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どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年戦力展望☆巨人~投打に数字は良くないなか、優勝には投手陣の再建が必須!

 昨季のスタートは良く、ルーキーの(扇田)大勢がクローザーに抜擢され、新外国人ウォーカーの思わぬ活躍もあり、3~4月は最大貯金11を数え、20勝11敗で首位独走の雰囲気すらあった。

 しかし、良かったのはここまでで、5月に入り坂本勇人光星学院高~06年①)が故障で離脱を繰り返し、主砲の岡本和真(智弁学園高~14年①)も不振に陥るとチームは失速。投手陣の崩壊も止まらず、2年連続の負け越しで5年振りのBクラスに沈んだ。

 とにかく数字が悪い。チーム防御率と失点数はリーグワーストで、先発陣も酷かったが、リリーフ陣はさらに悪く、イニング別失点数は8回が最も多かった。チーム打率最下位のなか、本塁打はリーグ2位と一発頼みの大味な野球になり、昨年最小の失策数もリーグ5位まで後退…攻守にこの成績では優勝はおろか、Aクラスも厳しかった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗       打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 22年 4位 68勝72敗  3分 .242  163本   64個  548点  3.69  589点

 21年 3位 61勝62敗20分 .242  169本   65個  552点  3.63  541点

 20年 1位 67勝45敗  8分 .255  135本   80個  532点  3.34  421点 

 19年 1位 77勝64敗  2分 .257  183本   83個  663点  3.77  573点

 18年 3位 67勝71敗  5分 .257  152本   61個  625点  3.79  575点

【過去5年のドラフトの主戦力】 

 21年~大勢(投手~関西国際大①)赤星優志(投手~日大③)

 20年~なし

 19年~なし

 18年~戸郷翔征(投手~聖心ウルスラ高⑥)

 17年~大城卓三(捕手~NTT西日本③)

 昨年は、大勢が37セーブを挙げ、文句なしの新人王を獲得。赤星も5勝を挙げ、久しぶりにルーキーが躍動した。さらに平内龍太(亜大~20年①)や堀田賢慎(青森山田高~19年①)のドラ1コンビに、山崎伊織(東海大~20年①)と井上温大(前橋商高~19年④)も初勝利を上げた。

 ただ、昨季53試合に登板した平内、今季プロ初勝利を上げた戸田懐生(四国IL徳島~20年育⑦)、さらに一昨年2桁勝利の高橋優貴(八戸学院大~18年①)もオフに育成契約になり、正直、どういう風に選手を育成したいのかが見えない。平内のように前年活躍しても、故障して翌年育成では選手も、その選手を送り出すアマチュア側も納得できないだろう。

 一方で、数こそ多くはないが、戸郷や岡本など、高校生選手を主力に育てた手腕もあるし、無名だった大勢や戸郷と言った未知数の選手を獲得する慧眼も、思い切りの良さもあり、ここは自信を持って辛抱も必要だと思う。

 既に「FA権取得=巨人入団」となる状況ではない。現に、昨年オフのFA選手獲得に巨人参戦のニュースもなく、そろそろ思い切って育成を主体にチーム構成やドラフト戦略を抜本的に見直す時期にきている。

 

●投手陣~先発・リリーフとも課題は山積だが、支配下人数26名と質量ともに不足

 先ずリーグワーストの投手陣だが、先発ではなかなか2桁勝利に届かなかった戸郷がキャリアハイの12勝を挙げ、最多奪三振のタイトルを獲得しエース格に成長。菅野智之東海大~12年①)も決して本調子ではないなか、10勝の最低限の仕事をした。

 ただ、昨季の開幕ローテーションは、菅野→山崎→赤星、戸郷→メルセデス→堀田の並びで、山崎に赤星、堀田はプロ未登板で、良く言えば若手の抜擢、悪く言えば菅野と戸郷、メルセデス以外の投手が見当たらなかった。本来であれば高橋や新外国人のシューメーカーが埋めなくてはならなかったが、ともに戦力になれず、実に12名の選手が先発したが、及第点は赤星と山崎のみで、このチャンスを掴む若手は現れなかった。

 リリーフ陣は正直、大勢がいなければどうだっただろう…と背筋が凍る思いだ。この間、ブルペンを支えた中川晧太(東海大~15年⑦)や鍵谷陽平(中大~12年巨③)が不振で、平内に鍬原拓也(中大~17年①)、左腕の高梨雄平(JX-ENEOS~16年楽⑨)と今村信貴(太成学院高~11年②)に負担が寄り、ここでも台頭する投手が現ることなく、最後まで大勢に繋ぐ形ができなかった。

【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆戸郷翔征(171回2/3)☆菅野智之(147回)メルセデス(110回1/3)

     山崎伊織(97回1/3)シューメーカー(95回1/3)赤星優志(78回)

 ・救援…高梨雄平(59試合)大勢(57試合)今村信貴(55試合)

       平内龍太(53試合)鍬原拓也(49試合)デラロサ(30試合)

【今年度の予想】

 ・先発…菅野智之 山崎伊織 戸郷翔征 ※グリフィン 赤星優志 ※ビーディ 

    (直江大輔 ※メンデス 代木大和 堀田賢慎 井上温大 横川 凱)    

 ・中継…今村信貴 鍵谷陽平 畠 世周 鍬原拓也 高梨雄平 ※船迫大雅 

      (山田龍聖 ※田中千晴 大江竜聖 菊地大稀 堀岡隼人) 

 ・抑え…大勢 ※ロペス

 残念ながら、今年も状況は変わらない。頼りは戸郷と菅野で、未だに開幕投手も決まっていない。正直、この状況でよくメルセデスをロッテに放出したと思う。3番手候補は2年目の赤星になり、期待の山崎に堀田、井上はキャンプでコンディション不良で二軍落ちし、一軍復帰が見えていない。

 そうなると新外国人が頼りで、ビーディとグリフィンに期待がかかる。ただ、ビーディは159キロのストレートの右の本格派だが、19年にメジャーで5勝をマークするも、活躍はこの1年だけで通算7勝、左腕グリフィンに至ってはメジャー通算7試合1勝で、実績が高いとは言えない。キャンプで評価を上げた代木大和(明徳義塾高~21年⑥)や横川凱(大阪桐蔭高~18年④)にメキシカンリーグで活躍したメンデスにもチャンスはあるが、どちらにしろ今季も先発投手のやり繰りに苦労しそうだ。

 肝心のリリーフも、大勢にどう繋げるかの課題は解消されていない。ここでもメジャー通算121試合で26ホールドのロペスや、ルーキー船迫大雅(西濃運輸~22年⑤)の新戦力の新戦力に期待する声が大きく、鍵谷に畠世周(近大~16年②)、大江竜聖(二松学舎大高~16年⑥)など実績のある選手が復調してこないと厳しい。

 どちらにしろ、この状況下でトレードすらしない編成に首を傾げる。日本ハムから西村天裕がロッテへ移籍したが、巨人とでも十分に成立するトレードだったと思う。

 

 野手陣~超攻撃的な打線も、3年連続3割打者が生まれず大味な打線は変わらず

 21年シーズンと比較すると、本塁打はリーグ1位→2位、打率はリーグ5位→最下位、盗塁数はリーグ4位→変わらず、得点数リーグ4位→3位と一発頼みの大味な打線に変わりはなく、課題が解消されないまま2年続けて同じ轍を踏んでしまった。

 狭い東京ドームが本拠地ということもあるが、岡本の30本を筆頭に丸佳浩(千葉経大高~07年広③)、中田翔大阪桐蔭高~07年日①)、ポランコとウォーカーの新外国人2人が20本塁打以上を放った。また、度重なるケガに悩まされていた吉川尚輝(中京学院大~16年①)もシーズンを完走するなど明るい話題もある。

 ただ一方で、吉川やウォーカー、丸も打率は2割7分台では物足りなさは否めず、中田は規定打席に届かなかった。その規定打席は4名クリアしたが、岡本は不振で4番降格、坂本の離脱も重なり、色々な選手が出場していた記憶があるが、100打席以上で網をかけると意外に少なく、投手陣同様に台頭する選手はいなかった。

 内野手なら開幕スタメンの廣岡大志(智弁学園高~15年②)、坂本不在時に遊撃を務めた中山礼都(中京大中京高~20年③)がおり、外野には一昨年育成出身でチーム初の規定打席をクリア松原聖弥(明星大~16年育⑤)、さらに重信慎之介(早大~15年②)もいるが、いずれも殻を破れていない。チャンスを掴めない若手に問題があるのか、見込んだ選手を辛抱強く起用しない首脳陣に問題があるのか…考えて込んでしまう。 

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…大城卓三(115/393)小林誠司(60/91)

 内野手…☆岡本和真(140/589)☆吉川尚輝(132/567)中田 翔(109/375)

       坂本勇人(83/352)増田 陸(69/156)中山礼都(50/142)

     中島宏之(62/111)

 外野手…☆丸 佳浩(143/607)☆ポランコ(138/484)ウォーカー(124/438)   

     重信慎之介(77/128)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)吉川尚輝④      1)吉川尚輝④   

  2)廣岡大志⑥         2坂本勇人⑥       

  3)ポランコ⑨           3)丸 佳浩⑧    

  4)岡本和真⑤      4)岡本和真⑤     

  5)中田 翔③      5)ポランコ⑨     

  6)丸 佳浩⑨      6)中田 翔④      

  7)ウィーラー⑦     7)ウォーカー⑦     

  8)小林誠司②      8)大城卓三② 

  9)菅野智之①      9)戸郷翔征①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…小林誠司 大城卓三 岸田行倫(山瀬慎之助) 

 内野手…吉川尚輝 坂本勇人 中田 翔 ※松田宣浩 岡本和真 中山礼都

     ※門脇 誠 増田 陸

      (湯浅 大 増田大輝 中島宏之 若林基弘 北村拓己 香月一也) 

 外野手…※長野久義 丸 佳浩 ※ブリンソン ウォーカー ※オコエ瑠偉

      (※萩尾匡也 石川慎吾 岡田悠希 重信慎之介 松原聖弥)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)吉川尚輝④      捕 手)大城卓三(小林誠司) 

  2)坂本勇人⑥      一塁手)中田 翔(松田宣浩

  3)丸 佳浩⑨      二塁手)吉川尚輝

  4)岡本和真⑤      三塁手)岡本和真

  5)中田 翔③      遊撃手)坂本勇人(門脇 誠)

  6)ブリンソン⑧     左翼手)ウォーカー(オコエ瑠偉

  7)ウォーカー⑦        中堅手)ブリンソン(増田 陸)

  8)大城卓三②      右翼手)丸 佳浩

  9)菅野智之①  

 補強したのは、ソフトバンクを戦力外になった40歳の松田宣浩(亜大~05年希)と広島から復帰の39歳の長野久義(ホンダ~09年①)で、ポジションこそ違うものの、ともにベテランの右打ち、しかもチームリーダーと役割が被る。松田が守るポジションには中田と岡本がおり、長野と同じ右打ち外野手では萩尾匡也(駒大~22年②)とオコエ瑠偉関東一高~15年楽①)を獲得している。こうなるとチームリーダーを2名も獲得しなければならないほど、チーム状況が悪いのかと勘ぐってしまう。

 今季の注目は、さすがに衰えを隠せなくなった坂本の起用法と、丸以外白紙の外野レギュラーになる。坂本に聖域だった遊撃には、ルーキー門脇誠(創価大~22年④)の評価が上がっており、遊撃からのコンバートが現実味を帯びてきた。仮に坂本が三塁にコンバートされれば、一塁に岡本、左翼に中田という布陣も可能になる。

 外野の定位置争いは、中堅は新外国人のブリンソンに2年目の岡田悠希(法大~21年⑤)、内外野守れる増田陸(明秀日立高~18年②)が争い、左翼はウォーカーとオコエの争いに、ここにきて長野も名乗りを上げている。嬉しい悲鳴ではないが、丸を守備負担の少ない右翼に回す目途がつき、守備に課題があるポランコ放出も合点がいく。

 他のポジションでは、捕手の心配が昨年から解消されていない。大城がレギュラーを務めるが、2番手は小林誠司日本生命~13年①)になり、小林は3年連続打率1割台で自慢の強肩にも衰えが見えてきたが、その小林すら脅かす若手がいないのは寂しい。

 予想打順では、2番の坂本から8番の大城まで一発があり、いずれも3割を打てる選手が揃っており強力打線を形成できる。ここにオコエや増田陸、松原にルーキー門脇が機動力で絡んでくると得点力は上がってくる。

 

●育成主体へ変更でFA選手は敢えてスルー?若手の台頭で世代交代を進めたい

 注目選手には、ルーキーの2人を挙げたい。投手はオールドルーキーの船迫で、今季で27歳を迎える。同学年には岡本がおり、その苦労の道程が分かる。変則的なサイドスローからの150キロのストレートとスライダーで、ブルペン陣の一角を担う。チームを献身的に支える社会人出身選手として、試合数を重ねれば新人王も夢ではない。

 野手は先ほども紹介した門脇で、高校1年夏から大学4年秋までの公式戦116試合すべてフル出場している。身長171センチと小柄で、しかもポジションは遊撃と、そのタフさは尋常じゃない。オープン戦では遊撃以外に二塁、三塁もこなしており、巨人に不足している機動力も持ち合わせており、是非開幕スタメンで観てみたい選手だ。

 ヤクルトが2連覇しているなか、今季は混戦の予想だが、そのなかで巨人の優勝は正直厳しいと思う。やはり投手力が見劣りし、打線もここ2年の課題が解消されたとは言えない。例年、大物FA選手や外国人選手を獲得し、若手選手の出番が狭まっていたが、今季はチャンスは十分にあると思う。仮に優勝には届かなくても、来季に期待できる若手の台頭に期待したい。