ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

日本ハム~北海道移転後、チーム方針を変え強豪球団へ変貌

 嬉しいことに最近はドラフト会議に注目が集まり、プロ野球の一大イベントまでになった。個人的にはすべての指名がインターネット中継で観られて嬉しい限りだ。

 これまでドラフトは数々のドラマを生んだ。78年の江川卓空白の一日、85年の清原と桑田の明暗、89年の野茂の8球団競合など注目を浴びたが、どこか哀愁とも言えるものが漂っていた。

 極めつけは93年に導入された逆指名ドラフトで、初めから指名選手が概ね決まったものに興味は薄れ、希望枠は金にまみれた悪法の温床になってしまった。そんなドラフトの健全化に大きな役割を果たしたのが日本ハムだ。

 きっかけは04年のダルビッシュ有(東北高~04年①)の指名だろう。当時は性格的にもフィジカル的にも難しい投手で、他球団が次々と指名を見送るなか獲得し、一世一代の大エースに育てあげた。そこからの日本ハムのドラフトは素晴らしく、同じくやんちゃな中田翔大阪桐蔭高~07年高①)を全日本の4番に育て上げ、巨人を逆指名した菅野智之東海大~11年①→拒否)を敢然と指名し、11球団すべて諦めたメジャー志望の大谷翔平花巻東高~12年①)を、二刀流の新たな道を提示して獲得した。

 日本ハムのドラフトは、ポジションや年代に関係なく「その年の一番良い選手を獲得する」で、菅野(巨人)や大谷(エンゼルス)に臆することなく指名した姿勢は称賛に値する。

 そして日本ハムのドラフトの功績は、ドラフトが指名選手の新たな旅立ちの晴れ舞台となり、密約や逆指名など不自然なシステムを壊すきっかけになった。その意味で、日本ハムのドラフト戦略は野球界の発展に大きな役割を果たしたと言える。

 

●さすが育成の日本ハム!野手の主力は高卒選手が占め、3年に一度の優勝を目指す

 日本ハムのチーム方針も明確で、「3年の一度の優勝」を目標にチーム作りを進めている。球団として黒字経営を維持するために、選手の年俸が統制され、結果として育成を主眼にしたチーム編成を進めている。

 その方針通りではないが、直近10年でリーグ優勝2回(日本一1回)を誇り、2回の最下位はあるがAクラス6回は素晴らしい。特に18年のシーズンは、エース大谷がメジャー移籍、クローザーの増井(オリックス)と正捕手の大野(中日)がFAで移籍しなたなかAクラスを維持したのだから凄い。

 過去10年の日本ハムの指名人数は74名で、D℮NAと並んで2番目に多い。さすがに育成主体のチームだけあって、高校生指名が49%とソフトバンクに次いで多く、大学生は31%、社会人は20%で多くない。ちなみに12球団では、最も平均年齢が低く19年は25.9歳で、最も高いヤクルトとは2.5歳も若い。

 実際にレギュラーを見ても、捕手の清水優心(九州国際大高~14年②)、一塁の中田、二塁の渡邊、遊撃の中島卓也(福岡工高~08年⑤)、左翼の近藤健介(横浜高~11年④)、中堅の西川遥輝智弁和歌山高~10年②)、右翼の大田泰示東海大相模高~08年巨①)とズラリ高卒選手が並ぶ。投手では上沢直之専大松戸高~11年⑥)に堀、石川直也(山形中央高~14年④)がいる。

 ポジション別では投手が60%、捕手が11%と7割を占め、チーム伝統の「守り勝つ野球」を体現するためにディフェンスを軸にチーム編成する姿勢が窺い知れる。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年④ 斎藤 佑樹(早大・投手)       高②大③社①(投手④野手②)

 11年② 菅野 智之(東海大・投手)※拒否 高④大①社①(投手②野手④)

 12年① 大谷 翔平(花巻東高・投手)   高③大①社③(投手⑤野手②)

 13年⑥ 渡邊  涼(東海大甲府高・内野手)高③大③社②(投手④野手④)

 14年③ 有原 航平(早大・投手)     高⑦大①社①(投手④野手⑤)

 15年② 上原 健太(明大・投手)     高②大⑤社①(投手⑤野手③)

 16年① 堀  瑞樹(広島新庄高・投手)  高⑤大③社①(投手⑤野手④)

 17年⑤ 清宮幸太郎早実高・内野手)   高④大②社①(投手⑤野手②)

 18年③ 吉田 輝星(金足農高・投手)   高⑤大①社①(投手④野手③)

 19年⑤ 河野 竜生(JFE西日本・投手) 高①大③社③(投手④野手③)

 

 本当に1位指名の名を見てもブレない姿勢が見える。清宮は7球団、斎藤と有原は4球団競合のなか獲得し、抽選で外してはいるが、09年は菊池雄星マリナーズ)、13年は松井裕樹楽天)、15年は高橋周平(中日)、16年は田中正義(ソフトバンク)、18年に根尾昂(中日)、そして今年は佐々木朗希(ロッテ)を指名している。

 確実に1位選手を獲得するため、競合を避ける球団があるが、強くて魅力のあるチームを作るには競合を避けては作れない。

 そしてもう一方大事なのが育成である。昨年のドラフトは根尾に4球団、藤原恭大(ロッテ)に3球団、小園海斗(広島)に3球団入札し、単独は西武のみだった。当然、8球団が外れるわけで次の1位指名に注目した。

 この時点で、昨夏の甲子園で旋風を巻き起こした金足農(秋田)の吉田が残っていた。吉田は将来のエース候補としてだけではなく、スター性も十分の選手で当然重複するだろうなと思っていたが、なんと日本ハムが単独で指名できた。

 一番驚いたのは日本ハムだったと思うが、後日地元北海道のTV番組で栗山英樹監督が、吉田を単独指名できた理由に、「スター選手だけに、育成に失敗できない怖さが他球団にはあったのではないか。大谷や清宮のようなスター選手の育成には怖さも当然あるが、私たちには育成の実績がある」と語っていた。

 これが本当なら(多分そうだと思うが…)残念だ…。チャレンジしないところに結果は生まれない。新たなチャレンジをすることで、ノウハウが蓄積され次にチャレンジすることができる。結果、チームは常に進化し続けることになる。

 実際に育成選手にいち早くチャレンジしたソフトバンクオリックスも今年結果が出た育成選手強化に力を入れた。野手指名でスケールアップを目指すロッテなど、比較的パ・リーグのチームはチャレンジをしている。一方でセ・リーグでは、贔屓目に見ても巨人と広島だけで、現状のままではパ・リーグとの差は縮まるどころかどんどん拡がっていくだろう。

 日本ハムは成功の法則に捉われないチームだ。高卒選手指名が多いが、それがすべてではない。日本ハムのドラフトは、成功するまで続ける愚直さではなく、長期的戦略として継続する徹底さが素晴らしい。今後も常に進化し続ける変幻自在なドラフトを見せてくれると思う。

 

●先発投手が不足、打線は長打力と走力不足…戦力の薄さを露呈し夏場に大失速

 昨年はオリックスを退団した金子千尋トヨタ自動車~04年オ自)、台湾の至宝といわれた王伯融を獲得し戦力補強に努めたが、昨年の3位から5位へ転落してしまった。大きな要因は3つで、①昨シーズンから続く先発投手の駒不足、②レアード(ロッテ)の移籍による長打力の低下、③若手の伸び悩みで下位打線の機能不全が挙げられる。

 先発陣は有原が孤軍奮闘し、防御率2位に最多勝15勝を上げ、移籍した金子も8勝とまずまずの成績だったが、上沢は6月に左ひざを骨折し残りのシーズンを離脱、昨年10勝のマルティネスもケガで登板なし、巨人から再トレードで復帰した吉川光夫広陵高~06年高①)も未勝利に終わった。

 そこでメジャーのタンパペイ・レイズが17年シーズンから取り入れた、リリーフエースを先発させて、その後を先発投手に繋げるオープナーを導入した。ただ、日本ハムは加藤貴之(新日鉄住金~15年②)や堀、ロドリゲスのように、打者2巡目を抑えることが難しい投手を細かく繋ぐショートリリーフの色合いが濃く、栗山流オープナーなど言われたが、裏を返せば長くイニングを投げられる投手がいなかっただけの話である。

 結果、玉井大翔(新日鉄住金~16年⑧)の66試合を筆頭に、公文克彦大阪ガス~12年巨④)と石川が60試合を超え、リリーフエースの宮西尚生関学大~07年大社③)にヤクルトから移籍した秋吉、堀も50試合を超えた。夏場になると投手陣が疲弊し、駒不足が投手陣全般に広がった。シーズン終了後、宮西が戦術に理解を示しつつも、起用法について意見していたのが印象的だった。

 長打力不足は誤算の一つだっただろう。広い札幌ドームで本塁打は出にくいが、93本はリーグ最下位で、昨シーズン26本塁打のレアードの穴を埋めることができなかった。チーム最多は中田の24本で、大田が20本を記録したが、次は渡邊の11本では一発の怖さはない。

 新加入の王はアベレージヒッターで、長打力が求められてはいないが、レアードの後釜を期待した清宮は7本、横尾俊健(慶大~15年⑥)も3本では計算が大きく狂った。その本塁打数とも連動するのだが、これまで主力が抜けても次を担う若手が出てきたのだが今年は不発…。怖いのは1番西川、2番大田、3番近藤、4番中田までで、5番以降の打線がなかなか機能しなかった。

 チーム打率は.265でリーグ2位も、先述したように本塁打は最下位、走るイメージがあるチームだが、盗塁数はわずかに48盗塁でリーグ5位…。長打力がないうえに走らない打線では、いくら単打を積み重ねもはなかなか得点に結びつくことなく、得点数560点はリーグ5位で得点力不足は明白だった。

 万年レギュラー候補の杉谷拳士(帝京高~08年⑥)や谷口雄也愛工大名電高~10年⑤)、そこそこ実績のある松本剛(帝京高~11年②)に石井一成(早大~16年②)、そして昨年活躍した平沼翔太(敦賀気比高~15年④)など、期待の若手の名前は上がるのだが、なかなかレギュラーまで手が届かない。チャンスはあるだけに、ハイレベルな競争に期待したいところだ。

 ファームで楽しみなのは、チーム最多の14本塁打を放った万波中正(横浜高~18年④)に、今井順之助(中京高~16年⑨)と海老原一佳(BC富山~18年育①)も10本塁打を記録しており、スラッガー出現に期待が高まる。

 ただ、今年は昨年のような積極的な補強はなく、外国人投手と巨人を退団したビヤヌエバをレギュラー不在の三塁で獲得しただけで目立った動きはなかった。来シーズン終了後にエースの有原と、チームの中心選手の西川がメジャー移籍を希望しており、若手の成長と戦力の底上げが課題になる。

 

●育成から補強に転換し、北海道移転後初の社会人1位指名

 今年、日本ハムが選んだその年一番の選手は佐々木朗希(ロッテ)で、早くから指名を明言。地区の決勝戦に登板しなかった体力面や、U-18で血豆での登板回避などマイナス面ばかりが報道されるなか、微塵もブレる姿勢を見せることなく指名した。

 結果、佐々木は最多の4球団が競合したが残念ながら抽選に敗れ、そのあとの指名が驚いた。育成路線から即戦力の社会人ナンバー1左腕の河野を指名し、オリックスとの競合のなか獲得した。実に日本ハムの社会人1位指名は、00年の井場友和富士重工~投手)以来19年振りだった。

 
1位~河野 竜生(JFE西日本0・投手)28

 一言で言うと森下(広島)、宮川(西武)と並ぶ即戦力である。高卒3年目の21歳の若さも魅力で、左腕ということもあり単独1位指名の可能性もあった。

 小さなテークバックから早い腕の振りで投げ込む151キロのストレートに、打者のタイミングを外す変化球が武器だが、河野のセールスポイントは、何といってもコントロール重視のクレバーな投球術だ。どんな場面でも冷静さを失わず打者と勝負でき、ゲームメークに長け長いイニングを任せることができる。

 また、鳴門高(徳島)時代に3季の甲子園を経験し、社会人の日本選手権でも2試合連続完封の結果を残すなど大舞台にも強い。

 先述したように日本ハムの先発陣の駒不足は明白な課題で、現時点では有原と上沢が当確だがあとは決まっていない。昨シーズンは長いイニングを任せられる投手がいなく、ショートリリーフ賄った状況だけにで、イニングイーターの河野が先発ローテーションに喰い込む可能性は十分にある。というか、入ってもらわないと困る。

2位~立野 和明(東海理化・投手)33

 立野も河野と並んだ即戦力投手で、河野と同じく高卒3年目の21歳の投手。河野がクレバーな投球術なら、立野は152キロのストレートにスライダーとカーブが武器の右の本格派だ。

 立野は昨年の都市対抗で、トヨタ自動車の補強選手として出場し、JFE東日本の決勝戦で見ることができたが、打球が詰まり不運な内野安打があったが、決勝の大舞台でも打者を圧倒していた。

 求められるところは河野と同じで、層の薄い先発陣に割って入りたい。外れ1位も十分にあった実力者で、上位で即戦力投手2名を獲得できたのは大きい。同い年の河野と立野が左右のエースになれれば一気に課題が解消される。

3位~上野 響平(京都国際高・内野手)48

 一言で言うと守備(遊撃)のスペシャリストである。打球判断、捕球、スローイングの一連の動きにムダがないうえに守備範囲も広く、遊撃の守備だけなら関西ナンバーワンの呼び声が高い。1年生からレギュラーで、チームでは一番打者として活躍。小柄だがパンチ力もあり、今宮(ソフトバンク)のような選手を目指してほしい。

 当初はドラフト下位候補だったが、潜在能力の高さで評価が急上昇し、本人も驚く3位での指名になった。日本ハムの遊撃手は中島と石井がレギュラー争いをし、平沼も名乗りを上げたが、中島は打撃、平沼は守備が物足りなく、プロで体ができあがれば、十分にレギュラーを張れる力があり、今後の成長を見守りたい楽しみな選手だ。 

4位~鈴木 健矢(JX-ENEOS・投手)47

 やはり余程投手陣に不安があるのか、1~2位で即戦力の先発タイプに続き、中継ぎタイプの鈴木を獲得した。鈴木は独特のフォームの左腕のサイドスローから、147キロのストレートを強気に内角に投げ込む投手で、まずは左キラーのワンポイントで信頼を勝ち取りたい。

 正直、ここまで即戦力投手で攻める必要があるかと思ったが、リリーフエースの宮西が今年で35歳を迎え、後釜として同じタイプの鈴木の獲得は理解できる。宮西というこれ以上ないお手本がいるだけに、一つでも多くのことを吸収してほしい。

5位~望月 大希(創価大・投手)62

 180センチを超える長身から、クセのない綺麗なフォームから投げ下ろすストレートが武器の右の本格派。大学2年春に発症した難病をタフな精神力で克服し、ドラフト指名にこぎつけた。

 即戦力というよりは、伸びしろが期待された投手で、プロでは先発か中継ぎの適性を見極める必要があるが、昨春のリーグ戦で防御率0点台と抜群の安定感が示すように、ここは先発として育てたい。4位の鈴木と望月は同い年で、22歳に投手は一人もおらず、空白の年代を埋める指名になった。

6位~梅林 優貴(広島文化学園大・捕手)65

 遠投110メートル、二塁への送球タイムが1.8秒台の強肩で、守備に定評がある。打力に課題はあるが、走力に自信があり走れる捕手だ。

 ただ、日本ハム捕手のは梅林を入れて8名おり、近藤のように打撃が良く野手にコンバートできそうなのも宇佐見真吾(城西国際大~15年巨④)のみで、あとは梅林同様、守備型の捕手だ。既に19歳~24歳の年代に捕手が4名おり、ここに21歳の梅林が加わる。若手の競争を促す意味があると思うが、正直あまり納得できる指名ではなかった。

7位~片岡 奨人(東日本国際大・外野手)67

 日本ハム定番の地元指名(札幌日大高出)枠。広角に打ち分ける巧打者で、守備と走塁も良い三拍子揃った選手だ。西川が来シーズンオフにメジャー移籍を希望しており、早めに結果を出してポスト西川に名乗りを上げたい。

 広い札幌ドームには守備範囲の広い俊足の選手は絶対に必要で、まずは自信のある固い守備で一軍切符を掴みたい。指名順位は低いが、野手で北海道出身の選手は片岡しかおらず、是非中心選手として活躍する姿を見てみたい。

育成指名

 育成1位は宮田輝星(福岡大・外野手)で、俊足のスイッチヒッターで強肩もセールスポイントの外野手で、片岡同様まずは守備を走塁でアピールしたい。

 2位の樋口龍之介(BC新潟~内野手は、力強いスイングとハッスルプレーの打撃がウリの選手で、25歳という年齢からも早めに支配下を勝ち取りたい。

 3位は長谷川凌汰(BC新潟・投手)で、最速153キロの直球が武器で、昨季11勝の好成績を上げ本指名が確実視されていただけに、その悔しさをバネにしてほしい。

 

 今年は将来性重視の育成中心の指名ではなく、弱点を補う補強の意味合いが強いドラフトになった。これまでの日本ハムの指名からスケール感や迫力には欠けるが、全体的にはさすがのドラフト巧者ぶりを発揮したバランスの良い指名になった。