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どのチームが「人」を育て強くなるのか

21年戦力分析☆日本ハム~かつての守り勝つ野球はどこへ?苦戦必至の厳しいシーズン

 昨年は開幕から波に乗れず、5割前後を行ったり来たりの状態が続いた。そんななか8月中旬に貯金3として反転攻勢をかけるはずが、9月に再び負け越すと、そのまま浮上することなく借金9の5位でシーズンを終えた。特に首位ホークスには滅法弱く6勝17敗…対戦打率.217に66得点(失点は倍の121点)と全く歯が立たなかった。

 近藤健介(横浜高~11年④)と西川遥輝智弁和歌山高~10年②)が3割を打ち、中田翔大阪桐蔭高~07年高①)は打点王と、リーグを代表するタレントが揃っている。投手も有原航平(早大~14年①)に上沢直之専大松戸高~11年⑥)、新外国人のバーヘイゲンが8勝を上げるなど、それぞれの個人成績は悪くない。

 しかし主砲の中田が伸び悩む若手に対し、投手陣のリーダー宮西尚生関学大~07年大社③)はリーグ最多の失策数の守備陣に苦言を呈すなど、強いときの日本ハムを知っているからこそのコメントが、チームの状況を如実に表わしている。

 平均年齢26.4歳とパ・リーグでは最も若いチームながら、かつて育成の日本ハムと呼ばれた若手の台頭はここ数年ない。このままでは、一気に上位球団に置いていかれる危険もあり、2023年の新球場開業に向けてチームの立て直しが急務だ。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 20年 5位 53勝62敗5分 .249    89本   80個  493点  4.02  528点

 19年 5位 65勝73敗5分 .251    93本   48個  560点  3.76  590点

 18年 3位 74勝66敗3分 .251  140本   98個  589点  3.77  586点

 17年 5位 60勝83敗0分 .242  108本   86個  509点  3.82  596点  

 16年 1位 87勝53敗3分 .266  121本 132個  619点  3.06  467点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 19年~なし

 18年~なし

 17年~清宮幸太郎内野手早実高①)

 16年~石井一成(内野手早大②)玉井大翔(投手~新日鉄住金⑧)

 15年~加藤貴之(投手~新日鉄住金②)

 過去5年のドラフトを見渡しても、主戦と呼べるのは玉井のみだ。清宮も入団3年で21本塁打は悪くはないが、ライバルの活躍や期待値からすると物足りなさが目立つ。野手はレギュラーが皆無で、投手陣も14年の有原以降、先発ローテーションはおらず寂しい限りだ。

 ファームも寂しく西武と並んで同率最下位…。唯一、北浦竜次(白鷗大足利高~17年⑤))が防御率1位の好成績を残したものの、高卒選手は伸び悩み、即戦力も不発で、かつて育成の日本ハムと呼ばれたのも遠い過去になりつつある。

●投手陣~有原の移籍で今年は更に厳しい…クローザーを誰にするかも課題

  昨シーズンのチーム防御率4.02はリーグ4位でそれほど悪くはない。ただ、チーム防御率が4点台になったのは04年以来で、投手陣中心に堅守で守り勝つ野球がスタイルのチームで、この結果は重大だと思う。

 先発陣はエースの有原と上沢、バーヘイゲンがともに8勝を上げたが、有原は9敗を期しており、しかも勝ち星の半分はお得意様のロッテから上げたもので、ソフトバンクには4戦4敗とエースとしては物足りない。キャリアハイの7勝を上げた杉浦稔大国学院大~13年ヤ①)も故障防止のため、球数制限でイニング数が稼げず、後半はリリーフにまわった。即戦力ルーキーの河野竜生(JFE西日本~19年①)も、貴重な先発サウスポーだったが、12試合登板で3勝と期待に応えることが出来なかった。

 救援陣はクローザーの秋吉亮(パナソニック~13年ヤ③)が防御率6点台の不振で、抑えをはく奪され、セットアッパーの宮西が後半抑えを務めた。リリーフは玉井がフル回転したものの、堀瑞樹(広島新庄高~16年①)や公文克彦大阪ガス~12年巨④)、井口和朋(東農大オホーツク~15年③)が防御率4点台に沈み、勝ちパターンを形成することができなかった。加藤や金子弐大(トヨタ自動車~04年オ自)も、オープナーや第二先発など今ひとつ良く分からない中途半端な起用に終わり、ブルペンデー(栗山流オープナー)も有効活用にはならなかった。

 このような状況のなかチャンスを掴む若手はおらず、福田俊(星槎道都大~18年⑦)が30試合登板で頭角を表したが、ファームのエース北浦も防御率16.20で一軍で結果を残すことができなかった。

【20年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆有原航平(132回2/3)バーヘイゲン(111回2/3)上沢直之(97回)

       マルティネス(76回)杉浦稔大(74回2/3)河野竜生(60回2/3)

 ・救援…宮西尚生(50試合)玉井大翔(49試合)堀 瑞樹(45試合)

       金子弐大(34試合)秋吉 亮(33試合)福田 俊(30試合)

【今年度の予想】

 ・先発…上沢直之 バーヘイゲン 杉浦稔大 河野竜生 

       上原健太 吉田輝星 西村天裕 北浦竜次 伊藤大海※ アーリン※ 

 ・中継…玉井大翔 堀 瑞樹 金子弐大 福田 俊 加藤貴之 公文克彦 

       井口和朋 ロドリゲス 村田 透 鈴木健矢 生田目翼

 ・抑え…宮西尚生 秋吉 亮

 エースの有原が抜けた穴は大きく、今年は昨年以上に投手陣に不安が残る。先発は上沢とバーヘイゲンは決まりだが、杉浦は抑え転向の可能性もあり、3~4枚が不足している。候補は2年目の河野にルーキーの伊藤大海(苫小牧駒大~20年①)、新外国人のアーリンだが、打たせて取る技巧派のアーリンは広い札幌ドームの利点は活かせるが、失策の多い内野陣が気がかりだ。

 ここに先発転向の西村天裕(NTT東日本~17年②)や、そろそろ独り立ちしてほしい吉田輝星(金足農高~18年①)、北浦にも期待がかかるが、なんだかんだ加藤や村田透(大体大~07年巨大社①)等のオープナーが今年も必要になってくると思う。

 リリーフ陣もピリッとしない。宮西は安定感抜群だが、やはりセットアッパーで起用しクローザーに繋ぐ形が理想だと思う。経験もある秋吉の復活が一番だが、杉浦やルーキー伊藤の起用も、先発の枚数が揃えば十分にあり得る。

 中継ぎは勝ちパターンをどう形成するかで、玉井やロドリゲス、左腕の堀に公文が勝ちパターンを担いたい。ただ、先発同様に枚数は不足しており、鈴木健矢(JX-ENEOS~19年④)や生田目翼(日本通運~18年③)あたりが出てくると層は厚くなるのだが…。

 今年は西川のFA移籍の可能性があったため、投手は伊藤と根本悠楓(苫小牧中央高~20年④)のみで、新加入の即戦力は伊藤とアーリンのみだ。トレードやクローザーを候補の新外国人選手の獲得、育成のの支配下登録などやれることは多々あると思うが、最近の日本ハムには、この辺のスピードが不足しており難とももどかしい。

●野手陣~強力な上位打線と貧弱な下位打線…カギを握るのは助っ人の活躍

 昨年のチーム打率.249はリーグ2位で、得点数はリーグ3位。広い札幌ドームで本塁打数はリーグ最下位の89本塁打、盗塁もリーグ5位の80(うち半分は西川)と、長打力と機動力も不足するなかのこの結果はすごいと思う。

 西川、大田泰示東海大相模高~08年巨①)、近藤、中田、渡邊諒(東海大甲府高~13年①)の上位打線は強力で、特に外野はリーグ屈指の布陣と言える。ただ怖いのは上位だけで、下位打線はメンバーが決まらず数字以上の怖さを感じなかった。清宮の伸び悩み、レアード移籍後の正三塁手不在、助っ人の王伯融とビヤヌエバの不振など、要因を挙げれば数は多い。

 そして何よりも課題なのは失策数の多さで、昨年もリーグ最下位。かつて鉄壁の守備を誇ったチームだけに、ここが最大の課題だと思う。渡邊が最多の8失策、清宮と野村佑希(花咲徳栄高~18年②)が7失策、平沼翔太(敦賀気比高~15年④)が6失策と、レギュラーを狙う若手全員が守備の課題を抱えている。特に野村はわずか20試合で7失策は厳しい…。捕手もひどく、捕逸は最多の13を数え、清水優心(九州国際大高~14年②)の捕逸7は、西武を除く4球団のチーム捕逸数より多い。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…宇佐見真吾(80/187)清水優心(69/157)鶴岡慎也(18/17)

 内野手…☆ 中田 翔(119/506)☆渡邊 諒(117/485)清宮幸太郎(96/263)

       ビヤヌエバ(54/196)中島卓也(88/191)平沼翔太(52/180)

     杉谷拳士(88/161)横尾俊健(44/116)石井一成(59/104)

 外野手…☆西川遥輝(115/523)☆大田泰示(115/481)☆近藤健介(108/467)

     松本 剛(84/162)     

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)西川遥輝⑧      1)西川遥輝⑧      

  2)大田泰示⑨           2)平沼翔太⑤       

  3)近藤健介⑦           3)近藤健介⑦    

  4)中田 翔③      4)中田 翔③      

  5)王 伯融DH       5)渡邊 諒④      

  6)渡邊 諒      6)大田泰示⑨      

  7)石井一成⑥      7)清宮幸太郎DH      

  8)野村佑希⑤      8)宇佐見真吾②

  9)宇佐見真吾②     9)中島卓也  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…宇佐見真吾 清水優心 石川 亮(古川裕大※)

 内野手…中田 翔 渡邊 諒 野村佑希 平沼翔太 ロドリゲス※ 

       清宮幸太郎 中島卓也 杉谷拳士 樋口龍之介 

    (谷内亮太 石井一成 横尾俊健 今井順之助 高浜祐仁)

 外野手…近藤健介 西川遥輝 大田泰示 松本 剛

    (王 伯融 谷口雄也 淺間大基 万波中正 五十幡亮汰※)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)西川遥輝⑧      捕 手)宇佐見真吾(清水優心) 

  2)大田泰示⑨      一塁手)中田 翔

  3)近藤健介⑦      二塁手)渡邊 諒(杉谷拳士

  4)中田 翔③         三塁手)野村佑希(樋口龍之介)

  5)ロドリゲス⑥        遊撃手)ロドリゲス(中島卓也

  6)渡邊 諒④      左翼手)近藤健介

  7)王 伯融DH       中堅手西川遥輝

  8)野村佑希⑤      右翼手大田泰示

  9)宇佐見真吾②      D H) 王 伯融(清宮幸太郎)   

 捕手は宇佐見真吾(城西大~15年巨①)が一歩リードしている。打撃とディフェンスで頭一つ抜けており、強肩強打の清水は肝心の守備が課題だ。ただ寂しいことに、この2人を脅かさす若手が不在で、ルーキーの古川裕大(上武大~20年③)にもチャンスがある。

 内野は一塁の中田と二塁の渡邊で決まりで、現時点で一塁に清宮が入り込む余地はない。渡邊も元々守備の巧い選手で、今年は失策を減らしレギュラーを確立したい。注目は三塁と遊撃の争いだが、新外国人のロドリゲスは本職は二塁だが、遊撃も守れ順当にいけばロドリゲスになり、中島卓也(福岡工高~08年⑤)や平沼との争いになる。

 最も熱いのは三塁で、野村に期待がかかるが、野村に負けない打力が魅力の樋口龍之介(BC新潟~19年育②)、横尾俊健(慶大~15年⑥)もまだ老け込む年ではない。さらに平沼や淺間大基(横浜高~14年③)も三塁も守れ、消去法ではないハイレベルな争いに期待したい。

 外野は西川、近藤、大田は不動で、ここに食い込むのは至難の業だ。松本剛(帝京高~11年②)や淺間が控えるが、勝負強い打撃の谷口雄也愛工大名電高~10年⑤)は代打、韋駄天の五十幡亮汰(中大~20年②)は代走から出場機会を増やしたい。

 指名打者は来日3年目で本領発揮が期待される王伯融が有力だが、王がこれまでのような成績だと、中田や近藤、西川を適度に休ませながら、清宮や松本、淺間を起用する方が良いかもしれない。

 打線はロドリゲスがカギを握る。19年のメジャーで19本塁打を放った長距離砲で、ロドリゲスがクリーンアップに入れば間違いなく打線に厚みをます。一番の出塁率の高い俊足の西川、3番にリーグ屈指のヒットメーカー近藤、不動の4番中田に、勝負強い大田や渡邊が控える打線は強力だ。弱点の長打力不足は、下位打線で清宮や野村、樋口などの長距離砲が一人でも覚醒することを期待したい。

 ここまで書いて、ムードメーカー杉谷拳士(帝京高~08年⑥)を挙げるところがなかったが、内外野を守れ、送ったり、パンチ力もあるユーティリティプレーヤーで一軍には欠かせない選手だ。

 今年は残念ながら投手力不足は否めず、苦戦は避けられそうにない。ある雑誌の順位予想で9名中7名が最下位予想をしており、私も同意見で優勝どころかAクラスも厳しいと思う。打線は悪くないので守備面の強化と、伸び悩んでいる若手の1人でも多い覚醒がないと厳しいシーズンになると思う。

 注目の選手で、投手では杉浦を上げたい。安定感は抜群で、先発なら有原の穴を埋める活躍を今年は期待できる。右肩の状態次第ではクローザーも考えられ、道産子選手で先発でも抑えのどちらでも良いのでエースになってほしい。

 野手はルーキーの今川優馬(JFE東日本~20年⑥)で、フルスイングが魅力の長距離打者だ。西川の残留で正直、走攻守に壁は高いが、遠くに飛ばす力は社会人随一で、セールスポイントの打撃でアピールしたい。ドラフトでは予想に反して下位の指名になったが、即戦力として評価を覆す活躍を期待したい。