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どのチームが「人」を育て強くなるのか

21年戦力分析☆オリックス~投打の主軸に若手の成長でAクラスを狙うシーズン

 セ・リーグがヤクルトなら、パ・リーグで低迷期が長くなっているのがオリックスだ。15年から6年連続でBクラスで、うち最下位は3度を数える。最後に優勝したのが1996年…すでに24年が経過しており、12球団で最も優勝から遠ざかっている。

 昨年はWエースの山本由伸と山岡泰輔、主砲の吉田正尚に現役バリバリのメジャーリーガーのジョーンズを擁し、攻守に主軸が揃い躍進を期待された。しかし開幕投手の山岡がいきなり離脱、そして誰もが避けたかった同一カード6連敗を開幕2カード目のロッテ戦で喫し、序盤10試合で1勝9敗とシーズン早々躓いてしまった。

 その後もチームの成績は上がらず、8月にはもはや恒例となりつつある任期途中の監督交代で西村徳文監督が辞任した。しかし新たに指揮をとった中嶋聡監督になっても好転することはなく、2年連続の最下位でシーズンを終えた。今年は中嶋監督がチームを引き継ぎ、育成路線を継続するが時間はかかる。そのなかでメジャーから復帰する平野佳寿京産大~05年大社希)、退団1年でチームに復帰したロメロの加入は大きい。

 【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗   打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 20年 6位 45勝68敗  7分 .247    90本   95個  442点  3.97  502点

 19年 6位 59勝82敗  2分 .242  102本 122個  544点  4.05  637点

 18年 4位 75勝66敗  2分 .244  108本   97個  538点  3.69  565点

 17年 4位 45勝96敗  2分 .251  127本   33個  539点  3.83  598点  

 16年 6位 64勝78敗  1分 .253    84本 104個  499点  4.18  635点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 19年~なし

 18年~中川圭太(内野手東洋大⑦)

 17年~福田周平(内野手~NTT東日本③)

 16年~山岡泰輔(投手・東京ガス①)山本由伸(投手~都城高④)

 15年~吉田正尚(外野手~青学大①)近藤大亮(投手~パナソニック②)

    大城滉二(内野手~立大③)

 この間のドラフトはかなり良い。主砲の吉田正とエースの山岡を単独指名で獲得し、山本は2年目から頭角を現し、ソフトバンクの千賀と並んでMLBが最も注視する投手に成長した。入団2年目で主将に抜擢された福田など、これだけの主力を獲得しながら6年連続Bクラスが不思議でならない。

 ここ3年は即戦力路線から育成路線へ切り替え、18~20年の内訳は高校生が9名、大学生が5名、社会人が4名と育成重視にシフトしている。成績が低迷しているチームへの賛否はあるが、個人的にはチームを変革する明確な意思を感じ評価している。 

●投手陣~山本と山岡のWエースに、クローザー平野の加入で着々と投手王国へ

  チーム防御率はリーグ3位と悪くなく、山本が勝ち頭の8勝に加え奪三振王、山岡も後半に復調し4勝を上げた。これまで故障に泣いた田嶋大樹がチーム最多の20試合に先発し4勝、アルバースと山崎福也(明大~14年①)もローテーションを守った。

 前半は鈴木優(雪谷高~14年⑨)や張奕(日本経大~16年育①)が山岡の穴を埋め、後半はリリーフから転向した増井浩俊東芝~09年日⑤)が先発で復調し、ルーキーの宮城大弥(興南高~19年①)も終盤3試合に先発し初勝利を上げた。リリーフでは吉田凌に斎藤、が結果を残したのは収穫だった。

 ブルペン陣も悪くなく、チーム最多登板の山田修義(敦賀気比高~09年③)に防御率2点台の吉田凌(東海大相模高~15年⑤)やヒギンスの台頭はプラスになり、ベテランの比嘉幹貴日立製作所~09年②)も復調を見せた。クローザーのディクソンや澤田圭祐(立大~16年⑧)、育成から支配下登録になった一昨年のファームのセーブ王・漆原大晟(新潟医療福祉大~18年育①)も防御率3点台を維持した。

 左のリリーフエースの海田智行(日本生命~11年④)が大不振だったが、斎藤鋼記(北照高~14年⑤)がシーズン通して結果を残し、後半には富山凌雅(トヨタ自動車~18年④)が加わり左のリリーバーも揃ってきた。こう見ると、やはり課題は得点力の乏しい打線がカギになる。

 ファームでは本田仁海(星槎湘南高~17年④)が先発で4勝を挙げ、一軍への足掛かりを掴んだ。先発から転向したKー鈴木(日立製作所~17年②)が11セーブで適性を見せ、ベテランの金田和之(大院大~12年神⑤)と育成の中田惟斗(大阪桐蔭高~19年育③)も結果を残した。

【20年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆山本由伸(126回2/3)☆田嶋大樹(122回1/3)アルバース(89回)

       山崎福也(84回)山岡泰輔(69回1/3)張 奕(48回)

 ・救援…山田修義(48試合)ヒギンス(41試合)ディクソン(39試合)

       吉田 凌(35試合)斎藤鋼記(32試合)荒西祐大(29試合)

【今年度の予想】

 ・先発…山本由伸 山岡泰輔 田嶋大樹 ディクソン 山崎福也

       増井浩俊 榊原 翼 張 奕 宮城大弥 鈴木 優 本田仁海

 ・中継…山田修義 吉田 凌 斎藤鋼記 荒西祐大 漆原大晟 富山凌雅 

       吉田一将 澤田圭佑 比嘉幹貴 Kー鈴木 中川 颯※ 阿部翔太※

 ・抑え…平野佳寿※ ヒギンス 

 先発はWエースの山本と山岡に加え、田嶋と本職の先発に復帰するディクソンは確実だ。奪三振率の高い山本にゴロで打ち取るディクソン、タイプの違う先発が揃っているのは心強い。残る5~6番手の争いがし烈で、順当にいけば実績のある山崎と増井になりそうだが、2年目の飛躍が期待される宮城、今年完全復活を目指す榊原翼(浦和学院高~16年育②)、ファームのエース本田も控え、ハイレベルな争いが期待できる。

 リリーフ陣の再編が課題だが、平野の復帰で一気に解消された。平野をクローザーにヒギンスがセットアッパーで8回、7回に山田や漆原、比嘉がハマれば盤石な勝ちパターンが形成できる。ここに昨年経験を積んだ吉田凌や斎藤に加え、故障からの復活を目指す黒木優太(立正大~16年②)、ベテランの能見篤史大阪ガス~04年神自)も控えており、リーグ屈指の投手陣になる。

 ルーキーでは、サブマリンの中川颯(立大~20年④)はチームに数少ない技巧派で先発、リリーフともに面白い存在。28歳のオールドルーキーの阿部翔太(日本生命~20年⑥)は経験豊富で大事な場面を任せられる。大型ルーキーの山下舜平大(福岡大大濠高~20年①)は、シーズン後半でのデビューを目指したい。

 山本と榊原が23歳、吉田凌と富山が24歳、田嶋に斎藤、漆原が25歳、山岡も26歳とロッテと並んで若くして実績のある選手が多く、ここに宮城や山下が加われば近い将来の投手王国も現実味を帯びてくる。

●野手陣~レギュラーは吉田正のみ…捕手と三塁手、遊撃手、中堅手の争いに注目

 吉田正首位打者、山本は最多奪三振防御率は2位、投打に日本代表の主力が揃っているが、低迷の一番の課題は打線にある。チーム打率と本塁打はリーグ4位、盗塁数は2位で機動力も悪くない…。ただ、得点数はリーグ最下位と、一言でいえば攻め方が雑、さらに言えば怖いのは吉田正だけで数字以上の怖さはなかった。

 昨シーズン、チーム打率は回復したものの、得点力不足は相変わらずで、すっかり貧打のイメージが定着してしまった。規定打席到達者も18年は吉田正と安達了一(東芝~11年①)、ロメロ、19年が吉田正と福田、昨年が吉田正とTー岡田(履正社高~05年高①)で、ここ3年でレギュラーと呼べるのは吉田正しかいない。

 昨年の開幕戦オーダーを見たとき、1番にT-岡田、2番ロドリゲスの超攻撃的オーダーを組んだものの、1番T-岡田は6試合、ロドリゲスは5試合の起用で早々と頓挫した。期待のジョーンズもキャンプからスローペースで、いつエンジンがかかるかと観ていたが、打率.258の12本塁打の微妙な成績でシーズンを終えた。そもそも開幕戦で体が絞れておらず、緩慢な外野守備を見たとき、とてもゴールデングラブ賞を獲得した選手とは思えず、残念ながら旬は過ぎた印象は間違っていなかった。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…若月健矢(75/215)伏見寅威(71/198)松井雅人(23/40)

 内野手…福田周平(76/312)安達了一(78/311)大城滉二(94/285)

     ロドリゲス(59/211)宗 佑磨(72/203)モヤ(46/176)

     中川圭太(45/155)山足達也(63/105)大下誠一郎(32/104)

 外野手…☆吉田正尚(120/492)☆T-岡田(100/377)ジョーンズ(87/338)

     佐野皓大(77/162)杉本裕太郎(41/141)西浦颯大(49/97)   

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)T-岡田③      1)福田周平④      

  2)ロドリゲスDH      2)宗 佑磨⑤       

  3)吉田正尚⑦           3)吉田正尚⑨    

  4)ジョーンズ⑨     4)ジョーンズDH      

  5)中川圭太⑤      5)T-岡田⑦      

  6)大城滉二④      6)ロドリゲス③      

  7)若月健矢②      7)若月健矢②      

  8)安達了一⑥      8)安達了一⑥

  9)後藤駿太⑧      9)佐野皓大⑧  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…若月健矢 伏見寅威 頓宮裕真(松井雅人

 内野手…T-岡田 モヤ 福田周平 宗 佑磨 安達了一 

     大城滉二 太田 椋 大下誠一郎 中川圭太 

    (西野貴弘 山足達也 宜保 翔 紅林弘太郎)

 外野手…吉田正尚 佐野皓大 ロメロ ジョーンズ

    (杉本裕太郎 後藤駿太 小田裕也 西村 凌)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)福田周平④      捕 手)若月健矢(伏見寅威) 

  2)吉田正尚⑦      一塁手)T-岡田(モヤ)

  3)ロメロ⑨       二塁手)福田周平(大城滉二)

  4)ジョーンズDH      三塁手)宗 佑磨(大下誠一郎)

  5)T-岡田③         遊撃手)安達了一(太田 椋)

  6)宗 佑磨⑤      左翼手吉田正尚

  7)若月健矢②      中堅手)佐野皓大(中川圭太)

  8)安達了一⑥      右翼手)ロメロ

  9)佐野皓大⑧      D H)ジョーンズ

 

 吉田正以外のレギュラーはおらず、ジョーンズも昨年のような調整では厳しい。あとはし烈なレギュラー争いに期待したい。

 まずは捕手だが、ここは若月健矢(花咲徳瑛高~13年③)と伏見寅威(東海大~12年③)の争いになる。ディフェンスなら若月、打撃なら伏見で、昨シーズンは若月が57試合、伏見が49試合スタメンマスクを被っており、捕手出身の中嶋監督の起用法に注目したい。また、頓宮裕真(亜大~18年②)も打てる捕手として存在感を高めており、一気にレギュラーを獲得する可能性もある。

 一塁はT-岡田とモヤの争いで、特にT-岡田は一塁でモヤ、左翼でロメロとポジションを争う形になり、打撃で結果を出さないとポジションを失う可能性がある。二塁は福田が有力だが、昨年打撃で苦しんだ大城が復調すれば安泰とは言えない。ここ数年レギュラー不在の三塁は、俊足の宗佑磨(横浜隼人高~14年②)とスラッガーの大下誠一郎(白鷗大~19年育⑥)、しぶとい中川とタイプの違う候補に、ベテランの西野貴弘(JR東日本~14年⑦)も控えており、今年も流動的な起用になることが予想される。

 最大の争いは遊撃手で安達が頭一つ抜けているが、体調面でのケアが必要で、フルシーズンは厳しい。長打力が魅力の太田椋(天理高~18年①)や紅林弘太郎(駿河総合高~19年②)、攻守にバランスの取れた宜保翔(未来沖縄高~18年⑤)の若手の争いはシーズン通して注目していきたい。

 外野は左翼と右翼、DHを吉田正にジョーンズ、ロメロ、T-岡田をコンディションの応じてローテーションで回す形になる。ただ、4人ともお世辞にも守備が巧いとは言えず、外野守備は課題が残る。中堅争いは遊撃と並んでし烈で、俊足の佐野皓大(大分高~14年③)が有力だが打撃に不安がある。外野も守れる宗や中川、守備に定評のある後藤駿太前橋商高~10年①)、小田裕也(日本生命~14年⑧)や西村凌(スバル~17年⑤)と候補は多いが、ロメロを再獲得せざるを得ない状況では今年も厳しい。

 打順では今年の目玉は吉田正の2番起用だが、それではクリーンアップが寂しくなる。左投手に弱いTー岡田、好不調の波が大きいロメロ、ジョーンズが昨年のような働きでは機能しない。長打力が魅力の杉本裕太郎(JR西日本~15年⑩)もいるが、右翼しか守れず出番も限られる。下位打線も迫力に欠け、今年も打撃陣がチームの浮沈を握っている。 

 最後に期待の選手では、投手では宮城に注目している。同期にロッテの佐々木朗、ヤクルトの奥川がおり目立たない存在だったが、昨年先発初勝利を一番に記録した。田嶋に次ぐ先発左腕として、今年は開幕からローテーションに食い込みたい。

 打者は紅林で、昨年ファームで経験を積み遊撃でスタメン5試合、4安打を放ち、今年の飛躍を予感させた。ベテランの安達やドラ1の太田などライバルは多いが、大型遊撃手としての覚醒を期待したい。

 この間のドラフトで期待の若手が揃ってきたが、まだチームは発展途上の入口といったところで、ソフトバンク、ロッテ、西武、楽天の上に行くには厳しい。ただ、投手陣は揃っているので、ディフェンス重視の戦いかたで最下位脱出、Aクラス入りを目指し2~3年後に優勝を狙える若手選手の発掘と育成を進めるシーズンになる。