ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

ロッテ~楽しみな若手が揃い、常勝チームを目指す意気込みを感じる

 昨シーズン終了後、最もストーブリーグを盛り上げたのがロッテだった。黄金ルーキーの佐々木朗希の獲得から始まり、FAで楽天から美馬学東京ガス~10年②)、ソフトバンクから福田秀平(多摩大聖ケ丘高~06年高①)をチームで初めて2選手を獲得、さらに実績のあるジャクソン(元広島)とハーマン(楽天)も加入した。

 一方でチームの看板選手だった鈴木大地東洋大~11年③)がFAで、エース格の涌井秀章(横浜高~04年西①)が金銭トレードで楽天へ移籍した。

 私は幼いころからロッテファンだが、ストーブリーグでここまで注目を浴びたことは記憶になく、86年の落合博満と中日・牛島和彦ほか3選手のと1対4のトレード、90年の小池秀郎(亜大~90年①)の入団拒否くらいではないだろうか。

 ロッテはかつて12球団一の不人気球団と言われ、12球団どこでもOKは、イコールロッテもOKと揶揄されたくらいだ。ドラフトも80年代になると、スカウティングが洗練され拒否されること自体が珍しくなった。そんななか80年代もロッテは入団拒否者が多く、81年~90年の10年間で7名を数え、これは断トツの1位である。

 特に元巨人の西山一宇(高知高~88年⑤)の入団拒否は、当時のロッテ監督の有藤道世の母校の後輩という、これ以上ないツテがありながら社会人に進んだときは、いかに敬遠されているチームなんだと思い知らされ泣けた…。

 そんなチームが、今では12球団で一番熱い応援をするチームとしてファンを増やし続け、ドラフト指名された選手も指名を喜び、FAで移籍してくる選手が一気に2名も誕生し、ストーブリーグを盛り上げるチームにまで成長したことは素直に嬉しい。

 

●不人気球団の悲哀か…極端な投手偏重と即戦力志向でチームは低迷

 ロッテはパ・リーグ最古参のチームでありながら、一度も黄金期がない。直近のリーグ優勝は05年だが、プレーオフで2位からリーグ制覇したシーズンで、勝率1位の優勝となると73年にまで遡り、実に46年間優勝から遠ざかっている。既に半世紀弱…当然だが12球団最長である。

 70年代は6度のAクラスで優勝1回、最下位はなくそこそこ強かったが、80年から低迷の時期を迎える。80年代はAクラス3回で最下位も3回、90年代になるとAクラスは僅かに1回で最下位4回、00年代はAクラス3回(優勝1回/日本一2回)で最下位はない。そして直近10年はAクラス4回もいずれも3位、最下位2回でギリギリAクラス争いをしているチームというのが正直なところである。

 過去から見てもドラフトは決して上手くない。でなければこんなに長期間低迷するはずがない。不幸なことに不人気球団のため指名は慎重になり、上位は投手偏重で無名の高校生や地味な大学生、社会人の指名が多く、下位で俊足巧打の1~2番タイプの大学生・社会人野手指名が得意のパターンだった。

 ただ、指名構成の悪さはいまだに解消されたとは言えず、大学生好きは相変わらずで12球団トップの多さで40%を占め、社会人も30%と3番目に多い。一方で高校生は最も少ない30%と即戦力志向は変わらず、投手指名も61.4%とソフトバンクに次いで多く、投手偏重も変わらない。

 また、戦力が不足しているなか、指名人数も60名と少く、育成選手指名も決して多いとはいえず、選手層は薄いままで競争環境も十分とは言えない。

 そのなかでも成功率が高いのが救いである。投手では大谷智久トヨタ自動車~09年②)と益田直也関西国際大~11年④)、松永昴大と石川歩。野手では荻野貴司トヨタ自動車~09年①)に清田育宏(NTT東日本~09年④)、鈴木大地田村龍弘光星学院高~12年③)、中村奨吾、井上晴哉日本生命~13年⑤)、藤岡裕大(トヨタ自動車~17年②)がいる。

 確かに全員良い選手ではあるが、高校生は捕手の田村のみで、投手では石川以外は中継ぎタイプ。野手も1~2番タイプが多く、井上以外はスラッガーではなく、スケール感は不足している。 

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年③ 伊志嶺翔大東海大・外野手)     高①大④社①(投手③野手③)

 11年⑥ 藤岡 貴裕(東洋大・投手)    高⓪大④社⓪(投手③野手①)

 12年⑤ 松永 昴大(大阪ガス・投手)   高①大②社①(投手②野手②)

 13年③ 石川  歩(東京ガス・投手)   高①大②社③(投手③野手3)

 14年④ 中村 奨吾(早大内野手)    高③大④社⓪(投手③野手④)

 15年③ 平沢 大河(仙台育英高・内野手) 高③大⓪社④(投手⑥野手①)

 16年③ 佐々木千隼(桜美林大・投手)   高②大②社③(投手⑥野手①)

 17年⑥ 安田 尚憲(履正社高・内野手)  高①大⓪社⑤(投手③野手③)

 18年⑤ 藤原 恭大(大阪桐蔭高・外野手) 高④大③社①(投手⑤野手③)

 19年④ 佐々木朗希(大船渡高・投手)   高②大③社⓪(投手②野手③)

 

  ただ、この10年でロッテのドラフトが変わった。本当に強いチームを目指す姿勢が出ている。ドラフトの積極性は高校生と野手の上位指名と言われているが、この10年でロッテは野手を5名1位指名しており、12球団で最も多い。そのなかで、平沢と安田、藤原と3人の高校生野手を獲得している。安田は外れ1位指名だが、清宮幸太郎日本ハム)を外したあとの指名、これも外れはしたが12年には藤浪晋太郎阪神)を1位入札しており、10年間で高校生を5名も指名しており実に積極的だ。 

 長く優勝争いをできるチームになるためには、投手力よりもむしろ打線が強くなければ維持できない。そのためには野手の上位指名は絶対に必要で、藤原と平沢で1~2番、安田が4番が並ぶ打線は考えただけでもワクワクする。

 また、獲得人数は少ないが高校生選手の活躍も目立ってきている。一躍エース候補に踊りでた種市篤暉(八戸工大一高~16年⑥)、二木康太(鹿児島情報高~13年⑥)の下位指名選手が結果を出し、岩下大輝(星稜高~14年③)もブレイクを感じさせ、チームが変わりつつある印象を受ける。そして昨年、佐々木朗が入団し、この4人で先発を構成するようになれば間違いなくチームは強くなる。

 ロッテのドラフトの下手さに、年齢構成のバランスの悪さがある。例えば09年に荻野と清田、翌年に伊志嶺を指名した。伊志嶺は昨年31歳で引退したが、荻野34歳、清田33歳、角中勝也(四国IL高知~06年大社⑦)が32歳と年代が近すぎる。これでは一気に世代交代を進めていかなくてはならず、チームの戦力が安定しない。この傾向がロッテには多く、内野手を一気に集めてみたり、同じ年齢の投手が集中したりなどしている。

 さすがにまだ歪さは残るものの、ここ数年のドラフトで年齢構成も良くなってきており、井口監督が目指す単年の優勝ではなく、常に優勝争いができるチームを作る目標もあながち夢物語ではない。

 最後にクジ運の強さはただただ驚きである。ここ10年でなんと9勝4敗、中村以外はすべて競合で、佐々木千は5球団、佐々木朗が4球団、藤岡と安田、藤原は3球団、伊志嶺と松永、石川、平沢が2球団で、こういう「運」も味方になってほしい。

 

●貧打線が長打力を秘めた打線に大変身!投手では楽しみな若手投手が揃った

 17年は目を覆いたくなるような貧打線で、断トツの最下位に沈み。一昨年、井口監督が就任し、前半戦は借金2で善戦するも、夏場以降は大失速し借金22の5位で終えた。そして昨年は、18年に熾烈な最下位争いをしていた楽天と、Aクラス争いを行い、残念ながら4位でシーズンを終えたものの、借金は1にまで減った。大きく負け越しした月はなく、5月からは勝ち越しを続けた。

 井口監督の1年目は、敢えて打線を固定することでチームの基盤を作り、中村や井上の一軍半選手をレギュラーに登用した。しかし昨年は、一転して打線の組み換えが目立ち、チーム内での競争環境を作り出した。

 昨シーズン、まず驚くのは本塁打数の増加である。ホームランラグーンができて、本塁打が出やすくなったこともあるが、18年最下位だった本塁打数78本が、リーグ3位の158本と80本も増えた。当然、単純に得点が80点増すわけで、得点はリーグ2位の642点で破壊力のある打線になった。一方で、一昨年リーグ2位の盗塁数124個は、リーグ4位の75個と減少し、走力と長打力が噛み合えばリーグで見劣りしない打線になる。

 昨年は荻野が初の規定打席に達しリーグ3位の.315、二塁打三塁打は最多である。鈴木がキャリアハイの成績を残し、レアードも前半は本塁打を量産した。一方で井上は打率と打点が、中村は打率と盗塁数が減少し、田村と藤岡、角中もケガで離脱し規定打席を割った。期待の平沢も112試合から51試合と大きく出場機会を減らし、後半戦は途中加入のマーティンがいなければ厳しかった。

 投手陣はチーム防御率3.90と、一昨年の4点台から改善を見せた。先発は石川が後半復調を見せ8勝を上げたものの涌井が3勝、ボルシンガーも4勝止まりで期待の3本柱が揃って成績を落とした。

 そんなチームを救ったのが若手投手で、種市は平成最後の試合でプロ初勝利を上げると8勝で勝ち頭になり、魔球クラスのフォークで奪三振率は千賀滉大(ソフトバンク)に次ぐ投手に成長した。二木が7勝、岩下が5勝を上げ、ルーキーの小島和哉(早大~18年③)が後半ローテーションに定着、佐々木千も復活し、まだ実績には乏しいが若手選手の駒が揃ってきた。

 救援陣は益田が最多の60試合に登板し、松永と田中靖洋(加賀高~05年西高④)が防御率2点台、東條大樹(JR東日本~15年④)や酒居知史(大阪ガス~16年②)も試合数を増やしたが、後半は駒不足が顕著で終盤に逆転される場面が目立った。

 投打に楽しみな若手が多いが、まだ実績に乏しく、一人でも多くブレイクすると面白いチームになる。

 

●将来のエース佐々木朗を獲得!上位指名でウィークポイントを補う満点ドラフト

 今年は日本ハムに続き、早めに佐々木朗希指名を公言し見事4球団競合から獲得した。一昨年の藤原指名のあとのドラフトも見事だったが、昨年もほぼ満点を与えられる内容になった。

 ドラフトは意中の1位選手が獲得できれば成功だが、2~3位の指名でウィークポイントを埋める形になった。田村が最年少の捕手に佐藤、19歳の藤原から26歳の菅野剛士(日立製作所~17年④)までの空白を高部の両大学生で埋めた。

 強いて言えば即戦力投手の獲得や高校生野手(特に捕手)の指名を育成でも良かったので継続してほしかったが、それでも余りある会心のドラフトになった。

 
1位~佐々木朗希(大船渡高・投手)17

 もう楽しみという言葉以外が見つからない。高校生史上最速の163キロのストレートに、140キロを超える高速フォークが武器で、190センチの長身ながら制球力もよく、まさしく「令和の怪物」。甲子園決勝やU-18での登板回避が不安視されたが、秘めたポテンシャルは異次元のスケールで、ロッテだけではなく将来の全日本のエース候補だ。

 佐々木の素質は誰もが認めるところだが、一方で育成の難しさもある。目立つ投手だけに失敗したときのリスクも頭を過るが、やはりチャレンジしないと強いチームにはならない。この間、下位指名ながら二木や種市を主戦にした自信の表れが佐々木朗指名に繋がっており、将来の投手王国も夢ではない。

 将来はメジャー挑戦も視野に入れているいるが、まずは焦らずに2~3年後の主戦を目指してほしい。注目度が高いために焦る気持ちもあるかもしれないが、ダルビッシュ大谷翔平も2年目に2桁勝利を上げており、まずは体力作りは優先だ。

2位~佐藤都志也(東洋大・捕手)32

 一言で言うと打てる捕手で、戦国東都リーグでの通算打率.331は驚きの数字である。今年は大学生捕手に逸材が多いため、大学日本代表では強肩と俊足を活かし外野で出場し、一塁も守れる。ルーキーながら田村を脅かす存在になりそうだ。

 捕手としては大学3年時から主力で、ルーキーで好成績を残した先輩の甲斐野央(ソフトバンク)に上茶谷大河(DeNA)、梅津晃大(中日)とタイプの違う投手をリードしており、この経験は間違いなく生きてくる。捕手でダメなら野手でも…ではなく打てる捕手としての活躍が期待される。

3位~高部 瑛斗(国士館大・外野手)38

 東都リーグ二部で通算129安打を放ったヒットメーカーで、リーグの安打記録を塗り替え、4度の打率3割を記録するなどまさしく安打製造機。バットコントロールに長けており、50メートル5秒8の俊足でヒットを量産した。また、1年春からレギュラーを獲得しており、4年まで大きな故障もなく出場したフィジカルの強さも魅力だ。

 レギュラーの荻野や角中も30歳を超え、福田秀平の加入もあるが、足でヒットをかせげる左打者は、ロッテにはその福田秀と藤原しかおらず、状況次第ではレギュラーに喰い込む可能性も十分にある。

4位~横山 陸人(専大松戸高・投手)60

 サイドスローから148キロのストレートに、大きく曲がるスローカーブを駆使して打たせて取る投手だ。とにかく制球力が素晴らしく、物怖じせずに左右問わず内角に投げ込むマウンド度胸にも定評がある。どうしても同期の佐々木朗に注目が集まるが、地元の千葉枠に収まらない好投手だ。

 現状、サイドの投手で先発タイプはロッテにはおらず、昨年の古谷拓郎(習志野高~18年⑥)のように、まずは二軍で経験を積み結果を出したいところだ。横山が先発に加わればタイプが違うだけに大きな戦力になる。

5位~福田 光輝(法大・内野手)40

 大阪桐蔭高時代に全国制覇を成し遂げたときの主力選手で、大学では持ち前の守備力に加え、左右問わずに長打を繰り出す打力も身についた。また、ガッツあふれるプレーも魅力でチームを引っ張った。

 鈴木の移籍で、ロッテの左打ちの内野手は藤岡と平沢、先輩の香月一也(大阪桐蔭高~14年⑤)に安田のみで意外に出番は早いかもしれない。現在、遊撃のレギュラーが決まりきっておらず、それだけにチャンスは十分にある。いままで少なかったチーム内競争を煽る意味でも意義のある指名になった。

 育成指名
 育成指名1位は、本前郁也(北翔大・投手)で、最速148キロのロッテには稀少の左の本格派だ。私の地元・札幌出身で個人的にも応援したい。

 2位の植田将太(慶大・捕手)は、大学時代はケガで苦しみ、同僚の郡司裕也(中日)の陰に甘んじたが、守備に絶対的な自信を持つ強肩捕手だ。

 

 かつてこれだけロッテに期待が集まるシーズンがあっただろうか。ドラフトの結果が出るのは10年、今年がその年になる。圧倒的なクジ運で有力選手を獲得してきた結果を、そろそろ成績に反映してほしい。