●かつての投手王国はどこへ…12球団ワーストの防御率と失点数で改善急務
2年連続優勝から昨年3位に後退し、雪辱を期したシーズン、見せ場は序盤だけで、その後は投打に奮わず優勝争いどころか、一時期は最下位陥落の可能性もあった。結果は、2年連続のV逸と負け越しが決まり、CSでの日本シリーズ出場に望みを託す。
とにかくチーム成績が良くなく、一昨年までリーグナンバーワンの防御率の投手陣が、昨年は4位に落ち、今季はついにリーグワーストところか、12球団最下位まで下降し、失点数も12球団断トツのワーストと崩壊に歯止めがかからない。
攻撃陣も強力打線のイメージはあるが、チーム打率は阪神と並んでこちらもリーグ最下位。本塁打が多い分、得点数はリーグ3位とまずまずだが、結局は一発頼みの大味な野球になっており、「打線」として機能しているとは言えない。
【9/30現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 141試合 67勝71敗3分④
防御率…3.72⑥(3.63④)打率….244⑥(.242⑤)
本塁打…163②(169①)盗塁64②(65④)
得点…545③(552④)失点…586⑥(541④)
●契約と支配下を行ったり来たり…有象無象の外国人選手…見えないチーム編成
巨人を見て思うのは、どういうチームにしたいかが見えない。昨季から「育成」と「発掘」を軸にFA補強に頼らずチーム作りを進めると言っていたが、蓋を開けると昨年は大量11名の若手有望選手を育成契約に切り替えた。
特に一昨年は、前年ドラフト1位で指名した堀田賢慎(青森山田高~19年①)を、手術を理由に僅か1年で支配下から契約選手にしたことで波紋を呼んだ。堀田は今シーズンの開幕前に支配下登録になったが、入団時の背番号「32」から「91」へ変わり、傍から見てとても期待しているようには思えなかった。
ドライと言えば聞こえは良いが、このような育成とは到底思えない処遇を見ると、アマチュア側からすれば送り出すには勇気がいる。また、発掘の名のもと外国人選手(今季は9名)を多く獲得しているが、何をしたいのかが分からない。
そんななか、来季はすでにFA選手の獲得に積極参戦するようで、早くも育成路線が2年ほどで掛け声倒れになりそうだ。FA選手での補強は立派な戦略なので、積極的に獲得に動くことは否定しないが、ここ最近の成功事例は、丸佳浩(千葉経大高~07年広③)くらいしかおらず、とても戦略としても機能しているとは思えないが…。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
17年④…大城卓三(NTT西日本/③・捕手)
18年③…戸郷翔征(聖心ウルスラ高/⑥・投手)
19年①…なし
20年①…なし
21年③…大勢(関西国際大/①・投手)赤星優志(日大/③・投手)
↓↓
【巨人の補強ポイント】
投 手…将来のエース候補、即戦力先発(左腕ならベスト)
捕 手…高校生>即戦力
内野手…ポスト坂本の二遊間候補で高校生は必須
外野手…高校生の右打ち
☆投手~将来のエース候補、即戦力先発(左腕ならベスト)
投手陣では自身初の2桁勝利を上げた戸郷が孤軍奮闘し、2年目の山崎伊織(東海大~20年②)もローテーションを守った。一方でエースの菅野智之(東海大~12年①)に衰えが目立ち、昨年2桁勝利をあげた高橋優貴(八戸学院大~18年①)が、僅か1勝で終えるのは誤算だった
リリーフ陣は、ルーキーの大勢が正直ここまでやるとは思わなかった。52試合33セーブ、防御率も1点台は立派な成績で新人王の最右翼と言える。夏場くらいに息切れするかな…と思ったが、1年間完走できリーグを代表するクローザーになれる。
高梨雄平(JX-ENEOS~16年楽⑨)と今村信貴(太成学院高~11年②)、平内龍太(亜大~20年①)が50試合以上に登板し、鍬原拓也(中大~17年①)もリリーフへの適性を見せ、リリーフエース中川晧太(東海大~15年⑦)不在の穴を埋めた。
投手陣は先発、リリーフとも課題は山積しているが、若手が経験を積んだシーズンになった。今季は高橋が不振だったが、高橋は25歳、山崎と平内は24歳、大勢と赤星も23歳、戸郷は22歳といずれも若く、チーム防御率は悪いが将来が見通せない布陣ではない。
不足しているのは先発左腕で、矢澤宏太(日体大)と曽谷龍平(白鷗大)が上位候補になる。また、左右関係なく先発陣の強化は必須で、吉村貢司郎(東芝)と日本選手権でMVPを獲得した河野佳(大阪ガス)は上位でしか獲れない即戦力。吉村は大卒3年目と経験十分で、正真正銘の即戦力と言え巨人の補強ポイントに合致していると思う。
荘司康誠(立大)に青山美夏人(亜大)、才木海翔(大経大)、渡辺翔太(九産大)の大学生も上位候補で、特に素材型の荘司は、同じ素材型の大勢や平内を開花させた実績があり、巨人が好む選手かも知れない。青山は先発・中継ぎどちらでも適性があり、今の巨人に一番マッチすると思う。
このほか、福山優希(駒大)は連投も辞さないタフな選手で、木村光(佛教大)は小柄ながら安定感が光る。水口創太(京大)と田中千晴(国学院大)は粗削りながら高いポテンシャルを秘めた素材型。先発左腕では、久保玲司(近大)や伊原陵人(大商大)は、上位で左腕を獲得できなかった場合は抑えておきたい選手だ。
一方で、将来のエース候補の育成も必要で、知名度含め山田陽翔(近江高)はピッタリだと思う。4季連続で甲子園に出場し大舞台にも強く、スター選手が必要なチームにおいて山田の上位指名もアリだと思う。
高校生では、斎藤優汰(苫小牧中央高)や斎藤響介(盛岡中央高)、田中晴也(日本文理高)の右の本格派は、歴史的に巨人が好む選手で上位候補。このほか、甲子園でも安定感のある投球を見せた米田天翼(市和歌山高)と川原嗣貴(大阪桐蔭高)、評価急上昇中の安西叶翔(常葉菊川高)や川口咲斗(大産大高)がリストアップされている。左腕では森山暁生(阿南光高)の評価が高い。
☆捕手~高校生>即戦力
レギュラーの大城は、打撃は申し分ないが、捕手としてはリード面など課題が指摘されている。本来であれば大城を野手で使えれば良いが、小林誠司(日本生命~13年①)は打つほうは相変わらずで、岸田行倫(大阪ガス~17年②)は早くも5年目を迎えたが、大城を脅かす存在には程遠い。
人数も昨年と変わらず6名では少なく、大城の代わりになる即戦力と将来のレギュラー候補を獲得したい。森(西武)や田村(ロッテ)のFA獲得もあるが、森はチームカラーに合う気がしないし、ケガの多い田村で課題が解消するとは思えない。
優先順位的には即戦力捕手だが、今年は候補者が多くなく吉田賢吾(桐蔭横浜大)と野口泰司(名城大)が候補になる。ともに打撃力も兼ね備えており、上位候補の多い外野手が獲得できなかった場合は、大城の野手転向を視野に即戦力捕手を上位指名しても良いと思う。
年齢バランスで高校生は必須で、即戦力とは逆に今年は高校生捕手に候補が多い。ナンバーワン評価は松尾汐恩(大阪桐蔭高)で、打つほうは問題なく、元々は内野手ということもあり将来の主力候補になる。このほか、打撃も成長著しい片野優羽(市船橋高)や強肩の野田海人(九州国際大高)、高野光海(池田高)は打撃が良く長打力も兼ね備える。
☆内野手~ポスト坂本の二遊間候補で高校生は必須
ポジション別にレギュラーと控えを見てみると、一塁は中田翔(大阪桐蔭高~07年日①)と増田陸(明秀日立高~18年②)、二塁は吉川尚輝(中京学院大~16年①)、三塁は岡本和真(智弁学園高~14年①)が規定打席を達しており、遊撃は坂本勇人(光星学院高~06年①)が今年はケガで離脱を繰り返し、不在時は中山礼都(中京大中京高~20年③)と湯浅大(17年⑧)が代わりを務めた。
吉川は27歳、岡本は26歳と年齢的にも問題ないが、課題は遊撃で坂本は来年35歳を迎え、さすがに遊撃でフルシーズンは厳しく、守備負担の少ない三塁や一塁コンバートが望まし。
今オフはFAで二塁手が多く、吉川を遊撃で使うプランもあるが、送球に難のある吉川のコンバートはあまり賛成できない。中山に湯浅、廣岡大志(智弁学園高~15年ヤ②)が正遊撃手争いをするのが理想だと思う。
そういった状況からか、内野手のリストアップは少ない。年齢バランスでは高校生が必要で、内藤鵬(日本航空石川高)と内田湘大(利根商高)のスラッガーへの評価が高い。ただ、内藤は三塁、内田は一塁で優先順位は決して高くない。遊撃手では左打ちのスラッガーの勝又琉偉(富士宮東高)をリストアップしており、中山や湯浅とは違うタイプでこちらのほうが面白いと思う。
二遊間の即戦力では田中幹也(亜大)は攻守に定評があり、遊撃では奈良間大己(立正大)は攻撃的な選手、守備に定評のある和田佳大(トヨタ自動車)は大卒3年目の社会人で、今季の野村勇(ソフトバンク)や上川畑(日本ハム)の活躍を見ると下位で指名しても面白いと思う。
☆外野手~高校生の右打ち
外野は丸とポランコが規定打席を達し、守備には難があるがウォーカーとポジションは埋まっている。ここにケガで今シーズンは棒に振ったが実力者の梶谷隆幸(開星高~06年横③)や、昨年規定打席をクリアした松原聖弥(明星大~16年育⑤)を合わせると陣容は揃っている。
ただ課題も多い。一つは高齢化で、20歳代は松原含め3名しかおらず、これは当然12球団最小で若手が育つ以前にそもそも選手がいない。また。右打ちがウォーカーと石川慎吾(東大阪大柏原高~11年日③)しかいない偏った編成の見直しも急務だ。
今年は早くも浅野翔吾(高松商高)の1位指名を公言した。年齢バランス、不足している右打者の2つの課題を一気に解消できる。
浅野を外した場合は、蛭間拓哉(早大)も候補に挙がっているが、1位入札で消える選手で獲得は難しい。そうなるとともにスラッガーの森下翔太(中大)と澤井廉(中京大)が外れ1位の候補になり、右打ちという点で森下の優先順位が高くなるだろう。
このほか、タイプは違うが西村瑠偉斗(京都外大西高)は打撃の巧い巧打者、三井健右(大阪ガス)は社会人ベストナインのスラッガーでチームにフィットする。
隠し玉ではないが、右打ちの井坪陽生(関東一高)と海老根優大(大阪桐蔭高)も浅野を外した場合、下位で獲得したい選手だ。井坪はミートに長けた選手でパンチ力もある。海老根は素材型で、時間はかかりそうだは走攻守とも高いポテンシャルを秘めた選手で、大化けすればトリプルスリーも狙える。左打ちだが田中多聞(呉港高)も海老根と同じ三拍子揃ったた素材型。
●浅野1位指名公言も、どうも育成できるイメージが湧かない…
今年は浅野翔吾(高松商高)の1位指名を公言し、補強ポイントにも合って否定はしないが、正直なところ大丈夫なのかと思う。どうしても現在の巨人を見て、育成できるイメージが湧かない。本当に浅野で行くのなら、「育成」と「発掘」の方針のもと、中途半端に即戦力を集めたドラフトやFAではなく、本気の姿勢を見せて欲しい。
ただ、浅野は阪神とソフトバンク指名が有力視され、ヤクルトや広島、ロッテに日本ハムなど競合必至で、クジ運の悪い巨人だけに、外れた場合は同じ右打ちの外野手の森下翔太(中大・外野手)が有力だが、ここは思い切って、松尾汐恩(大阪桐蔭高・捕手)の1位指名などがあれば、育成への本気度も伝わるのだが…。
【指名シミュレーション】
1位~森下翔太(中大・外野手)…高校時代から注目されていた即戦力スラッガー
2位~吉村貢司郎(東芝・投手)…安定感抜群の投球で最速153キロは威力十分
3位~福山優希(駒大・投手)…豊富な球種を武器に連投も辞さないタフネス右腕
4位~野口泰司(名城大・捕手)…高い盗塁阻止率に加えパンチ力もある打撃が魅力
5位~木村 光(佛教大・投手)…小柄ながら安定感のある投球で2季連続最優秀投手
6位~海老根優大(大阪桐蔭高・外野手)…走攻守で高いポテンシャルを持つ大型選手
おススメの選手は、浅野や海老根と同じ右打ちの外野手の古川雄大(佐伯鶴城高・外野手)で、50メートル6秒フラット、遠投110メートルと高いポテンシャルを秘め、実績では浅野に及ばないが、将来性では引けをとらない。打撃面で粗さが残り時間はかかりそうだが、こういう選手をじっくり育ててこその育成だと思う。