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どのチームが「人」を育て強くなるのか

21年戦力分析☆楽天~田中将の加入で今年こそは優勝争いに踏みとどまりたい!課題はリリーフ陣

 昨年オフは大幅な戦力補強を行い、優勝候補の筆頭にも挙げられた。スタートは前評判通りに勝ち星を重ねたが、7月に入ると貯金できた月はなく、結局は一昨年より一つ順位下げて4位でシーズンを終えた。優勝争いに絡まないだけではなく、まさかのBクラスで2年連続の監督交代に繋がった。

 補強は大成功で、ロッテから加入の涌井秀章(横浜高~04年西①)は11勝で最多勝を獲得し、酒居知史(大阪ガス~16年ロ②)も中継ぎで健闘した。MLBから復帰した牧田和久日本通運~10年西②)も、チーム最多の52試合に登板した。野手陣もFA加入の鈴木大地東洋大~11年ロ③)はキャリアハイの打率.295、オリックスから加入のロメロも24本塁打を放ち、ドラフト1位の小深田大翔も一番打者として打率.288の17盗塁と活躍した。

 主砲の浅村栄斗(大阪桐蔭高~08年西③)が本塁打王に輝くなど、打線はリーグ随一で盗塁数はリーグ最少だが、チーム打率と得点はリーグ1位とホークスを上回る。低迷の要因は投手陣で、リーグ5位の防御率で特に救援陣が悪く、32試合の逆転負けはリーグ最多で課題は明白と言える。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 20年 4位 55勝57敗8分 .258  112本   67個  557点  4.19  522点

 19年 3位 71勝68敗4分 .251  141本   48個  614点  3.74  578点

 18年 6位 58勝82敗3分 .241  132本   69個  520点  3.78  583点

 17年 3位 77勝63敗3分 .254  135本   42個  585点  3.33  528点  

 16年 5位 62勝78敗3分 .257  101本   56個  544点  4.11  654点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 19年~小深田大翔(内野手大阪ガス①)津留崎大成(投手~慶大③)

 18年~辰巳涼介(外野手~立命大①)

 17年~なし

 16年~田中和基(外野手~立大③)森原康平(投手~新日鉄住金広畑⑤)

    高梨雄平(投手~JX-ENEOS⑨)

 15年~茂木栄五郎(内野手早大③)

  過去5年のドラフトは悪くない。特に野手は茂木と辰巳、小深田のレギュラークラスが揃い、田中和は新人王も獲得している。ただ投手は、森原と高梨、津留崎とすべてリリーフで、貴重なリリーフ左腕の高梨は巨人へ放出してしまった。この5年で先発投手が不在ななか、17年ドラフト1位の近藤弘樹(岡山商大~17年①)を3年で早々と戦力外通告で見切りをつけるなど、ここでも打高投低がうかがえる。

●投手陣~田中将と早川の加入でリーグ屈指の先発陣!課題は今年もリリーフか…

  先発陣は何といっても田中将大駒大苫小牧高~06年高①)の復帰が大きい。さすがに24勝0敗の再現は厳しいが、間違いなく貯金を計算できる。ここに大型ルーキーの早川隆久(早大~20年①)も加わり、先発陣の層が一気に厚くなった。衰え知らないイニングイーターの涌井、安定感抜群の岸孝之東北学院大~06年西大社希)に、復活を期す則本昂大三重中京大~12年②)と豪華な顔ぶれだ。最後の6番手には瀧中瞭太(ホンダ鈴鹿~19年⑥)に決まった。

 一方で心配がないわけでもない。岸は故障癖がありシーズンを完走できるか微妙だし、則本は昨年5勝7敗と自己ワーストの防御率3.96で終え、全盛期の活躍には程遠い。実績のある塩見貴洋(八戸大~10年①)に辛島航(飯塚高~08年⑥)の両サウスポー、石橋良太(ホンダ~15年⑤)の調整が遅れているのも気掛かりで、一枚でも欠けると一気に厳しくなる。

 さらに岸が37歳、涌井は35歳、田中将が33歳、則本も31歳と若手の底上げは必須で、本来であれば若手の安楽智大済美高~14年①)や藤平尚真(横浜高~16年①)、高田萌生(創志学園高~16年巨⑤)がベテラン先発陣を脅かす活躍を見せてほしいが、オープン戦で先発候補として名前も出ないのが寂しい。

 課題の救援陣は今年も厳しい。クローザーに松井裕樹桐光学園高~13年①)、セットアッパーでブセニッツと森原の19年シーズンの形が理想的だと思うが、森原が出遅れており勝ちパターンで計算できるのが牧田しかいない。酒居に宋家豪、津留崎が勝ちパターンの布陣にに食い込まないと厳しい。ベテランの福山博之(大商大~10年横⑥)やファームのクローザー釜田佳直(金沢高~11年②)など実績のある選手の復活にも期待したい。

 こうなると新戦力に期待したいところで、新外国人のコンリーは19年に60試合登板の左腕、ルーキーの高田孝一(法大~20年②)や内間拓馬(亜大~20年④)もストレートに力のあるパワーピッチャーでチャンスは十分にある。育成から支配下選手に復活した渡辺佑樹(横浜商大~17年④)は貴重な左腕、ファーム日本一選手権に先発した西口直人(甲賀健康医療専門学校~16年⑩)などに期待がかかる。

【20年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆涌井秀章(130回)則本昂大(109回)塩見貴洋(84回1/3)

      松井裕樹(68回)岸 孝之(67回1/3)石橋良太(63回1/3)

 ・救援…牧田和久(52試合)酒居知史(46試合)ブセニッツ(46試合)

      宋家豪(38試合)津留崎大成(33試合)シャギワ(31試合)

【今年度の予想】

 ・先発…田中将大 涌井秀章 則本昂大 岸 孝之 早川和久※

       塩見貴洋 石橋良太 瀧中瞭太 弓削隼人 辛島 航 福井優也 

 ・中継…牧田和久 酒居知史 宋家豪 津留崎大成 寺岡寛治 安楽智大 

       森原康平 福山博之 池田 駿 高田孝一※ 内間拓馬※ コンリー※ 

 ・抑え…松井裕樹 ブセニッツ

 

●野手陣~リーグナンバーワンの打線は今年も健在!正捕手の座を誰が射止めるか

 昨年、シーズン途中に巨人から田中貴也(山梨学院大~14年巨育③)をトレードで獲得したように、正捕手不在で今年も混戦だ。強肩の太田光(大商大~18年②)が候補の一番手だが打撃が課題で、今年は正捕手奪取の地固めをしたい。ただ、ベテランの足立祐一(パナソニック~15年⑥)、昨年終盤に出場機会を増やした下妻貴寛(酒田南高~12年④)、故障からの復活を目指す堀内謙伍(静岡高~15年④)に強打の石原彪(京都翔英高~16年⑧)とライバルは多い。

 内野のレギュラーは確立されている。一塁・鈴木大、二塁・浅村、三塁・茂木、遊撃・小深田が基本で、浅村や茂木をDHで休ませながら銀次(盛岡中央高~05年高③)を加えた布陣になる。特に小深田の活躍は大きく、堅守に俊足と楽天の弱点を一気に解消し、茂木を本職の三塁にコンバートすることができた。

 ただ、不安はレギュラーと控えの差が大きすぎることで、守備職人の藤田一也(近大~04年横④)は別にしても、内外野守れる新外国人のディクソンに日本ハムから移籍した横尾俊健(慶大~15年日⑥)の新戦力の台頭、若手では2年目の黒川史陽(智弁和歌山高~19年②)や7年目の村林一輝(大塚高~15年⑦)の成長が不可欠だ。

 外野は左翼の島内宏明(明大~11年⑥)が決まりだが、中堅と右翼は辰巳と田中和、小郷裕哉(立正大~18年⑦)、新外国人カスティーヨの争いになる。辰巳は守備は一級品だが、波のある打撃と走塁の確実性が課題。スイッチヒッターの田中和も打撃と走塁が課題になる。一方で小郷は昨年終盤に打撃力か開花し、自慢の俊足を活かし右翼の定位置を確保しつつある。コロナの影響で来日の遅れているカスティーヨも広角に打てる打撃技術に加え、堅守と俊足を兼ね備えている。

 このほかにも粘り強い打撃が売りの岡島豪郎(白鷗大~11年④)、勝負強い渡邊佳明(明大~18年⑥)に下水流昂(ホンダ~12年広⑤)、パンチ力のある和田恋(高知高~13年巨②)などが控え、外野の競争は激しい。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…太田 光(67/164)下妻貴寛(43/90)足立祐一(42/66)

 内野手…☆鈴木大地(120/546)☆浅村栄斗(120/529)☆小深田大翔(112/437)

       茂木栄五郎(73/321)銀次(88/245)内田靖人(38/109)

 外野手…☆島内宏明(114/471)☆ロメロ(103/404)辰巳涼介(104/282)

       田中和基(80/282)ブラッシュ(37/149)小郷裕哉(58/129)     

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)茂木栄五郎⑥     1)小深田大翔⑥      

  2)鈴木大地⑤           2鈴木大地⑤       

  3)ブラッシュDH         3)茂木栄五郎DH    

  4)浅村栄斗④      4)浅村栄斗④      

  5)島内宏明⑦         5)島内宏明⑦      

  6)ロメロ⑨       6)ロメロ⑨      

  7)銀次③        7)銀次③      

  8)太田 光②      8)太田 光②

  9)辰巳涼介⑧      9)辰巳涼介⑧  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…太田 光 下妻貴寛 足立祐一(堀内謙伍)

 内野手鈴木大地 浅村栄斗 茂木栄五郎 小深田大翔 銀次 

       藤田一也 内田靖人 渡邊佳明(ディクソン※ 黒川史陽 横尾俊健※)

 外野手…島内宏明 辰巳涼介 田中和基 小郷裕哉 下水流昂

    (カスティーヨ※ 岡島豪郎 岩見雅紀 和田 恋)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)辰巳涼介⑧      捕 手)太田 光(下妻貴寛) 

  2)小深田大翔⑥     一塁手鈴木大地(銀次)

  3)茂木栄五郎⑤        二塁手)浅村栄斗(黒川史陽)

  4)浅村栄斗④         三塁手)茂木栄五郎(横尾俊健)

  5)島内宏明⑦         遊撃手)小深田大翔

  6)鈴木大地③      左翼手島内宏明(カスティーヨ)

  7)銀次DH            中堅手)辰巳涼介(田中和基)

  8)小郷裕哉⑨      右翼手)小郷裕哉(渡邊佳明)

  9)太田 光②        D H)銀次(ディクソン)       

 クリーンアップは4番に浅村が座り、前後に茂木と島内が並ぶ布陣は強力だ。注目は1~2番で、カギを握るのが辰巳だ。辰巳が一番に座れば、俊足の小深田と機動力を活かせる打線なり、鈴木大を下位に回せ、銀次~小郷と続く切れ目のない打線になる。

 ここに来日が遅れている19年シーズン15本塁打の長打力砲ディクソンに、走攻守揃ったカスティーヨが加われば、昨年以上の強力打線になる。特にスタメンに左打者が多い打線のなな、右のディクソンとカスティーヨの来日は待ち遠しいところだろう。

 控えではレギュラークラスの田中和を除けば、右は下水流、左では岡島や渡邊佳と勝負強い打者が代打に控える。主力に左打者が多いなかで、内田靖人(常総学院高~13年②)や和田、日本ハムから移籍した横尾など浅村に続く右の和製長距離砲が育てばさらに厚みを増す。若手ではともに2年目の黒川や武藤敦貴(都城東高~19年④がオープン戦で出場機会を増やしており、黒川は打力、武藤は機動力のセールスポイントを活かして一軍へのチャンスを掴みたい。

 

 強力打線と田中将の加入で、ソフトバンクの対抗馬として優勝候補に挙げる声が多いが、やはりリリーフ陣の整備の遅れが気がかりで、早い段階での勝ちパターンの確立が優勝戦線に踏みとどまるポイントになるだろう。

 注目の選手で、投手では2年目の瀧中を挙げたい。田中将や早川の話題に隠れがちだが、昨年は9月のプロ初登板から先発ローテーションを守り、8試合で2勝1敗、防御率3.40だが45イニングを投げており、安定感が抜群だった。今年は6番手スタートだが、シーズンが終わってみれば重要な試合を任される可能性もある。

 野手は小郷で、昨年の終盤の打撃は覚醒を予感させた。上位に強打者が揃い下位に回るが、上位打線を務める力は十分にある。パンチ力もあり中軸を担うのか、俊足を活かしたリードオフマンになるか、自分のスタイルを確立するシーズンになる。個人的には2番など面白いと思う。