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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆阪神~投手陣はクローザーの確立、野手は得点力と守備力を上げ17年振りペナントを狙う

 ファンからするとまさに天国と地獄を味わったシーズン。開幕20試合で、何と16勝4敗、交流戦を終えた時点で貯金は20に達し、16年振りの優勝に備え、関西のTV局では優勝特番の準備を始めたのも頷ける快進撃だった。

 しかし、後半戦に入ると5割キープがやっとの状態で、大事な試合では要所要所でミスが目立った。巨人が半ば自滅気味でペナントレースから脱落するなか、ヤクルトとの一騎打ちで競り負け、12球団最多の勝利数を上げながら2位で終了した。ファンが一縷の望みを託したCSも、ファーストステージで巨人に連敗しシーズンは幕を閉じた。

 両リーグ最多77勝を上げた地力はあり、抜群の安定感を見せた先発投手陣から守護神スアレスに繋げる必勝パターンが出来た。何よりファンを魅了したのはルーキーの活躍で、オープン戦トップの本塁打を放った佐藤輝は、開幕後も好調を維持し本塁打を連発。中野も木浪から遊撃のポジションを奪うと、最終的には盗塁王を獲得した。伊藤将も1年間ローテーションを守り10勝を上げるなど、即戦力ルーキーが新人王を獲得しても遜色ない成績を残した。

 一方で課題も多く、4年連続で12球団最多失策は、後半戦やCSの勝負所で致命傷になる場面が目立った。打線もレギュラーが確立されている反面、レギュラーが不振に陥るとカバーできる選手に困り、結局は攻撃のバリエーションが限られ大事な場面で1点を獲る野球ができなかった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 2位 77勝56敗10分 .247   121本   114個  541点  3.30  508点

 20年 2位 60勝53敗  7分 .246   110本  80個  494点  3.35  460点 

 19年 3位 69勝68敗  6分 .251    94本 100個  538点  3.46  566点

 18年 6位 62勝79敗  2分 .253    85本   77個  577点  4.03  628点

 17年 2位 78勝61敗  4分 .249  113本   70個  589点  3.29  528点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~佐藤輝明(外野手~近大①)伊藤将司(投手~JR東日本②)

     中野拓夢(内野手三菱自動車岡崎⑥)

 19年~なし

 18年~近本光司(内野手大阪ガス①)木浪聖也(内野手~ホンダ③)

 17年~なし

 16年~大山悠輔(内野手・白鷗大①)糸原健斗(内野手~JX-ENEOS⑤)

 偶然だと思うが、過去5年は隔年で主力選手が誕生している。19年は5人が高校生なので、まだとやかく言う時期ではないが、それにしても今季のレギュラー5名を獲得し、優勝こそないがAクラスを維持しているのだから、ここはスカウトの努力に敬意を表したい。

 また、昨季はファーム日本一にも輝いており、若手の選手層も厚くなってきている。村上頌樹(東洋大~20年⑤)は最高防御率、西純矢(創志学園高~19年①)も規定投球回数をクリアした。リリーフでは浜地真澄(福岡大大濠高~16年④)がリーグ2位の9セーブを上げた。野手では小野寺暖(大商大~19年育①)が首位打者、井上広大(履正社高~19年②)が打点王を獲得している。

 ただ一方で、高校生で主力になった選手が見当たらない。昨季、中継ぎで及川雅貴(横浜高~19年③)が頭角を現したが、投手では藤浪晋太郎大阪桐蔭高~12年①)、野手では現DeNAの大和(樟南高~08年④)まで遡り、ここが今ひとつスケール感の不足を感じる部分ではないかと思う。 

●投手陣~安定感抜群の先発投手陣は今季も健在!課題はスアレス退団の後継者

 ここ数年、安定感のある投手陣は健在で、昨季は先発陣がゲームを作った。青柳晃洋(帝京大~15年⑤)は13勝で最多勝と最高勝率の2冠に輝き、秋山拓巳(西条高~09年④)と伊藤将が2桁勝利を上げた。ガンケルが日本野球にフィットし始め9勝、西勇輝菰野高~08年オ③)も6勝ながら規定投球回数をクリアした。

 青柳たち先発陣に共通しているところは、いずれも制球力が良く大崩れせず、悪いなりにゲームを作れる。昨季の77勝のうち実に先発5人で48勝を稼いでる。このほか登板数は少ないものの、高橋遥人(亜大~17年②)は4勝のうち2勝は完封勝利で、復活を印象づけた。

 リリーフ陣も先発同様、主力が年間通じて好投。守護神のスアレスは62試合登板で防御率1.16、42セーブを上げ最多セーブを獲得した。セットアッパーの岩崎優(国士館大~13年⑥)もスアレス同様62試合に登板し、41ホールドを上げ盤石のリレーが確立された。

 6~7回は岩貞祐太(横浜商大~13年①と馬場皐輔(仙台大~17年①)のドライチコンビが務め、ともにキャリアハイの試合数に登板。先発で伸び悩んでいた馬場はリリーフとして素質を開花させた。また及川は、中継ぎで39試合登板で1年間完走し、一軍で経験を積んだ。

 一方で、主力以外で目立った成績を上げた選手はおらず、ロッテから移籍のチェンはわずか2試合の登板で期待を裏切り、開幕投手を務めた藤浪も先発は6試合に留まり、完全復活までの目途が立たない。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆青柳晃洋(156回1/3)☆西 勇輝(143回2/3)秋山拓巳(132回2/3)

     伊藤将司(140回1/3)ガンケル(113回)

 ・救援…スアレス(62試合)岩崎 優(62試合)岩貞祐太(46試合)

     馬場皐輔(44試合)及川雅貴(39試合)

【今年度の予想】

 ・先発…西 勇輝 秋山拓巳 伊藤将司 ガンケル 青柳晃洋 

       西 純矢 藤浪晋太郎 高橋遥人 ※ウィルカーソン ※桐敷拓馬

 ・中継…岩貞祐太 馬場皐輔 及川雅貴 小林慶祐 小川一平   

       ※鈴木勇斗 二保 旭 アルカンタラ 加治屋蓮 ※岡留英貴

 ・抑え…岩崎 優 ※ケラー 

 開幕投手は青柳で、先発ローテーションは西勇に秋山、伊藤将とガンケルに残り1枠の争いになる。順当なら高橋なのだが、今季も残念ながらケガで出遅れ合流の目途は立っていない。

 藤浪や新戦力の技巧派左腕ウィルカーソンもいるが、先発陣が充実しているなか、残り1枠は育成重視で若手に任せても良いと思う。及川が先発に挑戦しているが、高校時代から良いときと悪いときがハッキリする悪癖が解消されたとは言えず、昨季のように中継ぎで短いイニングを全力のほうが合っているような気がする。

 そうなると期待は西純で、昨年は一軍で2試合に先発し、登板間隔を空けたゆとりローテションで経験を積ませるのもアリだ。また、ルーキーの桐敷拓馬(新潟医療福祉言大~21年③)はキャンプから結果を残し、昨季ファーム投手タイトル3冠の村上は今季は一軍で結果を出したい。

 それより心配なのはスアレスの退団で、正直ピンチなんでもんじゃない…。ハッキリ言って代わりはいないが、クローザー候補として獲得したのがケラーで、メジャー通算44試合に登板し、最速157キロで奪三振率は高いが制球力に課題がある。スアレスと比較するのは酷だが、29歳とメジャーでは厳しい年齢だが伸びしろに期待したい。岩崎をクローザーに推す声もあるが、やはりセットアッパーのほうが収まりは良く、岩貞や馬場、昨季後半戦から中継ぎに回り結果を出したアルカンタラから繋ぐ形を維持したい。

 ただ、今季は延長も12回まで延びることで、クローザー不在のなか中継ぎの層を厚くしないと厳しい。若手では及川をはじめ、浜地や小川一平東海大九州~19年⑥)も勝ちパターンに喰い込む投球を見せたい。ルーキーでは、左腕の鈴木勇斗(創価大~21年②)は小柄ながら最速152キロを投げ込み、岡留英貴(亜大~21年⑤)は150キロ超のパワー型アンダースローのなかなかいないタイプ。ともに先発・中継ぎOKで、最初はロングリリーフが良いと思う。

 ベテランの奮闘にも期待で、昨季は小林慶祐(日本生命~16年オ⑤)くらいしか存在感を出せなかったが、守屋功輝(ホンダ鈴鹿~14年④)や加治屋蓮(JR九州~13年ソ①)もまだ老け込む年ではなく、今年の復活に期待したい。

 最後に藤浪だが、個人的にはクローザーまでとは言わないが、スタートからリリーフに専念させてはどうだろうと思う。当然、先発を任せられる力も十分にあり、本人も先発にこだわりがあるようだが、16年の7勝を最後にスランプも今季で6年目…。ここ数年は毎回のようにトレード要員に名前が上がっている。ここで新たなことにチャレンジするのもスランプ解消へのきっかけになると思うが…。

野手陣~今季もレギュラーは不動?得点力アップのためにはプラスアルファが必要

 昨年もチーム打率はリーグ4位、盗塁数1位も本塁打が少なく、得点力は相変わらず低くリーグ5位と停滞したままだ。そういった状況下でも、昨季のスタメンは固定されたままで、開幕後に遊撃が木浪から中野に代わっただけで、それ以外は大きく変わることなく、実に8人の選手が規定打席をクリアした。

 レギュラーが固定されているのは別に悪くもなんでもないが、得点能力に乏しい打線で且つ12球団ワーストの失策数が4年も続くチーム状況を考えると、本当にこれで良いのか?って思ってしまう。レギュラーを脅かす選手がいないと言えばそれまでだが、要はカーリングで言うところのプランBがない。同じ選手が同じ打順で、打席に立っても攻撃のバージョンは限られてしまう。

 結局、選手交代は試合終盤の代走や守備固めに限られ、レギュラー以外で100打席以上立った選手も、開幕スタメンの木浪とベテランの糸井嘉男(近大~03年日自)、後半調子を落とし、結局退団したサンズの代わりに左翼に入ったロハス・ジュニアだけと何とも寂しい限りだ。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】※☆は規定打席クリア

 捕 手…☆梅野隆太郎(130/458)坂本誠志郎(45.73)

 内野手…☆マルテ(128/526)☆中野拓夢(135/525)☆大山悠輔(129/512)

       ☆糸原健斗(125/488)木浪聖也(92/132)

 外野手…☆近本光司(140/612)☆サンズ(120/461)☆佐藤輝明(125/455) 

       ロハス・ジュニア(60/206)糸井嘉男(77/119) 

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)近本光司⑧      1)近本光司⑧      

  2)糸原健斗④      2)糸原健斗④    

  3)マルテ③            3)マルテ③    

  4)大山悠輔⑤      4)大山悠輔⑤      

  5)サンズ⑦       5)サンズ⑦      

  6)佐藤輝明⑨      6)佐藤輝明⑨     

  7)梅野隆太郎②     7)梅野隆太郎②      

  8)木浪聖也⑥      8)中野拓夢⑥ 

  9)藤浪晋太郎①     9)青柳晃洋①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…梅野隆太郎 坂本誠志郎 長坂拳弥(榮枝裕貴)

 内野手…山本泰寛 木浪聖也 大山悠輔 熊谷敬宥 佐藤輝明 マルテ

      糸原健斗 中野拓夢 原口文仁

    (北條史也 小幡竜平 陽川尚将 植田 海 高寺望夢)

 外野手…近本光司 糸井嘉男 ロハス・ジュニア 小野寺暖

    (江越大賀 井上広大 島田海吏 ※豊田 寛 板山祐太郎)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)近本光司⑧      捕 手)梅野隆太郎(坂本誠志郎) 

  2)中野拓夢⑥      一塁手)マルテ

  3)マルテ③       二塁手)糸原健斗(木浪聖也)

  4)佐藤輝明⑨      三塁手)大山悠輔

  5)大山悠輔⑤      遊撃手)中野拓夢(山本泰寛)

  6)梅野隆太郎②     左翼手ロハス・ジュニア(豊田 寛)

  7)ロハス・ジュニア⑦  中堅手)近本光司

  8)糸原健斗④      右翼手)佐藤輝明(小野寺暖)

  9)青柳晃洋①      

 今季もレギュラーに大きな変化はないだろう。変わるとすれば大山と佐藤輝のどちらかを4番にするかくらいで、個々の成績が得点能力に直結すると言える。

 ヒットメーカーの近本は、プロ3年で通算476安打、打率.292、91盗塁で盗塁王を2度獲得するなど、不動のリードオフマンとしてチームを引っ張り、中野は近本を抑えて昨年盗塁王になり、長打力はないがともに出塁率3割を超える機動力のある1~2番はやっかいだ。中軸は選球眼が増し、チーム最高出塁率のマルテが3番に座り、大山と佐藤輝の左右の大砲が並ぶ打線は期待できる。

 ただ、それ以降の下位打線に迫力がない。梅野隆太郎(福岡大~13年④)や糸原健斗(JX-ENEOS~16年⑤)など実績のある選手が並び、梅野のチャンス強さも数字に表れているが、長打力も機動力が特別ある訳ではない。ロハス・ジュニアは長打力はあるが、打率.217と確実性に乏しく、得点圏打率は1割とチャンスで打てず、現時点では期待値のほうが大きく、現在の外国人選手は投手が5名、野手は2名で、なぜ助っ人野手を獲得しなかったのか不思議だ。

 そんななか打力で期待できそうなのは、小野寺と井上、ルーキーの豊田寛(日立製作所~21年⑥)くらいで、江越大賀(駒大~14年③)や高山俊(明大~15年①)が伸び悩み、この期に及んで糸井や原口文仁(帝京高~09年⑥)のベテランの名前が挙がってくるのが寂しい。また昨季は大山が今ひとつで、外野の競争が激しければ佐藤輝を本職の三塁で使うこともでき、外野手の底上げが一つの課題と言える。

 守備力ではやはりセンターラインを強化したい。捕手は梅野も坂本誠志郎(明大~14年②)も守備力の高い強肩で、中堅はゴールデングラブ賞の近本がおり、課題は二遊間になる。昨季は糸原が二塁で7失策、遊撃の中野はファインプレーも多い反面17失策、ちなみに大山も三塁で10失策している。

 二遊間の守備力重視なら、候補は熊谷敬宥(立大~17年③)と小幡竜平(延岡学園高~18年②)で、特に小幡の守備能力はチームナンバーワンと言われている。年齢もまだ22歳と若く、下位打線で辛抱強く起用しても良いと思う。また、先述したが大山は昨季は攻守に今ひとつで、外野の競争もお寒いことから、打撃の良い糸原を三塁で起用することもできる。

シーズン前に監督が辞意を表明する異例のスタート…Aクラスは固いが課題は多い

 今年注目選手では、投手では秋山拓巳に注目している。古い話だが、高校時代はエースで4番を打ち、打者でのプロ入りもあった二刀流選手。力でグイグイ押す投球のイメージがあったが、操る変化球の精度がいずれも高く、制球力の良い丁寧な投球で、打ち取るスタイルに益々磨きがかかった気がする。安定感は申し分なく、今季初タイトルも期待できる。

 野手ではチームリーダーの大山悠輔で、色々と厳しい意見を書いたが、元々入団時から余計なプレッシャーを一身に受けるなか、4番打者として結果を残してきた。昨季は得点圏打率.205と、チャンスで凡退が目立ったが、打点はチーム最多の71。脂の乗り切っている28歳のシーズン、不動の4番として活躍すればおのづと守備のリズムも良くなるはずだ。

 最後に阪神お決まりのオフのお家騒動で、矢野監督はシーズン前に辞意を表明した。このことで大きくチームの成績に影響を及ぼすことはないが、定年退職でもあるまいし、あまりスッキリすることではなかった。

 今季は主力が離脱がなく、クローザーに早め目途が立てばAクラスは固いと思う。ただ、優勝となると投打にもう一押し欲しい。逆にレギュラーの離脱や複数選手が不振に陥るころがあればBクラス転落の可能性もある。