ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2020年ドラフト寸評~成功・失敗した球団(後編)

 ドラフトが終了し、いよいよペナントレースも大詰め。同時に戦力外通知も始まりました。毎年、入る人がいれば、出る人もおり、期待が膨らむ反面、寂しい時季になる。では後半にお付き合いください。

 

△ロッテ(65点)

 ここ数年、秀逸なドラフトを展開していたロッテ。今年は千葉出身でロッテファンを公言していた早川(楽天)の指名をいち早く公言したが、4球団競合のなか既に当たりクジは残っておらず、早川を外したあと、同じ左腕の鈴木昭汰(法大・投手)をヤクルトとの競合の末獲得した。

 とにかく今年は不足している左腕投手の強化が最優先課題で、徹頭徹尾で即戦力左腕の獲得を優先した。その鈴木は早川と同様に高校時代から注目された投手で、内角への制球に長けた左のパワーピッチャーで、スタミナもあり先発ローテ候補だが、強気な投球スタイルを活かしリリーフへの期待も高まる。

 2位で中森俊介(明石商高・投手)の獲得は大きかった。外れ1位指名もあると思っていたので、ロッテの指名順位が21番目でよく残っていたと思う。今年の高卒投手のなかでは実績は一番で、高校生ながら即戦力評価を受けるのも頷ける。

 3位の小川龍成(国学院大・内野手指名も悪くはないが、小川は遊撃の守備はピカ一で俊足だが、打力に課題がある。リーグで最も失策数が少なく、レギュラーの藤岡と同じタイプだけにどう活用するか注目したい。

 4位の河村説人(星槎道都大・投手)は190センチの長身右腕で、即戦力と言うよりは伸びしろが期待される大学生。5位の西川僚祐(東海大相模高・外野手)は、高校通算55本塁打スラッガーで、まだ粗削りだが将来性は高く、3~4年後の主力を目指したい。

 育成選手は4人の指名で、注目は育成3位の山本大斗(開星高・外野手)。西川と同様、右打ちのスラッガーで逆方向にも長打を打て、強肩で守備も良く2年以内での支配下が目標になる。

 1~2位の指名は上出来で、全体的に的確な補強ができ悪くないが、3位以降で最大の弱点である打てる野手の獲得(特に右打ち)が出来ず、高校生捕手の獲得も育成での補強になった。事前に本指名が5名と表明し、育成を増やすと言っても4名ではインパクトも不十分だった。

 

△広島(65点)

 リーグ3連覇したのは僅か3年前だが、もっと経ったような感じを受け、Bクラス常連だった暗黒期の不安が押し寄せてきた。私は以前より極端に育成路線に舵を取ったドラフトに過信とも言える心配があった。思った以上に若手が伸びず、自慢の育成が進まないなか今年は即戦力中心の指名になった。

 今年は投手陣が崩壊したなか、1位は単独で栗林良史(トヨタ自動車・投手)を指名した。高橋(中日)が進学していれば、中日と間違いなく競合していたので、広島にはラッキーな形になった。栗林は153キロのストレートを軸に変化球の精度も高く、高校時代は野手でフィールディングも良く、先発ローテでも計算できる即戦力だ。

 2位以下も即戦力投手で占め、森浦大輔(天理大・投手)は、細身だが大きな故障もない体の強さもセールスポイントで、制球力の良い技巧派左腕だ。高い制球力ゆえにゲームメークにも長け、栗林とともに先発ローテ入りの期待がかかる。

 3位の大道温貴(八戸学院大・投手)もゲームメークに長け、スライダーが武器のバランスの良い投手で、制球力も良くスタミナも十分だ。タフな選手だけにリリーフでの適性もあるが、先発が主戦場でルーキー3人開幕ローテ入りも夢ではない。

 4~5位も投手で、4位の小林樹斗(智弁和歌山高・投手)は外れ1位指名の可能性もあった逸材で、昨夏より急成長した将来のエース候補だ。5位の行木俊(四国IL徳島・投手)は、高身長から投げ下ろす速球とスライダーが武器の本格派。まだ19歳で投手経験は高2からという素質型の投手。

 6位で唯一の野手で、強肩と堅守、俊足の矢野雅哉(亜大・内野手を指名した。3年秋には首位打者も獲得しており、6位ながら即戦力として評価が高い。育成指名は二俣翔一(磐田東高・捕手)一人だけで、本指名されなかったのが意外だった。捕手ながら一番打者を務める俊足で打撃も良く、育成から正捕手を目指す。 

 ドラフト自体は悪くなく、かつての十八番の社会人1本釣りは広島らしく、現状を考えれば投手中心の指名は納得できる。また、ポスト鈴木で元(オリックス)を2~3位で指名を検討していた記事を見てさすがだと思った。

 ただ、3連覇しているときのドラフトの失敗(言い切るのはまだ早いが…)から大きく方向転換し補強型のドラフトになったのがチーム方針として疑問が残った。

 

ソフトバンク(60点)

 昨年は1位で石川昂(中日)、今年も佐藤輝(阪神)を指名したように野手の世代交代が喫緊の課題と言える。確かにあの投手陣なら、即戦力投手は必要ない。今年はオール高校生の指名になったが、このような指名ができるのも選手層の厚いホークスならではで、補強ポイントを抑えたブレない姿勢はさすがと言える。

 1位指名の井上朋也(花咲徳栄高)は、高校通算50本塁打スラッガー三塁手で、1年夏はレギュラーとして甲子園優勝を経験している。遠くへ飛ばすパワーよりも、逆方向にも打てる技術も持ち合わせており、将来の中軸を担える素材。また、3年夏には一番打者を務めるなど足も早く、しっかり体を作りポスト松田の座を射止めたい。

 2位以降の指名は名前を呼ばれるたびに驚いた。2位の笹川吉康(横浜商高・外野手)は名前を聞いたときは、思わず「誰?」と思った隠し玉だった。ただ、プロフィールを見てみると193センチの大型外野手で、高校通算40本塁打、50メートル6秒の俊足で、柳田を彷彿させるようなスケール感の期待が高まる。

 3位の牧原功太(日大藤沢高・捕手)は総合力の高い捕手で、二塁送球1秒8の強肩だが、一番の自信は打撃と言い切る。2年時には50メートル6秒台の俊足で一番打者も務めた。本人も驚いていたが、下位指名予想のなか3位指名の高評価を受けた。

 4位の原田純平(青森山田高・内野手隠し球で、小兵ながらパンチ力もあり、守備範囲の広さと強肩、且つ俊足で今宮を思い起こさせる選手だ。5位はもっと隠し球田上奏大(履正社高・投手)で、今年の6月までは中堅のレギュラーから投手へ転向し、短い期間にストレートが150キロを超え、ドラフト指名までこぎつけた。

 育成選手は8名で高校生、大学生4名を指名した。育成1位の佐藤宏樹(慶大・投手)は、ケガさえなければ上位指名間違いないしの左腕。ドラフト直前の10月にトミージョン手術を受け、リハビリを兼ねながら育成からの主力を目指す。育成選手が数多く活躍しているチームだけに、佐藤宏にはベストなチームだったと言える。

 正直、井上以外はこの順位以外でも獲得できたと思う。ただ、クローザーの森も指名当初は無名の2位指名で、見込んだ選手を他球団との駆け引きなしに上位でも指名していく根本イズムを感じた指名になった。

 一方であまりにも隠し玉すぎたのも事実で、今回の指名が結果が出るのは3~4年後で、これはこれで楽しみが増えた。

 

△DeNA(60点)

 ここ数年、DeNAをドラフト巧者と呼ぶ声もあるが、私はそうは思えない。おそらく単独指名の成功を見て評していると思うが、ここ数年は重複抽選のリスクを回避して本気でチームを強くしようとする姿勢を感じない。

 おそらく今年も単独指名になるんだろうな…と思って中継を見ていて、早川(楽天)に栗林(広島)、佐藤輝(阪神)を避けての入江大生(明大・投手)指名を見て驚きさえ感じなかった。

 確かに競合は外したときのリスクはあるが、結果抽選で外したが有原(日本ハム)や東浜(ソフトバンク)、松井(楽天)などのエース級は競合覚悟でないと獲得できない。ここを避けていてばかりでは強いチームにはならないと思う。

 前置きが長くなったが、入江は甲子園で優勝したときは4番一塁だったが、今井(西武)が台頭するまではエースで、大学で投手に専念した。3年時までは素質は評価されつつも結果が出なかったが、今年のリーグ戦で153キロ右腕まで成長し、伸びしろもある素質型と言える。

 2位の牧秀悟(中大・内野手の指名は良かった。巧みなバットコントロールで広角に打てる右のスラッガーで、レギュラー不在の二塁と遊撃を本職としており、開幕スタメンも夢ではない。

 3位は地元の松本隆之介(横浜高・投手)で、将来性抜群の左腕だ。188センチの長身から肘を柔らかく使い152キロのストレートを投げ込み、変化球の精度も高い。4位の小深田大地(履正社高・内野手は、名門校で1年よりレギュラーを務め、昨夏の甲子園では3番を打った。高校通算34本塁打の長打力に加えミート力が高い。

 5位は唯一の社会人の池谷蒼大(ヤマハ・投手)で、社会人3年目の21歳の若さも魅力。最速140キロ後半の本格派左腕で、リリーフで結果を出しそうだ。6位も左腕の高田琢登(静岡商高・投手)は、もっと順位が高いと思っていた。最速140キロのストレートを軸に、変化球を駆使した巧みな投球術が武器に三振を奪う。

 育成指名は2名で、いずれも投手。育成1位の石川達也(法大・投手)は、同じ左腕の鈴木(ロッテ)や高田(楽天)の陰に隠れたが、プロでの逆転を狙う。

 今年も指名自体は悪くないが、投手偏重の指名になり。正捕手不在のなか即戦力捕手の獲得や、リーグ最下位の盗塁数を補える俊足の選手の獲得がなかったのはマイナスポイントだ。それよりも1位指名が軽い印象を受け、楽天と同様に場当たり的な指名でチームの方針を感じないのが残念だ。

 

△巨人(55点)

 今年は早々と、1位指名は即戦力野手で、外したときは即戦力投手と明言し、ドラフト前に予想通り佐藤輝(阪神)指名を公言した。ただ、クジ運の悪さは相変わらずで、原監督は引くときにすでに当たりクジはなく、遂に連敗が10まで伸びた。

 佐藤輝を外したあとの即戦力投手を誰にするか注目していたが、平内龍太(亜大・投手)指名は驚いた。右肘手術後の今夏より一気に評価を上げて、外れ外れ1位くらいかなと思っていたところ、いの一番に平内にいった。最速150キロのストレート制球力も高く、抑えの適性が高いが、先発でも結果を残しており起用法に注目したい。

 2位の山崎伊織(東海大・投手)も驚いた。肘の故障さえなければ間違いなく1位で消えていた選手だったが、6月にトミージョン手術を受け、今年は登板なし。社会人志望からプロ志望に切り替えての指名だった。

 3位の中山礼都(中京大中京高・内野手は、走攻守三拍子揃った遊撃手で、左右に打ち分けるバットコントロールに守備も堅実。50メートル5秒9の俊足で、将来のリードオフマン候補。4位の伊藤優輔(三菱パワー・投手)は、総合力の高いパワーピッチャーでプロではリリーフに適性がありそうで、巨人では出番が増えそうだ。

 5位の秋広優人(二松学舎大高・内野手は身長2メートルの大型野手で、高校では投手で4番。規格外のパワーが魅力で高校通算24本塁打で二刀流での活用もあるかもしれない。6位の山本一輝(中京大・投手)は珠持ちの良い左腕で、フォームから技巧派と思われがちだが、ストレートとカットボールが武器の本格派。7位の萩原哲(創価大・捕手)は強肩とインサイドワークの評価が高いが、打点王も獲得した打力も魅力だ。山本と萩原ともに指名をほぼ公言したなか、その通りの指名になった。

 今年の巨人は育成を史上最高の12名を指名した。指名した選手を見ても本指名も有力視された選手が並び魅力的だ。完全に贔屓だが、注目は私の地元北海道の育成8位の阿部剣友(札幌大谷高・投手)で、秋広と同じ身長2メートルの大型選手。この身長の左腕は見たことがなく、どう成長するか楽しみだ。

 今年の巨人は下位指名は良かったが上位指名が気になった。菅野の流失が懸念されているなか、即戦力投手の獲得は絶対に必要だが、平内も山崎も故障明けで補強よりも将来性を感じた指名になった。また、課題の即戦力野手の指名もゼロで、当初の課題を十分に埋めたドラフトにはならなかった。

 また、今ドラフトとは直接関係ないが、鍬原と堀田のドラ1投手がオフに育成選手になった。鍬原は今年、原監督の薦めでフォームを変えたばかり、堀田は故障中とは言え昨年の1位投手である。ドライと言えばそれまでだが、1位選手をおいそれと育成に直ぐにする姿勢は如何かと思う。時期は前後するが、こういった現状を見ると本当に山崎をきちんと面倒を見るのか疑問に思ってしまう。

 

×西武(50点)

 評価は低くしたが、個人的には好きなドラフトになった。昨年までの山賊打線が影を潜め、主力と控え選手の差を埋めれなかった。頼りはともに38歳の栗山と中村の両べテランで野手の補強と世代交代が課題だった。一方で投手陣はリリーフ陣の底上げは進んだが、先発陣がピリっとせず相変わらずチーム防御率最下位に沈み、特に先発左腕の不足は深刻だった。

 早川(楽天)と佐藤輝(阪神)が候補のなか、ここ数年のウィークポイントである先発投手陣強化を選択した。早川を外したあと呼ばれた名前は渡部健人(桐蔭横浜大内野手で、この日1番のサプライズになった。

 渡部は体重112キロの巨漢の大砲で、とにかく遠くに飛ばす能力はけた違いで、さらにバットコントロールも良く、打撃も柔らかい。中村と同様に、巨漢ながら器用で足も遅くなく、三塁守備も巧く、ポスト中村にはもってこいの選手だ。個人的に注目していた選手で、下位指名を予想していただけに、1位指名は嬉しかった。

 2位の佐々木健(NTT東日本・投手)も驚きで、社会人投手ながら、粗削りの未完成選手で、投手が豊富なチームならまだしも、西武が2位指名するとは思わなかった。ボール自体は悪くないが、総合力に欠点がありどう成長するか期待して見てみたい。

 3位の山村崇嘉(東海大相模高・内野手は、2年夏から名門校で4番を打った左のスラッガーで、高校通算49本塁打を放った。今年は投手も務め、本来の三塁から遊撃も守るなど野球センスの塊で、将来の中軸候補。

 4位も野手で若林楽人(駒大・外野手)は、50メートル5秒8の俊足で1番中堅候補。今夏パワーアップしてパンチ力もつき、急成長を遂げた。5位の大曲錬(福岡大・投手)は準硬式で154キロを投げる本格派で、こういった隠し玉選手の指名は西武の十八番で“らしさ”を感じた。

 6位のタイシンガー・ブランドン大河(東農大北海道オホーツク・内野手)は、名前にインパクトで話題になったが、1年から主力を務めるスラッガーで対応力が高い。8位の三河優太(大阪桐蔭高・外野手)は、投手として入学するも打力を買われて野手へ転向。パワフルなスイングで長打力があり、山村と並び将来の主軸候補だ。

 育成は5名で、ここでも野手を2名指名している。注目は育成1位の赤上優人(東北公益文化大・投手)で、元々は内野手で入学も1年秋に投手へ転向し、リーグ戦で2年連続最多勝を獲得した先発候補で、早く支配下で見てみたい選手の一人だ。

 

 今年のドラフトでは数々の驚きがあったが、嬉しかったのは私の地元北海道関連の選手が、育成含め8名も指名された。ついに道内のレベルもここまで上がったかと嬉しかった。個人的な話になったが、是非このなかから主力選手や記憶に残る選手が数多く現れることを期待したい。