ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

中日~2年連続の会心ドラフト!若手の成長で低迷からの脱却を図る

 常に強いチームを続けることは難しい。栄枯盛衰、盛者必衰ではないが中日を見ているとつくづくそう思う。

 中日は強豪チームだが、不思議と黄金時代が長く続かない。74年に巨人のV9を阻止した翌年は2位をキープするも、その翌年は4位に転落。82年の優勝のあとは翌年5位、88年の優勝のあとも翌年3位、90年には4位でBクラスに転落した。次は99年に優勝するも翌年2位、01年は5位と黄金期が続かない。

 そんな中日に黄金期が訪れたのが、落合博満監督が指揮を執った04年~11年で、リーグ優勝4回、日本一1回、Bクラスは一度もなかった。しかし暗黒期が訪れるのも早く、13年にBクラスへ転落すると、3年連続Bクラスが一度もなかったチームが、7年連続Bクラスの泥沼に嵌まっている。

 7年連続は近年では91年~96年の横浜の6年連続を抜き、98年~12年の広島の15年連続に次ぐ不名誉な記録がいまも継続中だ。

 

●かつてのドラフト巧者が影を潜め、迷走したドラフトが低迷の大きな要因

 かつての中日はドラフト巧者と言っても過言ではなく、特に星野仙一が監督時代のドラフトは凄かった。私は近年のプロ野球で一番の名将は誰かと聞かれたら、真っ先に星野の名を挙げる。87年~91年の第一次中日時代、96年~01年の第二次中日時代、02年~03年の阪神時代、そして11年~14年の楽天時代のすべてチームを優勝に導いている。

 監督としての結果も素晴らしいが、とにかくチーム作りに長けていた。星野監督時代に獲得した主力選手を紹介すると、86年2位の山崎武司愛工大名電高・捕手)、87年1位の立浪和義(PL学園高・内野手)、88年1位の今中慎二大阪桐蔭高・投手)に2位で大豊泰昭(中日球団職員・内野手)、89年1位に与田剛(NTT東京・投手)と6位で種田仁(上宮高・内野手)、90年に矢野輝弘東北福祉大・捕手)がいる。

 第二次では、95年1位の荒木雅博熊本工高内野手)から始まり、96年2位で森野将彦東海大相模高・内野手)、97年は1位で川上憲伸(明大・投手)と4位で井端弘和(亜大・内野手)、98年は1位で福留孝介日本石油内野手)、2位で岩瀬仁紀(NTT東海・投手)とレジェンド級が並ぶ。

 星野ドラフトの凄いところは成功体験に陥ることなく、その時その時にアッと言わせるドラフトを展開した。高校生野手の積極的な上位指名、時には強引とも思える裏技も駆使しチーム強化に努めた。

 落合は監督としては、星野を上回る実績を残したが、チーム作りという点では大きな課題を残した。落合が監督時代に指名した選手で主力は、04年2位の中田賢一北九州市大・投手)、05年高校1位の平田良介大阪桐蔭高・外野手)と大社希望枠の吉見一起トヨタ自動車・投手)、06年大社3位の浅尾拓也(日本福祉大・投手)、09年5位の大島洋平日本生命・外野手)、10年の大野雄で、決して悪くはないが星野時代と比較すると物足りなさはやはりある。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年① 大野 雄大(佛教大・投手)      高②大②社①(投手③野手②)

 11年① 高橋 周平(東海大甲府高・内野手)高④大②社⓪(投手⑤野手①)

 12年② 福谷 浩司(慶大・投手)     高③大③社①(投手④野手③)

 13年④ 鈴木 翔太(聖隷クリストファー高・投手) 高①大①社④(投手④野手②)

 14年④ 野村 亮介(三菱日立PS・投手) 高⓪大③社⑥(投手④野手⑤)

 15年⑤ 小笠原慎之介東海大相模高・投手)高①大①社④(投手③野手③)

 16年⑥ 柳  裕也(明大・投手)     高②大④社⓪(投手④野手②)

 17年⑤ 鈴木 博志(ヤマハ・投手)    高⑤大⓪社①(投手④野手②)

 18年⑤ 根尾  昂(大阪桐蔭高・内野手) 高③大②社①(投手③野手③)

 19年⑤ 石川 昴弥(東邦高・内野手)   高③大②社①(投手④野手②)

 

  チームを強化するには、ドラフト戦略と良し悪しが大きな条件だが、当然だがその逆もある。チームが低迷するのにも、それなりのプロセスがある。現在の中日の低迷は、まさしくドラフトの失敗が要因の一つと言える。

 その大きな要因が、落合GMの4年間に行われた極端な即戦力志向に傾倒したドラフトで、在任中の13年~16年の4年間で27名指名しているが、高校生は僅かに4名、大学生9名、社会人は何と14名を数える。

 そのなかで中日の今後の低迷を確信したのが、14年のドラフトで、この年中日はオリックスと並んで最多の9名を指名した。内訳は社会人5名、大学生3名、独立リーグから1名とすべて即戦力指名になった。例えば前年最下位で順位を上げたい、また。大学生・社会人の当たり年なら百歩譲って理解もするが、思わず「どうした中日」と叫んでしまった。

 結果は散々で、この年に獲得した投手4名の合計の成績は17試合0勝0敗0Sで、1位の野村は僅か3年の在籍、24歳でクビである。最も成績が良いのが内野手の遠藤一星(東京ガス~14年⑦)の通算102安打で、ようやく昨シーズン、捕手の加藤匠馬(青学大~14年⑤)が頭角を顕してきたが、入団5年目で時間がかかり過ぎた。 

 結局、この4年間で主力と呼べるのは、投手では又吉克樹(四国IL香川~13年②)と祖父江大輔トヨタ自動車~13年⑤)くらいで、野手では、昨年ようやく阿部寿樹(ホンダ~15年⑤)がレギュラーに成長したが、今年は31歳をになり、ここも時間がかかり過ぎた。

 別に社会人指名が悪いわけではない。ただ、何回も言うように何事にもバランスが必要で、0か100の天真爛漫な高校生に、フォア・ザ・チームの社会人、その狭間で揺れている大学生が加わりバランスは良くなる。

 ただ、悪かったのはこの期間だけで、この10年を平均すると、高校生指名は38%で低い数字ではなく、逆に大学生は30%で以外に低い、社会人・独立リーグで32%と社会人指名は多いが、決してバランスが悪いわけではない。ポジション別にも投手が58%、捕手が9%、内野手21%、外野手12%で大きな傾倒はない。

 そして一番大事なドラフトの成功率だが、63名中9名の14.3%で、ここは残念ながら低い…。かつてドラフト廃止論を訴え、チーム補強を疎かにしていたV9時代の巨人を下したのは、ドラフトで着々と戦力を整えた中日だった。そんなチームが、このような状況に陥るとはなんとも皮肉な話である。

 また、最近の中日はドラフト以上にチームの不況和音が酷い。落合監督時代の、勝つことが最大のファンサービスという考えは既に古く、ファンのニーズと乖離を生み、終いには退任後ファンクラブの会報誌で落合の批判文書が掲載される信じられないことが起こった。GM時代も社会人に傾倒したドラフトが、結果的に地味なチーム編成になり、超実力主義の査定方法も、冷徹なコストカッターにしか映らずチームの士気は上がらなかった。

 今オフも松坂の退団や、森SDの退任で落合派一掃などの記事を目にするのは、決してイメージの良いものではなく、かつてのドラフトの人気球団が、いまや敬遠される球団の一つになったことが本当に寂しい。

 

●チーム打率はリーグ1位、失点と失策は12球団で最も少なく堅守復活の兆し

 残念ながら今年もBクラスだったが、希望の光が差し込むシーズンになった。5位ながら借金は5、3位の阪神とは3ゲーム差で、月間の成績を見ても大きな浮き沈みはなく、チーム別でも広島に借金5とわずかに苦手にしただけだ。

 とにかく数字で見ると投打ともに良い。チーム防御率3.72は3リーグ3位だが、失点は12球団で最も少ない544点。チーム打率は.263はリーグ1位で西武の.265に次ぎ、失策数45も12球団トップ、得失点差はプラス19点で、これだけ見るとなぜ5位…と思ってしまう。

 その要因は長打力と機動力の欠如で、広いナゴヤドームが本拠地とは言え、本塁打数90は12球団ワーストで、盗塁数63はリーグ4位も半分は大島で、走れる選手はあとは京田陽太(日大~16年②)しかおらず、相手からすると打率以上に怖さがない。

 まずは攻撃陣を見てみると、ビシエドがリーグ2位、大島が4位でともに3割を超えている。期待の高橋が遂に主力になり、打率.293で8位。3年間で25安打だった阿部が130安打を放ち、二塁のレギュラーを獲得し、打撃10傑に4名も名を連ねた。さらに京田を合わせた5名が規定打席に達している。

 京田は打撃に課題は残るも、チーム2位の盗塁数17に、遊撃の守備率.985は巨人の坂本よりも数字が良く、なぜゴールデングラブ賞にならなかったのが不思議でたまらないが、好守でチームには欠かせない選手になった。

 残念だったのはアルモンテが打率.329を残すもケガで49試合出場に留まり、平田も例年通りと言えばそれまでだが、今年もケガで離脱した。本塁打ビシエド福田永将(横浜高~06年高③)の18本が最高で、ファームを見渡しても長打力が期待できるのは石垣雅海(酒田南高~16年③)のみで、今年入団の石川昴への期待は増すばかりだ。

 投手陣は大野が完全復活し最優秀防御率を獲得。柳が11勝を上げ、ロメロが8勝と1年間ローテーションを守ったが、その後が続かなかった。ただ、後半戦で4勝を上げた梅津晃大(東洋大~18年②)、3勝の山本拓実(市西宮高~17年⑥)、2勝の清水達也(花咲徳栄高~17年④)と期待の若手が出てきた。ここに小笠原や、開幕投手の笠原祥太郎(新潟医療福祉大~16年③)が復活すれば先発の層が厚くなる。

 リリーフ陣も万全と言えないなか、ロドリゲスが64試合で防御率1.64の圧倒的な数字を残し、岡田は終盤クローザーを務め14セーブ、福敬登(JR九州~15年④)が52試合登板とリリーフ陣を支えた。

 しかし、そのロドリゲスが今年MLBに復帰し退団したのは痛い。ロドリゲスの穴はあまりに大きく、リリーフ陣の整備が課題になる。実績のある又吉や田島慎二東海学園大~11年③)、谷元圭介バイタルネット~08年日⑦)等ベテランの復活。若手では血行障害から復活を期す藤嶋健人(東邦高~16年⑤)や、クローザー候補の鈴木博に佐藤優東北福祉大~15年②)の台頭が望まれる。

 もう一つ、中日の不安なところが年齢構成の悪さだ。投手陣はすべての年代で選手がおり問題がないが、野手は酷い。捕手は一昨年に石𣘺康太(関東一高~18年④)が入団するまで、最年少は加藤の26歳で、実に18歳~25歳まで空白だった。

 野手も25歳に4名が集中、27歳と30歳に3名いる一方、22歳と24歳はゼロ、20歳~21歳、23歳と26歳は各1名とバランスの悪さ以上に、23歳~30歳の全盛期の主力は高橋と京田、加藤しかおらず若手の底上げがないと、まだまだ中日の完全復活には時間がかかりそうだ。

 

●ウィークポイントに的確な補強をし、2年連続で会心のドラフト

 冒頭でやや暗い話をしたが、ここ2年の中日のドラフトがとにかく素晴らしい。一昨年は京田という遊撃のレギュラーがいながら、同じ遊撃の根尾を4球団競合のなか獲得し、今年は奥川(ヤクルト)の指名が本命と思われたが、チームの一番のウィークポイントである将来の4番候補の石川昴を指名し、2年連続で抽選で引き当て将来の主軸を獲得できた。

 抽選で外れはしたものの、17年も中村奨成(広島)を指名しており、結果的に3年連続で高卒野手の1位指名になり、かつての思い切りのよいドラフトが戻ってきて、将来に期待が持てる。

 
1位~石川 昴弥(東邦高・内野手)2

 昨春の選抜大会でエースで4番を務め東邦高を30年振りに優勝に導いた。夏の大会は野手に専念し、本職の三塁守備は安定感があり、高校通算55本塁打でU-18でも4番を務めた。評価をさらに高めたのは、U-18での活躍で木製バットへの適性を見せ、打率以上に規格外の長打力が魅力の正真正銘のスラッガーだ。

 元々、地元指名に関係なく、中日は将来の4番候補が欲しく、奥川から切り替えて単独指名かなと思っていたところ、オリックスソフトバンクの3球団も競合するとは思わなかった。特にソフトバンクは早くに石川の1位指名を決めており、評価の高さが窺える。

 中日の日本人打者で20本以上本塁打を打ったのは、10年の和田一浩神戸製鋼~96年西④)と森野以来おらず、いきなりは無理だが、3~4年後には「4番サード石川」のコールが聞けることだろう。

2位~橋本 侑樹(大商大・投手)13

 最速149キロのキレのあるストレートが武器の左腕で、岩瀬の背番号を受け継いだ。どちらかというと即戦力というよりは、伸びしろのある投手で、正直2位指名は早いと感じたが、今秋のリーグ戦のノーヒットノーランが評価を上げたのだろう。

 当然、不足している先発を期待されていると思うが、ロドリゲスが退団したなか、短いイニングを任せても面白いと思う。同い年で小笠原と鈴木博のドラフト1位コンビに、勝野雅慶(三菱重工名古屋~18年③)もおり、切磋琢磨することで投手陣の層が厚くなることが期待できる。

3位~岡野祐一郎(東芝・投手)36

 一言で言うとようやくプロ入りが叶ったか…と言うのが感想である。聖光学院高(福島)のエースとして甲子園で活躍したのち青学大へ進学。大学卒業時に指名漏れを味わい東芝へ進んだ。一昨年は侍ジャパンの社会人チームのエースで、ドラフト指名間違いなしと思っていたところ、まさかの二度目の指名漏れだった。

 ストレートは140キロ後半でそれほど早くはないが、魅力はクレバーな投球術でゲームを作ることができるところ。カーブやスライダー、フォークなど緩急を駆使し総合力の高さがセールスポイントで、当然ながら手薄な先発陣に食い込みたい。

4位~郡司 裕也(慶大・捕手)44

 橋本とは逆に、よく4位まで残っていたというのが率直な感想。慶大の4番として活躍した打力も魅力だが、最大のセールスポイントは巧みなリードでゲームメークできるディフェンス面。特に、ドラフト後のリーグ戦で、タイプの違う投手を巧みにリードし慶大優勝の立役者になった。

 年齢的にも空白の年代を埋める良いドラフトになり、正捕手不在のチーム事情から出番は早いかもしれない。なんといってもヘッドコーチが、名捕手の伊東勤で、何となく伊東が好む選手だけに、下位からの大抜擢も期待できる。

5位~岡林 勇希(菰野高・投手)60

 体全体を使ったダイナミックなフォームから、最速153キロのストレートを投げ込み奪三振率の高い投手だ。変化球もカーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップ、ツーシームと多彩で、投手育成に定評がある菰野高出身だけにその期待度は高い。

 ただ、岡林は投手としても非凡だが、さらに非凡なのが打撃センスで、高校通算21本塁打に加え、さらに50メートル5秒8の俊足で、個人的には野手のほうが良いと思う。広いナゴヤドームでは走れる選手が必要で、今年35歳になるポスト大島として育成しても面白く、どちらで育てていくのか注目したい。

6位~竹内 龍臣(札幌創成高・投手)62

 中央ではまったく無名どころか、私の地元・札幌の選手だが、プロ志望届を提出するまでノーマークだった…竹内君スイマセン。昨秋から急成長し最速147キロを投げ込むまでになった。地元の新聞記事で調査票が1球団だけと聞いていたが、それが中日だった。監督が元中日の遠田誠治氏でその縁もあったかもしれない。

 ただ、縁だけで入れるほどプロは甘くない。夏から秋にかけて成長するポテンシャルは本物で、じっくり育てて下位からエースを目指してほしい。やはり地元の選手は、どこのユニフォームを着ていても応援したい。

 

育成指名

 育成指名は1名のみだが、地元の松田宣哲(名古屋大・投手)で、高校時代はバレーボール部、大学で公式野球を始めた秀才投手で、話題以上に実力もある。

 

 最後に、根尾に触れて終わろうと思う。昨秋は立浪以来の高校生スタメンもあるかと思ったが、さすがのスーパールーキーもプロの世界は甘くなかった。ファームでも打率..210、本塁打2本、守備も24失策で遊撃には鉄壁の守備を誇る京田がおり、秋季キャンプでは二塁や外野にも挑戦している。

 私はこのコンバートには賛成で、根尾の最大の魅力は打撃力で、守備負担の少ない外野でまずは長所を伸ばすことが大事だと思う。どちらにしろ、今後の中日には楽しみな材料が多く、注目しておきたい球団の一つになり素直に嬉しい。