●盗塁数26個の衝撃…広島が十八番の機動力野球はどこへ行ったのか…
今シーズンは開幕から6連勝と、最高のスタートを切ったが見せ場は序盤だけ…。苦手の交流戦で今季も最下位になると、秋山翔吾(八戸大~10年西③)獲得も起爆剤になず、そのまま優勝争いに絡むことなく4年連続のBクラス、佐々岡監督が退任した。確かに3連覇(16年~18年)したチームから過渡期を迎えてはいるが、最後まで佐々岡監督の目指す野球が見えなかった。
今季もチーム防御率も打率も悪くなく、驚くことに得失点差はプラスで、それでも借金8の5位なのだから、ファンも煮えきれなかっただろう。佐々岡監督はいつの間にか「動かない監督」のイメージが定着してしまったが、成績を見ればそう思われても致し方ない。
チーム打率はリーグ1位で、得点数はヤクルトに次いで2位だが、併殺打もリーグ1位で繋がるときは大量点を獲れるが、繋がらないと機能しない大味な打線で、連覇のときあれだけ接戦に強く、逆転勝ちしていたチームは今では見る影もない。
そのことを最も顕しているのが、12球団断トツで最小の盗塁数で、何と僅か26個である…。機動力がお家芸と言われたチームが、まるで走らないチームになってしまい、これでは相手からすれば怖くない。
チーム最多盗塁は野間峻祥(中部学院大~14年①)の7個で、三冠王の村上(ヤクルト)が12個なので、いかにチーム全体で走塁への意識が落ちていることが分かる。広島らしい緻密かつ勝負を決める大事なところで1点を獲り、守り勝つ野球が失われことを痛感したシーズンになった。
【今シーズンのチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 143試合 66勝74敗3分⑤
防御率…3.54⑤(3.81⑤)打率….257①(.264①)
本塁打…91④(123④)盗塁26⑥(68③)
得点…552②(557③)失点…544④(589⑤)
●「素材型育成ドラフト」から「即戦力」へシフトも、チームづくりは迷走気味
リーグ3連覇中の16~18年は、高校生13名、大学生6名と過信とも思える素材型ドラフトが続いたが、連覇が途絶えた19年~21年は一転して高校生6名、大学生7名、社会人5名、独立リーグ1名と即戦力路線に転換した。
16年~18年は、投手では床田寛樹(中部学院大~16年③)や島内が主力で、今季ようやく矢崎拓也(慶大~16年①)が覚醒したが、ドラフトの大方針だった高校生では坂倉将吾(日大三高~16年④)と小園は別格として、投手では遠藤敦志(霞ヶ浦高~17年⑤)くらいしかいない。
19年~21年は、森下、栗林と2年連続で新人王になっており、これはこれで大成功と言える。ただ、味をしめたわけではないが、昨年は鈴木誠(カブス)の移籍もあり、外野手2名を含む社会人4名を指名したものの、松本以外は上積みにならかった。
昨年同様、今年も広島のドラフトはば難しい。投手陣は将来性のあるエース候補獲得は当然のこと、栗林に繋ぐ即戦力リリーフも必要だ。また、野手の年齢バランスが悪さも解消されておらず、高校生・大学生ともに外野手が必要で、ドラフトよりはトレードでの解消が必要になる。
【過去5年の主力選手 ※年数横の数字は順位】
17年①…なし
18年①…小園海斗(報徳学園高/①・内野手)島内颯太郎(九共大/②・投手)
19年④…森下暢仁(明大/①・投手)
20年⑤…栗林良史(トヨタ自動車/①・投手)森浦大輔(天理大/②・投手)
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【広島の補強ポイント】
投 手…即戦力リリーフ、将来のエース候補
捕 手…必要なし
内野手…高校生は必須、大学生・社会人の右打ち
☆投手~将来のエース候補、即戦力の先発とリリーフ
先発は森下が10勝✕規定投球回数をクリアし、もはやエースと言っても過言ではない。ただ、森下以外は誤算続きで、大瀬良大地(九共大~13年①)が8勝(9敗)、九里亜蓮(亜大~13年②)も6勝(9敗)と計算できる投手がともに負け越しで、左のエース格である床田の離脱は痛かった。
リリーフは栗林が、2年目のジンクスなど全く感じさせない安定感で31セーブを上げたが、昨季、最多ホールドの塹江敦哉(高松北高~14年③)が不振で、栗林に繋ぐパターンが確立できなかった。森浦とルーキーの松本が50試合に登板し、ケムナ誠(日本文理大~17年③)とターリーが勝ちパターンを担ったが、全員が防御率3点台では厳しい。
そんななか、6年目の矢崎が47試合で防御率1点台の好成績を上げ、若手では遠藤が1年間ローテーションを守ったのが収穫で、来季は玉村昇悟(丹生高~19年⑥)を合わせて期待が持てる。
投手の上位候補では、矢澤宏太(日体大)と渡辺翔太(九産大)の評価が高い。矢澤は不足している先発左腕だが、リリーフの適性もある。渡辺は独特の変化球を武器に、最速150キロを超える奪三振力が高く、矢澤同様に先発型だが、リリーフでも面白いと思う。
また、高卒3年目の河野佳(大阪ガス)は、地元の広陵高出身で、間違いなく上位で消える選手だけに、最初に1位指名があっても驚かない。
今季は大学生に逸材が多く、昨年同様に即戦力投手の上位指名で良い。金村尚真(富士大)と青山美夏人(亜大)は派手さはないが、安定感のある投球が身上で先発の層を厚くする。才木海翔(大経大)と菊地吏玖(専大)は真っ直ぐに力にある馬力のある投手で、ともにフォークを習得して投球の幅を広げた。
荘司康誠(立大)は長身から投げ下ろす角度のあるストレートが武器で、秋山凌祐(立命大)もケガを克服して真っ直ぐが150キロを超えた右の本格派で、ともに伸びしろに期待できる素材型。福山優希(駒大)も多彩な変化球を操り、連投も辞さないタフな選手で、いずれも広島が好みそうな投手だ。
高校生は、19歳~22歳まで3名しかおらず、これはソフトバンク、楽天と並んで少ない。他球団同様、本格派右腕の山田陽翔(近江高)や斎藤響介(盛岡中央高)の評価が高いが、投手陣の改善が優先課題のなか、上位は即戦力になりそうで獲得は難しいと言える。
4位以降で考えれば、昨夏の甲子園でベスト4の実績の森下瑠大(京都国際高)や中央では無名だが坂本拓己(知内高)も制球力の高い左腕で、ともに将来のエース候補になれる。
武元一輝(智弁和歌山高)と白濱快起(飯塚高)は、ともに長身から投げ下ろす真っ直ぐに力があり、体ができれば150キロも超えてくるだろう。また、高校から投手に転向した日高暖己(富島高)は、まさにポテンシャルの塊でこちらも広島が好きそうな選手だと思う。
☆捕手~必要なし
若手の捕手が豊富だが、最もマスクを被ったのは今季も曾澤翼(水戸短大付高~06年③)で、次に磯村嘉孝(中京大中京高~10年⑤)とベテランを脅かすことが出来ていない。曾澤も来年は35歳になり、中村奨成(広陵高~17年①)や石原貴規(天理大~19年⑤)がレベルアップしないと候補のまま終わってしまう。
現状、質量ともに問題がなく、優先順位は高くない。松尾汐恩(大阪桐蔭高)が候補に挙がっているが、わざわざ上位の枠まで使って獲りに行くことはない。年齢バランスで25歳~29歳の働き盛りの年代に選手がおらず、ドラフトよりトレードで補強したほうが良い。
☆内野手~高校生は必須、大学生・社会人の右打ち
今シーズン、内野はレギュラーが確立し、一塁がマクブルーム、二塁に菊地涼介(中京学院大~11年②)、三塁は捕手も兼任する坂倉、遊撃の小園がそれぞれ規定打席を達している。
ただ、レギュラーと控えの差は広がる一方で、松山竜平(九州国際大~07年④)や堂林翔太(中京大中京高~09年②)、内外野守れる上本崇司(明大~12年③)のベテランが控えるが、坂倉と小園以外の若手が伸び悩んでおり、矢野雅哉(亜大~20年⑥)や羽月隆太郎(神村学園高~18年⑦)が出番を増やしているが遠く及ばない。
また、菊地涼も33歳になり、本気で後継を育てなくてはならないし、右打者が19歳から29歳に選手がおらずバランスも悪い。有力候補は山田健太(中大)と田中幹也(亜大)で、山田は長打力もあるヒットメーカーの大型二塁手、田中は小柄ながら広い守備範囲と粘り強い打撃で遊撃も守れる。
このほか、友杉篤輝(天理大)は守備に定評があり俊足で機動力も使える。足だけなら50メートル5秒8の辰見鴻之介(西南学院大)、斎藤大輝(法大)は広角に打てる巧打者で、社会人では中山遥斗(三菱重工イースト)も広角に打ち分ける打撃技術に守備も良く、今季は貴重な右打ちに逸材が揃っている。
高校生では、ともに遊撃手のイヒネ・イツア(誉高)と勝又琉偉(富士宮北高)をリストアップしている。イヒネは高い身体能力を誇り、投手も兼任した勝又も長打力と機動力も兼ね備え、春から夏にかけ評価を上げた成長長著しい選手だ。
内野とは逆に、外野手で規定打席に達している選手はいない。ただ、西川龍馬(王子~15年⑤)はケガで一時期離脱し、規定打席未満ながら今季も3割を打っており、シーズン途中に加入した秋山とともに本来の実力を発揮できれば問題ない。
ただ、やはり課題は鈴木誠(カブス)の後継4番候補で、昨季は中村健人(トヨタ自動車~21年③)と末包昇大(大阪ガス~21年⑥)を獲得するも不十分な成績で1年目を終えた。また、機動力強化は喫緊の課題で、現状走れる選手が野間くらいしか見当たらず、一芸でも良いので機動力を使える選手が欲しい。
また、西川と野間はともにFA資格を取得しており移籍の可能性もあり、万が一移籍になれば戦力が一気にダウンする。年齢バランスも悪く、20歳から24歳までに選手がおらず大学生の獲得は必須で、課題の多いポジションと言える。
こういった状況から今季は外野手でリストアップされている選手が多い。ただ、今季は外野に逸材が多く、広島からするとチャンスになる。甲子園で圧巻のプレーを見せた浅野翔吾(高松商高)に、走攻守揃ったスラッガーの蛭間拓哉(早大)は競合1位必至で、森下翔太(中大)も評価を上げてきており、誰に行くか迷うだろう。
仮にこの3選手を外しても、澤井廉(中京大)と西村瑠伊斗(京都外大西高)と楽しみなスラッガーがいる。特に西村は高校通算54本塁打を放ち、投手としても評価が高くポテンシャルの高さが窺える。
このほか海老根優大(大阪桐蔭高)は粗さはあるが、広島が好む走攻守に優れたアスリート型の選手。久保修(大阪観光大)は俊足の中堅手で、機動力不足のチームにはフィットしそうで同校初のプロ入りを目指す。
●外野手に逸材が多く、上位で確実に獲得したい。栗林に繋げるリリーバーも必要
昨年に続き、今年も難しいドラフトになる。課題の投手陣の補強をしつつ、歪な年齢バランスを整え、ポスト鈴木誠の4番候補の獲得が必要になる。
今年は広島にはラッキーなことに、外野手に上位候補が多い。最後まで他球団との駆け引きになるが、浅野翔吾(高松商高)に蛭間拓哉(早大)、森下翔太(中大)、澤井廉(中京大)のいずれかは1位で獲得したい。
投手で行くのなら、矢澤宏太(日体大)に河野佳(大阪ガス)がチームの補強ポイントを埋め、他球団の状況次第では渡辺翔太(九産大)の1位指名もある。
【指名シミュレーション】
1位~浅野翔吾(高松商高・外野手)…内外野も守れる高校ナンバーワンスラッガー
2位~渡辺翔太(九産大・投手)…独自の変化球を駆使して奪三振率の高い本格派右腕
3位~坂本拓己(知内高・投手)…制球力に長けた左腕で、今夏は地区予選決勝に進出
4位~勝又琉偉(富士宮北高・内野手)…成長著しい俊足強打の注目の大型遊撃手
5位~武元一輝(智弁和歌山高・投手)…長身からの角度のあるストレートがが武器
6位~秋山凌祐(立命大・投手)…肩のケガも癒え、球速も150キロを超えた本格派
おススメの選手は、林琢真(駒大・内野手)でとにかく足が早い。50メートル5秒フラットは今季の候補者のなかでトップクラスで、ただ早いだけではなく走塁技術にも長けている。打撃には課題はあるが、和田(ロッテ)のように代走のスペシャリストとして、一軍に残れる選手で、獲得しても面白いと思う。