
6)糸井嘉男⑦ 6)糸原健斗⑤
7)大山悠輔⑤ 7)山本泰寛④
8)梅野隆太郎② 8)梅野隆太郎②
9)藤浪晋太郎① 9)青柳晃洋①
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…梅野隆太郎 坂本誠志郎(栄枝裕貴 長坂拳弥 片山雄哉)
内野手…山本泰寛 大山悠輔 熊谷敬宥 佐藤輝明 ※渡邊 諒 糸原健斗
小幡竜平 中野拓夢 原口文仁
外野手…※森下翔太 近本光司 ※ノイジー 島田海吏 板山祐太郎
(高山 俊 井上広大 ※ミエセス 前川右京 小野寺暖 豊田 寛)
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)近本光司⑧ 捕 手)梅野隆太郎(坂本誠志郎)
4)佐藤輝明⑤ 三塁手)佐藤輝明(糸原健斗)
5)大山悠輔③ 遊撃手)小幡竜平(山本泰寛)
7)島田海吏⑨ 中堅手)近本光司
8)小幡竜平⑥ 右翼手)島田海吏(板山祐太郎)
9)青柳晃洋①
昨季、矢野監督は複数ポジション制で臨んだが、岡田新監督は固定する方針を打ち出している。内野は一塁に大山、三塁には佐藤輝が決まっているなか、目玉が中野の二塁コンバートで、攻撃だけ考えれば、二塁には日本ハムから移籍してきた渡邊諒(東海大甲府高~13年日①)や糸原健斗(JX-ENEOS~16年⑤)を起用し、中野の遊撃がベストだが、守備優先で競争を促すところに、岡田監督の信念が伝わる。
その遊撃候補の筆頭は小幡だが、打力で勝る木浪に北條史也(光星学院高~12年②)、内野のユーティリティプレーヤーの山本泰寛(慶大~15年巨⑤)、9年目を迎える植田海(近江高~14年⑤)に、ファームのレギュラー高寺など、ここまで明確にポジションが空くことは滅多になく、チームに良い競争環境が生まれていると思う。
外野は攻守の要である近本は確定で、左翼と右翼のポジション争いになる。左翼は新外国人のノイジーとルーキー森下の長距離砲が候補で、ここに若手の井上や勝負強い打撃が売りの小野寺暖(大商大~19年育①)が加わり、高山俊(明大~15年①)は背水の陣で臨むシーズンになる。右翼は島田が有力だが、オープン戦好調の板山祐太郎(亜大~15年⑥)、即戦力ルーキーと言われながら、昨季は無安打に終わった豊田寛(日立製作所~21年⑥)も雪辱を期すシーズンになる。
捕手は梅野隆太郎(福岡大~13年④)を脅かすライバル捕手の出現が待遠しく、坂本誠志郎(明大~15年②)も二番手捕手脱却のために課題の打撃を磨きたい。このほか強肩の栄枝裕貴(立命大~20年④)、キャリアハイの27試合に出場した長坂拳弥(東北福祉大~16年⑦)が控え、高卒1年目ながら昨季ファームで50試合に出場した中川は課題の守備を磨くことで一軍デビューも遠くない。
●投手は成長著しい若手が多いなか注目はやはり湯浅!野手は新戦力の活躍に期待
今年の注目選手は、投手は湯浅京己で、WBCでも湯浅のフォークは絶賛され、注目度は高まっている。代表チームでは、阪神のレジェンド的クローザーの藤川球児が付けていた#22を着けており、本人が目指すところも明確だ。高校を卒業し独立リーグに進み、1年後の19歳でドラフト6位で指名され、4年目にブレイク。今後、プロを目指す選手が夢を実現できるサクセスストーリーを今季、見せて欲しい。
野手は日本ハムから移籍した渡邊諒で、本職の二塁はWBC代表の中野が二塁コンバートになり、昨季の正二塁手の糸原もおり競争は厳しい。ただ、パ・リーグ時代にストレートに滅法強く「直球破壊王子」の異名を取り、逆方向にも長打を打てるパンチ力もある。貴重な右の代打としても期待だが、そこにも原口文仁(帝京高~09年⑥)が控えており、得意の打撃でトレードの期待に応えたい。
今季も優勝を狙うには、課題の打撃と守備がカギを握る。岡田監督が盤石の投手陣を背景に、守り勝つ野球をどう体現していくのか注目している。一昨年は後半に失速、昨年はスタートで躓いたが、ともにAクラスをキープし、シーズン通して投打が安定すれば“アレ”を狙える地力は備わっている。