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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆ソフトバンク~主力の離脱がなければ優勝候補!若手の台頭が臨まれる転機のシーズン

 リーグ連覇と5年連続日本一を目指したシーズンは、まさかの8年振りBクラスに加え、13年振りの負け越しでシーズンを終え、7年指揮を執った工藤監督が退任した。

 ここ数年は毎年のようにケガ人に悩まされていたが、その都度厚い選手層で乗り切ってきた。しかし昨年はエースの千賀滉一(蒲郡高~10年育④)、クローザーの森唯人(三菱自動車倉敷~13年②)、開幕4番のグラシアルが早々と離脱した。モイネロとデスパイネ東京五輪で長期間チームを去り、前半3勝を挙げた新外国人投手レイも家庭の事情で退団するなど、投打に主力を欠いた厳しいシーズンになった。

 こういった危機を何度もカバーしてきた松田宣浩(亜大~05年希)や中村晃(帝京高~07年③)、今宮健太(明豊高~09年①)の主力も本調子には程遠く、かねてより懸念されていた世代交代の遅れが明白になった。

 投手も同様で、規定投球回数をクリアしたのは石川柊太(創価大~13年育①)のみで、リーグナンバーワンの防御率を誇りながら、リリーフ陣もパ・リーグで唯一20ホールドを挙げた投手がいなかった。森とモイネロの代わりを務めた岩嵜翔市立船橋高~07年①)と嘉弥真新也(JX-ENEOS~11年⑤)も、ともに防御率4点台で安定感に欠いた。

 ただ実は投打の成績は悪くない。先述したがチーム防御率は1位で、失点も最も少ない。チーム打率もリーグ1位で、本塁打と盗塁、得点数も2位。失策数はリーグ最少で、「打てて、走れて、守れる」チームなのだが成績は4位…。その要因は1点差ゲームで8勝19敗の成績が示すように「1点を奪えない、1点を守れない」際の勝負弱さで、投打の主力の離脱を大事な場面で痛感したシーズンになった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 4位 60勝62敗21分 .247  132本   92個  564点  3.25  493点

 20年 1位 73勝42敗  5分 .249  126本   99個  531点  2.92  389点

 19年 2位 76勝62敗  5分 .251  183本 113個  582点  3.63     564点

 18年 2位 82勝60敗  1分 .266  202本   80個  685点  3.90  579点

 17年 1位    94勝49敗  0分 .259  164本   73個  638点  3.22  483点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~なし

 19年~津森宥紀(投手~東北福祉大③)

    18年~甲斐野央(投手~東洋大①)泉 圭輔(投手~金沢星稜大⑥)

 17年~周東佑京(内野手~東農大オホーツク育②)

 16年~なし 

 選手層が厚く、育成システムで主力の排出に定評のあるイメージがあるが、過去5年のドラフトは投手で主力はリリーフのみ、野手は足のスペシャリストの周東だけで、スケール感という面では不足している。一つ上のチームを目指し、16年~20年は本指名中26名のうち半数以上の14名が高校生指名だが、主力と呼ばれるのは昨年ブレイクした三森大貴(青森山田高~16年④)くらいしかいない。ただ、三森も周東と同じリードオフマンタイプで、スケール感と言う意味ではやはり物足りない。

 ただ野手には有望株が多い。今春の一軍キャンプでも注目を集めている井上朋也(花咲徳栄高~20年①)やリチャード(沖縄尚学高~17年育③)の大砲候補。残念ながらケガでキャンプを途中離脱したが川原田純平(青森山田高~20年④)や水谷瞬(石見智翠館高~18年⑤)は、キャンプ前半は開幕一軍の期待もあり、今シーズンでの一軍デビューが楽しみだ。

 一方で投手はいずれもリリーフタイプばかりで、先発タイプでは昨年ドラフトの風間球打(明桜高~21年①)と木村大成(北海高~21年③)、高校生以外でも杉山一樹(三菱重工広島~18年②)と田中正義(創価大~16年①)くらいで、課題の世代交代にはまだ時間を要するかもしれない。

●投手陣~リーグナンバーワンの防御率も、先発・リリーフともにやり繰りに苦心

 リーグナンバーワンを誇る投手陣は、昨年はリリーフ陣に助けられた一年だった。先発では石川とマルティネスが多少の調整期間はあったものの、年間通してローテーションを守った。故障で前半戦を棒に振ったエース千賀も、終わってみれば2桁勝利を挙げ貫禄を見せた。

 ただ、レイの帰国に始まり、故障を抱えた東浜巨(亜大~12年①)と武田翔太宮崎日大高~11年①)は揃って4勝止まり、笠谷俊介(大分商高~14年④)や40歳の和田毅早大~02年自)も石川とマルティネスのに次ぐ18試合に先発したが、ともに防御率4点台と奮わなかった。

 森とモイネロが離脱したリリーフ陣は、やり繰りが大変ななか、松本裕樹(盛岡大高~14年①)やスチュワートJrがロングリリーフを務め、津森と板東湧梧(JR東日本~18年④)は40試合以上に登板し、泉や故障から復帰した甲斐野も好投を見せた。

 このほか田浦文丸(秀岳館高~17年⑤)や育成から支配下になった大関友久(仙台大~19年育②)、残念ながら不祥事で退団してしまったが古谷優人(江陵高~16年②)の若手が主力の離脱を埋めた。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆石川柊太(156回1/3)マルティネス(140回2/3)和田 毅(94回1/3)

     東浜 巨(75回1/3)千賀滉大(84回2/3)武田翔太(77回1/3)

     笠谷俊介(59回)

 ・救援…嘉弥真新也(58試合)岩嵜 翔(48試合)津森宥紀(45試合)

       板東湧悟(44試合)モイネロ(33試合)松本裕樹(33試合)

     泉 圭輔(31試合)森 唯斗(30試合)

【今年度の予想】

 ・先発…和田 毅 レイ 石川柊太 杉山一樹 千賀滉大

       スチュワート 東浜 巨 武田翔太 田中正義 松本裕樹 笠谷俊介 

 ・中継…津森宥紀 ※又吉克樹 甲斐野央 板東湧悟 泉 圭輔 嘉弥真新也

       ※チャットウッド 高橋 礼 大関友久 高橋純平 田浦文丸  

 ・抑え…モイネロ 森 唯斗

 リーグ屈指の投手陣だが、今年も「主力の離脱がなければ…」という言葉がついてしまう。そういった意味では、昨年防御率1点台で抜群の安定感を見せたマルティネスの退団は痛かった。

 先発は開幕投手に指名されている千賀、石川と東浜、ベテラン和田までは決まりでレイが来日すれば残る枠は1つになる。ただ、武田は開幕に間に合わず、千賀と東浜は故障のリスクが付きまとい、和田もさすがに体力の衰えは否めず、フルシーズンの活躍を期待するのは酷な面もある。

 そうなると若手の台頭が必要になるが、現時点で期待を持てるのは杉山ただ一人。本格的なブレイクをして欲しい笠谷や松本、プロ入り5年で未だ未勝利の田中やスチュワートJrの覚醒にも期待したいが、現時点では年間通して主力になり得るかと言えば荷が重い。

 新外国人のチャットウッドは、先発もリリーフともにできるが制球力に難があり、今年は先発のやり繰りに苦労するシーズンになりそうだ。育成契約ながらキャンプで評価を上げている元広島の藤井晧哉(おかやま山陽高~14年④)の大抜擢などもあるかも知れない。

 リリーフ陣は、森が復調すれば鬼に金棒で大きな心配はない。モイネロと中日からFA加入した又吉克樹(四国IL香川~13年②)を中心に、昨年実績を残した若手もいるので、様々な展開でも対応できるメンバーが揃っている。

 それこそ一時期流行ったオープナーで高橋礼(専大~17年②)や大竹耕太郎(早大~17年育④)など先発経験のある投手を3~4回くらいまで起用し、松本や高橋純平(県岐阜商高~15年①)がロングリリーフで、又吉→モイネロ→森の勝ちパターンに繋げる戦略もありだと思う。

 どちらにしろ今年のホークスのカギを握るのは先発投手陣で、昨年のように主力が早々と離脱すると、シーズン前半でも置いてかれる可能性もあり若手の台頭が臨まれる。個人的には比較的戦力の充実している外野陣をベースに、投手力のある中日とのトレードは狙い目だと思うが…。 

●野手陣~主力が軒並み30歳を超えたが、若手の台頭に乏しく顔ぶれは変わらない?

 チーム打率1位の打線も、得点数はロッテに次いで2位。大事なところで1点を獲れない打線は、打点が2位、犠打(犠飛含む)は3位、四球は4位、出塁率は3位と数字を見てもちくはぐさが伝わる。

 昨年は甲斐と栗原が初の全試合出場を果たし、栗原は全試合でスタメン出場し、甲斐もハードなポジションで全試合出場は特筆できる。柳田も打率3割、リーグ4位の成績で、主力選手は結果を残した。また、退団が報じられていたグラシアルとデスパイネが残留したのも大きかった。

 規定打席未達ながらも、周東がケガで離脱後は三森が後半1番・二塁を務め、大砲候補のリチャードは116打席で7本塁打と長打力を見せつけた。ルーキーの柳町達(慶大~20年⑤)、捕手ながら外野守備や代走も務めた谷川原健太(豊橋中央高~15年③)が一軍で経験を積んだ。

 一方で長年チームを支えた高谷裕亮(白鷗大~06年③)、代打の切り札の長谷川勇也専大~06年⑤)が揃って引退し、左キラー川島慶三九州国際大~05年日③)も戦力外になり楽天へ移籍し、今季こそは世代交代の足場固めを進めたいところだ。 

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…☆甲斐拓也(143/479)谷川原健太(59/57)高谷裕亮(20/17)

 内野手…☆中村 晃(139/552)☆今宮健太(125/413)☆松田宣浩(115/390)

     三森大貴(86/345)牧原大成(98/292)グラシアル(37/150)

     川島慶三(56/123)周東佑京(71/120)リチャード(34/116)

 外野手…☆栗原陵矢(143/596)☆柳田悠岐(141/593)デスパイネ(80/308)

     真砂勇介(70/124)長谷川勇也(71/120) 

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)周東佑京④      1)三森大貴④     

  2)今宮健太         2)牧原大成⑧        

  3)柳田悠岐⑧      3)柳田悠岐   

  4)グラシアル⑦     4)栗原陵矢⑦      

  5)中村 晃③      5)デスパイネDH      

  6)デスパイネDH    6)中村 晃③      

  7)栗原陵矢⑨      7)甲斐拓也②     

  8)松田宣浩⑤      8)松田宣浩

  9)甲斐拓也②      9)今宮健太  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…甲斐拓也 谷川原健太 海野隆司(九鬼隆平 渡邊 陸)

 内野手高田知季 ガルビス 松田宣浩 今宮健太 グラシアル 牧原大成

       井上朋也 三森大貴 ※野村 勇

    (川瀬 晃 明石健志 周東佑京 リチャード) 

 外野手…中村 晃 柳田悠岐 栗原陵矢 デスパイネ

    (佐藤直樹 ※正木智也 柳町 達 上林誠知 真砂勇介)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)三森大貴④      捕 手)甲斐拓也

  2)牧原大成⑧      一塁手)中村 晃

  3)柳田悠岐⑧      二塁手)三森大貴(野村 勇)

  4)グラシアルDH    三塁手松田宣浩(リチャード)

  5)栗原陵矢⑨      遊撃手)ガルビス(今宮健太

  6)中村 晃③      左翼手)栗原陵矢

  7)ガルビス⑥      中堅手)牧原大成(上林誠知)

  8)松田宣浩⑤      右翼手柳田悠岐

  9)甲斐拓也②      D H)グラシアル(デスパイネ)          

 藤本監督はレギュラーは柳田と栗原、甲斐を明言しているが、中村とグラシアルも決まりだろう。このほかは横一線で、松田や今宮も若手と定位置を争うシーズンになる。ただ、今春のキャンプの声を聴くと、この世代交代のチャンスを掴む若手選手の台頭が乏しく、嘆き節ばかり目立つのは心配だ。

 捕手は甲斐が不動だが、二番手捕手がチームのアキレス腱になり兼ねない。万が一、甲斐が長期間離脱するようなことになると、大幅な戦力ダウンになってしまう。谷川原はどちらかというと打撃や走塁面の控えが有力で、海野隆司(東海大~19年②)と九鬼隆平(秀岳館高~16年③)が候補だが、キャンプではともにアピール不足。打撃に定評のある渡邊陸(神村学園高~18年育①)が一気に浮上する可能性もある。

 内野は一塁を除く全ポジションが混戦だ。二塁は周東の復帰が夏くらいになりそうで、三森と牧原大、ルーキーの野村勇(NTT西日本~21年④)が候補になる。ともに守備は問題なく、粘り強い打撃の三森、パンチ力も秘めた牧原大、野村勇は周東も凌ぐスピードが評価されており打撃が決め手になる。

 三塁は松田への挑戦権をリチャードと2年目19歳井上が得ている。松田は出場機会を増やそうと一塁の練習もしているが、期待値の高いリチャードは打撃以外での課題が多さが指摘されている。どちらにしろ打順では下位が予想されるので、若手が結果を恐れずに経験を積めると思うが、現時点では今季も松田になりそうだ。

 遊撃は今宮に対し、パンチ力もあるスイッチヒッターの新外国人のガルビスと野村勇の新戦力に、川瀬晃(大分商高~15年⑥)の争いになる。ガルビスの来日時季が微妙だが、故障が多く打撃に精彩を欠いている今宮に対し、野村勇や川瀬は打撃でアピールしたい。また川原田も、ケガから回復したのちはレギュラー争いに食い込んでくる可能性がある。

 このほかベテランの明石健志(山梨学院高~03年④)は一・二塁、高田知季(亜大~12年③)は内野はどこでも守れ、混沌とした内野手争いのダークホースになるかも知れない。

 外野は柳田が守備の負担を減らすために中堅から右翼へ回ることで、中堅のレギュラー争いがし烈だ。昨季の試合数から言えば牧原大に真砂勇介(西城陽高~12年④)、上林誠知(仙台育英高~13年④)が実績ではリードしており、若手の佐藤直樹JR西日本~19年①)と柳町を交えた争いになる。

 順当にいけば牧原大になるが、長打力もある上林の復調は間違いなく打線に厚みを持たせることになる。人数的にも「レギュラー争いから脱落=ファーム」で、守備力はいずれも遜色なく、オープン戦で誰がバットでアピールするか注目だ。

 指名打者はグラシアルとでデスパイネの併用になりそうだが、状況次第では栗原を三塁に回し、左翼グラシアル、指名打者デスパイネの起用もあり得る。いずれにせよ松田は39歳、グラシアル37歳、デスパイネ36歳と急に衰えが来てもおかしくない年齢になる。まだ衰える歳ではないが、柳田と中村、今宮の主力がいずれも30歳を超え、今季こそ世代交代が目に見える形で表れないと一気にチーム力が落ちる可能性もある。

主力の離脱がなければ優勝候補だが…投打に世代交代を進めたいシーズン

 注目の選手で、投手は津森に期待している。変則フォーム投手にありがちな変化球主体の投球ではなく、力強いストレートが武器のパワーピッチャー。奪三振率はモイネロとスチュワートに続くチーム3位、45試合に投げて防御率も2.18の好成績を挙げておりセットアッパーの役割に今季は期待したい。

 野手は三森で、あの粘り強い打撃は相手から見ても嫌だと思う。まだ打率も出塁率も今一つだが、苦手な右打者を克服すると怖いリードオフマンになる。また、広い守備範囲を誇る守備力も脅威で、年始のバラエティ番組で見せた西武・源田とのギネス新記録をかけたキャッチボールギネス挑戦は見応えがあった。

 今年のソフトバンクは当然、優勝候補で優勝争いに絡んでくるとは思うが、心配なのはやはり故障による主力の離脱で、今季も簡単にはいかないシーズンになると思う。