ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆DeNA~リーグ屈指の打線で、投手陣が整備できれば優勝も夢ではない

 昨年はコロナ禍で頼みの外国人選手の来日が遅れ、開幕は2つの引き分けを挟み6連敗。三浦新監督の初勝利は開幕9戦目だった。その後も状態は上がらず、4月には引き分けを挟んで10連敗…4月終了時点で6勝21敗4分の借金15で早々とペナントレースから脱落してしまった。

 今永昇太(駒大~15年①)が開幕に間に合わず、平良拳太郎(北山高~13年巨⑤)は右肘の手術で僅か2試合で離脱。先発陣のやり繰りに苦労するなか、山崎康晃(亜大~14年①)もクローザーに復帰することが叶わず、三嶋一輝(法大~12年②)も安定感を欠いたピッチングが続いた。

 6月になると打線が活発になり、桑原将志福知山成美高~11年④)が復活を果たし、ルーキー牧の活躍もありチームも盛り返した。ただ良かったのもここまで、7月以降は貯金することが出来ず、10月に大きく負け越して6年振りの最下位に沈んだ。最終の借金は19で、開幕の躓きが無ければ、もう少し違う戦いかたもできた。

 ただ、厳しい戦いのなか、今シーズンに繋がる好材料も多かった。投手では、新外国人選手のロメロが、徐々に日本野球にフィットし5勝を挙げ、山崎も9月には久々のセーブを挙げ、守護神復活の道筋が見えてきた。

 打撃陣では若手が躍動し、牧が打率.314に本塁打22本の大活躍。19歳の森敬斗(桐蔭学園高~19年①)も一軍で経験を積み、後半戦になると23歳の山本祐大(BCL滋賀~17年⑨)も33試合で先発マスクを被った。 

【過去5年のチーム成績】

     順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 21年 6位 54勝73敗16分 .258  136本   31個  559点  4.15  624点

 20年 4位 56勝58敗  6分 .266  135本   31個  516点  3.76  474点

 19年 2位 71勝69敗  3分 .246  163本   40個  596点  3.93  611点

 18年 4位 67勝74敗  2分 .250  181本   71個  572点  4.18  642点

 17年 3位 73勝65敗  5分 .252  134本   39個  597点  3.81  598点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 20年~牧 秀悟(内野手~中大②)

    19年~伊勢大夢(投手~明大③)

 18年~大貫晋一(投手~新日鉄住金鹿島③)

 17年~東 克樹(投手~立命大①)神里和毅(外野手~日本生命②)

 16年~濵口遥大(投手~神奈川大①)佐野恵太(内野手~明大⑨)

 過去5年のドラフトは悪くない。投手では大貫と濱口の両先発がおり、東は新人王を獲得している。野手でも佐野はタイトルホルダー、そして牧の活躍で打線がさらに強力になった。

 ただ、この間の悪い流れで投手は1年目の活躍がめざましいが、そのあとが続かない。東は1年目11勝も以降はケガもあり3年で5勝、濵口も1年目10勝が唯一の2桁勝利、上茶谷大河(東洋大~18年①)も1年目の7勝以降は2シーズンで3勝と低迷気味だ。

 もう一つは高校生の主力が久しく生まれていない。投手は育成出身の砂田毅樹(明桜高~13年育①)、野手も11年の桑原まで遡らなくてはならない。投手なら小園健太(市和歌山高~21年①)に桜井周斗(日大三高~17年③)、野手では森の奮起に期待したい。

●投手陣~12球団最低の防御率からのカギは先発投手陣の整備

  昨シーズンの敗因は、投手陣の不振に尽きる。チーム防御率は12球団で唯一の4点台で、一昨年に続き先発ローテーションのやり繰りに苦労した。

 先発陣でシーズンを完走できたのは大貫ただ一人だが、その大貫も防御率4点台で6勝、さらにQS率が47%と低く安定感に欠いた。今永と濱口も5勝止まり、上茶谷も期待を裏切った。坂本裕哉(立命大~19年②)や京山将弥(近江高~16年④)も防御率が5点前後では、先発の役割を十分に果たすことができなかった。

 実に16選手が先発を務めたことに苦労が見え、期待の阪口皓亮(北海高~17年③)や中川虎大(箕島高~17年育①)、ルーキーの入江大生(明大~20年①)にもチャンスは与えられたが、阪口の2勝では寂しい。

 そのしわ寄せはリリーフ陣に掛かり、エスコバーをはじめ5選手が40試合以上に登板し勤続疲労が心配だが、反面リリーフ陣は着実に層が厚くなってきている。伊勢は防御率2点台と安定感を増し、23歳の桜井も30試合に登板し防御率3点台前半と若手が成長を見せた。砂田と三上朋也(JX-ENEOS~13年④)が完全復活を果たし、平田真吾(ホンダ熊本~13年②)に石田健大(法大~14年②)もフル回転、三嶋もなんだかんだリーグ4位の23セーブを挙げた。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…大貫晋一(112回)今永昇太(120回)濵口遥大(91回1/3)

       坂本裕哉(70回1/3)京山将弥(76回)ロメロ(80回2/3)

 ・救援…エスコバー(61試合)山﨑康晃(60試合)三嶋一輝(59試合)

       砂田毅樹(58試合)三上朋也(40試合)伊勢大夢(39試合)

       平田真吾(38試合)石田健大(33試合)シャッケルフォード(32試合)

【今年度の予想】

 ・先発…今永昇太 大貫晋一 濵口遥大 ロメロ 京山将弥 東 克樹

       坂本裕哉 上茶谷大河 阪口皓亮 入江大生 小園健太※ 徳山壮磨※ 

 ・中継…エスコバー 砂田毅樹 三上朋也 伊勢大夢 平田真吾 石田健大

     桜井周斗 田中健二朗 三浦銀二※ クリスキー※  

 ・抑え…三嶋一輝 山﨑康晃

 しつこいようだが、課題は先発投手で、ここが揃えば打線が良いだけに十分に上位を狙える。課題の先発陣は、今永以外は横一線と言える。濵口は好不調の波をなくし、大貫はイニングを稼ぐ投球が求められる。ロメロは昨季の後半のような投球が出来ればローテーション当確で、東や上茶谷が回復すれば計算できる布陣になる。

 若手では、今季6年目の京山はそろそろ結果を残しても良いころで、阪口もファームのエースから脱却したい。ルーキーにもチャンスはあり、徳山は最速152キロのストレートに制球力が武器で、ドラフト1位の小園は焦る必要は全くないが、高校生離れした完成度の高い投手なので、登板間隔を空けたゆとりローテなら結果を残せると思う。

 リリーフ陣は枚数は揃っているが、安定感という部分ではまだまだ。伊勢以外は軒並み防御率3点台で三嶋と平田は4点台、石田は5点台を超えている。

 ただ、リリーフ陣の左右のバランスが良い。右が山崎と三嶋、三上、伊勢、平田。左がエスコバーと砂田、桜井、石田に復活を期す田中健二朗常葉菊川高~07年①)とそれぞれ5枚ずつおり、場面場面での起用に迷うことなく、リリーフでもローテーションが組める。先発が改善できればこれまでのような登板過多を抑制でき、個々の防御率も改善すると思う。

 新加入ではルーキーの三浦銀二(法大~21年④)は最速150キロの速球を武器に、高校時代よりタフな投球が身上だけに、ロングリリーフなどで出番は早いかもしれない。新外国人のクリスキーは、最速157キロで奪三振率の高い投手だが、1イニング4暴投の記録が示すように制球力に難ありで、ここは大化けに期待したい。

 リリーフ陣のカギを握るのはやはり山崎の復調で、18~19年のセーブ王が、まさかの直近2年で7セーブと不調に陥り、チーム低迷の要因の一つと言える。昨年後半からは復調気配になってきており、今年は完全復活を目指したい。

●野手陣~宮崎とオースティンも残留し、リーグ屈指の強力打線にさらに磨きかけたい

 チーム打率と得点数はともにリーグ2位の数字が示すように、とにかく打線は破壊力十分だ。牧の打率.314を筆頭に桑原と佐野、オースティン、宮崎が打率3割を超え、全員が2桁本塁打を放っている。唯一、ソトが元気なかったが、それでも本塁打は20本を超えている。

 20年首位打者の佐野は2年連続の3割で、一昨年の成績がフロックでないことを証明した。ケガで離脱が多かったオースティンも昨年はコンスタントに出場し、桑原も復活。攻守の要でもある宮崎の6年契約はチームにとって大きな朗報になった。

 また、期待の森が強肩と俊足で存在感を示し、今年のブレイクが期待される。捕手もしばらく伊藤光明徳義塾高~07年オ③)と戸柱恭孝(NTT西日本~15年④)等の牙城だったが、4年目の山本が出場機会を増やした。17年のドラフト(本指名)で一番最後に名前が呼ばれた男が、レギュラー獲りに名前を挙げ、同じ9位のから主力に成長した佐野に続きたい。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…伊藤 光(53/192)戸柱恭孝(56/135)山本祐大(51/111)

 内野手…☆宮崎敏郎(141/569)☆牧 秀悟(137/523)☆ソト(123/451)

       大和(106/294)柴田竜拓(85/266)森 敬斗(44/113)

 外野手…☆佐野恵太(143/615)☆桑原将志(135/571)☆オースティン(107/439)

       関根大気(103/139)楠本泰史(75/127)神里和毅(88/118)    

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)桑原将志⑧      1)桑原将志⑧      

  2)関根大気⑨           2)柴田竜拓⑥       

  3)牧 秀悟③           3)佐野恵太⑦    

  4)佐野恵太⑦      4)オースティン⑨      

  5)宮崎敏郎⑤         5)宮崎敏郎⑤      

  6)柴田竜拓      6)ソト③      

  7)田中俊太④      7)牧 秀悟④      

  8)嶺井博希②      8)戸柱恭孝②

  9)濵口遥大①      9)大貫晋一①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…戸柱恭孝 伊藤 光 山本祐大(嶺井博希)

 内野手…牧 秀悟 藤田一也 森 敬斗 大和 柴田竜拓 宮崎敏郎 ソト

    (倉本寿彦 田中俊太 知野直人)     

 外野手…※大田泰示 桑原将志 佐野恵太 神里和毅 オースティン 楠本泰史

    (宮本秀明 細川成也 蝦名達夫 関根大気)

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)桑原将志⑧      捕 手)戸柱恭孝(伊藤 光) 

  2)森 敬斗⑥      一塁手)ソト

  3)佐野恵太⑦      二塁手)牧 秀悟(柴田竜拓)

  4)オースティン⑨       三塁手)宮崎敏郎

  5)宮崎敏郎⑤         遊撃手)森 敬斗(大和)

  6)ソト③        左翼手)佐野恵太

  7)牧 秀悟④         中堅手桑原将志(神里和毅)

  8)戸柱恭孝②      右翼手)オースティン(大田泰示

  9)今永昇太①        

 打線は今年もリーグ随一の布陣になる。ただ、要件として桑原がリードオフマンとして打線を引っ張り、牧が2年目にどこまで成績を残せるかがカギを握ってくる。主力は心配なくコンスタントに3割を打てる佐野と宮崎、長打力のあるオースティンとソトが中軸を形成し、レギュラーが揃えばどこからでも得点できる打線になり、どういう並びになるか楽しみだ。

 さらに打線に厚みを増すには、控え選手の底上げと代走要員などスペシャリストの存在が必要になる。そのなかで経験豊富な藤田一也(近大~04年横④)と大田泰示東海大相模高~08年巨①)の加入は、守備・攻撃面の両面で大きく課題を解消できた。40歳のベテラン藤田は若手の見本で将来の幹部候補、大田はレギュラー争いの起爆剤になり控えの層を厚くした。

 課題の機動力では、レギュラーメンバーは無理に走らなくても十分に繋がる打線だが、ここぞというときの代走は脅威で、攻撃のバリエーションを増やしたい。候補としては神里や宮本秀明(パナソニック~17年⑦)がおり、育成だが村川凪(四国IL徳島~21年育①)は俊足で盗塁技術が高く一芸で支配下を目指す。

 このほかにも、守備固めで内野は名手の柴田竜拓(国学院大~15年③)、外野には関根大気(東邦高~13年⑤)がおり、代打の切り札では得点圏打率の高い大和(樟南高~05年神④)が控える。

 守備位置で見てみると、捕手は絶対的なレギュラー不在のなか、昨年は山本が成長を見せた。打率は全員似たり寄ったりで2割前後だが、出塁率では伊藤、長打率では戸柱、守備率では山本が一歩リードしている。今年こそはシーズン通してレギュラーを確立させたいところだ。

 内野は一塁のソトと三塁の宮崎は決まりで、二遊間のセンターラインの争いなる。二塁は牧が有力で、遊撃は森のブレイクに一番期待するが、大和や藤田、柴田に倉本寿彦(日本新薬~14年③)など実績十分の選手が控える。このほか、複数ポジションを守れる田中俊太(日立製作所~17年巨⑤)は走攻守にバランスが良く、知野直人(BCL新潟~18年⑥)は自慢の長打力でレギュラー争いに参戦したい。

 外野は桑原と佐野、オースティンとレギュラーが確立されているが、新加入の大田や神里は実力と十分すぎる実績があり、レギュラー陣もうかうかしていられない。ただ一方で、今ひとつ若手の成長が物足りなく、関根は守備と走塁、楠本泰史(東北福祉大~17年⑧)はシュアな打撃、ファームでは中心選手の蝦名達夫(青森大~19年⑥)や細川成也(明秀日立高~15年⑤)は自慢の長打力で一軍ブレイクを果たしたい。

 また、ドラフト下位ながら梶原昂希(神奈川大~21年⑥)は走攻守揃った選手で、柳田(ソフトバンク)を彷彿させるようなポテンシャルを秘めており、プロで素質を開花させたいところだ。

●小園指名に将来に向けチーム強化の本気度を感じる!OB石井コーチ加入もプラス

 注目の選手では、投打の次世代スター選手候補の小園と森のドラフト1位コンビを挙げたい。小園は最速152キロのストレートに多彩な変化球を操り、制球力も高く高校生離れした完成度を誇る。先発強化が課題のチームだけに、出番は早いかもしれない。

 高校生投手の1位入札は松井裕樹楽天)以来で、これまで投手なら即戦力中心の単独指名が十八番だった。昨シーズンも12球団最低のチーム防御率のなか小園を指名したのは、良い選手は競合でも、即戦力でなくても獲りに行く姿勢は評価できる。

 野手は森で、今年は遊撃のレギュラーを掴むシーズンになる。打撃面ではまだまだ課題があるが、リーグ随一の強肩にチームに不足している機動力を使える選手で、一つひとつのプレーに華がある。ここまで順調に一軍で経験を積んでおり、今年は一気に定位置獲りを決めたい。

 最後に、今年は野手総合コーチで石井琢朗が加入した。石井コーチは広島3連覇の礎を作った立役者の一人で、今シーズン巨人から移籍してきた。走塁面を絡めた細かい野球の指導は間違いなく打線のプラスになり、一番大きな補強だったかもしれない。

 本来、三浦監督が目指す野球とは異なるかもしれないが、18~19年の西武のように打ち勝つメンバーが揃っている。強力打線を前面に出した野球で、十分に上位を狙えるが、昨年のようにスタートに躓くことなく、投手陣が整備できれば昨シーズンのヤクルトのように最下位からの優勝も夢ではない。